音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■Beethoven Pianosonate Nr.28 Op.101に宿る Bachの countepoint 対位法 ■

2014-06-11 21:38:41 | ■私のアナリーゼ講座■

■Beethoven Pianosonate Nr.28 Op.101に宿る Bachの countepoint 対位法 ■


                                     2014.6.11     中村洋子

 

 


6月 16日、「 KAWAI 横浜みなとみらい 」 で開催いたします

「 Chopin が見た平均律アナリーゼ講座 」は、第 1巻 19番 A-Durです。

同時に、Beethoven  Pianosonate 「 Nr.28 A-Dur Opus 101

ピアノソナタ 28番 」 についても、詳しくお話する予定です。


Opus 101 の、 「 自筆譜 」 を勉強しますと、

Beethoven が、どのようにこの曲を作曲したか、そして、

どう演奏していたか、どのように演奏される事を望んでいたかが、

実によく、分かってきます。

ちょうど、Chopinの自筆譜から、Chopin自身の演奏がどのようであったか、

類推できるのと同じです。

 

 


★まず、 Opus 101の第 1楽章の冒頭 2小節を見てみます。

ここだけでも、Beethvenの自筆譜は、本当に沢山のサインを、

発信しています。


★私の所有する Henle版の楽譜 ( 2007年刊 ) では、

冒頭 1~ 2小節の 「 crescendo記号 」 と 「 diminuendo記号 」

は、それぞれ一ヶ所ずつしか、記されていません。

具体的には、大譜表の 「 高音部譜表 」 (ト音記号で記譜している右手部分)と、

「 低音部譜表 」 (ヘ音記号で記譜している左手部分)とで囲まれた

≪ 空間≫ に、各々 1個ずつしか、記されていません。

この記譜通りに、演奏しますと、

右手で演奏される上声も、左手で演奏される下声も、全く同じ表情になります。

のっぺらぼうな、単調な演奏になります。

そこには、 Beethoven が望んだ 「 countepoint 対位法 」 が、

見当たらないのです。


 

 


右手の上声、左手の下声、と書きましたが、実はこの曲は、

右手が二声、左手が二声を担当している ≪ 四声 ≫ で始まっているのです。

ちょうど 「 弦楽四重奏 」 のイメージです。


★そして、Beethovenは、実は、上声と下声に、

別々の crescendo記号 と diminuendo記号 を、記入しているのです。

ト音記号で記譜される高音部譜表の上に、

一対の crescendo記号 と diminuendo記号、そして、

ヘ音記号で記譜される低音部譜表の下に、

もう一対の crescendo記号 と diminuendo記号 が、記されています。

 

 


★上声の上にある、 crescendo記号について、詳しく見てみましょう。

8分の 6拍子の 1楽章 1小節目は、1拍から  crescendo が始まり、

6拍目まで、続きます。


2小節目に目を移しますと、Beethovenは、

1拍目の音を、小節線から、すこし空間を開け、右寄りに記しています。

本来、 1拍目が奏される位置には ≪ 空白 ≫ が、生じています。

その時、 crescendo は、どうなっているでしょうか?

 

★図で書きましたように、crescendo の二本の線は、平行を保ち、

当初の crescendo された状態を、保っていることが分かります。

crescendo でも、 diminuendo でもないといえます。

非常に、稀有な記譜です。

それだけに、 Beethoven の 「 平行を保つ 」 という、

強い意志が感じられます。

 

 


★実用譜の 「 cresc. 」 の記譜法ですと、 1小節目は、

2小節目 「 e2 」 を目指して、ずっと  「 cresc. 」 していきます。

しかし、自筆譜では、2小節目 「 e2 」 が頂点ではなく、

1小節目 6拍目の 「 cis2 」 で達した頂点を、

2小節目 「 e2 」 の 2音まで保つように、指示しています。


下声の下方の、 crescendo についても、詳しく見てみましょう。

 「 cresc. 」 は 1小節目 1拍目から始まり、 2小節目の 2拍目まで続きます。

しかし、バス声部は 、 「 E音 」 が保続音として、1小節目 1拍目から、

2小節目 3拍目までタイで結ばれ、 2小節目 4拍目で再度、

4分音符の 「 E音 」 が奏されます。

いずれにせよ、本来ピアノという楽器では、一度打鍵した後の音を、

crescendo することはできません。


Beethovenは、ここでは、Cello チェロの持続音を、

イメージしていたと、思われます。

そして 2小節目の 2拍目まで続いた 「 cresc. 」 が、

2拍目から 「 diminuendo 」 になりますが、

これは、アルト声部を担当している 「 fis1 」 と 「 h1 」、

そして 「 gis1 」 に付けられた 「 dim. 」 と考えれば、

疑問が、氷解します。


★この 2小節間の、 「 cresc. 」 と 「 dim. 」 の意味を、

考えることにより、

この素晴しい Sonta ソナタを、どう弾き始めたらよいか、

大きなヒントが、得られます。

Beethoven が弾いたであろう、豊かな countepoint 対位法 の音楽が、

湧きでてくることでしょう。

実用譜通りに弾いては、決して、到達できないでしょう。

 

