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■ラフマニノフの歌曲「ヴォカリーズ」Op34-14 の原調は、なぜ嬰ハ短調?■
09.6.17 中村洋子
★来週 23日火曜日 午前10時からの 「アナリーゼ講座」
≪インヴェンション&シンフォニア11番≫の勉強で、
忙しい、毎日です。
もう11回目となりますが、今回は、特に、
バッハとブラームスの関係を、お話し、
充実した内容にしたいと、思っております。
★ピアニストに、人気のある ≪ラフマニノフ ≫ Sergey Rakhmaninov
(1873 ロシア・セミョーノヴォ生~1943 米・ヴィバリーヒルズ没 )の、
最も有名な歌曲「 ヴォカリーズ Vocalise 」Op34-14 は、
さまざまな楽器に「編曲」され、親しまれています。
★この曲は、「14の歌」Op34 の14番目(最後)の曲で、
ラフマニノフが40歳を過ぎ、円熟期の1912年に書かれた作品です。
★皆さまが、この曲に親しむ際、問題となる点が二つあります。
一つは、「編曲」作品のみを知り、ラフマニノフが、
もともとは、何調で書いたか、さえご存じないことです。
★もう一つは、14曲の作品集の中で、どのような位置にあるか、
それを知らず、ムードミュージックのように、演奏し、
あるいは、聴いてしまう、ということです。
★この14曲から成る Op 34 は、例えば、
シューベルトの「冬の旅」のように、一人の奏者が、
続けて歌うことは、「想定されていない」と、思います。
★その理由は、第一曲が「ソプラノ or テノール」のために、書かれ、
第2曲目が「コントラルト or バス」、第3曲が「テノール or かソプラノ」、
4、5曲目は「テノール or ソプラノ」、6曲目「バス or コントラルト」、
7、8曲目「メッツォソプラノ」、9曲目「バリトン or メッツォソプラノ」、
10曲目「テノール or ソプラノ」、11曲目「バス or コントラルト」、
12曲目「テノール or ソプラノ」、13曲目「ソプラノ」、
14曲目≪ヴォカリーズ≫が、「ソプラノ or テノール」と、なっています。
1曲目から13曲目は、すべて「歌詞」を伴った曲です。
★一人の奏者が、続けて歌うものではないにしても、
「ヴォカリーズ」が、単独の曲として、作曲されたものではない、
ということを、押さえておくべきです。
★「終曲」つまり、「前13曲を総合した性格」をもつ、
と考えることも、重要です。
★ドビュッシーの「前奏曲」の最後の曲「花火」に、
相当する、かもしれません。
★「ヴォカリーズ」を、作曲家の意図どおりに、
「歌う、弾く、聴こう」とする場合、
できれば、全14曲を、勉強するべきです。
★第1曲目「 The Muse 」は、「ホ短調」の曲ですが、
途中の、Un poco piu vivo ウン ポコ ピゥ ヴィーヴォから、
「ホ長調」に、転調します。
この「ホ長調」の部分は、わずか、6小節ですが、
大変に、重要な部分です。
★「ホ長調」(♯を4つもつ調号)が、その並行調である
「嬰ハ短調」(♯を4つもつ調号)の、
≪ヴォカリーズ≫に、つながっていると、考えられます。
★「♯4つ」の嬰ハ短調は、馴染みにくく、簡単な調号の曲に、
編曲されてしまい、それが、実に多く、演奏されているようです。
★しかし、少なくとも、その原調を知り、その調のもつ「味わい」を、
知っておく必要は、あります。
★第1曲目の「ホ短調」と、ヴォカリーズの「嬰ハ短調」の調号は、
「短3度」の関係にあります。
この「3度」(長3度も含む)の調関係は、
シューベルトを初め、ロマン派以降の作曲家が、
意外性のある場面で使う「転調」にも、効果的に使われています。
一度聴きましたら、心に刻印を押されたように、残るのです。
★その源流は、バッハにあります。
マタイ受難曲で、劇的な場面転換となるシーンで、
この「意外性を伴った2つの調の関係」が、
極めて効果的に、使われています。
シューベルトは、それを、学んだのでしょう。
★この「ヴォカリーズ」については、
