■Beethoven Pianosonate Nr.28 Op.101に宿る Bachの countepoint 対位法 ■
2014.6.11 中村洋子
★6月 16日、「 KAWAI 横浜みなとみらい 」 で開催いたします
「 Chopin が見た平均律アナリーゼ講座 」は、第 1巻 19番 A-Durです。
同時に、Beethoven Pianosonate 「 Nr.28 A-Dur Opus 101
ピアノソナタ 28番 」 についても、詳しくお話する予定です。
★Opus 101 の、 「 自筆譜 」 を勉強しますと、
Beethoven が、どのようにこの曲を作曲したか、そして、
どう演奏していたか、どのように演奏される事を望んでいたかが、
実によく、分かってきます。
ちょうど、Chopinの自筆譜から、Chopin自身の演奏がどのようであったか、
類推できるのと同じです。
★まず、 Opus 101の第 1楽章の冒頭 2小節を見てみます。
ここだけでも、Beethvenの自筆譜は、本当に沢山のサインを、
発信しています。
★私の所有する Henle版の楽譜 ( 2007年刊 ) では、
冒頭 1~ 2小節の 「 crescendo記号 」 と 「 diminuendo記号 」
は、それぞれ一ヶ所ずつしか、記されていません。
具体的には、大譜表の 「 高音部譜表 」 (ト音記号で記譜している右手部分)と、
「 低音部譜表 」 (ヘ音記号で記譜している左手部分)とで囲まれた
≪ 空間≫ に、各々 1個ずつしか、記されていません。
この記譜通りに、演奏しますと、
右手で演奏される上声も、左手で演奏される下声も、全く同じ表情になります。
のっぺらぼうな、単調な演奏になります。
そこには、 Beethoven が望んだ 「 countepoint 対位法 」 が、
見当たらないのです。
★右手の上声、左手の下声、と書きましたが、実はこの曲は、
右手が二声、左手が二声を担当している ≪ 四声 ≫ で始まっているのです。
ちょうど 「 弦楽四重奏 」 のイメージです。
★そして、Beethovenは、実は、上声と下声に、
別々の crescendo記号 と diminuendo記号 を、記入しているのです。
ト音記号で記譜される高音部譜表の上に、
一対の crescendo記号 と diminuendo記号、そして、
ヘ音記号で記譜される低音部譜表の下に、
もう一対の crescendo記号 と diminuendo記号 が、記されています。
★上声の上にある、 crescendo記号について、詳しく見てみましょう。
8分の 6拍子の 1楽章 1小節目は、1拍から crescendo が始まり、
6拍目まで、続きます。
★2小節目に目を移しますと、Beethovenは、
1拍目の音を、小節線から、すこし空間を開け、右寄りに記しています。
本来、 1拍目が奏される位置には ≪ 空白 ≫ が、生じています。
その時、 crescendo は、どうなっているでしょうか?
★図で書きましたように、crescendo の二本の線は、平行を保ち、
当初の crescendo された状態を、保っていることが分かります。
crescendo でも、 diminuendo でもないといえます。
非常に、稀有な記譜です。
それだけに、 Beethoven の 「 平行を保つ 」 という、
強い意志が感じられます。
★実用譜の 「 cresc. 」 の記譜法ですと、 1小節目は、
2小節目 「 e2 」 を目指して、ずっと 「 cresc. 」 していきます。
しかし、自筆譜では、2小節目 「 e2 」 が頂点ではなく、
1小節目 6拍目の 「 cis2 」 で達した頂点を、
2小節目 「 e2 」 の 2音まで保つように、指示しています。
★下声の下方の、 crescendo についても、詳しく見てみましょう。
「 cresc. 」 は 1小節目 1拍目から始まり、 2小節目の 2拍目まで続きます。
しかし、バス声部は 、 「 E音 」 が保続音として、1小節目 1拍目から、
2小節目 3拍目までタイで結ばれ、 2小節目 4拍目で再度、
4分音符の 「 E音 」 が奏されます。
いずれにせよ、本来ピアノという楽器では、一度打鍵した後の音を、
crescendo することはできません。
★Beethovenは、ここでは、Cello チェロの持続音を、
イメージしていたと、思われます。
そして 2小節目の 2拍目まで続いた 「 cresc. 」 が、
2拍目から 「 diminuendo 」 になりますが、
これは、アルト声部を担当している 「 fis1 」 と 「 h1 」、
そして 「 gis1 」 に付けられた 「 dim. 」 と考えれば、
疑問が、氷解します。
★この 2小節間の、 「 cresc. 」 と 「 dim. 」 の意味を、
考えることにより、
この素晴しい Sonta ソナタを、どう弾き始めたらよいか、
大きなヒントが、得られます。
Beethoven が弾いたであろう、豊かな countepoint 対位法 の音楽が、
湧きでてくることでしょう。
実用譜通りに弾いては、決して、到達できないでしょう。
★何故、この冒頭 2小節を、 Beethoven がここまで考え抜いたか・・・
講座では、それを Bachの 「 平均律 1巻 19番 」 と、照らし合わせ、
ご一緒に、考察いたします。
ここからも、Beethoven が Bachの 「 対位法counterpoint 」 を、
咀嚼し尽したうえで、作曲していたことが、明快に分かってきます。
★一例としまして、1小節目テノール声部の
