音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■モーツァルト・ピアノ作品の音階は、真珠のように粒を揃えて弾くものか?■

2011-01-22 18:27:24 | ■私のアナリーゼ講座■

■モーツァルト・ピアノ作品の音階は、真珠のように粒を揃えて弾くものか?■
                                      2011.1.22 中村洋子


★ 1月 25日 ( 火 ) に、開催します、

「 第 10回 平均律・アナリーゼ講座 」 のために、

モーツァルト・ピアノソナタ KV 310 イ短調 を、勉強中です。


★その方法は、≪ モーツァルトの自筆譜 ≫ を読み込み、

≪ エドウィン・フィッシャー校訂 「 モーツァルトソナタ全集 」 ≫ の、

フィンガリング から、フィッシャーの解釈を探り、

≪ ヴィルヘルム・ケンプの演奏 ≫ を、CD で聴くことです。

私にとって、これがモーツァルトに近づくための、

最短にして、最良の勉強法です。


★巷間  「 モーツァルト弾き 」  と、称されるピアニストの、

演奏を聴きますと、まるで真珠のネックレスのように、

粒を揃えて、艶々と音階を弾き、

全体を、当り障りのない小奇麗さに、整えている、

という印象が、私にはあります。


★実際、ピアノのレッスンでも、とにかく、

「 音の粒を揃えて、優美に弾く 」  ことを主眼に、

練習されている方も、多いかもしれません。


★しかし、バッハを勉強した目で、

モーツァルトの作品を、眺めますと、

決して、「 優美で、中庸な 」 音楽ではないのです。


★その証拠が、自筆譜やフィッシャーの校訂版楽譜、

さらに、ケンプの演奏から、見事に、浮かび上がってきます。


★「 モーツァルト弾き 」 のピアニストに、

欠けているものは、何か?

それは、モーツァルトの精緻な 「 対位法 」 への、

理解力の不足です。

対位法 へのアプローチが欠けている ため、

のっぺらぼうで、平板な音楽 に、なってしまうのです。


★この「対位法なし」のモーツァルトは、

ムード音楽に、近付いてしまう危険性があります。

 

 

★自筆譜を見ますと、例えば、

1楽章の左手部分は、1小節目から 5小節目冒頭の和音までが、

「 テノール譜表 」 で、記譜されています。

それ以降は、「 バス記号 」 を使って、記譜しています。


★9小節目から、再び、テノール譜表に戻り、

14小節目の2拍目から、バス記号が、使われます。


★モーツァルトのピアノ作品は、ト音記号とバス記号による、

いわゆる 「 大譜表 」 で記譜されていると、

思われている方も、いらっしゃるかもしれませんが、

この有名な曲の、始まりだけでも、

こんなに音部記号が、めまぐるしく変化しています。


★これは、“  加線を使わずに記譜するための、合理的な方法で、

それに意味を見出すことは、無意味である ” 、

という考えもあるかとは、思いますが、

素直に、≪ テノール譜表のところは、テノール声部 ≫、

≪ バス譜表は、バス声部 ≫ と、考えますと、

“ 左手はテノールとバスの 2声部で、作曲している ”  と、

納得が、いきます。

 


★その箇所も含めて、ケンプの演奏を聴きますと、

モーツァルトの室内楽や、交響曲と同様に、

多声部の豊かな音楽と意識して、弾いているのが、

よく、分かります。


★さらに、E ・フィッシャーの、フィンガリングを見ますと、

右手 1小節目冒頭の、Disを 2指、

Eを 1指、としています。

その後、3回続く E音の 1個目を 3指 、

3個目を 5指と指定し、

4拍目の C 、 A の A音のみ 2指と、しています。


★その理由については、講座で詳しくお話いたしますが、

この指定により、7小節目の右手冒頭 Dis を、

4指にした意味が、明白に理解できます。

要は、7小節目冒頭 Dis音と、

それに続く 2拍目の E音 によってできる 「 Dis  E 」

というモティーフは、冒頭 1小節目の  Dis  E  の、

≪ 拡大形 ≫ なのです。


★3小節目の右手 3拍目と 4拍目の、

「 ミ ファ ミ レ ド シ ラ 」は、

ファを 4指、シを 3指と、フィッシャーは指定しています。


★ここを、じっくり考えますと、

音階に対する、モーツァルトの基本的な考え方が、

はっきりと、分かってくるのです。

しかも、それは、バッハと全く同じ なのです。


★25日の講座では、その点を詳細にご説明するとともに、

バッハの 「 平均律 10番ホ短調 」 の前奏曲とフーガ が、

この 「 KV 310 イ短調 」 に、大河のように、

流れ込んでいることを、お示しします。

 

 

                                               (  おみくじ、仏さま、椿と蠅、紅梅  )
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