音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■ワルトシュタイン・ソナタ、バックハウスの極めつけ名演■

2015-12-05 02:59:53 | ■ 感動のCD、論文、追憶等■

■ワルトシュタイン・ソナタ、バックハウスの極めつけ名演■
   ~和声、対位法が立体的に浮かび上がる~

                  2015.12.5 中村洋子

 

 

★当ブログ「音楽の大福帳」を本として出版するため、多忙の毎日です。

発売は、来年2月初めの予定ですが、校正などで超多忙です。

この本には、ブログでは書き切れなかった自筆譜の細部など、

細かい楽譜を、たくさん入念に掲載していますので、

勉強の手引きとして、末永く、ご利用できることと思います。


★忙中閑ありで、先日、笹本恒子さんの写真展に参りました。

「戦後70周年記念、笹本恒子101歳展」。

日本初の女性報道写真家、百歳を超えるご高齢で、

最近、かなり有名におなりになっている方です。


★戦後直後から高度成長期にかけ、活躍していた主に女性たちの写真、

素顔のポートレートが素敵でした。

展示の巻頭は、「坪井栄」さん、1949年(昭和24年)撮影。

「二十四の瞳」の作者としてのみ知っておりましたが、

優しさの中に、何事にも動じないような独立不羈の心構えが、

伝わってきます。

笹本さんの自信作と思います。

写真説明も笹本さんが全部、ご自身でお書きになっています。

≪東京・中野のご自宅は簡素で清潔。「もう戦争は、許しません、

絶対に」。穏やかに語られる中に凛とした気迫を感じたことを覚えている。≫

 

 


★私が好きになりました写真は「室生犀星」1961年(昭和31年)撮影。

≪夏の軽井沢。室内撮影の後、「ちょっとお庭で・・・・・・」との

お願いに、和服の上にレインコートを羽織った粋な姿で現れた。

湿った黒土に山ぼうしの白い花びらが絶妙なコントラストをつくっていた。≫

柴の庵戸の傍らに、大きなコウモリ傘を脇に抱え、山高帽、下駄履、

夏というのに、レインコートまで着こんだおじいちゃんが、

笑いをかみ殺すように立って、こっちを見ています。

いい顔です。


★きっと、美人カメラマンの注文に喜び、

自分で自分を、振付けてきたのでしょう。

夏というのにレインコート、

大衆演劇の役者さんが楽屋から舞台に、いそいそと現れてきたような感じ。

本当に微笑ましい。


★笹本さんの説明がなければ、

季節違いの変な装いであることは、分かりません。

私はよく講座で「作曲家はウソをよくつきます」、

「自伝を信じてはいけません」と、お話していますが、

犀星は“自分をこのように見せたい“、という格好に、

変装したのでしょう。

大詩人・犀星も、こうやって“ウソ”をつくのですね。

この犀星の含み笑いを逃さず、画面に記録した笹本さんも見事。

 

 


★いま、 Beethoven  ベートーヴェン(1770~ 1827) の

Klaviersonate Nr.21 C-Dur Op.53 Waltstein ワルトシュタインを、

 「Manuscript Autograph  自筆譜」を見ながら、

Wilhelm Backhausヴィルヘルム・バックハウス(1884-1969)

の演奏で、聴いています。

極めつけの名演です。


★Backhausバックハウスの Beethovenは、

 Wilhelm Kempff ヴィルヘルム・ケンプ(1895-1991)と同様、

偉業です。


★私は、最近の Beethovenの演奏には辟易しています。

いくら技巧があっても、平板、のっぺらぼーでは聴く気がおきません。

Backhausの演奏は、3Dの映画を見ているような「立体性」があります。


★「立体性」とは、作曲家が張り巡らした和声と対位法を、

正確に再現することです。

譬えれば、次のように言うことができます。

法隆寺の五重塔があります。

現代のベートーヴェン演奏は、五重塔の「絵葉書」です。

奈良に行き、五重塔を自分の目で眺め、感動するのが、

Backhaus の演奏を聴くことです。

 

 


★ Backhausバックハウスは、Bösendorfer

ベーゼンドルファ―・ピアノを、愛した人です。

このワルトシュタインのCD(UCCD9156)の表紙ジャケット写真は、

バックハウスがピアノの前に座り、弾いている写真です。

しかし、右手の手首から少し先からは、黒くぼかされ、

指は全く見えません。

変です。

ピアノの銘も、かろうじて「sendorfer」という字が薄く、

判読できるだけです。

指が見えない、ピアノの銘もほとんど読めない・・・、

なんらかの意図があったのでしょうね。


★彼の素晴らしい演奏と、Bösendorfer

ベーゼンドルファーの響きを聴いていますと、

Beethovenがこういう響きを聴いていたのではないかと、類推できます。

それは、Beethoven の時代の楽器を再現したり、使ったりして、

現代人が演奏することとは、意味が違うのです。

そうした演奏の多くが、先ほどの“絵葉書”の一つであると、思います。


★それは、バックハウスが獲得していた和声と対位法を基にした、

作品の読み込みがあるか、ないかの差なのです。

考証をし、古い楽器を使って弾いても、設計図の読み込みがないとしたら、

平板なのっぺりとした“絵葉書”となるのです。

 

 


★それでは、具体的にどうワルトシュタインを勉強すべきか?

かなり困難ですが、できれば、Beethovenの

「Manuscript Autograph facsimile 自筆譜」を入手し、

 Beethoven の“肉声”を聴きます。

そうしますと、驚くべき発見がたくさんあります。


★その後、素晴らしい校訂版である、

Artur Schnabel版(Curci)と、Claudio Arrau(Peters)版を勉強します。

その勉強法は、

Edwin Fischer エドウィン・フィッシャー(1886-1960)版によるBach 、

Claude  Debussy  クロード・ドビュッシー (1862~1918)版のChopin

に対する方法と同じです。


★つまり、 ≪Fingeringによるアナリーゼ≫ということです。

Schnabel版もArrau版も、 Fischerや Debussy と同じ考え方で、

校訂版を作っています。


★皆さまが最も信頼されている「Henle版」ですが、

2012年の改訂新版をお持ちでしょうか?

これは、Norbert Gertsch と Murray Perahia による編集、

Fingeringは、Perahia です。


★以前の版は、Bertha Antonia Wallner編集、

Conrad Hansen のFingeringでした。

このため、ほとんど別物になっているといえます。


★Fingeringは、上記の二巨匠を見るべきですが、

ヘンレ新版は、自筆譜に則り、かなり改善されたところがあります。

例えば、第1小節目について、以下のように自筆譜、新版、旧版と、

見比べてください。

 

 

 

 

★自筆譜は明らかに、バス声部とテノール声部の双方が≪pp≫である

という意志ですが、旧版は大雑把に右手の部分に一つだけ

≫が付けられています。

新版は、右手左手部分に≪pp≫が、自筆譜どおりに付けられており、

これは改善です。


★Beethoven は、1拍目の始まる直前に、

あたかも≪pp≫が1拍目であるかのように、≪pp≫を大きく、

存在感溢れるよう、符と同等の大きさで見事に“描いて”います。


★これは、打鍵する前に、頭の中で≪pp≫の世界に浸ってから、

1拍目を弾きなさい、という指示です。

ヘンレ新版は、右手、左手の部分に≪pp≫を付けています。

それは前進ですが、自筆譜の両手同時が≪pp≫という世界の、

迫力は伝わってきません。


★また Beethoven は、ワルトシュタインで「スタッカート」を記す際、

「・」ではなく、細長い縦の小さい線で表しています。

旧版は「・」でしたが、新版は自筆譜のように記しています。

自筆譜どおりですと、視覚的に鋭く感じられます。


★このため、楽譜としては、新ヘンレ版と二人の巨匠の版を、

じっくりと読み込むといいでしょう。

しかし、新版には残念なところもかなりあります。

例えば、第16小節目で、上声の符尾がすべて上向きになっています。


★Beethoven は、下向きに書いています。

新版は、記譜の常識的手法を当てはめ、直してしまっているのです。

これを本来の下向きにしていましたら、この楽譜を使う人は、

どれほど大きな発見をしたことでしょう!

