心の風景

晴耕雨読を夢見る初老の雑記帳

平均律が奏でる人の心

2012-05-29 21:04:33 | Weblog
 いくら時間の使い方が上手い私でも、1週間に一度は休息日をいただかないと、どこかに無理が生じてしまいます。そんなわけで、きょうは16日ぶりにお休みをいただきました。朝、グレン・グールドのバッハ「平均律クラヴィーア曲集」を聴きながら、長椅子に身を委ねて、ぼんやりと本を読んでいると、どこからともなくゴミ回収車の音が聞こえてきます。家をリフォーム中の真向かいのお家からは、大工さんの声が風に乗ってやってくる。人の出会い、小鳥の囀り・・・・。時々、シーンと静かになって一瞬何も聞こえない無音の世界がやってきて、ふと不安にさせたりもする。なんともゆったりとした時間を楽しんでものです。

 先週、高松に向かう際に新大阪駅の書店で「小澤征爾さんと、音楽について話をする」(小澤征爾×村上春樹著)を手にしました。「ベートヴェンのピアノ協奏曲第三番をめぐって」に、グレン・グールドを見つけたからでした。
1962年、グールドがバーンスタインとブラームスのピアノ協奏曲第1番を協演した際、あまりにテンポの遅いグールドの演奏に、バーンスタインは聴衆に向かってこう言いました。「これは私が本来やりたいスタイルの演奏ではない」と。その話題から二人の対談は始まります。村上春樹さん所蔵のLPレコードを聴きながら、対談は進んでいきます。頁をめくりながら、LPレコードの演奏が聞こえてきそうな、そんな楽しさがこの本にはありました。
 村上春樹。あまりにも著名なこの方を、私はどういうわけかこれまで避けてきました。ベストセラーという言葉がなぜか嫌いで、これまで村上春樹さんの本は一冊も読んだことがありません。でも、気になる存在ではありました。店頭で「小澤征爾さんと、音楽について話をする」をぱらぱらと眺めて、手にして、その奥深さに、そして何よりも私にとってはLPレコードというものを介して、村上さんを手許に手繰り寄せた、そんな出会いになってしまいました。
 その後、店頭に平積みされた新潮文庫「1Q84」BOOK1を読み始めました。まだ1冊目の半ばですが、「青豆」と「天吾」というふたつのお話が、なにやら平均律のように交互に現れる不思議な小説で、ついついのめり込んでしまいます。
 日常の世界でも、さまざまなストーリーが複雑に絡み合い、ついたりはなれたりしながら、私たちは日々を暮らしています。決して恋一筋でもなければ仕事一筋でもありません。人の生き様が森の中でアケビの蔓のように絡み合っている。そのなかで人は何を考え、どこに向かって生きようとしているのか。そんなことを、この本は考えさせてくれます。 

 先週の土曜日は、現地視察ということで瀬戸内海に浮かぶ小島を訪ねました。いくつかの橋を渡りながら車で1時間ほどで現地に到着です。愛媛みかんと漁業を生業としながらも、人口の半数以上がお年寄りの街ですが、ゆったりとした時間と生きる意味を皆でしっかり守っている、そんな素晴らしい小島でした。いま「ももへの手紙」というアニメーション映画が話題になっているようですが、この映画の舞台になっているのが、瀬戸内海の小島でした。

 翌日の日曜日は、広島市内で催事がありました。大勢のお客様にお越しいただいて安堵しました。若い方々の努力の賜物です。この日私は合間を見て「ひろしま美術館」を訪ねました。週刊「西洋絵画の巨匠」で何度か紹介されていた美術館で、いちどは覗いてみたいと思っていました。

 ゴッホの「ドービニーの庭」、ピカソの「酒場の2人の女」、マネの「灰色の羽根帽子婦人」、モネの「セーヌ川の朝」、ルノワールの「パリスの審判」ミレーの「刈り入れ」。その他、ロートレック、シスレー、マティス、シャガ―ルなどなど、知っているだけでもびっくりするほどの作品が、私を迎えてくれました。
 円形の美術館に入ると、中央の丸いメインホールを囲むように4つの部屋があって、なんともゆったりとした雰囲気の中で絵画と向き合うことになります。それも、非常に近い距離で対面でき、写真撮影もフラッシュでない限り問題はなさそう。こんな距離感で絵を楽しんだのは初めてでした。
 そして昨夜は、地元財界トップの方と非公式な懇談へ。仕事の話は一切なしで、多くを哲学について話し合えたのは私にとって嬉しいことでした。あまりの楽しさに、お仲間のご自宅で奥様に歓待された2次会にもおじゃまして、最終の新幹線に飛び乗って帰阪しました。
コメント