「 e - dis - d - cis 」 の下行半音階 motif は、
Beethven 自筆譜の 3段目冒頭の 9小節目、そして続く 10小節目のバス
「 Gis - A - Ais - H 」 の上行半音階 motif に対して、
≪ 拡大反行カノン ≫ として、対応しているのです。
実は、この技法は、Bachの作品によく出現する技法なのです。
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■第19回 Chopin が見た「平均律アナリーゼ講座」第1巻「 第 19番イ長調」
日 時 : 2014年 6月 16日 (月) 午前 10 時00分 ~ 12 時 30分
会 場 : カワイミュージックスクールみなとみらい
横浜市西区みなとみらい4-7-1 M.M.MID.SQUARE 3F
( みなとみらい駅『出口1番』出て目の前の高層ビル3F )
予 約 : Tel.045-261-7323 横浜事務所
Tel.045-227-1051 みなとみらい直通
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■ 講師 : 作曲家 中村 洋子 Yoko Nakamura
東京芸術大学作曲科卒。作曲を故池内友次郎氏などに師事。
日本作曲家協議会・会員。ピアノ、チェロ、室内楽など作品多数。
2003 ~ 05年:アリオン音楽財団 ≪東京の夏音楽祭≫で新作を発表。
07年:自作品 「 Suite Nr.1 für Violoncello
無伴奏チェロ組曲 第 1番 」 などをチェロの巨匠
Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー氏が演奏した
CD 『 W.Boettcher Plays JAPAN
ヴォルフガング・ベッチャー日本を弾く 』 を発表。
08年:CD 『 龍笛 & ピアノのためのデュオ 』
CD 『 星の林に月の船 』 ( ソプラノとギター ) を発表。
08~09年: 「 Open seminar on Bach Inventionen und Sinfonien
Analysis インヴェンション・アナリーゼ講座 」
全 15回を、 KAWAI 表参道で開催。
09年: 「 Suite Nr.1 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 1番 」 を、
ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。
「 Suite Nr.3 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲第 3番 」が、
W.Boettcher 氏により、Mannheim ドイツ・マンハイム で、
初演される。
10~12年: 「 Open seminar on Bach Wohltemperirte Clavier Ⅰ
Analysis 平均律クラヴィーア曲集 第 1巻 アナリーゼ講座 」
全 24回を、 KAWAI 表参道で開催。
10年: CD 『 Suite Nr.3 & 2 für Violoncello
無伴奏チェロ組曲 第 3番、2番 』
Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。
「 Regenbogen-Cellotrios 虹のチェロ三重奏曲集 」 を、
ドイツ・ドルトムントのハウケハック社
Musikverlag Hauke Hack Dortmund から出版。
11年: 「 10 Duette für 2 Violoncelli
チェロ二重奏のための 10の曲集 」 を、
ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。
12年: 「 Zehn Phantasien für Celloquartett (Band 1,Nr.1-5)
チェロ四重奏のための 10のファンタジー (第 1巻、1~5番)」を、
Musikverlag Hauke Hack Dortmund 社から出版。
13年: CD 『 Suite Nr.4 & 5 & 6 für Violoncello
無伴奏チェロ組曲 第 4、5、6番 』
Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。
「 Suite Nr.3 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 3番 」 を、
ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。
スイス、ドイツ、トルコ、フランス、チリ、イタリアの音楽祭で、
自作品が演奏される。
★上記の 楽譜 & CDは「 カワイ・表参道 」 http://shop.kawai.co.jp/omotesando/
「アカデミア・ミュージック 」 https://www.academia-music.com/ で販売中
★私の作品の CD 「 無伴奏チェロ組曲 4、 5、 6番 」
Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー演奏は、
全国の主要 CDショップや amazon でも、ご注文できます。
★ disk Union クラシック館で、第1 ~ 6番を購入できます。
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