心の風景

晴耕雨読を夢見る初老の雑記帳

阿波国「発心の道場」を巡り終える

2023-04-19 16:40:44 | 四国遍路

 先週末、4回目の四国遍路ツアーに行ってきました。初日の後半から小雨舞うあいにくのお天気でしたが、桜が散り始めた境内ではボタンやシャクナゲが温かく迎えてくれましたし、境内の片隅にひっそりと佇む苔むした石仏が私の心を和ませてくれました。
 今回のお遍路では、コロナ後ということもあるのでしょうか、外国人のお遍路さんに至る所でお会いしました。ほとんどの方が歩き遍路で、笑顔で「こんにちわ」とご挨拶いただきます。なかには僧侶姿の方もいて、静かに般若心経を唱えていらっしゃいました。白川密成さんがおっしゃっているように、「四国遍路を世界遺産に」という掛け声が現実味を帯びてきます。
 そう言えば昨日、「西国三十三所」がスペインの世界遺産「サンティアゴ巡礼路」と友好提携を結ぶことになったという新聞記事を目にしました。
 今回は16番札所から23番札所まで8カ寺を巡りました。効率的に巡るため順不同。最初にお参りしたのは18番札所の恩山寺でした。弘法大師の母・玉依御前が大師を慕ってやってきたというお寺です。
 次に向かったのは標高600メートルほどのところにある21番太龍寺。ロープウエイで登りました。空海が19歳の頃、阿波の国を一望できる舎心嶽で虚空蔵求聞持法を修行したことで知られています。虚空蔵菩薩と言えば寅年の守護本尊。寅年の私にとっては思い入れのあるお寺でもあります。
 山を下りて今度は22番平等寺。このお寺ではいつも手水場に目をやります。この日もさりげなく活けられた青もみじとランの花が遍路の疲れを癒してくれました。
 この日最後にお参りしたのは、ウミガメの産卵地で知られる日和佐湾を一望できる23番薬王寺でした。阿波国最後のお寺で、山門を出ると室戸岬の24番最御崎寺に向かう矢印があります。炎天下、太平洋を横目に一日中歩き通してやっと辿り着ける距離になります。
 徳島駅前のホテルに泊まった翌日は、朝から17番井戸寺、16番観音寺、そして20番鶴林寺と巡り、最後は19番立江寺をお参りしました。
 前回は立江寺から10キロほど歩いて民宿「かねこ屋」に投宿。翌朝早く宿を出て鶴林寺に向かいました。寒い冬の時期、延々と続く杉林の中を歩いて登ったことを思い出します。
 立江寺では、これまで二度お参りしながらいつも完売になっていた名物「たつえ餅」を門前のお餅屋さんで買うことができました。帰阪後、婆さんとおいしくいただきました(笑)。
 私は、リタイアした直後に1回目の遍路ツアーに参加しました。物足りなくて1年後に区切り歩き遍路で数年かけて一巡しました。そして今回が三回目の遍路ツアーになります。後期高齢者年代をひかえて人生ひとつの結節点を迎えつつあります。新たな生き仕方を考える時間でもあります。

◇  ◇  ◇

 さて、4月も半ば、ネットで全国旅行支援と格安JALパックプランを眺めていたら、運よく出雲行きのチケットを買い求めることができました。来週前半、お墓参りのため田舎に帰ってきます。急に思い立っての二泊三日の小旅行です。認知症が進行している姉にも会ってこようかと......。そうこうするうちに春の古本祭も迫っています。リュックを背負って大阪・四天王寺と京都・岡崎のみやこめっせに行ってこなくては。当分、なにかと落ち着きのない日々が続きます。

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心の赴くままに私も新学期

2023-04-12 10:53:42 | Weblog

 庭のあちらこちらで草花が花開く季節を迎えました。長かった冬を堪えたクレマチスも、やっと咲いてくれました。このあと紫、ピンクの花が楽しめます。この季節になると心も晴れやかになります。
 きょうはモーツアルトのクラリネット協奏曲を聴きながらのブログ更新です。この時期によく聴く曲ですが、昔はこの曲を聴きながら京都の鴨川べりを散策したことがありました。そうそう、先日、孫次男君のピアノ発表会がありました。長女一家と爺さん婆さんで出かけましたが、ふだんは友達と遊んだりゲームに興じたりしている孫君が、壇上でスタインウェイのピアノを弾いている姿は何とも微笑ましいものでした。爺バカの独り言です(笑)
 さて、昨日は珍しく国立文楽劇場の4月公演に出かけてきました。3部に分かれていて、私が観たのは第1部の「妹背山婦女庭訓」の初段と二段。午前10時30分から昼食休憩(30分)を挟んで午後2時25分まで続きました。
 文楽は、物語を語る「太夫」と三味線を弾く「三味線弾き」、そして人形を動かす「人形遣い」が織りなす大阪育ちの伝統芸能です。幕があがると黒頭巾をかぶった黒衣が右端に登場し、拍子木を打って、演じる段の名前そして太夫と三味線弾きを紹介します。そこで観客席から大きな拍手。ホールに響く拍子木と三味線の音に自然と心が昂ります。
   舞台は場面ごとに、初段は「大序 大内の段」「小松原の段」「蝦夷子館の段」、二段は「猿沢池の段」「鹿殺しの段」「掛乞の段」「万歳の段」「芝六忠義の段」に分かれていて、なにらや紙芝居を観ているよう。私のような素人にはシナリオのすべてが分かっているわけではありませんが、人の「情」「心」を表現する人形の仕草、熱を帯びた太夫の謳いに、知らず知らずのうちに引き込まれていきます。素晴らしい舞台でした。
 ことし公益財団法人文楽協会は創立60周年を迎えるのだそうです。太夫、三味線弾き、人形遣いの中には30代から40代の方の姿も見えました。10年ほど前でしょうか、大阪市の伝統芸能への補助金の在り方をめぐり支給をいったん凍結するという騒ぎがありました。その後、交付条件の見直しを進めて結着したようですが、それを契機に文楽協会も新たな独自の道を歩み出しています。数日前に大阪市長選が行われた直後でもあり感慨深いものがあります。今後に期待したいと思います。

