心の風景

晴耕雨読を夢見る初老の雑記帳

土曜の昼下がりにワルティさんを覗く

2014-05-31 22:16:58 | Weblog

 時の経つのは本当に早いものです。今年も早や、6月水無月(みなづき)を迎えようとしています。水無月とは、水を田圃に注ぎいれる月の意、なのだそうですが、いよいよ田植えの季節を迎えたということなんでしょう。日本の原風景が頭をよぎります。
 そんなことをぼんやり考えていると、朝日新聞の社説「人口急減社会の問い~生き方の再検討を迫る」(5月26日)を思い出します。記事の詳細は忘れましたが、大都市への人口流出が続けば約半数の市区町村は消滅の可能性がある。国立社会保障・人口問題研究所は、我が国の人口が急速に減少し100年後には現在の3分の1になると推計している。人口を増やすには子供が増えなければならない。そのためには子育てのしやすい社会を作っていかなければならない。高齢者に偏った社会保障の在り方を再検討しなければならない、と。
 なるほどと思いながら、しかし、そのまま受け入れられないのは何故か。私の頭の中には、都会の喧噪とは無縁の、田植えの終わった田園風景が浮かんできます。それに対峙するかのように、満員電車に揺られて職場に向かう無表情な人の群、方向性の定まらない海原に彷徨う人々の姿が浮かんできます。あまりにも対照的な風景ではあります。ひょっとしたら、消滅するのは地方の中核都市ではなくて大都市ではないか。行政、企業、教育機関が集中している大都市は、集中しているがゆえの無秩序と脆さのようなものが透けて見えてしまう。コンビニやネオンサインの明るさでは測れない文化度、価値観。年に一度のお祭りに町中が盛り上がる民度。「いえいえ、そう悲観的に物事を考えるのはおよしなさい」。もう一人の私が、耳元で囁きます。

 なにやら妙な書き出しになってしまいましたが、自然とペンが動いたということにしておきましょう。明日は小学1年生の孫君の運動会に応援団長としてお誘いを受けていますので、この時間帯でのブログ更新となりました。
 そんな土曜休日の昼下がり、久しぶりに大阪駅前第1ビル地下1階にあるWALTY(ワルティ)さんに立ち寄ってきました。いつものようにご主人と店員さんのお二人がいらっしゃいます。店員さんに「お店の中を撮ってもよいですか」と尋ねると、にこりと笑って「どうぞ」と。店の奥では常連さんがステレオの前に陣取ってお気に入りのCDを視聴しています。いつもの風景がそこにはありました。この日手にしたのは館野泉さんのCD「シューマン:クライスレリアーナ&幻想曲」と「シューベルト:ピアノ・ソナタ21番、20番、18番」でした。以前のお店の時から通い続けていますが、都会の喧噪から逃れたいという強迫観念にかられたとき、よくおじゃましてきました。今日もまた、どちらかといえばシニア世代の方々が三々五々いらっしゃっておりました。最近は、店先にアナログレコードも並んでいます。比較的格安のものもあれば、1枚何万円もする貴重なものまで盛りだくさんです。今夜は、館野さんのピアノソナタを聴きながらブログ更新を楽しんでおります。
 WALTYさんから地下街を通って堂島のジュンク堂書店に向かいます。そこでは仕事関係の書籍を何冊かを買いました。ビルの外に出ると、30度を超える暑さ。中之島界隈は黄砂の影響でしょうか、遠くのビルが霞んで見えるほどでした。汗だくになりながら、やっとのことで淀屋橋に辿り着くと、堪らずビアレストランに直行です。冷たい生ビールをいただいてひと休みでした。CDの解説やら買ったばかりの書籍に目を通しながら、汗が引いたところで、電車に乗ってお家に帰りました。
 家に着くと、庭の木々が初夏の陽に疲れ、草花はぐったりしています。一方で、先日植えた野菜の苗はすくすくと育っています。トマトはもう花が咲き始めました。ゴーヤやキュウリもしっかりとツルを伸ばし、この夏はどういう姿になろうかと思案中のご様子です。水無月を前に、たっぷりと水遣りをしてあげました。他愛ない土いじりを通じて、心の原点回帰を試みているのかもしれません。

