先日、久しぶりに園芸店を覗いたら、クレマチスの小さな苗を売っていました。この季節に買って大丈夫かなあと思いつつ、4種の苗を買って帰りました。根回りを崩さず大きな鉢に植えて明るい軒下に置いて春を待つことにしました。そうそう、先日来、冬の野菜のひとつである蕪の水彩画を描いていますが、微妙な葉の色の変化がうまく表現できません。そうこうするうちに来週から人物画が始まります。これまた大変です。
春が待ち遠しい一方で寂しい出来事もありました。仲良くしていただいていたお向かいの老夫婦が、いよいよ介護サービス付き高齢者向け住宅に完全に引っ越しされることになりました。ご挨拶をいただいた数日後、専門業者の方が家財一式を何台ものトラックに乗せて行きました。
もぬけの殻と化したお家は、いまひっそりとしています。海外生活が長かったご夫婦でしたが、余生は仲良くガーデニングを楽しんでいらっしゃいました。「老い」の行く末を自分のことのように思える1週間でもありました。そのお庭には、どんな春が待っているのでしょうか。何事もなかったように、お庭の大きなハナミズキが花開くのでしょうか。
そんな感慨にふけりながらも、今週はあっという間に過ぎて行きました。それも火水木金と出ずっぱり。明日の土曜日も能講座に出かける予定でしたが、疲れが溜まり、また大阪のコロナ感染者数が1万人を超えたため、奥様から外出自粛要請が出てしまいました(笑)。
そんななか、今週も折に触れて金子みすゞの世界から離れることはできませんでした。週の初めには大正7年創刊の児童文芸誌「赤い鳥」の復刻版(日本近代文学館)の第1巻(1巻1号<創刊号>から6号)をヤフオクで見つけて購入しました。
届いた荷物をあけると、しっかりした紙箱に雑誌6冊が入っていました。復刻版なのにほんのりと古本の匂いが漂い、手触りも本物のようです。まずは創刊号(大正7年7月1日発行)を手に取ります。鈴木三重吉主幹とあり、表紙絵「お馬の飾」は清水良雄作とあります。定価は1冊18銭。
表紙をめくると、「赤い鳥」の標榜語(モットー)があります。「西洋人と違って、われわれ日本人は、哀れにも未だ嘗て、子供のために純麗な読み物を授ける眞の芸術家の存在を誇り得た例がない」「赤い鳥は、ただ単に話材の純清を誇らんとするのみならず、全誌面の表現そのものにおいて、子供の文章の手本を授けんとする」として、賛同せる作家として、泉鏡花、徳田秋声、高浜虚子、野上弥生子、芥川龍之介、北原白秋、島崎藤村、鈴木三重吉など十数名の名前をあげています。
本文を開くと、創作童話として北原白秋の「りすりす子栗鼠」、島崎藤村の「二人の兄弟」、芥川龍之介の「蜘蛛の糸」などが掲載されています。名だたる作家たちが綴る創作童話に驚きを隠せません。目の前に、古き良き時代の童話の世界が広がります。長い間、小難しい本に接してきた私とっては、何かほっとする時間でもあります。セピア色に浮かぶ大正時代の風景を垣間見る思いがいたします。私が歳をとったからなのか、それとも人間存在のベースとなる心の在り様を忘れていたためなのか.....。当面、自問自答が続きます。
ちなみに、奥付に創作童謡童話募集、各地童謡伝説募集などの告知がありました。金子みすゞは当時、こういう雑誌に投稿していったのだろうと思います。