 話題はがらりと変わります。先日、天満橋のジュンク堂書店でNHKのラジオテキスト「鈴木大拙 願行に生きる~その生涯と西田幾多郎との交遊(上)」を買って帰りました。以前から気になっていたお二人ですので、この際、じっくりとお勉強をしてみようと思っています。
 何百年にも及んだ江戸時代から近代国家をめざす明治に変わる時代です。元年を境に昨日と今日で社会ががらりと変わるわけでもないのでしょうが、満を持して時代精神が大きく動いていく様を思います。朝ドラの「らんまん」も、こうした時代の大きな流れを背景に進んでいます。私は時代の変化と人の心の在り様に関心があります。男性が丁髷を切り、女性が鉄漿をやめる。どっと押し寄せる外国の文化をどう受け入れていったのか。
 一方で、時代の激変を経て、なお文楽、能楽など伝統文化が生き続ける。この絶妙な「綾」が私の心を惹きつけます。時間はたっぷりあります。念願の晴耕雨読とまでは行きませんが見つめ考えていきたいと思っています。この機会に鈴木大拙の講演CD2枚(「最も東洋的なもの」「禅と科学」)を買い求めました。といってもヤフオクです。昨日、落札できました(笑)。
 さてさて、明日はNPOの仕事、そして明後日から一泊二日で四国遍路ツアーに出かけます。今回は第16番札所の恩山寺から23番薬王寺まで。これで阿波の国の巡礼は終わります。..........ここまで書き終えて、きょうは久しぶりに雨が降ってきました。

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檜の香りを楽しむ

2023-04-05 20:15:43 | Weblog

 ここ数日、朝がたはひんやりするものの、陽がのぼる頃になるとぽかぽか陽気につつまれ、庭のあちらこちらで草木が芽吹きます。ブルーベリーも元気にお目覚めです。そういえば今年はカリンの木にたくさん花が咲きました。よく見ると、何個か結実しそうです。ご近所のお爺さんからいただいたカリンの実の種を植えて5年が経過します。
 そんなある日、自転車で郊外に足を伸ばしました。小さな製材所の傍を通りかかったとき、製材したあとの真新しい檜の破片が積まれ、辺りに檜の香りが充満していました。傍にいた人に「この切りクズ、少し譲っていただけませんか」と言うと、「いいよ。もっていきな」「お代は?」「いらないよ」と。お言葉に甘えて自転車の前カゴに入るだけいただいて帰りました。
 その切りクズをどうしたと思いますか?10個ほど網袋に入れてお風呂に入れました(笑)。お風呂の蓋をあけると檜の香りが広がります。小さい頃、実家のお風呂が檜風呂だったことを思い出しました。昨今、花粉症に悩まされている方も多いと思いますが、樹の香りは人の心を和ませてくれます。「香り」から自然の生命(いのち)をいただきます。贅沢な時間です。
 「自然」といえば、4月に入ってNHK連続テレビ小説「らんまん」が始まりました。生物学者であり民俗学者でもある南方熊楠とほぼ同時代を生きた、日本植物学の父といわれる牧野富太郎をモデルにしたお話しです。
 その牧野博士の功績をたたえて65年前に開園した高知県立牧野植物園を、私は四国遍路のときに訪ねました。早朝、小雨が降るなか31番札所竹林寺に向かう遍路道を歩いていて、いつの間にか牧野植物園の中を歩いていました。そうなんです。植物園の中に古い遍路道が通っていました。入場料が要りそうなのですが、ちゃんと無施錠の出口もありました。
 竹林寺にお参りする頃には大粒の雨が降っていて、しばし本堂で雨宿りしました。「三人よれば文殊の知恵」といいますが、ご本尊である文殊菩薩のご真言「オン アラハシャ ノウ」を今でも覚えています。
 歩き遍路といえば、前回ご紹介した白川密成さんの「マイ遍路」(新潮新書)が、新聞各紙の読書欄でも取り上げられています。その密成さん、4月3日に新潮社のWEBマガジン「考える人」 https://kangaeruhito.jp/ の「考える四季」のコーナーに、「四国遍路を世界遺産に!札所住職の考えるその魅力と課題」と題して記事を寄せていらっしゃいます。その同じ日には、WEBマガジン「考える人」に連載中の恐山菩提寺院代・南直哉さんが、朝日新聞「会社を離れた自分に価値はあるのか 「バカな錯覚」中年の孤独に一喝」と題するインタビュー記事に登場されていました。それに感化されたためか、きょう開講した「春季水彩画教室」の画題は、毎朝お散歩する近所のお不動さんの境内でした。
 先行き不透明な時代環境のなかで迷えるヒツジさんがたくさんいらっしゃるようです。私もその1人かもしれませんが、騒々しいテレビ文化を離れて、ときには「自然」の中に身を委ねて生き仕方を考える時間を大切にしたいと思っています。

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