■バッハはなぜ、7番プレリュードを、6番フーガの後にそのまま書き始めたか?■
2010・9・6 中村洋子
★新聞を見ますと、クラシック音楽家の犯した、
驚くべき犯罪記事が、最近、よく出ています。
音大の作曲家准教授が、覚せい剤で逮捕されたり、
きょうは、オーケストラの元コンサートマスターが、
盗撮で逮捕された、という記事を新聞で見ました。
★専門の演奏や作曲の勉強に、真摯に取り組んでいますと、
そのようなことに、時間を費やすことができる、ということが、
私には、信じられません。
★私のアナリーゼ講座参加者の方と、以前、お話していましたら、
その方は、いま、ブラームスの後期ピアノ作品の演奏に、
取り組んでいらっしゃり、
「勉強することが、多すぎて、時間がいくらあっても足りません」
と、話されていました。
★ヨーロッパのベッチャー先生を初め、本当のマエストロたちは、
「 毎日 Üben und Üben 練習 練習 」 と、おっしゃっています。
ケンプやルービンシュタインでも、もちろん、例外ではありません。
★逮捕された音楽家たちは、経歴だけは、華麗に飾り立てていても、
人物のみならず、その音楽も偽物でしょう。
★本物の芸術は、冷静な計算と、設計、構築を重ね、
その積み重ねの結果としての、ひらめき、から生まれるものですので、
上記のような、まやかしの快楽から、生まれるものではありません。
麻薬をしなければ書けない、という曲は、
取るに足らないものでしょう。
★9月9日に開催します「バッハ平均律アナリーゼ講座」では、
借り物ではないバッハ、つまり、誰かの弾き方を真似したり、
先生に言われた通りのバッハを、弾くのではなく、
ご自身が心から納得し、練習の末に、
素晴らしいひらめきを伴った演奏が、できるようになるための、
基本となるアナリーゼのお話を、いたします。
私自信、バッハと格闘して、見つけ出した内容です。
★いつものように、バッハその人が書いた楽譜の、
ファクシミリを、見ながら、
バッハがどのように、平均律クラヴィーア曲集7番の、
プレリュード、フーガを、作曲し、その上に、
ひらめきを加えていったかを、考えていきます。
★バッハは、平均律クラヴィーアの各曲を、書くに当たり、
1ページ を 6、 7 段にレイアウトして、書いています。
ところが、バッハ自筆譜では、
このプレリュード 7 番 の書き出しは、
フーガ 6番の終わった後に、つまり、
そのページの 4段目から、そのまま、書き始めています。
別のページから、始めてはいないのです。
★ 〝 バッハが、紙を節約したから、6番フーガの終わった次の段から、
書き始めたのだ ″ と主張する、バッハ学者のしたり顔が浮かびます。
バッハは、自分の芸術を、紙の倹約より下に置く、ということは、
決して、ありません。
平均律クラヴィーア曲集の、他の曲を見ますと、
ゆったりと、余白を残している曲も、たくさんあります。
★なぜ、 6番フーガの後で、すぐに 7番プレリュードを、書き始めたか。
この書き始めは、見開き2ページのうちの右ページにあります。
その左のページ、即ち、前ページの一番上から、
6番のフーガが、始まっています。
7番のプレリュードを、弾く場合、この楽譜のレイアウトですと、
否応なしに、常に、6番フーガのテーマが、
視界のなかに、入ってくるのです。
★これこそが、バッハの狙いだった、と思います。
この理由については、講座で、詳しくお話いたしますが、
さらに、それを、深く読み込んでいきますと、
6番、 7番、 8番のプレリュード&フーガの、
驚くべき関連性が、浮かび上がってきます。
★さらに、話は飛びますが、グレン・グール ド Glenn Gould による
8番の演奏法の秘密も、ここから解き明かすことができるのです。
★ヘンレ版で、平均律クラヴィーア曲集を勉強されている方も
たくさんいらっしゃると、思いますが、
旧版のオットー・フォン・イルマー Otto von Irmer 校訂のものではなく、
新版 エルンスト-ギュンター ハイネマン
Ernst-Guenter Heinemann 校訂版を、お使いください。
★旧版ですと、プレリュードの34小節目、
左手2拍目が 「 A G Fis E 」 となっていますが、
正しくは 「 A G Fis G 」 です。
新版では、ここを、訂正しています。
★「 A 」 にするか、「 G 」 にするかは、バッハ自身も迷ったようですが、
自筆譜の最終稿では、 「 G 」 になっています。
どうして、 「 G 」 を選択したか、についても、
講座で、説明いたします。
★旧版では、 59小節目の右手内声 4拍目 「 A A 」 の、
2つ目の 「 A 」 が、
60 小節目 1拍目の 「 A 」 と、タイで結ばれていますが、
バッハは、タイを書き込んではいません。
新版では、タイを、 ( ) で括っています。
★学生時代の楽譜を、ぼろぼろになるまで、
使うことを、誇るという、風潮もあるようですが、
楽譜も生き物、いつも、申し上げていますように、それも
かなり、いい加減な生き物です。
常に、最新版に目を配り、ヘンレ信者の方も、ご自身の楽譜を、
どうぞ、再確認してください。
★これは、ご自身で、いい音楽を作り上げる上での、
必要、かつ、基礎的な作業といえます。
( 赤い花、 露草 )
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