残念です。

 

 


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■Mozartの作曲はBach由来の厳格な対位法:新発見自筆譜を読む■

2015-11-08 13:15:14 | ■ 感動のCD、論文、追憶等■

■Mozartの作曲はBach由来の厳格な対位法:新発見自筆譜を読む■
   ~ヘンレ新版、相変わらず頑強に、自筆譜通りには記譜せず~
           2015.11.8    中村洋子

 

 

★先月28日は KAWAI 名古屋で、「平均律第1巻第1番」の

アナリーゼ講座を、開催いたしました。

遠方からもはるばる、たくさんの皆さまがご参加下さいました。

これから、皆さまと一緒に平均律1巻を勉強していきたいと思います。

次回は2016年2月24日(水)、第1巻第2番を予定しています。


★8月の KAWAI 金沢でのアナリーゼ講座で、「公開レッスン」として

勉強しました Wolfgang Amadeus Mozart 

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756-1791)の、

PianoSonata KV.331 A-Dur を、引き続いて勉強しています。

この曲は、Mozart が27歳の1783年、ウィーンかザルツブルクで、

作曲されたとみられます。


★2014年秋、このKV.331の「Manuscript Autograph 自筆譜」が、

4ページ分だけ発見され、世界的なニュースとなりました。

第1楽章の55小節目の「Var.Ⅲ」から「Var.Ⅳ」、

「Var.Ⅵ」 の最後まで(143小節目) が3ページ。

そして、第2楽章「Menuetto」冒頭から、

「Trio」の58小節目までが、1ページです


この4ページを子細に見るだけでも、

一般に思われているような、“シンプルで美しい Mozart”という

通説が、陳腐な表現ですが、目から鱗が落ちるかのように、

崩れ落ちていきます。


Mozart の音楽は、Bach と同じ厳格な counterpoint対位法 と、

harmony和声の構築物そのものであことが、

ひしひしと伝わってきます。

 

 


★後の Beethoven ベートーヴェン(1770-1827)や、

Frederic Chopin ショパン(1810-1849)に見られるような、

考え抜かれた記譜、即ち、

スラーの掛け方やその位置と形、dynamic記号の位置、

和声構造が一目で分かる緻密で精緻な和声の記譜法が

目の当たりに、実感できます。


現在の実用譜は、「Manuscript Autograph 自筆譜」が、

繊細に提示している、最も重要な要素を、

まるでブルドーザーが地面をのっぺりと平らにならすように、

刈り取ってしまっているのです。


Mozart の記譜が、Chopinの記譜に極めて似ていることに、

驚きます。

名古屋の講座でもお話しましたが、Chopinはおそらく、

Bach 平均律の「Manuscript Autograph 自筆譜」を、

見ていなかったと、思われます。


Chopinは、あの欠陥だらけの Czerny チェルニー校訂版の

平均律を持っていました。

にもかかわらず、そのChopinが Czerny版に自ら記した

様々な書き込みを見ますと、

Bachが「Manuscript Autograph自筆譜」で

訴えたかったことが、そのまま浮かび上がってくるのです。

まさに、天才は天才を知るということでしょう。


新発見の Mozart 「Manuscript Autograph自筆譜」と、

Chopinの記譜とが、あまりに共通点が多いということは、

それが「西洋クラシック音楽」の本質を指し示している、

ということになるでしょう。

つまり、「名曲の構造」と「どう演奏するか」は、一体不可分であり、

構造を明確に分析してとらえることができれば、

素晴らしい演奏、作曲家が意図したような演奏が可能になる、

ということを示しているーと言い換えることができるでしょう。

 

 

★G.Henle Verlag ヘンレ出版が、いち早く2015年版として、

Mozart の新発見4ページ分を考慮した改訂版を出版したことは、

立派であると思います。


★しかし、このHenle新版でも、

私がいつも苦言を呈しているChopin 「Manuscript Autograph」

に対する、「Ekier エキエル版」の問題、つまり、

「Manuscript Autograph」の趣旨を理解せずに、

あるいは、理解できないがために、

自筆譜通りに記譜しなかったり、

恣意的な変更をしたり、根拠不明な記譜をするなどの問題点が、

ざっと見た限りでも、やはり、数多く見つかりました。


★気付きました所を、当ブログでこれから、

少しずつ指摘していきたいと、思います。

皆さまのMozart 理解、

Mozart をどうとらえていくかという点での、

手助けとなると、思います。

 

 

★発見された最初のページを観察してみます。

まず、Var.Ⅲの1小節目(55小節目)は、≪p ピアノ記号≫で、

始まりますが、ヘンレ新版を含めどの実用譜も、≪p ピアノ記号≫は、

第1拍目の上声と下声の間のスペースに、きれいに記されています。


★しかし、Mozart は実は、≪p ピアノ記号≫を二か所に記しています。

一つは、実用譜と同じく、第1拍目の上声と下声の間に位置しますが、

重要なのは、その「p」の字体が斜め左に大きく傾いており、

下端は上声第1音「c²」よりかなり、左に位置していることです。


もう一つの「p」は、下声の下のスペースに記されてますが、

下声の第1音「a」の位置より、明らかに少し左に置かれています。

この「p」も、流れ星のように下端が左になびいています。

 

 (Mozart は上声をト音記号でなく、ソプラノ記号で記譜)

 

★どうしてこのように記したか・・・その理由はいくつか考えられます。

直前の「Var.Ⅱ」までが「A-Durイ長調」であることから、

この「Var.Ⅲ」が「a-Moll イ短調」となることで、

世界は激変します。

そのためには、54小節目で「Var.Ⅱ」が終了した後、

55小節目の「a-Moll イ短調」の開始前に、

≪心の中で「p」を準備しておきなさい≫という、

強い強いメッセージを、発しているのです。


★さらに、現在の実用譜のように、上声と下声との間に

一つだけポンと置くのではなく、

≪上声も、下声も≫という「声部」に対する強い認識が

働いているのです。

これは、大変に重要な視点です。

 

 


★「Var.Ⅲ」の4小節目(58小節目)の

上声4拍目「a¹ c²」、同6拍目「gis¹ h¹」の音についても、

ヘンレ新版は、次のようになっています。


★「a¹ c²」の符尾を上向きに揃えて、“串刺し”にしています。

この書き方では、単なる二和音、あるいは3度の重音が

二つ続いている、という風にしか理解できません。

 

 


★しかし、Mozart は明らかに上声と下声の二声部に分割して

記譜しています。

符尾の向きが異なり、上向きと下向きにしているのです。

つまり、「c²  h¹」はソプラノ声部、「a¹  gis¹」はアルト声部として、

作曲していたのです。

 

 


