音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■「平均律第1巻 2番ハ短調」に加えられた無理解な改竄と、誤解について■

2010-02-14 23:59:38 | ■私のアナリーゼ講座■
■「平均律第1巻 2番ハ短調」に加えられた無理解な改竄と、誤解について■
                10.2.14    中村洋子


★本日は、旧暦のお正月です。

中国では「春節」と呼ばれ、文字通り、きょうから 「 春 」 です。

軒下に吊るした蜜柑を食べに、メジロが時々、尋ねてきてくれます。


★2月 18日(木)の「第 2回平均律アナリーゼ講座」の準備で、

きょうは、「 第 1巻 2番ハ短調 」の「 前奏曲とフーガ 」を、

バッハの 「 自筆譜 」で、勉強いたしました。


★「 2番前奏曲」 は、「1巻 1番 ハ長調」 と、対を成す曲です。

1月 24日のブログ

≪平均律第 1巻 1番前奏曲で、反復」のもつ大きな意味≫を、

是非、もう一度、お読みください。


★日本の有名な、平均律の解説書を、きょう、何十年かぶりで、

本箱から探しだし、中を見ました。

この本では、「 2番の前奏曲」について、

「第一義的には、この曲は、両手のための規則正しい16分音符運動の

練習曲であるといえよう。」

「バッハが、息子の指の訓練のためにこれを書いたことは、明らかであろう」

と、書かれていました。


★私は、この解釈には、全く賛成できません。

バッハの息子たちの、当時の年齢と、

将来、彼らが一流の作曲家になった、

という事実を、考え合わせますと、

息子たちの指や両手は、既に十分に熟達し、正確に弾けていた、

と、考えられます。


★息子の教育用と考えるならば、この曲は、≪ 作曲の手引き ≫ と

見るのが、妥当でしょう。

上記の解説書の筆者には、“ 4分の 4拍子で、小節の前半 2拍を、

後半 2拍で、単に反復しているだけの、単調な曲である ”としか、

見えないのでしょう。


★バッハによる、この 2番の ≪ 自筆譜 ≫ を見ますと、

バッハが、息子や弟子たちが、その楽譜を一目見ただけで、直ぐに、

曲の大きな「まとまり」が、理解できるように、

工夫して書かれているのが、実によく分かります。

段落の分け方、符尾の書き方などで、それが、如実に現れています。

≪ 自筆譜 ≫を、見ずして、なにも語れないと、言えそうです。


★ ≪ 自筆譜 ≫ から、分かることは、

決して、この曲は、 1小節ごとにプツリプツリと、

区分けされているような、単純な曲では、ない、ということです。

第 1回講座でも、この点については、ご説明し、

それを理解することにより、ショパンやシューベルトが、

大変に弾きやすくなる、ということを、お話しました。

18日の第 2回講座では、この点を、さらに詳しく、

分かりやすく、ご説明いたします。


★大バッハが、この大きな平均律という素晴らしい曲集の巻頭、

1番、 2番の前奏曲に、単調な無味乾燥な曲を、当てる訳がないのです。

同様に、1番のフーガを、「 上出来の部類には入らない 」と、

記している本すら、ございますが、

このブログをお読みになる、音楽を愛し、

バッハを愛していらっしゃる皆さまは、くれぐれも、

盲信なさらないで、ください。

ご自身が自分で「美しい曲で、私は大好き!」と、感じられたその

感性を、信じてください。


★「 2番 ハ短調のフーガ 」につきましても、

原典版(Urtext)ですら、バッハの意図を、勝手に捻じ曲げ、

改竄した版が、多く、見受けられます。


★ ≪ 自筆譜 ≫ では、

29小節目の 3拍目、左手オクターブ「 ド‐ド 」の、

下の「ド」(下第2線)だけ、

30小節目1拍目で、同音の「ド」を、弾き直します。

そこでは、「タイ」が付けられてはいない、ということです。


★29小節目の3拍目、左手オクターブ「 ド‐ド 」の、

上の「ド」(第2間)は、

30小節目1拍目で、同音の「ド」と、「 タイ 」 で、結ばれています。

30小節目のオクターブ「 ド‐ド 」は、

31小節目のオクターブ「 ド‐ド 」に、

二音とも、タイで、結ばれています。


★上記と、同じ流れと見て、

29小節目の 3拍目、左手オクターブ 「 ド‐ド 」の、

下の「ド」(下第2線)から、30小節目 1拍目にかけて、

「タイ」が、付いてないのは、

“ おかしい 、バッハが書き忘れたのであろう” として、

勝手に 「 タイ 」 で、つないでしまっている版が、

数多く、見受けられます。


★しかし、バッハの「自筆譜」では、

ここに、「 タイ 」を付けては、いません。

「 前奏曲 1番ハ長調 」 34小節目 1拍目のバス 「 ド 」 と、

3拍目のバス 「 ド 」 も、いろいろな版では、改竄され、

「 タイ 」で、結ばれていますが、これも同様に、

決して、バッハが 「 タイ 」 を、付け忘れたのではありません。

タイを付けると、一見美しく、なめらかに聴こえますが、

そうしますと、バッハの作曲の意図から、

外れてしまうことに、なります。


★第 1回講座で、1番前奏曲については、 2つの理由から、

「 タイ 」が必要ないことを、実際の演奏に反映できるように、

詳しく、ご説明いたしました。

2番の、この部分での ≪ タイ ≫ も同様で、

バッハが、まさに、 ≪ タイをつけなかった ≫、

その理由を、探求し、理解することにより、

前奏曲が ≪ 単なる指の練習曲 ≫ ではない、ということも、

証明されるのです。

                       
                          (フキノトウ)
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