フィッシャー・ディースカウさん、逝く

2012-05-20 16:53:48 | Weblog
 きょうは高松駅前にあるホテルの16階の部屋でお目覚めでした。その高松には、きのう午後に到着しましたが、昨年の11月以来とはいえ、ひと昔前に比べてずいぶん近くに感じます。新大阪駅から新幹線で岡山へ、岡山からは急行マリンライナーに乗って、瀬戸内海を渡り、坂出を通って高松に入ります。およそ1時間40分の旅です。最近、広島に行ったり来たりしているので、2時間や3時間の移動は全く苦にならなくなってしまいました。

 2時間早く到着したので、会議が始まるまでの間、ホテルに籠って仕事をしようかと思いましたが、土日を潰しての出張です。ふらっとタクシーに乗って運転手さんお薦めの栗林公園に向かいました。この公園、1500年代に地元の豪族である佐藤氏が築庭したと言われる名勝です。若葉が目に染みるそんな空間に身をおいて、しばしの休息でした。500年前の頃といえば、遠いヨーロッパはルネサンスの時代と重なります。マキアヴェッリがフィレンツェの街を闊歩し、ボッティチェリが「春」を描いた頃、そんな時代に、ここ高松では盆栽のような庭が築庭されていた。なんとも不思議な人の歩みを思います。でも、ふたつの世界に優劣はありません。それぞれに独自の文化が花開いたということです。池の片隅にひっそりと浮かぶ蓮の花を愛でながら、なにやら現実離れしたことを独り考えておりました。


 
 ところで、その日の朝刊で知りましたが、バリトン歌手のフィッシャー・ディースカウさんが亡くなりました。86歳でした。若い頃からディースカウさんの歌曲を聴き馴染んできた者にとって、また一人大切な人を失ったことになります。ご冥福をお祈りします。広々とした栗林公園を散策しながら、小鳥の鳴き声の向こうからディースカウさんの歌声が聞こえて来そうでした。先週、何を思い立ったのか、ソプラノ歌手のシュワルツコップさんのLPを聴いた。何か不思議な因縁を思います。

 出張から帰ると、さっそくLPを探しました。「菩提樹」や「春の夢」など24曲を3部に分けたシューベルトの「冬の旅(全曲)」、そしてマーラー作曲「さすらう若人の歌」を収録した箱入り2枚組のLPです。前者はジェラルド・ムーアのピアノ伴奏、後者はフルトヴェングラー指揮のフィルハーモニアとの協演。赤盤のAngel版です。
 きょうは、私の青春の影を引きずる、このLPを聴きながらのブログ更新となりました。
コメント

グレン・グールド没30年、CD生誕30年

2012-05-13 09:52:31 | Weblog
今夏の電力不足がささやかれていますが、5月も半ばだというのに肌寒い日が続きます。でもきょうは快晴の朝を迎えました。どこからとなくウグイスの声が聞こえてきます。なんだか心が躍ります。

 我が家の庭では、いま、檸檬や酢橘の花が咲き、ピラカンサの花が咲き、白い花ばかりかと思っていたら庭の片隅に紫紅の花をつけたシランがひっそりと佇んでいます。どこからともなくミツバチがやってきて、あっちにとまったり、こっちにとまったり。なんと楽しい風景であることか。


 そんな朝は、シュワルツコップの「モーツアルト・アリア集」がお似合いかもしれません。「フィガロの結婚」「ドン・ジョバンニ」「イドメネオ」から9曲のアリアが収録されています。「とうとう嬉しい時が来た~恋人と、早くここへ」「楽しい思い出はどこへ」などなど。
               
 そうそう、ネットで注文していたMCカートリッジ用の昇圧トランスが届きました。出力電力を上げてアンプのMMカートリッジ接続端子に繋ぐ装置ですが、これがなかなかの優れモノでした。以前から気になっていた中高音域に深みが増したようで、これまで何度も聴いてきたLPレコードが蘇った、それは素晴らしい音を再現してくれました。やはりアナログの底力を軽視してはいけませんね。
 ある本によれば、トーマス・エジソンが錫箔円筒形蓄音機を発明して135年、SPレコード、LPレコードの時代を経てCDが誕生したのが1982年、そう、グレン・グールドが亡くなった年にCDは生まれたことになります。彼のLPを集め出した頃、彼はCDの誕生と共にこの世を去った。1982年のことです。今年はグールド没30年にあたります。
 そんなこともあって、きのうの土曜休日はゆったりと過ごしました。まずはグレン・グールドのバッハ「ゴールドベルク変奏曲」。彼は生前にこの曲を2回録音していますが、このLPは1981年版です。彼が逝去する1年前の録音です。録音風景を写したDVDもありますが、音楽の世界を越えて彼の世界観を全身で表現しています。
次いで、ロストロポーヴィチのチェロでドヴォルザークの「チェロ協奏曲ロ短調」。夜には、趣きを変えてヘレン・メリル、ビル・エヴァンスのジャズを楽しみました。