★Bach の時にもよくお話しましたが、

作曲家は、≪四声体のパレット≫の上に、

“音の絵の具”を落として作曲するのです。

そうでなければ、緊密にして壮大な音の構築物は、

作り上げられないのです。


スラーの書き方についても、Mozart は大変に詩的に、

書いています。

Chopinと本当に、似ています。


★例えば、第1小節目(55小節目)にあるスラーは、

1小節目上声最後の、16分音符「c²」で、閉じられていません。

55小節目と56小節目を分ける小節線の上にまで、

優美に、たなびいているのです。


第2小節目(56小節目)の最初の音「h¹」の前から、

二つ目のスラーを始めていますが、

これも、小節線の上から開始されているように見えます。


★後世の Claude Debussy クロード・ドビュッシー(1862-1918)が、

有名な「月の光」が入っている「ベルガマスク組曲」などで、

よく使った手法です。

先行するスラーが閉じないうちに、続くスラーが始まるのです。

大きく見ますと、非常に息の長いスラーになるのですが、

実用譜が判で押したように記している、

1小節に1スラーという、官僚的なのっぺりとしたものとは、

別物でしょう。


★さらに驚いたことには、三つめのスラーである3小節目

(57小節目)のスラーが、3小節目から始まるのではなく、

その前の2小節目の最後の上声音「h¹」から、始まっているのです。


★これの意味するところは、次のようなことです。

56小節目上声最後の「h¹」は、二番目のスラーを

閉じる音であると同時に、三番目のスラーの始まりを兼ねている、

ということなのです


56小節目最後の「h¹」は、57小節目のAuftakt

アウフタクトと意識して、Mozart は弾いていたのでしょう。

それは、畳み掛けるような緊迫した演奏になります。

そして、その頂点として、4小節目(58小節目)の、

先述しましたソプラノとアルトの二声

「a¹  c²」と「gis¹  h¹」が、あるのです。

 

 


★Mozart のスラーは、それを分析して読めば読むほど、

彼自身がどういう音楽を書き、それをどう演奏していたかが、

読み取れるようになるのです。


★続く5、6小節目(59、60小節目)では、Mozart はなんと、

その下声部分について、一つのスラーで両小節をくくっています。

5、6小節目の和音は、1、2小節目の和音と同じです。

正確には、下声は同じで、上声はユニゾンにしたものです。

1小節目はトニックⅠ(主和音)、2小節目はドミナント(属和音)です。

1、2小節目では、それぞれの左下声にスラーをつけ、

和音をクッキリと浮かび上がらせています。


★Mozart は、5、6小節目について、単なる反復として、

とらえていません。

そのために、両小節にまたがる長いスラーを架したのです。

これにより、緊張感に満ちてくっきりとした1、2小節に対し、

緊張を和らげつつ、開放された華やかさをもった、

別な相貌を提示しているのです。

しかし、ヘンレ新版は1、2小節に合わせ、

5、6小節ごとに1つずつプツンプツンと、スラーを付けています。


★続く61、62小節目については、Mozart は61小節目は第1段に、

62小節目はその下の第2段目に書いていますが、

61小節目のスラーは末尾が先頭より高く跳ね上がっています。

そこでスラーが終わるのではなく、やはり、62小節目まで続く

スラーと見た方がいいでしょう。


★当然のことながら、ヘンレ新版は、ここもぶつ切りに、

一つずつスラーを機械的に書いています。

これらの点について、コメンタリーでは何の説明や注釈も

書いていません。


Mozart をどう勉強するか・・・。

このわずか4ページを手掛かりに、推理していくしかないでしょう。

ヘンレが、頑強に「Manuscript Autograph 自筆譜」通りに

変更しないのは、もし、そのように直しますと、

彼らが作った記譜に関する規則が、ガタガタになってしまい、

Mozart の作品全体を、改訂しなくてはならなくなるからでしょう。

 

 

★私が、ヘンレなど海外の定評ある楽譜を批判いたしますと、

「それでは、日本で出版されている楽譜はどうですか?」

という質問を、必ずと言っていいほど受けます。


★はっきり言いまして、日本の楽譜はほとんどが海外の楽譜の

“Copy and Paste”です。

いろいろな版から部分的にピックアップし、

それらをごちゃ混ぜにしたものである場合も多く、

それは一貫した分析ではありませんので、

真摯に勉強すればするほど、戸惑うだけでしょう。


★あるいは、昔に出版され現在は入手困難な名校訂版を、

かなり張り付けたものもあるようです。

しかし、その名校訂版に、勝手に余分なことを加えるなどの

“加工”が施されているため、それを勉強すればするほど、

論理不統一で、精神錯乱をきたすことになりかねません。

従いまして、当ブログでは、日本の楽譜については、

言及いたしません。

 

 

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■第13番Sinfonia 冒頭「a¹」に「1」のfingeringが意味すること■

2015-10-11 19:50:29 | ■ 感動のCD、論文、追憶等■

■第13番Sinfonia 冒頭「a¹」に「1」のfingeringが意味すること■
  ~モーリス・アンドレの CD「Trumpet Maestro」の魅力~
            2015.10.11       中村洋子

 



★「Maurice André  Trumpet Maestro, Le Mâitre de la trompette

 モーリス・アンドレ トランペット マエストロ」

というCD(INDE075)を聴いています。

★オーケストラの華ともいえるトランペット。

Karl Richter カール・リヒター(1926-1981)指揮の

Bach「 Weihnachts-Oratorium クリスマスオラトリオ」の trumpetも

Maurice André(1933- 2012)モーリス・アンドレでした。

ソプラノ Gundula Janowitz グンドゥラ・ヤノヴィッツ(1937- )、

アルト Christa Ludwig クリスタ・ルートヴィヒ(1928 - )の、

譬えようもない Aria アリアと、アンドレのトランペットが、

クリスマスの喜びを、天も突き抜けんばかりに高らかに歌い上げます


★学校の卒業論文のような、現代のBach 演奏には、

触手が向きません。

Bachはそのような、しかめっ面をした演奏、

喜びや楽しみがこぼれてこない演奏を、望んでいたのでしょうか。


Bachは、当時の最先端を突っ走っていた作曲家です。

21世紀の現代音楽もまだ、彼には追い付いてはいないのです。

 

 


★アンドレに話を戻しますと、この二枚組のCDにはよく知られた名曲、

Hummel フンメル(1778 - 1837)、

Franz Joseph Haydnハイドン (1732~1809) 、

Albinoni アルビノーニ(1671- 1751)、

Torelli トレッリ(1658 - 1709)、

Antonio Vivaldi アントニオ・ヴィヴァルディ(1678~1741)などの、

Trumpet concertoトランペット協奏曲も収録されています。

溜息の出るような名演です。


★それらを堪能しました後は、 Bachの「Brandenburg Concerto

ブランデンブルグ協奏曲」Nr.2 第1、3楽章が、待っています。


★それだけでなく、いくつかの近代曲も含まれています。

これらの近代曲をお聴きになりますと、あらあら、

有名な日本の現代曲の“そっくりさん”が、

顔を覗かせていることに、驚かれることでしょう。

実は、日本の現代曲のほうが “そっくりさん” で、

こちらが、本家本元だったのです。

ばれてしまいますね。 

 

 