ヴァーグナーの、「半音階進行」が消化され、
巧みに、使われています。
それが、この「ヴォカリーズ」の息の長い旋律を、
支えているのです。
★作風として、全く異なりますが、同時代のドビュッシーも、
愛用した、「主和音(トニック)の代用」としての、
「Ⅲの和音」も、効果的に、使われています。
★15小節目の、「 h-d-fis 」 の 3和音と、
「 d-fis-a 」の 3和音の、和音どうしの 3度の関係も、
大変に美しく、是非、味わってみてください。
★ピアニストで、ピアノ作品にしか興味がない方も、多いのですが、
演奏する曲の作曲家を、真に理解しようとされるのなら、
その作曲家の母国語で、書かれ、歌われている「歌曲」を、
研究するのが、一番の近道です。
★作曲家が、話し、書き、考えている言語、
すなわち「母語」で、作曲された音楽、つまり、
「歌曲」を、知ることが、その作曲家の核心に、
触れることに、なるのです。
★少々、脱線しますが、シューベルトの歌曲で、
「独特の歌い回し」があった場合、その旋律に、
ある特定の「歌詞」が、付けられていることが、
よく、あります。
シューベルトの「ピアノ作品」で、
歌曲と同じ「独特な歌い回し」が、出てきた場合、
歌曲で、その節回しに付けられた「言葉」を、
探し出しますと、その曲を演奏する上での、
大きなヒントに、なることがあります。
シューベルトを、学ぶのでしたら、
歌曲を勉強することも、必須です。
★ラフマニノフの「ヴォカリーズ」は、円熟期の作品ですので、
楽譜を読み取ることは、少々、難しいかもしれません。
ですから、ラフマニの音楽の、典型的な例を、
いくつか、勉強したいのであれば、
初期の作品である「6つの歌曲」 Op-4 (1890~93に作曲)の、
4番(1893年作曲)「Oh, never sing to me again」を、お薦めします。
「ロシアの半音階」、「ロマの音階」、「Ⅲの和音」
「ドッペルドミナントの5音下行変質」などの、
分かりやすい例が、たくさん出てきます。
(睡蓮の花)
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲
09.6.17 中村洋子
★来週 23日火曜日 午前10時からの 「アナリーゼ講座」
≪インヴェンション&シンフォニア11番≫の勉強で、
忙しい、毎日です。
もう11回目となりますが、今回は、特に、
バッハとブラームスの関係を、お話し、
充実した内容にしたいと、思っております。
★ピアニストに、人気のある ≪ラフマニノフ ≫ Sergey Rakhmaninov
(1873 ロシア・セミョーノヴォ生~1943 米・ヴィバリーヒルズ没 )の、
最も有名な歌曲「 ヴォカリーズ Vocalise 」Op34-14 は、
さまざまな楽器に「編曲」され、親しまれています。
★この曲は、「14の歌」Op34 の14番目(最後)の曲で、
ラフマニノフが40歳を過ぎ、円熟期の1912年に書かれた作品です。
★皆さまが、この曲に親しむ際、問題となる点が二つあります。
一つは、「編曲」作品のみを知り、ラフマニノフが、
もともとは、何調で書いたか、さえご存じないことです。
★もう一つは、14曲の作品集の中で、どのような位置にあるか、
それを知らず、ムードミュージックのように、演奏し、
あるいは、聴いてしまう、ということです。
★この14曲から成る Op 34 は、例えば、
シューベルトの「冬の旅」のように、一人の奏者が、
続けて歌うことは、「想定されていない」と、思います。
★その理由は、第一曲が「ソプラノ or テノール」のために、書かれ、
第2曲目が「コントラルト or バス」、第3曲が「テノール or かソプラノ」、
4、5曲目は「テノール or ソプラノ」、6曲目「バス or コントラルト」、
7、8曲目「メッツォソプラノ」、9曲目「バリトン or メッツォソプラノ」、
10曲目「テノール or ソプラノ」、11曲目「バス or コントラルト」、
12曲目「テノール or ソプラノ」、13曲目「ソプラノ」、
14曲目≪ヴォカリーズ≫が、「ソプラノ or テノール」と、なっています。