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ブログ「最後の3行」

2014-05-25 09:12:47 | Weblog

 少し肌寒いけれども清々しい朝を迎えています。七十二候では「紅花栄(べにばなさかう)」といい、紅花が盛んに咲く意味のようですが、あいにく我が家の庭に紅花はありません。今日は、サンサーンスのクラリネットソナタ変ホ長調作品167を聴きながらPCに向かっています。
 昨秋、孫君と里山を散歩中に拾ったいくつかの木の実(種)を、2週間ほど前に土に戻しておきましたが、今朝、芽が出ているのに気づきました。いろんな種類があるので、どれがどれだか判りません。大きな葉っぱが出てきてから品種を特定することにいたしましょう。こんな悠長なお遊びが私は大好きです。小品盆栽でも始めましょうか。そんなことを考えながら、きのうは庭木の剪定に汗を流しました。無造作に伸びたケヤキやモミジ、月桂樹の枝を整理しました。これで愛犬ゴンタ爺さんの小屋のまわりが明るくなったような気がします。
 ところで、先週末、出雲の姉から昔懐かしい「笹巻」が届きました。竹の棒にお餅を付けて、それを笹の葉で蒔いたものですが、笹の殺菌効果もあってか昔から重宝がられた食べ物のようです。湯がいたあと、黄粉をまぶしていただくのがよろしいかと。昔ながらの食べ物が姿を消していくご時世です。今朝は慈しみながらいただきました。
 先週の半ばには、関西在住の高校同級生のメーリングリストで、仲間の一人が田舎に引っ越しをすることなったとの知らせがありました。昨年ご主人を亡くし、子供たちも巣立ったあと一人残された彼女、結局は生まれ故郷に終の棲家を求めたようです。最後はそこに行くか、ふと心の中で思ったものでした。私自身、大阪に40年近くもいて、なお自らの存在を「浮き草」と感じている。なにか共通するところがあるような気がしないでもありません。あまりにも辛いから送別会はしてほしくないと。どうかお幸せに。
 そんな土曜休日の昼下がり、庭仕事を終えて部屋に戻り、PCのスイッチを入れると、幾つかのメールが届いていました。いずれも職場関係のものばかり。それも深刻なものばかり。急に重苦しい気持ちになりました。気を取り戻して、冷静に、ひとつひとつ丁寧に返しましたが、組織文化に関わる問題だけに悩ましい限りです。目の前に競争相手が立ちはだかっているのに、こんな内向きなことで若い方々を落ち込ませて良いのか。ムラ社会の病んだ芽を早めに摘み取って、次世代にバトンタッチしたいものです。
 そうそう、先週は職場の仲間と一献傾けました。三者三様にそれぞれの職場で足跡を残す同士です。無意味に仕事場にいない同士です。私が大阪に戻って久しぶりに集まりました。その一人が、ひょんなことを言う。私のブログについて、「最後の3行」に注目しているのだと。淡々と綴っているけれども、最後の3行に不用意に私の心情が吐露されている?言われてみれば、そんな節がなくもありません。いくら自分を演じたところで、距離をおいて眺めると、どこかにその人の姿が透けて見える。お会いしたこともない方々のブログにおじゃまさせていただいて、その端々に、その方の豊かな人間性に触れることがある。それがバーチャルな世界に、ひとつの安らぎを与えてくれるのかもしれません。お題のことが一番最後になりましたが、ブログ「心の風景」も、開設から3,454日目を迎えています。