★やはり、どうしてもまた、Bach「Brandenburg Concerto」

に戻って、聴きたくなります。

このCDを聴きながら、夕食をとっていても、

Bach になりますと、箸が止まってしまいます。

“ながら”では、聞けないのです。


★話は飛びますが、Pascal パスカル(1623-1662)の

「Pensées パンセ」が、岩波文庫から新訳で出ました。

まだ、上巻だけですが、この訳は翻訳調でないため、

ストレスなしにスラスラと読めます。


★その中に、次のような言葉がありました。

≪自分の作品を眺めるのに、仕上げた直後だと、まだ、それで頭がいっぱいだ。

あまり時間を置くと、もはや作品の中に入っていけいない≫


★私は、これまで講座などで、作曲家と「Manuscript Autograph 自筆譜」

との関係や、作曲家がどのように、作品を演奏して欲しかったか、

作曲家が自分の作品をどのように弾いていたか・・・をずっと、

探求してきました。


★パスカルの言葉は、共感するところが多いのです。

例えば、一般的に作曲家は、出版譜の校訂については冷淡、あるいは、

きちんとしないことが、往々にしてよくあるのです。

これは、作曲家が曲を完成させると、次の構想に頭が移り、

校訂、校正をあまり、熱心にしなかったり、

お弟子さんに任せたりするのです。

私も、出版する際、作曲時の熱狂を忘れ去っており、

自分で考え込むことも、よくあります。

 

 


14日(水)は、KAWAI 金沢で Bach「Inventionインヴェンション」

アナリーゼ講座、第13番 Invention & Sinfonia を開催いたします。

そのため、Bach 「Manuscript Autograph  自筆譜」を読み、

Edwin Fischer エドウィン・フィッシャー(1886-1960)版を基に、

再度、解読しております。


★これまで、東京、横浜、名古屋で Invention analyze

アナリーゼ講座を、開いてきましたが、後になるほど、

それまでに発見できず、新たに理解したことが、

次々と出てきます。


★例えば、第13番 Sinfonia シンフォニアのFischer版では、

冒頭第1小節目1拍目「a¹」に、「1」の fingeringが付けられています。

何故、言わずもがなの「1」を付けたのでしょうか。

 

 


★この「1」により、楽譜を見ている人は、「a¹」からの motif

モティーフを、非常に強く印象付けられます。

それが、4小節目下声2拍目の「a」から始まる16分音符

「a - h - c¹」が、1小節目の≪縮小形カノン≫であることが、

分かります。


★このように fingering を頼りに、この曲全体を見渡していきますと、

例えば、18小節目の上声「a¹ - g¹ - a¹ - h¹ - c² - d²」に、

「3  2  1  2  3  4 」という fingering を付けていますが、

これは、「 1  2  3  4 」を辿っていけば、1~2小節目の

a¹ - h¹ - c² - d²」の motif モティーフの、

これまた≪縮小形カノン≫であることが、判明してきます。


★ Bachの「Manuscript Autograph  自筆譜 」は、

この全64小節からなる曲を、左3段、右3段の見開きで、

記譜しています。


左ページの2段目(12小節から22小節まで書かれている)の、

ほぼ真ん中に、この「18小節目」が位置しています。

つまり、左ページのど真ん中に据えているのです。


★このことからも、この18小節目の motif モティーフ が、

いかに重要であるか、 fingering から読み取れるのです。

 

 

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■日  時 : 2015年 10月14日(水) 午前 10時 ~ 12時 30分
■会  場 : カワイ金沢ショップ 金沢市南町5-9 
           ( 尾山神社前 南町バス停より徒歩3分 )
■予  約 : Tel.076-262-8236 金沢ショップ

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 ■講師 :   作曲家  中村 洋子  Yoko Nakamura

      東京芸術大学作曲科卒。作曲を故池内友次郎氏などに師事。
     日本作曲家協議会・会員。ピアノ、チェロ、室内楽など作品多数。

          2003 ~ 05年:アリオン音楽財団 ≪東京の夏音楽祭≫で新作を発表。

          07年:自作品 「 Suite Nr.1 für Violoncello
         無伴奏チェロ組曲 第 1番 」 などをチェロの巨匠
         Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー氏が演奏した
    CD 『 W.Boettcher Plays JAPAN
                         ヴォルフガング・ベッチャー日本を弾く 』 を発表。

          08年: CD 『 龍笛 & ピアノのためのデュオ 』
        CD 『 星の林に月の船 』 ( ソプラノとギター ) を発表。

          08~09年: 「 Open seminar on Bach Inventionen und Sinfonien
                  Analysis  インヴェンション・アナリーゼ講座 」
                    全 15回を、 KAWAI 表参道で開催。

          09年: 「 Suite Nr.1 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 1番 」の楽譜を、
    ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」  から出版。
 
         10~12年: 「 Open seminar on Bach Wohltemperirte Clavier Ⅰ
                  Analysis 平均律クラヴィーア曲集 第 1巻 アナリーゼ講座 」
                    全 24回を、 KAWAI 表参道で開催。

          10年: CD 『 Suite Nr.3 & 2 für Violoncello
                  無伴奏チェロ組曲 第 3番、2番 』
                        Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。
       「 Regenbogen-Cellotrios  虹のチェロ三重奏曲集 」の楽譜を、
             ドイツ・ドルトムントのハウケハック社
       Musikverlag Hauke Hack Dortmund から出版。

          11年: 「 10 Duette für 2 Violoncelli
                         チェロ二重奏のための 10の曲集 」の楽譜を、
    ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。

          12年: 「 Zehn Phantasien für Celloquartett (Band 1,Nr.1-5)
      チェロ四重奏のための 10のファンタジー (第 1巻、1~5番)」の楽譜を、
      Musikverlag Hauke Hack  Dortmund 社から出版。

          13年: CD 『 Suite Nr.4 & 5 & 6 für Violoncello
                  無伴奏チェロ組曲 第 4、5、6番 』
                        Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。
         「 Suite Nr.3 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 3番 」の楽譜を、
      ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。

          14年:「 Suite Nr.2、4、5、6 für Violoncello
        無伴奏チェロ組曲 第 2、4、5、6番 」 の楽譜を、
       ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。

           SACD 『 Suite Nr.1、2、3、4、5、6 für Violoncello
                            無伴奏チェロ組曲 第 1, 2, 3, 4, 5, 6番 』 を、
     「disk UNION 」社から、≪GOLDEN RULE≫ レーベルで発表。

            スイス、ドイツ、トルコ、フランス、チリ、イタリアの音楽祭で、
      自作品が演奏される。

 

        ★上記の 楽譜 & CDは、
「 カワイ・表参道 」 http://shop.kawai.co.jp/omotesando/ 
「アカデミア・ミュージック 」         https://www.academia-music.com/academia/s.php?mode=list&author=Nakamura,Y.&gname=%A5%C1%A5%A7%A5%ED
 https://www.academia-music.com/                           で販売中。

        ★私の作品の  SACD 「 無伴奏チェロ組曲 第 1 ~ 6番 」
   Wolfgang  Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー演奏は、
  disk Union や全国のCDショップ、ネットショップで、購入できます。
http://blog-shinjuku-classic.diskunion.net/Entry/2208/


 

 


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■Mozart KV331、「Andante grazioso」のテーマは蜘蛛の糸のような対位法■

2015-09-29 13:38:16 | ■ 感動のCD、論文、追憶等■

■Mozart KV331、「Andante grazioso」のテーマは蜘蛛の糸のような対位法■

                   2015.9.29   中村洋子

 

 

 