1曲目から13曲目は、すべて「歌詞」を伴った曲です。
★一人の奏者が、続けて歌うものではないにしても、
「ヴォカリーズ」が、単独の曲として、作曲されたものではない、
ということを、押さえておくべきです。
★「終曲」つまり、「前13曲を総合した性格」をもつ、
と考えることも、重要です。
★ドビュッシーの「前奏曲」の最後の曲「花火」に、
相当する、かもしれません。
★「ヴォカリーズ」を、作曲家の意図どおりに、
「歌う、弾く、聴こう」とする場合、
できれば、全14曲を、勉強するべきです。
★第1曲目「 The Muse 」は、「ホ短調」の曲ですが、
途中の、Un poco piu vivo ウン ポコ ピゥ ヴィーヴォから、
「ホ長調」に、転調します。
この「ホ長調」の部分は、わずか、6小節ですが、
大変に、重要な部分です。
★「ホ長調」(♯を4つもつ調号)が、その並行調である
「嬰ハ短調」(♯を4つもつ調号)の、
≪ヴォカリーズ≫に、つながっていると、考えられます。
★「♯4つ」の嬰ハ短調は、馴染みにくく、簡単な調号の曲に、
編曲されてしまい、それが、実に多く、演奏されているようです。
★しかし、少なくとも、その原調を知り、その調のもつ「味わい」を、
知っておく必要は、あります。
★第1曲目の「ホ短調」と、ヴォカリーズの「嬰ハ短調」の調号は、
「短3度」の関係にあります。
この「3度」(長3度も含む)の調関係は、
シューベルトを初め、ロマン派以降の作曲家が、
意外性のある場面で使う「転調」にも、効果的に使われています。
一度聴きましたら、心に刻印を押されたように、残るのです。
★その源流は、バッハにあります。
マタイ受難曲で、劇的な場面転換となるシーンで、
この「意外性を伴った2つの調の関係」が、
極めて効果的に、使われています。
シューベルトは、それを、学んだのでしょう。
★この「ヴォカリーズ」については、
ヴァーグナーの、「半音階進行」が消化され、
巧みに、使われています。
それが、この「ヴォカリーズ」の息の長い旋律を、
支えているのです。
★作風として、全く異なりますが、同時代のドビュッシーも、
愛用した、「主和音(トニック)の代用」としての、
「Ⅲの和音」も、効果的に、使われています。
★15小節目の、「 h-d-fis 」 の 3和音と、
「 d-fis-a 」の 3和音の、和音どうしの 3度の関係も、
大変に美しく、是非、味わってみてください。
★ピアニストで、ピアノ作品にしか興味がない方も、多いのですが、
演奏する曲の作曲家を、真に理解しようとされるのなら、
その作曲家の母国語で、書かれ、歌われている「歌曲」を、
研究するのが、一番の近道です。
★作曲家が、話し、書き、考えている言語、
すなわち「母語」で、作曲された音楽、つまり、
「歌曲」を、知ることが、その作曲家の核心に、
触れることに、なるのです。
★少々、脱線しますが、シューベルトの歌曲で、
「独特の歌い回し」があった場合、その旋律に、
ある特定の「歌詞」が、付けられていることが、
よく、あります。
シューベルトの「ピアノ作品」で、
歌曲と同じ「独特な歌い回し」が、出てきた場合、
歌曲で、その節回しに付けられた「言葉」を、
探し出しますと、その曲を演奏する上での、
大きなヒントに、なることがあります。
シューベルトを、学ぶのでしたら、
歌曲を勉強することも、必須です。
★ラフマニノフの「ヴォカリーズ」は、円熟期の作品ですので、
楽譜を読み取ることは、少々、難しいかもしれません。
ですから、ラフマニの音楽の、典型的な例を、
いくつか、勉強したいのであれば、
初期の作品である「6つの歌曲」 Op-4 (1890~93に作曲)の、
4番(1893年作曲)「Oh, never sing to me again」を、お薦めします。
「ロシアの半音階」、「ロマの音階」、「Ⅲの和音」
「ドッペルドミナントの5音下行変質」などの、
分かりやすい例が、たくさん出てきます。
(睡蓮の花)
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