■ ベートーヴェン 31番ソナタは、バッハ平均律 1巻 7番の継承曲 ■
2010.9.8 中村洋子
★明日 9日に開催いたします
カワイ 「 平均律アナリーゼ講座 1巻 7番 」のための勉強で、
ベートーヴェンのピアノソナタ第 31番が、どれだけ深く、
バッハの平均律 7番から、影響を受けているか、
いまさならがら、実感しました。
★これは、ベートーヴェンが 31番を作曲するとき、
ピアノの上に、バッハの平均律 7番の楽譜を広げていた、
というような次元のお話では、ありません。
★私も、作曲しているとき、自分では全く気付かないのですが、
後になってから、自分の曲を、客観的に検討しますと、
無意識に、バッハの発想法を、使っていることを、
発見することが、よくあります。
★そのような点を、ドイツで評価していただいたとき、
心から、喜びを感じるのです。
★ベートーヴェンも、晩年、最後から2番目のピアノソナタを、
書くとき、彼の血となり肉となっていた 「 バッハ 」 が、
いたるところから、滲み出て、この大傑作をものしたのです。
ショパンとバッハの関係についても、全く、同じです。
★31番ソナタの一見、バッハとは無関係にみえる
「 第 1楽章 」 にこそ、
バッハの平均律 7番の影響が、一番色濃く、出ています。
特に、ベートーヴェンの自筆譜を研究いたしますと、
第1楽章、第 2テーマの 3小節目に当たる 「 22小節目 」 の、
左手 1、2拍は、バッハと同じ符尾の書き方となっており、
ここを、ベートーヴェンは、 2声部として、
発想していたことが、如実に、分かります。
★ 1楽章の 44小節目は、よく観察しますと、
平均律 7番前奏曲の、モティーフに酷似しています。
明日は、この部分を、 「 ヘンレ版 」、
自筆譜に基づいた 「 ペーター版・新版 」、
「 クラウディオ・アラウ版 」 、 「 シュナーベル版 」 で、
詳しく検討します。
特に、シュナーベルやアラウの、楽譜への読み込みの深さ、
さらには、バッハについても、
このマエストロたちは、こんなにも深く理解している、
ということを、お伝えします。
★ベートーヴェン 31番ソナタの、
最終楽章は、 「 フーガ 」 となっていますが、
このフーガの、主題の提示の仕方、
つまり 「 対提示部 」 の扱い方が、
まるで、バッハの平均律 7番と、瓜二つなのです。
この 「 対提示部 」 というものは、どういうものなのか、
詳しく、分かりやすく、お話します。
★主調による 「 第 1提示部 」 は、テーマの提示が、
2声ならば 2回、3声ならば 3回、4声ならば 4回、
というのが原則ですが、その後に、この 「 対提示部 」
( counter-exposition ) を、置きますと、
3声のフーガでも、主調の主題が、
4回、あるいは 5回、提示されます。
★バッハは、この手法を、平均律のなかで、たびたび、
実に巧みに、用いています。
そして、それを、ベートーヴェンが 31番ソナタで、
立派に、継承したのです。
★勉強の合間に、日本で出版されている有名な、
平均律クラヴィーア曲集の解説書を、
≪ ブラックユーモア ≫ として、読みました。
★例えば、 「 7番 前奏曲 」 の解説。
『 書き方は、大へんに厳格なのですが、
ただ調性遍歴がかなり自由というか、
行きあたりばったりなところがあるので、
完全な2重フーガとしてアナリーゼするには
少し無理があるように思います 』。
★“ 行きあたりばったり ” で果たして、
このような傑作が、生まれるものでしょうか。
“ 行きあたりばったり ” の曲を、
ベートーヴェンが生涯にわたって、愛し、
その高みに近づこうと、努力するものでしょうか。
★私の講座には、 「 バッハが大好きですが、
日本の先生のレッスンを受けても、さっぱり、分からない、
かえって、嫌いになってしまう 」 、あるいは、
「 “解説書 ”を読んで、どうしても納得できない。
疑問が増すばかり 」 、 という方が、
雪でも、雨でも、たくさんいらっしゃいます。
★きょうは、記録的な変な台風でしたが、それには、関係なく、
また、明日、熱心な皆さまと、お会いできることを、
楽しみにしております。
( 数珠玉 )
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