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塩野七生著「ローマ人の物語」を読み続ける

2014-05-18 09:22:50 | 愛犬ゴンタ

 春先からライラック、レモン、スダチ、ピラカンサと白い花が多かった我が家の庭では、5月も半ばを迎えると、黄色い万年草、ピンクのシランやクローバーの仲間たちが花開きます。初夏の陽気に誘われて、どこからともなく蝶々やミツバチもやってきます。そんな爽やかな休日の朝、珍しくクラシック・プレミアムのCD「ベートーヴェンⅡ」から交響曲第3番<英雄>、エグモント序曲を聴きます。3番はアバド指揮、ウィーンフィルハーモニー管弦楽団、エグモントは小澤征爾指揮、サイトウ・キネン・オーケストラの演奏です。
 ところで、14歳の愛犬ゴンタ君も人間年齢なら83歳です。最近は動作も鈍くなり、ずいぶん老けた印象があります。そこで、愛称を変更しました。名づけて「ゴンタ爺さん」です。そのゴンタ爺さんを連れて、先週の日曜日、近所の動物病院に行きました。年1回の検診と予防注射接種のためです。
 高齢化と核家族化のせいでしょうか。ペットと共に暮らすご夫婦が増えたのかどうか、最近、街の至るところに動物病院があります。患者さんも多く、この日は診察までに1時間も待ちました。まずは体重測定です。なんと昨年より1キロも減っていました。続いて問診、そして9種混合ワクチンと狂犬病注射を接種します。耳をよく掻く仕草をするので、最後に耳の中も診てもらいました。耳の中を触るのを嫌がるゴンタ爺さんに口輪を嵌め、看護助手さんに抱えられながら、なんともお恥ずかしいお姿でありました。耳垢の精密検査と洗浄をしていただき、ゴンタ爺さん、何事もなかったような顔をして、我が家にお帰りになりました。
 実は週末、私も病院に行きました。3カ月ぶりの定期検査でしたが、結果は上々。血液検査結果を示され、「広島勤務を終え食生活が改善されたのが良かった」「奥さんの手料理に感謝しないといけませんね」。そして最後に「お酒はもっと減らしましょうね」と、優しくもあり厳しくもあるアドバイスを若い女医さんからいただきました。はい、はい。(笑)
 広島といえば、これまで往復の新幹線を含めて読書をする時間がずいぶんありましたが、4月以降めっきり減りました。そんな折、「『ローマ人の物語』初の電子化」と題する新聞記事に目がとまりました。塩野七生さんの歴史小説が、いよいよ電子書籍化されるのだそうです。ある時期、次から次へと読み耽った塩野さんの歴史小説は、いま文庫本にして40センチほどになります。ところが、仕事の忙しさに紛れて、いつの間にか遠ざかっていました。本棚には新潮文庫「ローマ人の物語」29巻「終わりの始まり」が読みかけのまま置いてありました。
 久しぶりに手にとると、まず現れるのは自省録を著した哲人皇帝マルクス・アウレリウスの騎馬像の口絵です。ついでローマ帝国を中心に配した紀元2世紀のヨーロッパの地図が見開きで登場します。このように、塩野さんの本にはたくさんの写真や図、歴史資料が掲載されます。それがますます想像力を高め、歴史絵巻を読み解いているような気分になります。
 第一部「皇帝マルクス・アウレリウス」に、こんなくだりがあります。ローマのパラティヌスの丘に建つ神殿パンテオンは、「異民族であろうと敗者であろうと、その人々が信ずる神までも加えた、すべての神々に捧げられた神殿なのです」「他の神殿では、そこに祭られている神が主人公だが、パンテオンでは、守ってくれる神々に囲まれて立つ。人間が主人公になる」。多神教、多様性のうえに、古代ローマ帝国は存在しました。しかし一神教の時代に移行するにつれて、国の形が機能不全を起こし、帝国の崩壊につながっていきます。
 ローマ帝国という巨大な国家の崩壊は、お隣の大国主義に辟易している私たちにとって、ひとつの視点を与えてくれます。天下国家の話では終わりません。グローバル社会が声だかに叫ばれるご時世、大小様々な組織形態に突き付けられた歴史的課題でもあります。全43巻の読破はリタイア後に取っておくつもりでしたが、初夏の陽気に誘われて、29巻の再読から再スタートを切ることにしました。

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明治の人って強い ~ 玉岡かおる原作ドラマ「お家さん」

2014-05-11 09:18:07 | Weblog

 暖かくなって、昨秋植えたイチゴも色づき始めました。タイムの花が咲き、レモンやスダチの柑橘類も真っ白い花を広げています。そんなゴールデンウィーク最後の休日は、畑仕事に汗を流しました。今年は種蒔きの時期を逸しましたので、近所のホームセンターでキュウリ、ナス、トマト、オクラ、枝豆の苗を買ってきて、耕しておいた畑に植え付けました。愛犬ゴンタも一緒に土いじりです。
 さて、先週末、読売テレビ開局55周年記念ドラマ「お家さん」(玉岡かおる原作)を見ました。腰を据えて長時間のテレビドラマを見るのは久しぶりのことでしたが、夕刻遅くまで会議が続いたため、自宅に着いたのは始まる5分前、午後8時55分でした。それから2時間半、遅めの夕食をいただきながら、美味しいお酒をいただきながら、見入ってしまいました。かの鈴木商店の盛衰を史実に基づいて著した玉岡さんの力作です。もちろん、誇張した部分があったにせよ、鈴木よね役の天海祐希さん、金子直吉役の小栗旬さんの演技も素晴らしく、テレビドラマにしては見応えのあるものでした。見終わって家内がひと言。「明治の人って強いねぇ」と。どうも最近、あの時代のような生き生き感に乏しいのが気になります。
 それはさておき、先週の日曜日に次男君が束の間のご帰還でありました。畑で草むしりをしていたら、目の前にぬくっと立つ次男君、「ただいま」と。その夜は美味しいお酒をいただきながら楽しい時間を過ごしました。といっても次男君はビール党、お酒は味わうだけでした。
 せっかくだからと、翌日は京都に出かけました。知恩院へのお参りが目的ですが、それだけではとネットで探した行先は、京都文化博物館の「光の賛歌 印象派展~パリ、セーヌ、ノルマンディの水辺をたどる旅」でした。京阪電車の三条駅を基点に、西に東に時々小雨舞う京の街を散策しました。
 シスレーの「モレの橋」「春の小さな草地」、ピサロの「ルーアンのボワエルデュー橋、日没」「小川で足を洗う女」、モネの「睡蓮」「アルジャントゥイユのセーヌ川」「荒天のエトルタ」。ルノワールの「ブージヴァルのダンス」は、数年前のボストン美術館展以来の再会でありました。
 中世の物語絵画の世界から、一歩屋外に歩み出る時代。そして、目の前の風景を描いていく時代から、色彩や形態などの形式を重視するフォーマリズムの台頭、そんな時代状況の中で、それぞれの画家が自分の世界をカンバスに描いていく。かのゴッホも、同時代人でした。
 小説「お家さん」の時代とは若干のずれはあるものの、ほぼ同時代のフランスと日本の時代風景を、ひとつは経済史(商い)の視点から、もうひとつは絵画の視点から眺めたことになります。視点は違っても、人間が自分の足で歩き、もがき、苦しみながら時代を作っていったという意味では、同じ営みです。昨夜は、ぼんやりとそんなことを考えながら眠りにつきました。