★私のアナリーゼ講座に参加されている方が、オランダへ行かれました。
 
「Royal Concertgebouw Orchestra Amsterdam

ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団」で 、Bach「≪Matthäus-Passion

マタイ受難曲 ≫ を聴くためでした

お土産に、「マタイ受難曲」のプログラムをいただきました。

 

  

 


★このプログラムには、すべての歌詞が書かれていますが、

ところどころが、赤い文字で印刷されていました。

それは、「コラール」の部分でした。

コンセルトヘボーでは、このコラールを、

聴衆が一緒になって歌うそうです。

そのために、赤く印刷されていたのです。

 

 

 

★オーケストラと聴衆が一体となって歌うのは、

斬新で、素晴らしいことであると思います。

これは、コラール本体の意味に叶っていることでしょう。


★Bach を勉強することは、その勉強の継続により、

逆に Bach のみではなく、全ての第一級の作曲家への扉が、

開かれていくことになるということが、経験から強く指摘できます。


★Bach のインヴェンションと平均律1、2巻全48曲すべてについて、

アナリーゼ講座を開催した後は、

Wolfgang Amadeus Mozart ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト

(1756~1791) や Frederic Chopin ショパン(1810~1849)が、

それまでとは異なった相貌に、見えてきます。

そしてその顔こそが、本当の Mozartや Chopin なのである・・・

ということが、分かってきます。


★いまだに Chopin を、サロンを舞台にした情緒的でロマンティック、

装飾的な作曲家と見くびったり、

Mozartの曲は、真珠の玉を転がすような流麗優美な音楽と、

とらえる向きもあるようです。

 

 


★いま Chopin の 「Prelude集」について、

Bachと同じ読み解き方で、探求を続けています。

同様に、8月の KAWAI 金沢アナリーゼ講座で、

公開レッスンをいたしましたMozart の「ピアノソナタ KV331」についても、

勉強を深めています。


★この「KV331」は、ピアノ発表会でもよく取り上げられる、

大変に親しまれている曲ですが、

18小節から成る「Andante grazioso」のテーマは、

対位法を蜘蛛の糸のように、複雑に絡み合わせて構成されており、

それを、解きほぐしていくのは、一筋縄ではいきません。


★私は、インヴェンションと平均律のアナリーゼをしたからこそ、

それらを解明するとっかかりを得た、という手応えを感じています。


★Mozart がソナタという題名を付けた曲の中で、

第1楽章が、変奏曲の形をとっているのは、この「KV331」のみでしょう。

ちなみに Beethoven も、その32のピアノソナタの中で唯一、

「第12番 Op.26(1800年-1801年) Andante con Variazioni」 のみ、

第1楽章で主題と変奏をもっています。

Beethoven が、Mozart の「KV331」を強く意識していたことは、

十分にありうるでしょう。


★また、 Beethoven ピアノソナタ第14番 Sonata quasi una Fantasia

「月光ソナタ」(1801年)にも、つながっていくといえます。

月光の第1楽章も、ソナタの第1楽章としては異例の、

ファンタジーに近い性格をもっていますが、見方を変えますと、

Bachの Preludeとの親近性が強いともいえます。


★余談ですが、月光ソナタについては、10月28日(水)

KAWAI 名古屋での「平均律第1巻1番アナリーゼ講座」で、

少々、触れる予定です。

また、2016年1月20日 (水)から KAWAI 金沢で始まります、

新シリーズの講座でも、取り上げます。

 

 


Mozart 「KV331」の第1楽章を、 Wilhelm Kempff

ヴィルヘルム・ケンプ
(1895-1991)は、

どのように弾いているのでしょうか?

勉強を重ねれば重ねるほど、 Kempff の素晴らしさ、凄さが

理解できます。


特に、11小節の上声3拍目「a¹」、同6拍目「h¹」、

12小節上声3拍目「a¹」の staccatisimo、

この「a¹ h¹ a¹」の三つの音を、 Kempff はいつくしむように、

同時に“ここを聴いてください”というかのように、

強調して弾いています。

 

 


★当ブログで以前、ご説明いたしましたように、

この11、12小節は、13小節目の再現部に入るための、

周到に準備された“頂点”であることが、間違いないのですが、

この三つの音から出来るモティーフが意味するところは、

実は、冒頭第1小節目の上声「cis² d²  cis²」のモティーフの、

拡大形である、ということなのです。

 

 

 


★それと同時に、11、12小節上声の「a¹ h¹ a¹」のモティーフは、

13小節下声1~3拍目「a  h  a」の≪縮小カノン≫として、再現されます。

 

 


★このため、頂点である11、12小節で、冒頭のモティーフを拡大し、

13小節からの再現部には、上声「cis² d²  cis²」が再現され、

さらに、14小節上声に「h¹  cis²  h¹」というように、

同じモティーフが、反復されていきます

 

 

★もし、ここを13、14、15小節目と同型反復で作曲したと

しますと、15小節は「a¹ h¹ a¹」となるでしょう。

 

 

もちろん、Mozart は15小節上声を「a¹ h¹ cis² 」としており、

聴く人の耳を、いい意味で“裏切る”のです。

 

 

 

 


★この15小節の「a¹ h¹ cis² 」は、

17小節バス1拍目から≪カノン≫で現れ、さらには、

18小節上声3~4拍目に、その反行形「cis² h¹ a¹」として、

進化した形で姿を現します。

 

 


この17、18小節は、実は≪コーダ≫です。

テーマ自体は短いのですが、“対位法のるつぼ”といえます。

そして、このコーダはテーマをさらに凝縮した“エネルギーの塊”である、

とも言えます。

 

 


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■続・Mozart KV331の自筆譜見つかる、Henle新版はそ知らぬ顔で訂正■

2015-08-08 00:25:05 | ■ 感動のCD、論文、追憶等■

■続・Mozart  KV331の自筆譜見つかる、Henle新版はそ知らぬ顔で訂正■
               2015.8.8     中村洋子

 

 

★2014年秋ハンガリーで、Mozart モーツァルト(1756-1791)の、Klaviersonate

 A-Dur  KV331の「Manuscript Autograph 自筆譜」が発見されたお話の

続きです。

 

 

 

★二つの譜例は、日本でも有名なドイツの「Henle出版」の楽譜から採りました。

最初の譜は、「Manuscript Autograph 自筆譜」が発見される前の版から。

後の譜は、自筆譜発見後の2015年出版の最新版からです。

 

 

★旧版(誤った譜)では、この部分について脚注で以下のように書いています。

「In den Takten 24 u. 25 fehlt in der Erstausgabe ♮ vor c¹ ;In Takt 26 steht

 wohl versehentlich ein ♯ statt ♮ vor c².」

「初版譜(中村注:出版されたのはモーツァルト存命中ですが、

年は確定されていないようです)では24、25小節目の c₁ の前の ♮ が欠けている。

26小節目の c² にも、 ♮ の代わりに♯ がうっかり誤って付けられている」。
(この曲は調号が♯三つの「A-Dur」ですので、臨時記号がない限り「ド」はすべて
自動的に♯の付いた「cis」となります)

★つまり、初版譜はモーツァルトの作曲意図に反して、

調号により24、25小節目の「c¹」 と26小節目の「c²」 に「♯」が付いて、

「A-Dur」になっており、その間違いを直すため、

そこに「♮」を加えた・・・としているのです。


★しかし、今回新たに自筆譜が発見された結果、

初版譜こそがモーツァルトの書いた通りの正しい楽譜であったことが

証明されてしまいました。

Henle旧版の“初版譜の誤りを正した”という主張こそが、

実は誤りであったのです。

 

