life goes on slowly

或る大阪近鉄バファローズファンの
偏愛と放浪の記録

「KGBから来た男」(著:デイヴィッド・ダフィ/訳:山中 朝晶)

2013-10-12 23:56:41 | 【書物】1点集中型
 借りてきて、原題とは全く違う邦題なのに驚いた。でも邦題に惹かれたわけなので、まんまと乗せられているとも言う(笑)。

 旧ソ連のグラーグ(収容所)で生まれ育ち、現在はアメリカで「調査」の仕事をしている元KGBのターボが、とある銀行家から誘拐された娘の捜索の依頼を受ける……というところから、物語が始まる。ターボはソ連からはるばるアメリカに渡って来たのに、そんなところで元妻に出会ってしまうのだった。さらに、結果的に受けざるを得なくなる銀行家の依頼の捜査を通して、浅からぬ間柄のロシアン・マフィアと再び相見える羽目になってしまう。
 邦題からガチガチのスパイものかと思っていたんだけど、ターボの相棒は一匹狼のコンピュータプログラミングやネットワークのスペシャリストであるフーズ(とそのペットのヨウム、ピッグペン)だったり、ターボの仕事のコーディネーターが元CIAの弁護士だったり、キャラクターの立て方が面白い。それらの人物(とヨウム)とターボとの会話に、それぞれの個性がしっかり出てて、なかなかそそられる。

 グラーグでの生活の苛酷さはそれほど描かれているわけではなくて、グラーグにいたことからターボがKGBで舐めた辛酸のほうが、対立するキャラクターたちとの中でより浮かび上がる。女検事ヴィクトリアとの恋(なのか?)は、味つけがハードボイルドタッチ。ま、ターボ自身も、自分を曲げないハードボイルドさは当然あるけど。
 そういった、一筋縄ではいかない人間関係、お互いに抱く感情の複雑さが、ストーリーにさまざまなニュアンスを与えているように思う。ターボに密接に関わる人物がそれぞれに魅力的なので、ぜひシリーズ化してほしい。ターボと「ペトローヴィン」とのその後も気になるしね(笑)。