 
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ゴールデンウィークは動物園、古書大即売会、そして酒蔵巡り

2014-05-04 09:13:19 | Weblog

 連休2日目の今日も、快晴の朝を迎えています。早朝、愛犬ゴンタとお散歩を済ませると、身体を洗ってあげました。いま、朝陽を浴びて寛いでいます。そんな静かな朝、窓を明け、グレン・グールドのCD「イマージュ」をセッティングしてPCの前に座ります。すると、どこからともなく、鶯の鳴き声が聞こえてきました。ホーホケキョ、ケキョケキョケキョケキョ......。鶯の鳴き声もいつの間にか、谷から谷へと渡って鳴くような「谷渡り」に変わっています。今年の春も幕を閉じようとしています。
 そんなゴールデンウィークの一日、昨日は孫君たちと京都市立動物園に行ってきました。京阪電車で三条駅まで行って、そこで地下鉄に乗り換えて二駅目、蹴上駅で降ります。南禅寺、琵琶湖疏水記念館の前を通って、東門から入りました。お弁当をいただいたあと、孫君たちの関心に任せて、ひとつひとつ見て回りました。次男君は、ゾウさんやライオンさん、キリンさんを見て大興奮でした。長男君はデジカメ片手に写真撮影に余念がありません。
 動物園を出ると、次はお祖父さんの時間です。京都市勧業館みやこめっせで開催中の「春の古書大即売会」を覗きました。といっても、孫君たちを連れて長居はできません。1時間の自由時間でした。今回は、梅原猛・福井謙一共著「哲学の創造」のほか雑誌「芸術新潮」のバックナンバーを何冊か手にして集合場所に向かいました。孫君たちも絵本や児童書を、家内はフラワーアレンジメントの本を手にしておりました。次回は、8月の半ばにある「下鴨納涼古本まつり」です。今度は、一人でじっくり時間をかけて見て回ることにいたしましょう。
 こうして、孫君一家を連れた珍道中は終わりに近づきます。最後は、四条河原町まで戻ります。京都市美術館前でバスに乗りましたが、なんと道路は大混雑。河原町まで1時間弱もかかり、予約をしておいたお店には30分遅れの到着となりました。
 さて、ゴールデンウィークの前半、先週の日曜日は、同業他社の仲間たちと灘の酒蔵巡りを楽しんできました。阪神電車の魚崎駅から歩いて櫻正宗記念館「櫻宴」、浜福鶴吟醸工房、菊正宗酒造記念館、白鶴酒造資料、そして神戸酒心館を見て回りました。行く先々で利き酒をしていたら、ウォーキングのせいもあってか、ずいぶん出来上がってしまいました。夕刻の懇親会でもたっぷりと日本酒をいただきました。
 菊正宗では館長さんの軽快な説明に耳を傾けました。この一帯、阪神淡路大震災のときには、木造の酒蔵が全壊し、廃業した会社も多かったようです。今はどこもコンクリート造の酒蔵ですが、記念館には当時の材木を配して酒蔵の雰囲気を醸し出しています。
 そうそう、オバマ米国大統領が来日した際の宮中晩さん会でふるまわれたお酒は菊正宗でした。その前日、銀座の鮨屋さん、すきやばし次郎で安倍首相が大統領に注いでいたお酒は広島の銘酒、賀茂鶴だったとか。そしてその日、私が買って帰ったのは神戸酒心館の純米吟醸「福寿」でありました。このお酒、2012年にiPS細胞を初めて作製した山中伸弥・京都大学教授がノーベル賞を受賞した際、ストックホルムで開かれた晩餐会でふるまわれたお酒でした。日本のお酒の30%を占める灘の酒。京都・伏見を併せると国内のシェアの50%を占めるのだとか。それに広島・西条を加えると西日本のお酒はずいぶんなシェアを占めていることになります。
 ゴールデンウィークも、今日を含めてあと3日。珍しく次男君が束の間のご帰還になるのだとか。今宵は純米吟醸「福寿」で乾杯でもいたしましょう。

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