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或る大阪近鉄バファローズファンの
偏愛と放浪の記録

「ヘンな日本美術史」(著:山口 晃)

2013-03-21 23:08:46 | 【書物】1点集中型
 山口氏の作品を初めて目にしたのが「風が強く吹いている」の装画。それがとても印象に残っていて、その後他にもああいった「洛中洛外図」を思わせる雰囲気の作品をいくつか見かけたこともあったので、とても興味を持っていた。で、このたびこの本を見かけ、またこの軽妙な群像画に惹かれて手に取った次第。

 カルチャースクールでの講義が基になっているということで、素人にもわかりやすい。なおかつ「描く人」の視点や意見も織り交ぜてくれている。
 なんというか、そう言われてみれば、なぜ初めて浮世絵を見たときに「顔の描き方が変」と感じないのかが謎である(笑)のだが、そのように今まで何気なく「そういうもの」として見ていた、浮世絵の人物が横顔なのに目が正面を向いているのはなぜかということや、日本の古い絵画の平面性はどういったことから導き出されているのかということの理論的な解説に「なるほど」と納得させてもらえるのである。
 「洛中洛外図」の「上杉本」「舟木本」「高津本」3点の違いとそれぞれにある面白さについても、描く側からの解説なので具体的に呑みこめる。そうやって理解した後だと、透視図法とは違う、隅から隅まで全部同じ精密さで描かれるこの画は、意識の中を写実化した画だとも言えるような気がする。西洋的な、視覚が写実化された絵画とは違うけれど、見たものあるいはそこにあるものを描くという根本の意味では同じであって、こう描く視点(技法)があるということが日本美術の個性なのだろうと。

 「鳥獣戯画」が最初は好きじゃなかったというのは、氏の作品にあるユーモラスな部分からすると不思議だったが、ひとつ楽しみ方を見つけるとさまざまな魅力が見えてくるというのが面白い。他にも河鍋暁斎や月岡芳年など、魅力的な画家たちが取り上げられていて、こういった画家たちの作品を数多く鑑賞・研究しながら、その中にある「おかしみ」みたいなものも取り込んで、山口氏の画風ができあがっていったのだろうなと感じさせられる。
 美術は日本のものに限らず、もっと知りたいと思っているもののひとつなので、こういうわかりやすい本は本当にありがたい。他にも著作はまだまだあるようだし、折を見てまたお世話になろうと思う。