音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■ 中村富十郎さんのご冥福をお祈りいたします ■

2011-01-11 16:14:36 | ■楽しいやら、悲しいやら色々なお話■

■ 中村富十郎さんのご冥福をお祈りいたします ■
                   2011 .1.11 中村洋子

 


★遅くなりましたが、明けまして、おめでとうございます。

冬空に、蝋梅が、芳しい香りを漂わせています。

ことし一年、どうか明るく、平穏な年でありますように。


★年末、年始は、ベッチャー先生に演奏していただきます、

「 無伴奏チェロ組曲 4番 」 と 「 5番 」  の作曲に、

没頭でした。

新年に、先生から頂きましたお手紙によりますと、

ベルリンは、最高気温が 0度、最低がマイナス 15度だそうです。

温暖な日本と異なり、大地は凍てつき、

花も草もない、厳しいドイツの冬。

生きる喜びが湧き上がってくるような、真の音楽が、

生活の中に、なくてはならないのでしょう。

先生は、イスタンブールでの、ブラームスの二重協奏曲、

ハンブルクでの、ドイツ人作曲家のアリベルト・ライマン、

Aribert Reimann ( 1936年~ ) の演奏会を控え、

お忙しいそうです。


★また、3月31日には、ドイツの 「 フランケンタール 」で、

お姉さまのピアニスト、ウルズラ・トレーデ=ベッチャー

Ursula Trede-Boettcherさんと、

私の、チェロとピアノのための二重奏曲、

「 Einleitung, Thema und Variationen ueber

 ein Japanisches " Erntelied " 」

「 日本の収穫の歌による、序奏とテーマ、変奏  」を、

弾いてくださるそうです。

この曲については、

http://blog.goo.ne.jp/nybach-yoko/d/20100620

をご覧ください。

 


★音楽が、生活に欠かせない国の作曲家  「  J. S. バッハ  」 の、

「 インヴェンション 1番・アナリーゼ講座 」 の、

追加講座を、昨日、「 横浜みなとみらい 」 で、

開催しました。

愛知、山梨、群馬、長野など、遠くからも、

わざわざ、たくさんの方が、駆けつけてくださいました。

心から、お礼申し上げます。


★「 インヴェンション 1番 」 は、バッハが精魂込めて、

作曲した、見かけの可愛らしさとは裏腹に、とても、

“ 恐ろしい曲 ” であり、 ≪ 調性とは何か ≫ という、

西洋音楽の根幹を成す、問いに対する、

真正面からの ≪ 解答 ≫ と、いうことができます。

それにつきましては、講座で十分に、ご説明しました。


★さらに、それと同時に、実にユーモアに溢れた曲でもあります。

 1小節目のテーマ 「 ド レ ミ ファ レ ミ ド 」を、

お持ちの楽譜を、天地を逆にして、眺めてください。

それを、ト音記号で、左から読みますと、

「 ラ ソ ファ ミ ソ ファ ラ 」と、なることに、

お気付きでしょうか。


★この 「 ラ ソ ファ ミ ソ ファ ラ 」 が、

3小節目に、そのままの形で、現れてくるのです。

 「 ド レ ミ ファ レ ミ ド 」の ≪ 反行形 ≫ が、

 「 ラ ソ ファ ミ ソ ファ ラ 」 なのです。

反行形を、くどくど言葉で説明するまでもなく、

このひっくり返し作業で、一気に、

反行形がどういうものであるか、分かってしまうのです。


★バッハの息子たちが、びっくりして、

目を丸くしている光景が、目に浮かぶようです。

インヴェンションは、「 作曲の手引き 」 である、

ということが、これからも、納得できることでしょう。


★この 1番は、大きく 3部分に分かれます。

その第 3部の 15小節目の上声が、

 「 ラ ソ ファ ミ ソ ファ ラ 」 で,、始まり、

その後の 19小節目の上声が、

 「 ド レ ミ ファ レ ミ ド 」で、始まるのは、

偶然では、ないのです。


★ 1月は、あと 2回、アナリーゼ講座を開催します。

早々に、訂正で申し訳ございませんが、

カワイ・表参道で、 1月 25日( 火 )に開きます、

≪  第 10回 平均律アナリーゼ講座  ≫  の、お知らせが、

音楽誌 「 ぶらあぼ 1月号 」 P128に、掲載されていますが、

開始時間が、記載の「 10:30 」ではなく、

「 10:00 」が、正しい時間です。

どうぞ、よろしくお願いいたします。


★このアナリーゼ講座のご案内は、

http://blog.goo.ne.jp/nybach-yoko/e/31fe893e38ee391e7f63f49ff5c9ad4f

を、ご覧ください。


★ 1月 3日に、歌舞伎俳優の ≪ 中村富十郎 ≫ さんが、

ご逝去されました、享年81歳。

生前に何度か、楽屋にお邪魔したり、

お食事を、ご一緒したりして、

その素晴らしいお人柄に、触れることができました。


★特に、心に残こるお話は、

ジャン・コクトーが、来日された折、

富十郎さんの舞踊を見て、非常に感動されたというお話、

そして、私に、張りのある艶やかなお声で、

「 ジャンコクトーの本を、読みたいのですが、

“  中村先生!!!  ”   いいご本がありましたら、

是非、教えてください 」 と、目を少年のように、

輝かせて、おっしゃっていたことです。

この問いは、逆に、私が試されたのかもしれません。


★富十郎さんは、謙虚で向学心と好奇心に、

満ち満ちた、本物の芸術家であった、と思います。

私の 「 無伴奏チェロ組曲 3番 」 の、最終楽章は、

富十郎さんの舞踊が、インスピレーションの源でした。


「 紅葉狩り 」 の中で、貴公子を籠絡した美女が、

突如、鬼女に変身するときの、富十郎さんの、

天井を突き破るような、大音声と、

生命が噴き上げてくるような、舞い。

その瞬間、神性が宿っていたのでしょう。

踊りとは、本来このようなものを指すと、

思いました。


★ご冥福を、お祈りいたします。

 

        ( 干柿&千両&柿の落葉 佐川泰正さんの漆器、蝋梅、菫 )
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲

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