 


★そこで、Henle新版の脚注を見ますと、ちゃっかりと次のように記しています。

「Viele Ausgaben ergänzen ♮ ;in den Quellen jedoch eindeutig A-dur bis

einschließlich T.26.」

「たくさんのエディションは、 ♮ を補っていますが、源泉資料では疑いもなく

明白に26小節目までA-durです」


★結局この脚注は、「Manuscript Autograph= 自筆譜」とは書かずに

「Quellen=源泉資料」という言葉を使って、

旧版の誤りをそ知らぬ顔で訂正しています。


★ “Henle版の楽譜ならば安心!”と思っている方は日本でも多いようですが、

盲信はしないほうがよろしいでしょう。

まして、擦り切れた古い版を使い続けていますと、

このような“訂正”とも無縁となってしまいます。

 

 


★繰り返しになりますが、自筆譜の発見で分かった最も大きな相違点は、

第2楽章 Menuetto の24、25、26小節でしょう。

従来は、24小節目下声と、25小節目下声の「cis¹」が「c¹」とされ、

続く26小節目上声1拍目「cis²」も「c²」となっていました。


★従来の「c¹」、「c²」で弾きますと、24、25、26小節、

そして27小節目までは、とても小奇麗でエレガントな 「a-Moll イ短調」です。

 

 

しかし、Mozart 自筆譜の「cis¹」、「cis²」にしますと、

24、25、26小節は 「A-Dur イ長調」、そして27小節目冒頭でいきなり、

「A-Dur の同主短調」である「a-Moll イ短調」に激変するのです。

 

 

★これにより、Mozart がなぜ24小節目に「p」、25小節目に「cresc.」、

28小節目に「f」を指定したか、その理由が明確に分かるのです。

旧版では「cresc.」の位置も違っています。

26小節目に「cresc.」がありますのは、a-Mollによる

“穏やかな変化”を表現するとすればそれはそれで妥当でしょう。


★27小節目で劇的に変化した後、追い打ちをかけるように、

28小節目を「f」とし、29小節目はドッペルドミナントにしています。

 

 

そのドッペルドミナントは5音下行形で、その下行した5音をバスにもち、

30小節目のドミナント(半終止)に着地するのです。

 

 

小奇麗でエレガントではなく、まさに、ドラマティックな音楽に変容するのです。

 

★続く31小節目は、主調「A-Dur」に復調し、再現部が始まります。

心憎いばかりのMozart の設計図を支えているのが、

この「cis¹」と「cis²」なのです。

それが、自筆譜で明らかになりました。

  

 

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■名演:ケンプのイギリス組曲3番、 Gardinerのクリスマスオラトリオ■

2015-05-17 21:51:24 | ■ 感動のCD、論文、追憶等■

■名演:ケンプのイギリス組曲3番、 Gardinerのクリスマスオラトリオ■
                2015.5.17   中村洋子

       

 

 

ドイツ Dortmund ドルトムントの「ハウケハック音楽出版

Musikverlag Hauke Hack」  http://www.hauke-hack.de/

Hauke Hack ハウケハックさんから、お手紙が届きました。

この夏、私の作品「Zehn Phantasien für Celloquartett (Band 1,Nr.1-5)
      チェロ四重奏のための 10のファンタジー (第 1巻、1~5番)」の

続編「6~10番」の出版に、取り掛かるという報告でした。


★彼は、その前にまず、各国からの総勢50人のCellistsで、

´Cellosommer`というフェスティバルを、盛大に楽しむそうです。

いまドイツでは、本当にCello愛好家が増え、少年、少女が

熱心に熱心に勉強しているようです。

本当に羨ましいことです。


★前回、カール・リヒターの指揮で Bachの「Wheihnachts-Oratorium

クリスマスオラトリオ」を聴いている、と書きましたが、

Eliot Gardiner エリオット・ガーディナー(1943 - )の指揮も

素晴らしく、このCDも愛聴盤です。

彼の指揮は、“古楽器”を使って、ピッチも現代の音よりも

ほぼ半音低いくらいの、バロック時代のピッチを採用しています。

リヒターの指揮と大きく違うとはいえ、古楽器うんぬんという論議は、

どうでもいいことであろう、といいたくなるよい演奏です。


★実際、Bach 時代はどうであった・・・などの研究、

アプローチ、詮索にあまりに深入りすることは、

Bach の音楽を理解し、楽しむためには、かえって邪魔で、

素晴らしい演奏ならば、なんでもいいではないか、

と言いたくなります。

 

 


★いま、 Invention インヴェンションヴェン全15曲を「一曲」として

見通す作業をしていますが、その過程を通して、

≪ Invention インヴェンションは、独奏鍵盤楽器で作曲された

クリスマスオラトリオである≫という印象を、強くもち始めました。

その理由につきましては、私のアナリーゼ講座や、

私の新しい作曲によって、おいおい解き明かしていくつもりです。


★Eliot Gardiner  ガードナーの演奏は、惜しむらくは、

陶酔するような歌手には恵まれていなかった、ということです。

リヒター版のGundula Janowitz グンドゥラ・ヤノヴィッツ(1937 - )や、

Christa Ludwig クリスタ・ルートヴィヒ(1928 - )などの、

偉大な声楽家との力量の差は、いかんともしがたいでしょう。

 

 

★前回、ご紹介しましたBach「Englische Suite Nr.3

イギリス組曲3番」の、昔からの愛聴盤は、

 Wilhelm Kempff  ヴィルヘルム・ケンプ ( 1895~1991) です。

ここには、「 Französische Suite Nr.3 フランス組曲 3番」や、

Bach:Capriccio 'Sopra la lontananza del suo fratello dilettissimo' B-Dur

カプリッチョ 「最愛の兄の旅立ちにあたって」なども含まれています。
 

このKempff の演奏は、 Richter リヒテルと好対照です。

Kempff 独自の考えで、「装飾音」を大胆にカットしている

部分が、かなり多くあります。


★Kempff が、Bach を現代のピアノで演奏する際の考え方は、

次のようであったと、私は推測します。

“チェンバロを想定して作られた作品の装飾音を、そのまま、

現代のPianoに当てはめて演奏しますと、どうしても、

音が過剰になることがある・・・”

 

 


★トリルは幾つかの役割をもっていますが、その一つは、

トリルを付けられた音を、強調する役割を担っています。

その場合、現代のPianoでトリルを弾きますと、かえって、

Bach の意図をかき乱すように、

音が過剰になる傾向があります。


★現代のPianoは、チェンバロと比べ、

指の圧力、重みで音を変化させることができる、

という大変に進化した特徴を、もっています。

表現の幅がものすごく広がります。


★「Englische Suite Nr.3 イギリス組曲3番」の GavotteⅠ、

18小節目後半~23小節目までの、

左手 「g」 の 「repeated notes」 で、

Richter リヒテルは、人々がイエスの生誕を喜び、

太鼓を打ち鳴らして、祝っているかのように、

見事に表現しています。


Richter リヒテルは、「repeated notes」 に付けられた

「Mordent 」で、現代のPianoの表現力を駆使し、

群衆が、歓喜で打ち震える場面を彷彿とさせました。

 

 