 ところで、この春は熱帯魚プラティがたくさん子どもを産んでくれます。昨日は第二弾の出産ラッシュで、水槽の中では、いま30匹近い稚魚が元気に泳ぎ回っています。こんなに育ってどうしよう。そろそろこんな心配もしなければなりません。
それはともかく、来週からおよそ1カ月間、土・日が出張で全部潰れます。適度に息抜きをしながら心の安寧を保つ予定ですが、ブログの更新は不定期になるかも。
 今日はこのあと、愛犬ゴンタの五種混合ワクチン接種のため、動物病院にお出かけです。
コメント

静かに過ごした連休後半

2012-05-06 09:24:32 | Weblog
 ゴールデンウィークも最終日を迎えました。前半の3日間は孫の世話に明けくれましたが、後半の4日間は、天候が優れなかったこともあって、ゆったりとした時間が流れました。
 2日、広島から帰阪したその足で、堂島のジュンク堂書店に立ち寄りました。仕事がらみの本を探すためでした。目的の本を見つけて1階の文具店に立ち寄った際、面白いものをみつけました。名づけてCamiApp(コクヨ)。四隅に印の付いた専用ノートに書いた手書きメモを専用アプリを搭載したスマホで撮影すると、きれいに整形され電子情報として蓄積できるという優れモノです。
 どうも最近、PCに頼って物事を考えていると、知らない間に知恵が流されている、深堀ができていない、判った気持ちになっている、そんな印象をもっています。便利だし、見栄えも良いし、....でも何かが足りない。デジタルの良さも、もちろんあります。しかし、何かが不足している。人間の頭脳を退化させているところはないかどうか。デジタルとアナログのせめぎ合いと言ったところでしょうか。
 もうひとつの優れモノはsmarecoPEN(ナカバヤシ)。こちらは残しておきたい新聞記事を特製のペンで囲んでスマホで撮影すると囲んだ記事だけが保存されるというものです。こちらもなんだか楽しそうです。いずれも、EVERNOTEとの連携が取れていて、ついつい手にすることに。文具に対する私の好奇心も相変わらずです。

 連休後半を前にしたウキウキ気分のなせるわざなのでしょうか。その日は、ビルの外に立つ堂島尊師堂の横を通って、地下に潜り、久しぶりに駅前第一ビルのWALTYさんにも立ち寄りました。
 さて、連休の後半ですが、お天気がすっきりしない日々が続きました。といっても長女が第ニ子を出産したこともあって、家内の予定が見えず、事前の計画はなし。所要のため3日に半日だけ出かけた以外は翌4日とも我が家で静かに過ごしました。まずはネットで大量に仕入れた庭土と培養土との格闘です。庭や花壇の草取りのあと、花壇を耕し、その上に新しい土を盛っていく、そんな作業を淡々とこなしました。汗を流したあとは、真っ昼間から冷たいビールで喉を潤す。これも連休ならではの贅沢な時間でした。


 久しぶりに快晴となった5日は、宝塚の清荒神さん界隈を散策しました。今年になって初めてのお参りでした。お土産店などが軒を連ねる長い長い参道を歩いて、中国縦貫道の下をくぐってお寺に向かいます。お天気が良かったためか、思っていた以上の人出でした。 

 この日は、もうひとつの目的がありました。前日ネットで調べた名湯「宝之湯」巡りです。その温泉は、阪急電車の清荒神駅からふた駅ほど戻ったところにある中山駅下車、車で7分のところにあります。地下800mから自噴するという天然温泉で、こんな都会地で有馬温泉と同等の温泉を楽しむことができるとは驚きでした。泉質はナトリウム-塩化物強塩温泉と言われ、鉄分・ミネラル・塩分・炭酸などをたっぷり含んだ無色透明の湯が空気に触れて酸化して色づく「黄金泉」が特徴です。開放的な露天風呂で日頃の疲れを癒すことができました。普段着のままで行ける、意外と穴場の温泉かもしれません。
 そのあと、梅田まで戻って駅ターミナル界隈を歩きましたが、とにかく人が多いこと。人、人、人。人口減少が懸念されている昨今、どこから人が沸いて出てきたのかと思うほどの勢いに、我が老夫婦(?)は困惑気味でした。早々に静かなレストランに忍び込んで、静かに食事をいただいて帰りました。さあて薄曇りのきょうは、きのう中山駅前の園芸店で購入した草花の苗を植えて、長い連休の締めくくりとしましょう。
コメント