心の風景

晴耕雨読を夢見る初老の雑記帳

67歳の夏

2017-08-18 11:19:39 | Weblog

 先日、67歳のお誕生日を迎えました。その夜に読み終えた文庫本、玉岡かおる著「ひこばえに咲く」(PHP文芸文庫)。父が経営する銀座の骨董店の跡を継いだ娘が手にした一冊の「画集」を契機に、様々な人間模様が繰り広げられていきます。過去、現在、そして未来。「人生は何度でも花ひらく」「絵は、今自分が生きて暮らす現実をはるかに飛び越し、まったく違う世界へいざなう時空間の扉のようなのだ」........。ふだんあまり小説を読むことのないわたしですが、玉岡さんの作品は、実在の人物をモデルにしているという点で、ある種の「時代」を追っているところがあり、文庫本になると必ず目を通しています。
 さて、8月に入って、京都・東福寺塔頭寺院のひとつ毘沙門堂「勝林寺」で、座禅と写経の体験をしてきました。蝉の声を聞きながら30分ほどの座禅でした。座り方、姿勢、息の仕方などの指導を受けたあと、ただただ雑念を排して座り続けます。途中2回ほど警策で肩を撃たれましたが、その音と痛みよりも心がしゃきっとする清々しさが嬉しい。
 僧侶いわく、「雑念を捨てることが難しかったら、ひたすら蝉の声に耳を傾けてみてはどうか。ただただ頭の中を空っぽにすることで、外の世界を素直に受け入れる自分に出会える」と。般若心経で言うところの「空」の世界、「無」の境地なのでしょうか。このあと、別室で般若心経の写経をしました。真夏の京の昼下がり、まったりとした時間が流れていきました。
 この日は夕刻から、仏像鑑賞会の打ち上げを兼ねて、鴨川の納涼川床で美味しいお酒と京料理を楽しみました。
 その2日後、わたしは再び上洛しました。お目当ては恒例の「第30回下鴨納涼古本まつり」です。下鴨神社糺の森に関西の古書店40店舗が勢揃い、80万冊の古本が並びました。あまりの多さに戸惑ってしまいますが、蝉しぐれのなか2時間あまりをかけて丹念に見て回りました。
 最後に、出店で冷たい缶ビールで喉を潤しながら、その日の収穫を確認します。ことしは「風景」という言葉に拘って、青菁社の「心の風景」「暦の風景」「色の風景(Ⅰ)」。写真をふんだんに挿入した、ほっとする本です。そして、小林秀雄全作品集3「おふえりや遺文」。宇野功芳著「ブルーノ・ワルター レコードによる演奏の歩み」。岩波新書から内田義彦著「読書と社会科学」、金子隆芳著「色彩の心理学」.......。新刊ではもちろんありませんが、なんとなく、私の関心を誘う言葉が散らばっています(笑)。
 ここまではいつもの暮らしですが、相前後して我が家に孫君たちがやってきました。そして横浜の次男夫妻も。ひっそりとした我が家が久しぶりに賑やかになりました。この夏は少し遠出をして、滋賀県・近江八幡の休暇村で近江牛のBBQを楽しみました。孫君たちは琵琶湖での水遊びに大はしゃぎ。老夫婦は休暇村の温泉「宮ヶ浜の湯」でひと休みでした。翌日は、水族館「海遊館」にお出かけでした。たいへんな人出でしたが、ひんやり冷房の効いた館内は老夫婦にとっては過ごしやすいシェルターのよう.........。あっと言う間の賑やかな数日間でした。ちなみに、東京の長男一家は仕事の関係で帰省できなかったので、今月末に出かける予定です。
 孫たちが帰っていったあと、どっと疲れが出てきました(笑)。きのうの夜は、いずみホールであった第20回サマーミュージックフェスティバル大阪2017に行ってきました。5回にわたって開催されるフェスティバルの初日で、きのうのテーマは「先付にシューベルトとメンデルスゾーンの想い出を」でした。関西で活躍する日本の演奏家による室内楽です。シューベルトの歌曲、メンデルスゾーンのピアノ三重奏曲第1番など素晴らしい演奏でした。
 パンフレットに記載された出演者データファイル。出身校、所属、血液型、今凝っていること、好きな作曲家、影響を受けたアーティストなどについて簡単に紹介されています。そのうち「今凝っていること」が面白い。「子供と一緒にカブトムシの飼育」「メダカの飼育」「ふなっしー」「尺八」「旅の計画」「パクチー」「高速値上がりにともないなるべく一般道を使いたい」「野菜づくり。花壇に花をいっぱい咲かせたい」「断捨離」「蒸し茄子を毎日」。わたしたちと何ら変わらない思いをお持ちの演奏家の方々が、目の前のステージで素晴らしい演奏をされている。いろいろな曲を聴きながら、人ぞれぞれの人生に思いを馳せました。楽しいひとときでした。
 というわけで、67歳の夏も慌ただしく過ぎていきます。感慨?さあてどうなんでしょう。ひと昔前ならご隠居といったところでしょうが、高齢社会では未だ労働人口の中に加えた方が良いという見方もあります。でも、長年いろいろな思惑が渦巻くなかで、組織改革、事業革新に汗をかいてきた人生。もういいでしょう..........。そんな折、前職の関係者2組から呑み会のご案内をいただきました。
 すべてを忘却の彼方に追いやって、肩書ひとつない一人の人間として生きていく。これもありか。「うつくしいものを美しいと思える」人としてありたい。薄っぺらな1枚の紙切れ(名刺)の繋がりから、真に「人」としての繋がりに軸足を移していく。雑念を排し、過去、現在、未来を真正面から見つめることができる人でありたい........。おっと、すこ~し内省的な記事になってしまいました。お誕生日特集だから、まあいいか(笑)。

コメント (2)