音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■お正月、放哉と青空、Bachカンタータと四声体コラール、ジョン・ケージ■

2018-01-07 13:29:39 | ■ 感動のCD、論文、追憶等■

■お正月、放哉と青空、Bachカンタータと四声体コラール、ジョン・ケージ■
 
                  2018.1.7      中村洋子

 

 

★穏やかな「2018年」の年明けでした。

≪針の穴の青空に糸を通す≫ 尾崎放哉

私の好きな放哉の句です。

季語の無い自由律俳句ですから、季節は分かりません。


★放哉の句によく見かけられる「空」は、哲学的な意味を

含んだ語かもしれません。

しかし、私は、この小さな針穴から、広大無辺な青空に一本の

細い意図を通すという行為、

心が開放され、かつ収斂する様は、

新年にこそ相応しいという、気持ちがします。

 

 


★かつて、新春は「フーテンの寅さん」の新作映画が、

毎年、封切られていました。

美しい女性にまたもや失恋し、淋しい旅の空の寅さん。

故郷の葛飾柴又では、妹のサクラの手に、寅さんからの葉書。

寅さんの懐かしい声が、ナレーションで流れてきます。

柴又の江戸川河川敷では、無心に凧揚げに興じる子供たち。

正月休みでスモッグも無い、青く澄んだ冬の、東京の空です。


★今年も広大無辺な音楽の青空に、妥協することなく、

極小の針穴に、糸を通す努力、営為を続けていきたいと、

願っております。


★お正月休みにいただいたお便りです。

私のCD「無伴奏チェロ組曲3、2番」(Wolfgang Boettcher

ヴォルフガング・ベッチャー演奏)に、収録されています、

小品二曲のご感想が書かれていました。



『冬の庭』は、誰も足を踏み入れていない静謐な、
白一面の庭を想起させてくれます。
冷えた地ではあるけれど、その奥底には確かなエネルギーが
息づいているようでもあり…。

 『夜色楼台図』は、ベッチャー先生のうなりが
所々入っているのもあり、峻厳さや孤高といったものを
より強く感じます。
鳥となった蕪村が漆黒の雪雲を、
その小さな身体で懸命にまとっている、
そんな画も浮かんできます。


★このように深く聴き込んで頂き、感謝しております。

なお、このCDは、アカデミアミュージック

銀座・山野楽器銀座本店で、お求め頂けます。


★私の年末年始は、いつもの日常と変わらず、

淡々と仕事を続けていました。

その間、一曲仕上げることができました。

 


★ここ数日は、Nikolaus Harnoncourt
              ニコラウス・アーノンクール(1929-2016)指揮の、

Bach「J.S.Bach: Great Cantatas 」という、
https://wmg.jp/artist/harnoncourt/PKG0000018970.html

カンタータをたくさん集録したCDを、毎日、聴いていました。

大変に納得のいく、優れた演奏と思います。


★このカンタータボックスは、7枚組ですが、

1枚目に、教会カンタータ「Es erhub sich ein Streit BWV19

戦いが起きた(教会暦 聖ミカエル祭 1726年9月29日初演)」

が、集録されてます。


★≪ Matthäus-Passionマタイ受難曲 ≫の初演が1727年。

その一年前の曲です。

このカンタータの最後の曲である「コラール」を、聴いてみてください。

1~5小節目の合唱部分は、こうです。

 

 


★これを大譜表に書き直しますと、こうなります。

 

 

★続く6~9小節目も、大譜表では、こうです。

 

  

★10小節目以降もソプラノだけ書き写しますと、

 

Bachが、異なった四声体和声をつけた「コラール」は、

Bachの没後、息子の「C.P.E Bach」と、「Johann Philipp Kirnberger

ヨハン・フィリップ・キルンベルガー(1721-1783)によって編纂された

≪371 vierstimmige Choräle für ein Tasteninstrument
                                                    (Orgel,  Klavier, Cembalo) 
  371 Four-Part Chorales for one Keyboard Instrument
                                                   (Organ, Piano, Harpsichord)
 鍵盤楽器(オルガン、クラヴィーア、チェンバロ)のための
                    371の四声体コラール≫

https://www.academia-music.com/shopdetail/000000052660/

にも、掲載されています。

 

 

 この371曲の「四声体和声」を弾き、学ぶことは、

Bachの和声を身につけるために、とても役立ちます。

お薦めいたします。

 

 


Robert Schumann ロベルト・シューマン(1810-1856)も、

子供たちに、幼い頃から「四声体和声」を身につけて欲しいと、

願っていました。

 

 

★「Album für die Jugend Op.68 ユーゲントアルバム」の

第4番が、実は、このコラールです。


★この「Album für die Jugend ユーゲントアルバム」につきましては、

現在、大変幸せなことに

①初稿 Klavierbüchlein für Marie
https://www.academia-music.com/shopdetail/000000030094/

②自筆譜浄書譜
https://www.academia-music.com/shopdetail/000000030258/

③初版譜ファクシミリ
https://www.academia-music.com/shopdetail/000000031072/

④大作曲家Gabriel Fauré ガブリエル・フォーレ(1845-1924)
                            の校訂版
https://www.academia-music.com/html/page1.html?q=%EF%BC%A6%EF%BD%81%EF%BD%95%EF%BD%92%EF%BD%85%E3%80%80%EF%BC%B3%EF%BD%83%EF%BD%88%EF%BD%95%EF%BD%8D%EF%BD%81%EF%BD%8E%EF%BD%8E&sort=number3,number4,number5&searchbox=1&o=0

の4種類が、易々と入手可能です。


★これ以上は、もう必要ないのではないか、と思うくらい、

この「ユーゲントアルバム」については、

私たちは恵まれた状況にあります。


フォーレの校訂版は、読み込み方を理解しますと、

曲の構造と演奏法が、しっかりと身につきます。

 

 

それにつきましては、また、稿を改めてお話いたします。

 

 


1月20日(土)に、「平均律第1巻第1番」アナリーゼ講座
https://www.academia-music.com/new/2017-10-26-151213.html

開催いたします。

今回は、休憩を含めて4時間の講座ですので、

じっくりお話が出来ると思います。


Bachにとって、「Prelude」 とはなんであったのか?

それを、「無伴奏チェロ組曲」の「Prelude」 と、

「平均律第1巻 C-Dur Prelude」との対比から、

解き起こします。


★その影響は、アメリカの作曲家 John Cage

ジョン・ケージ(1912-1992)にまで、深く浸透していることも、

ご説明する予定です。


ケージは、Arnold Schönberg アルノルト・シェーンベルク

(1874-1951)の下で、20代に、

Bachの 「counterpoint 対位法」を、学んでいるからこそ

大きな革新を打ち出せた、ともいえます。

シェーンベルクの「12音技法」とは、

バッハの対位法を、拡大発展させた作曲技法です。


★そのケージの作品を、形だけ真似しましても、

フワフワとマシュマロのような「現代」音楽しかできないでしょう。

実体がないのです。


★それを理解しますと、Bachを弾くこと、学ぶことが

更に楽しくなります。


Cello チェロのマエストロ、Wolfgang Boettcher

ヴォルフガング・ベッチャー先生から、新年のお便りを頂きました。

「Enjoy life and music !」と、先生はおっしゃっています。

「life」を、どう訳しましょう。

「人生と音楽を楽しんでください」でしょうか。

この言葉を、皆さまへの新年のご挨拶といたします。

「Enjoy life and music !」

 

 


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