★Kempff は、この 「Mordent 」を取り去り 、

「g」 の音のみで生誕の喜びを、表現しています。

それは、イエスを宿した幼い母マリアの、

内面から、ふつふつとこみ上げて来る喜び、

密やかに、微笑みがこぼれてくるような喜びなのです。


★これが、Kempff の天才です。

演奏とはそのようにして、自分で作るものなのです。

 

 

 

 

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■リヒテルの「イギリス組曲」偉大な演奏、クリスマスオラトリオにも通じる■

2015-05-13 11:32:41 | ■ 感動のCD、論文、追憶等■

■リヒテルの「イギリス組曲」偉大な演奏、クリスマスオラトリオにも通じる■
        2015.5.13          中村洋子


 

 


★美しい箱根の山で、噴火の前兆のような火山性地震が頻発するなど、

気の晴れない毎日です。

Bachの「Wheihnachts-Oratorium クリスマスオラトリオ」を、

Karl Richter カール・リヒター指揮で時々、聴いておりますが、

Maurice André モーリス・アンドレのトランペットを聴きますと、

心が晴れます。


★Richard Wagner リヒャルト・ワーグナー(1813~1883)の

「Siegfried-Idyll ジークフリート牧歌」は、

Bach のクリスマスオラトリオが根源、大元であり、

Verdi ヴェルディ(1813 - 1901)の opera オペラ

「La traviata 椿姫」で登場する合唱曲の一部は、意外にも、

「Wheihnachts-Oratorium クリスマスオラトリオ」と、

ほぼ重なる所が多いなど、いろいろな発見があります。

いずれも、Bachを学びに学び、

学び尽していたということでしょう。

そんなことを、考えながら、聴いています。


★「Wheihnachts-Oratorium クリスマスオラトリオ」冒頭に、

感動的なティンパニの連打があります。

「Englische Suite Nr.3 イギリス組曲3番」の Gavotte、

18小節目後半~23小節目までの、

左手「g」の 「repeated notes」 に、

「Mordent 」や「Trill」が付いていますが、

これについて、Edwin Fischer エドウィン・フィッシャーは、

「太鼓を叩くように、鋭くアクセントをつける」と、

校訂版で記しています。

クリスマスオラトリオ冒頭のティンパニと、

同じ位置付けです。

 

 


★このGavotteをはじめとして、「Englische Suite Nr.3」全曲は、

オーケストラを想定して書かれていることは、間違いありません。

前回のブログで書きました Sviatoslav Richter スヴャトスラフ・リヒテル

(1915-1997)の名演奏を聴きますと、

その前の Sarabande がもつ深く沈潜した世界から、

この Gavotte により、一気に天空へと放たれるような、

開放感、喜びに満たされます。


クリスマスオラトリオは冒頭、

イエス生誕を、“いまかいまか”と待ちわびる心の鼓動を、

ティンパニの連打が、厳かに伝えます。

期待に打ち震える心のときめきが、聞こえてくるかのようです。

そして次の瞬間、トランペットが高らかに、

“生誕の扉”を開け放ちます。

天上から眩いばかりの光が降り注ぎ、地上が歓喜で満たされます。

イエスの生誕を、これ以上ない喜びで祝し、

希望と感動の渦に、人々を包み込みます。

天も地も湧き上がります。


★冒頭を聴くたびに、このようなイメージが自然に、

浮かび上がってきます。

短い、この冒頭の音楽がもつ豊饒さは、

なんと表現したらいいでしょうか・・・

 

 


★「Englische Suite Nr.3」の Sarabande を、詳しく見ますと、

反復記号による二部構成ですが、

サラバンドの本体に、細かく装飾を施したサラバンドが、

さらに、追加されています。

「Les agréments de la même Sarabande 同じサラバンドの装飾」

と、書かれています。

ここも反復を伴った二部構成です。


★「Concerto nach Italienischen Gusto イタリア協奏曲」の

第2楽章は、その装飾されたものを、いきなり提示しているのですが、

「Englische Suite Nr.3 イギリス組曲3番」は、

元の形と装飾版を、同時に並列して、

提示していることになります。


★Richter リヒテルの名演を聴いていますと、

緊張感から解き放たれた Gavotteの心地よさが、

“太鼓”で、より一層納得できるのです。

「Englische Suite Nr.3」は、最初の長大な Preludeこそ、

反復記号はありませんが、続く

Allemande  Courante  Sarabande  GavotteⅠ、Ⅱ   Gigue は、

すべて二部構成で、反復記号が付いています。


★Richterは、それを省略することなく、Bach の意図通りに、

全曲を反復しています。

インタビューで、 Richterは「Schubert の長大なSonataの反復すら

絶対に省略すべきではなく、自分も必ず全部弾いている」

という趣旨のことを、語っています。

 

 


このCDを聴く場合、1回目と反復後の2回目を、

Richterがどのように弾き分けているか、

詳細に、聴き込む必要があります。

その努力により、「Englische Suite Nr.3」の偉大さを、

より深く、理解できるでしょう。

私の「無伴奏チェロ組曲」でも、

Wolfgang Boettcher ベッチャー先生が

反復部分をどう弾いているか、是非お聴きください。

 

 


★そのように見てきますと、

この「Englische Suite Nr.3」 第1曲目の Prelude冒頭は、

弦楽合奏とみなすこともできます。

violin1、violin2、viola、cello の順に

弦楽器が導入され、その上に、管楽器がかぶさるように現れると、

想定することも可能でしょう。
 
32小節目までは tutti総奏で、その後、soloの部分が始まります。

 

Edwin Fischer エドウィン・フィッシャーは、

「Englische Suiten」について、 次のように評しています。

≪この組曲を、学び、知れば知るほど、

Bach がこの簡潔な作品で示した感情の豊かさと深さに、

感嘆することであろう≫。

Bach を深く分析できる、 

Richter リヒテルのようなピアニストでなければ、

歯が立たない曲といえるかもしれません。

ちなみに、この録音は1991年、Richter リヒテル76歳ごろの、

ライブレコーディングです。

 

 

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■名曲を聴く楽しみ、パレナン四重奏団 Ravel& Debussy ■

2015-05-05 16:46:00 | ■ 感動のCD、論文、追憶等■

■名曲を聴く楽しみ、パレナン四重奏団 Ravel& Debussy ■
                      2015.5.5 中村洋子

 

 

★今日は端午の節句、

牡丹が満開、新緑と薫風に酔いしれます。

美味しい粽もいただきました。


★先日、フランスFranceで活躍されているcellistチェリストから、

お手紙をいただきました。

私の「 無伴奏チェロ組曲 全6曲」の楽譜を手に、

Wolfgang Boettcher  ベッチャー先生演奏のSACDを、

お聴ききになっている、そうです。


★「You composed something of extra-ordinary.
This music is very very fascinating.
I can concentrate on your music,
I will take it into my repertoire,
and play at next concert.」

「素晴らしい曲を作曲されました。この無伴奏チェロ組曲に集中し、
私のレパートリーとして、演奏したい」

と、書かれていました。

嬉しいことです。

 

 


★5月は「アナリーゼ講座」をお休みいたします。

今月の課題は、まず、

「Inventionen und Sinfonien  インヴェンションとシンフォニア」の

全15曲を、「一つの大きな曲」として見直す作業に取り組みます。

さらに、私の作品の作曲も進めます。

その合間合間に、真に価値ある演奏を聴くという、

楽しみに浸ります


★お手紙を下さったcellistがお書きになったように、

本当に価値ある演奏のCDを、

楽譜をじっくりと眺めながら、聴くことは、

愉悦といってもいいと、思います。


★華やかな宣伝文句、しかし、空疎な音楽フェスティバルに、

出掛ける気には、なかなかなりません。

 

