音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■ エリック・ハイドシェックのピアノ・レッスン ■

2007-12-24 17:35:29 | ★旧・感動のCD、論文,演奏会など
2007/8/30(木)

★ピアニスト・ERIC HEIDSIECKエリック・ハイドシェックのレッスンを聴講しました。

大変勉強になりました。

心に残った貴重なお話を、お伝えいたします。


★日本のピアニストは、素晴らしい≪指≫を持っている人は多いのですが、

ペダルに問題がある人が多いようです。

ペダルを踏みすぎる傾向があります。

その理由は、「ヨーロッパの演奏会場は、反響がいいのに対し、

日本のレッスン室は、響きが少ないため、ペダルを多用し勝ちなためです」。


★さらに、練習の際の問題点。

通常、日本では、スリッパを履いて練習しています。

しかし、コンサートでは、靴を履いて弾きます。

これでは、練習の時と全く同じ状態では、ペダルを踏むことが出来ません。

スリッパと靴とでは、ペダルに対する足の角度が微妙に異なってしまいます。

「是非、ペダルの下に絨毯を弾き、靴を履いてピアノを練習してください」

「私も絨毯を敷いています。床が靴で、磨り減ってしまうからです」

≪床が磨り減る≫ほど練習を毎日、なさっている、ということですね。

これだけでも感動的なお話です。


★ブラームスのピアノ小品集 OP.118について、

この第一番「インテルメッツォ」最後の、フェルマータ付き和音を弾いたら、

ペダルは踏んだままにして、指は鍵盤から離してください。

ピアノは、ハープを横に倒した形です。

ハープは弾いた後、弦から手を離すと、音がよく響きます。

逆に、響きを止めるには、指を弦に当てます。

最後の和音を響かせるためには、ペダルを踏んだまま、手を鍵盤から離します。

ハンマー(ハープの手に相当)が弦から離れますから、豊な響きが続きます。


★これは、私(中村洋子)の意見ですが、このインテルメッツォは、

ヘ長調の属和音「ド・ミ・ソ」で始まり、イ長調の主和音「ラ・ド・♯ミ」で終わります。

シューベルトが、発見し、好んだ3度の関係の和音です。


★音をクリアーにしたい時は、「梃子」の原理を応用して、

鍵盤の一番手前の部分で打鍵しますと、大変に効果的です。


★OP.118の第3番「バラード」について、スタッカートのお話に説得力がありました。

ドイツ人作曲家の作品のスタッカートは、レガートより重いことがある。

「あのモーツァルトですら、そうです」と、実演をされました。

スタッカートは、楽典では「音を短く切って」と、書いてありますが、

鵜呑みにせず、その作曲家の特性を研究することが大切なようです。


★ブラームスのワルツについても、リズムの取り方を、親切に教えてくださいました。

ワルツの3拍目は、軽いけれども、やや長めです。

「ア~ム=ステル=ダム」、「ア~ム=ステル=ダム」と歌うと、

生き生きとした3拍子のリズムになります。


★その後、外で先生にお会いし、

「アムステルダム」と、歌いながら3拍子をとることを、学ぶことができ、

とても勉強になりました、と感想を述べました。

そして、二人で、「アムステルダム」を何度も合唱し、

私一人のために、熱心に指導していただきました。

先生と一緒に歌うことで、体に3拍子が染み込みました。

「この方法は、私のオリジナルではない。

ある指揮者が、ベートーベンを振る時、使ったものだよ。

これをしないと、弦のパートのリズムが緩み、

生き生きとした3拍子にならない」と、謙虚におっしゃいました。


★ハイドシェック先生は、ノーブルなお顔立ちで、近寄りがたい印象でしたが、大違い。

気さくで親切、音楽への愛情が満ち溢れている方でした。

サインをお願いしましたら、3拍子の音符を書き、さらに説明を続けられ、

肝心なお名前を書き忘れてしまいました。

「先生、お名前を」と申しますと、「オー」とすぐさま、ペンを走らせ、

風のように去っていかれました。



▼▲▽△▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲▽△▼▲

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ■■ 緑陰のCD ■■ | トップ | ■■ 新聞の「音楽」記事につ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

★旧・感動のCD、論文,演奏会など」カテゴリの最新記事