life goes on slowly

或る大阪近鉄バファローズファンの
偏愛と放浪の記録

「プリズン・トリック」(著:遠藤 武文)

2014-01-07 23:44:08 | 【書物】1点集中型
 乱歩賞作品には好きなものがいくつかあるので、試しに借りてみた。タイトルになってるくらいだから、「トリック」そのものに対する謎解きにもっと時間をかける内容なのかと思ってたんだけど、読み進めていくとだんだんトリック自体はどうでもいい(笑)くらいの雰囲気になっていく。そういう意味では若干、肩透かし。キャッチーなタイトルではあると思うけど、元の「三十九条の過失」の方が言いえて妙だと思う(語感がちょっと「第三の時効」っぽいけど)。
 でも、だから面白くなかったというわけでもなく、プリズンはプリズンでも交通刑務所なので興味深かった。その交通刑務所での密室殺人が、人命に関わる事故を起こしてしまった加害者と被害者遺族が苦悩する姿、事件報道のあり方、さらには政治的な汚職問題にまで繋がっていく、かなり広がりのあるストーリー。
 
そういうふうにいろいろネタがあることは楽しいんだけど、惜しいのは登場人物それぞれが、特徴がないわけじゃないのにあんまり記憶に残らないというか目立たないというか……。だから、アップダウンとかジェットコースター的スピードとか、意外とそういう雰囲気は感じなかったかな。
 そんでもって最後があの「手紙」でちょっとサイコな方向へ。サイコなのは嫌いじゃないけど(笑)そう来ると、じゃあ結局、作者がいちばん書きたかったものは何だったんだろう? という疑問も(笑)。ちょっととっちらかってる感はなきにしもあらず。
 この手の犯人については、理由というかその真理がある程度きっちりわからないと物語り全体として納得しにくい。だから、文庫になるまでのように「手紙」なしの「跋」のあの1行で終わるなら、もう少し伏線というか本人の怪しい雰囲気や2人のつながりが強めに出てないと辛いかなと思えた。なので、個人的には「手紙」はあった方がいい。ただ、「手紙」の内容自体はもっとスマートに怖くできそうな気がするけど。