音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■バッハはなぜ、7番プレリュードを、6番フーガの後にそのまま書き始めたか?■

2010-09-06 23:58:33 | ■私のアナリーゼ講座■

■バッハはなぜ、7番プレリュードを、6番フーガの後にそのまま書き始めたか?■
                                   2010・9・6 中村洋子





★新聞を見ますと、クラシック音楽家の犯した、

驚くべき犯罪記事が、最近、よく出ています。

音大の作曲家准教授が、覚せい剤で逮捕されたり、

きょうは、オーケストラの元コンサートマスターが、

盗撮で逮捕された、という記事を新聞で見ました。



★専門の演奏や作曲の勉強に、真摯に取り組んでいますと、

そのようなことに、時間を費やすことができる、ということが、

私には、信じられません。



★私のアナリーゼ講座参加者の方と、以前、お話していましたら、

その方は、いま、ブラームスの後期ピアノ作品の演奏に、

取り組んでいらっしゃり、

「勉強することが、多すぎて、時間がいくらあっても足りません」

と、話されていました。



★ヨーロッパのベッチャー先生を初め、本当のマエストロたちは、

「 毎日 Üben  und  Üben 練習 練習 」 と、おっしゃっています。

ケンプやルービンシュタインでも、もちろん、例外ではありません。



★逮捕された音楽家たちは、経歴だけは、華麗に飾り立てていても、

人物のみならず、その音楽も偽物でしょう。



★本物の芸術は、冷静な計算と、設計、構築を重ね、

その積み重ねの結果としての、ひらめき、から生まれるものですので、

上記のような、まやかしの快楽から、生まれるものではありません。

麻薬をしなければ書けない、という曲は、

取るに足らないものでしょう。



★9月9日に開催します「バッハ平均律アナリーゼ講座」では、

借り物ではないバッハ、つまり、誰かの弾き方を真似したり、

先生に言われた通りのバッハを、弾くのではなく、

ご自身が心から納得し、練習の末に、

素晴らしいひらめきを伴った演奏が、できるようになるための、

基本となるアナリーゼのお話を、いたします。

私自信、バッハと格闘して、見つけ出した内容です。



★いつものように、バッハその人が書いた楽譜の、

ファクシミリを、見ながら、

バッハがどのように、平均律クラヴィーア曲集7番の、

プレリュード、フーガを、作曲し、その上に、

ひらめきを加えていったかを、考えていきます。



★バッハは、平均律クラヴィーアの各曲を、書くに当たり、

1ページ を 6、 7 段にレイアウトして、書いています。

ところが、バッハ自筆譜では、
 
このプレリュード 7 番 の書き出しは、

フーガ 6番の終わった後に、つまり、

そのページの 4段目から、そのまま、書き始めています。

別のページから、始めてはいないのです。



★ 〝 バッハが、紙を節約したから、6番フーガの終わった次の段から、 

書き始めたのだ  ″  と主張する、バッハ学者のしたり顔が浮かびます。

バッハは、自分の芸術を、紙の倹約より下に置く、ということは、

決して、ありません。

平均律クラヴィーア曲集の、他の曲を見ますと、

ゆったりと、余白を残している曲も、たくさんあります。



★なぜ、 6番フーガの後で、すぐに 7番プレリュードを、書き始めたか。

この書き始めは、見開き2ページのうちの右ページにあります。

その左のページ、即ち、前ページの一番上から、

6番のフーガが、始まっています。

7番のプレリュードを、弾く場合、この楽譜のレイアウトですと、

否応なしに、常に、6番フーガのテーマが、

視界のなかに、入ってくるのです。

 

★これこそが、バッハの狙いだった、と思います。

この理由については、講座で、詳しくお話いたしますが、

さらに、それを、深く読み込んでいきますと、

6番、 7番、 8番のプレリュード&フーガの、

驚くべき関連性が、浮かび上がってきます。



★さらに、話は飛びますが、グレン・グール ド Glenn Gould による

8番の演奏法の秘密も、ここから解き明かすことができるのです。



★ヘンレ版で、平均律クラヴィーア曲集を勉強されている方も

たくさんいらっしゃると、思いますが、

旧版のオットー・フォン・イルマー Otto von Irmer 校訂のものではなく、

新版 エルンスト-ギュンター ハイネマン 

Ernst-Guenter Heinemann  校訂版を、お使いください。



★旧版ですと、プレリュードの34小節目、

左手2拍目が  「 A  G  Fis  E  」  となっていますが、

正しくは  「  A  G  Fis  G  」  です。

新版では、ここを、訂正しています。



★「 A 」  にするか、「 G 」 にするかは、バッハ自身も迷ったようですが、

自筆譜の最終稿では、 「 G 」 になっています。

どうして、  「 G 」 を選択したか、についても、

講座で、説明いたします。

 

★旧版では、 59小節目の右手内声 4拍目 「  A  A  」 の、

2つ目の  「 A 」  が、

60 小節目 1拍目の 「 A 」 と、タイで結ばれていますが、

バッハは、タイを書き込んではいません。

新版では、タイを、 (  ) で括っています。



★学生時代の楽譜を、ぼろぼろになるまで、

使うことを、誇るという、風潮もあるようですが、

楽譜も生き物、いつも、申し上げていますように、それも

かなり、いい加減な生き物です。

常に、最新版に目を配り、ヘンレ信者の方も、ご自身の楽譜を、

どうぞ、再確認してください。



★これは、ご自身で、いい音楽を作り上げる上での、

必要、かつ、基礎的な作業といえます。




                                  (  赤い花、 露草  )
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