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或る大阪近鉄バファローズファンの
偏愛と放浪の記録

「変種第二号」(著:フィリップ・K・ディック/編:大森 望)

2015-03-15 23:38:45 | 【書物】1点集中型
 ディックの短編は初読。長編より読みやすくわかりやすい雰囲気ですらすら読めた。
 「たそがれの朝食」の世界がまず、いきなりの先制パンチといったインパクトの強さ。「ゴールデン・マン」は発想がユニーク。人間より優れた種でありながら、その動物的・本能的な行動ゆえに、支配者らしい支配者よりも恐ろしい。「戦利船」「歴戦の勇士」「ジョンの世界」あたりは落としどころが秀逸。特に「戦利船」は編者大森氏曰く「バカSF」だけども、笑えるという意味でのバカSFではない。いや、ちょこっと笑いを誘われなくもないけど、微笑ましいかも。「歴戦の勇士」や「変種第二号」のミステリ的な作り方がまた素晴らしい。ただ「ジョンの世界」はある意味「変種第二号」のネタバレにもなってるので、個人的にこの2つは収録順が逆の方が良かったかな。「変種第二号」のサスペンス調がかなりいい緊張感だっただけに。同種クローが集団で向かってくるのを想像するだけで、なかなかに背筋が寒い。

 この短編集の収録作品の基本的なテーマは「戦争」である。全体として「因果は巡る」という印象を受ける。外から見つめていた事象が、謎を解いてみると自分たち(主人公たち)に跳ね返ってくることに、戦争の不毛さに対する思いのようなものが感じられる。ディックの長編は少し難解なイメージもあったけど、まず短編をもう少し読んでいこうかな。