 


★何故、この冒頭 2小節を、 Beethoven がここまで考え抜いたか・・・

講座では、それを Bachの 「 平均律 1巻 19番 」 と、照らし合わせ、

ご一緒に、考察いたします。

ここからも、Beethoven が  Bachの 「 対位法counterpoint 」  を、

咀嚼し尽したうえで、作曲していたことが、明快に分かってきます。

 

★一例としまして、1小節目テノール声部の

「 e - dis - d - cis 」 の下行半音階  motif は、

Beethven 自筆譜の 3段目冒頭の 9小節目、そして続く 10小節目のバス

「 Gis - A - Ais - H 」 の上行半音階 motif に対して、

≪ 拡大反行カノン ≫ として、対応しているのです。

実は、この技法は、Bachの作品によく出現する技法なのです。

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第19回 Chopin が見た「平均律アナリーゼ講座」第1巻「 第 19番イ長調」

日  時 : 2014年 6 16 午前 10 時00分  12 30

会  場 :  カワイミュージックスクールみなとみらい        

      横浜市西区みなとみらい4-7-1 M.M.MID.SQUARE 3F

      ( みなとみらい駅『出口1番』出て目の前の高層ビル3F )

予   約   : Tel.045-261-7323 横浜事務所

          Tel.045-227-1051 みなとみらい直通

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■ 講師 :   作曲家  中村 洋子  Yoko Nakamura

東京芸術大学作曲科卒。作曲を故池内友次郎氏などに師事。
日本作曲家協議会・会員。ピアノ、チェロ、室内楽など作品多数。

 2003 ~ 05年:アリオン音楽財団 ≪東京の夏音楽祭≫で新作を発表。

 07年:自作品 「 Suite Nr.1 für Violoncello
        無伴奏チェロ組曲 第 1番 」 などをチェロの巨匠
        Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー氏が演奏した
     CD 『 W.Boettcher Plays JAPAN
                         ヴォルフガング・ベッチャー日本を弾く 』 を発表。

 08年:CD 『 龍笛 & ピアノのためのデュオ 』
    CD 『 星の林に月の船 』 ( ソプラノとギター ) を発表。

 08~09年: 「 Open seminar on Bach Inventionen und Sinfonien
                  Analysis  インヴェンション・アナリーゼ講座 」
                    全 15回を、 KAWAI 表参道で開催。

 09年: 「 Suite Nr.1 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 1番 」 を、
    ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。

         「 Suite Nr.3 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲第 3番 」が、
           W.Boettcher 氏により、Mannheim ドイツ・マンハイム で、
           初演される。

 10~12年: 「 Open seminar on Bach Wohltemperirte Clavier Ⅰ
                  Analysis 平均律クラヴィーア曲集 第 1巻 アナリーゼ講座 」
                全 24回を、 KAWAI 表参道で開催。

 10年: CD 『 Suite Nr.3 & 2 für Violoncello
                  無伴奏チェロ組曲 第 3番、2番 』
                        Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。

      「 Regenbogen-Cellotrios  虹のチェロ三重奏曲集 」 を、
             ドイツ・ドルトムントのハウケハック社
      Musikverlag Hauke Hack Dortmund から出版。

 11年: 「 10 Duette für 2 Violoncelli
                         チェロ二重奏のための 10の曲集 」 を、
    ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。

 12年: 「 Zehn Phantasien für Celloquartett (Band 1,Nr.1-5)
    チェロ四重奏のための 10のファンタジー (第 1巻、1~5番)」を、
      Musikverlag Hauke Hack  Dortmund 社から出版。

 13年: CD 『 Suite Nr.4 & 5 & 6 für Violoncello
                  無伴奏チェロ組曲 第 4、5、6番 』
                        Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。

          「 Suite Nr.3 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 3番 」 を、
    ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。

       スイス、ドイツ、トルコ、フランス、チリ、イタリアの音楽祭で、
    自作品が演奏される。

  ★上記の 楽譜 & CDは「 カワイ・表参道 」 http://shop.kawai.co.jp/omotesando/  

 「アカデミア・ミュージック 」 https://www.academia-music.com/ で販売中

 




 

 ★私の作品の CD 「 無伴奏チェロ組曲 4、 5、 6番 」

  Wolfgang  Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー演奏は、

   全国の主要 CDショップや amazon でも、ご注文できます。

 ★ disk Union クラシック館で、第1 ~ 6番を購入できます。

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※copyright © Yoko Nakamura  
             All Rights Reserved
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