 


★いま、聴いています曲は、次のようなものです。

1)Quatuor Parrenin パレナン弦楽四重奏団
     「Maurice Ravel  Quatuor à Cordes en fa Majeur
       Claude Debussy Quatuor à Cordes en sol Mineur」
                          1969年録音           (WPCS 12807)   

2)Bach  Matthäus-Passion       Günther Ramin 1952年録音
              Christ Lag In Todesbanden BWV 4     1950年録音     
          
       Archipel desert island collection  (ARPCD 0278-3)

3)Bach  English Suite No.3,4,6      Sviatoslav Richter
                       1991年録音             (UCCD 9947)


★Quatuor Parrenin の録音は、音質もいいです。

Maurice Ravel モーリス・ラヴェル(1875~1937) の四重奏は、

彼が20代後半の作品ですが、第1楽章の冒頭を聴きますと、まさに、

Gabriel Faure ガブリエル・フォーレ(1845~1924)の、

弟子という印象です。


Celloによる、4度 motifの連続した畳みかけ、

それにかぶさるように、第2violinが10度音程(1オクターブと3度)で、

同じ motifを演奏していきます。

しかし、これを単純な「重音」とみるのではなく、

「Bach的音楽手法」で、考えるならば、

どのような意味をもってくるのでしょうか?

それを考え、追求しながら聴くことが、音楽の醍醐味、

楽しみは尽きません。

 

 


★「Bach的音楽手法」を、引き合いに出しましたが、

France近代音楽の始祖は、間違いなく、

Frederic  Chopin ショパン (1810~1849)です。

Chopinが、Franceで後半生をおくり、Franceを活動の場としたこと、

即ち、Bachの種をFranceに深く蒔いた、

といっても過言ではありません。


★その Chopin に続くcomposerとして、

Chabrier シャブリエ(1841~1894)、

Saint-Saëns サン=サーンス(1835~1921)、

そのSaint-Saënsの弟子で、後には親友となった、

Gabriel Faure ガブリエル・フォーレ(1845~1924)。

そのお弟子さんがRavel、というようにつながっていきます。


★例えば、 Gabriel Faure の  Piano works ピアノ作品をみますと、

nocturne、 impromptu、valse・・・。

これは、 Chopin の Piano works と全く同じです。


★ Chopin とBach との関係は、

当ブログで絶えず書いてきましたので、お分かりと思いますが、

Chopin の作品の根本原理である「Bach の作曲技法」が、

五月の薫風のような青年Ravelの作品に、しっかりと根付いていた、

ということが、Ravelが大作曲家となった所以でもあります。


★しかし、どんな名曲でも、素晴らしい演奏で聴かない限り、

“心奪われる”ことはありません。

このQuatuor Parrenin パレナン弦楽四重奏団の演奏は、

お薦めです。

 

 

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■「STEREO」誌が、無伴奏チェロ組曲SACDを優秀録音盤と紹介■

2015-03-27 23:58:29 | ■ 感動のCD、論文、追憶等■

■「STEREO」誌が、無伴奏チェロ組曲 SACD を優秀録音盤と紹介■
    ~ 4月15日 (水)新宿で、SACD の試聴会を開催 ~

             2015.3.27 中村洋子

 

 

★発売中の雑誌「STEREO」2015年4月号 (音楽之友社刊)で、

私の「 無伴奏チェロ組曲 」第2集が、「今月の優秀録音盤」

として、以下のように、詳しく紹介されています。

 

 

■ステレオディスク コレクション

●今月の優秀録音盤  福田雅光

演奏、音質、すべて最高の次元を目指し立ち上げた新レーベル第1弾

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

中村洋子 :無伴奏チェロ組曲第二巻(第4番~第6番)

 ●ヴォルフガング・ベッチャー(チェロ)

--------------------------------------------------------------------
ディスクユニオン GDRL1002
¥3,800 /  2014年12月30日

 

 日本の情感を描く中村洋子の作品を、カラヤン時代

ベルリン・フィルの首席奏者であったチェリストが演奏したアルバム。

高SN比で中低域の分解力が高く明確にチェロの旋律が描かれ、

広帯域でクォリティが高く、低音弦楽器の響きをリアルに

仕上げた内容が素晴らしい。低歪で解像度が高く質感、粒子が

大変きめ細かくCDとしては極上の音質が魅力。

本気(最善を尽くす)で制作すればこのような優秀CDが作れる。

SACDは輪郭が多少あまくなる印象はあるが

優劣は分かりにくい。

この新レーベルは作品、演奏、音質、すべて最高の次元を

目指しディスクユニオンが立ち上げた。

レーベル面の塗装は最小限。

塗装は一種のダンプ材として作用、解像度が有利であることを

理解しているレーベルは少ない。

                      総合評価96点

-------------------------------------------------------------------

 

 

★このSACDは、通常のCDプレーヤーでも聴くことができるように、

製作されていますので、その音質の比較が書かれています。

 

★最後の文章は、分かりにくいかもしれませんが、

「CDの盤面に何も印刷していない」ことを、指しています。

盤面に文字などを印刷しますと、音が劣化するため、

今回は、盤の内周の小さいところにタイトルなどを

印刷するに留めました。

 

 

★≪本気(最善を尽くす)で制作すればこのような優秀CDが作れる≫

という文章から、評者が本当にそう実感されていることが、

よく伝わってきます。

とても、うれしい評です。

 

 

★以前、お知らせしました試聴会は、予定通り開催されます。

http://blog.goo.ne.jp/nybach-yoko/d/20150316

 

 

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■「6 Suiten für Violoncello solo 無伴奏チェロ組曲全6曲」をSACDで発売■

2014-12-23 01:05:04 | ■ 感動のCD、論文、追憶等■

■「6 Suiten für Violoncello solo 無伴奏チェロ組曲全6曲」をSACDで発売■
~Sugimoto杉本一家mastering、supreme sound 究極の音質~
             2014.12.23  中村洋子

 

 

 

★昨日は冬至でしたが、明日から、少しずつ日が長くなると

思いますと、元気が湧いてきます。

年内には、私の「 Suiten für Violoncello solo Nr.2, 4, 5, 6

無伴奏チェロ組曲 2、4、5、6番」の楽譜が、

「 Musikverlag  Ries & Erler  Berlin  リース&エアラー社 」から、

出版されます。

これで、全6曲の楽譜が出版されることになります。


★また、私の「 6 Suiten für Violoncello solo

無伴奏チェロ組曲 全 6曲 」が、12月30日、

東京の「disk UNION」社から、

≪SACD≫という、超高音質のCDで発売されます。

組曲全6曲が、楽譜と演奏で、世界に旅立つことになりました。


★≪SACD≫は、技術革新により、従来のCDより、

飛躍的に音質が向上した、新しいCDだそうです。

発売前の、出来上がったばかりの≪SACD≫を聴きました。


★私が、自分で申し上げるのも憚られますが、

経験したことがないような、澄み切った音に、

全身が、包み込まれました。

Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー先生が、

日本で録音された時、すぐ脇で聴いていたあの音が、

蘇ってきました。

 


★澄み切った弱音は、蜘蛛の糸のように、

どこまでも細く、艶やかに流れ、

香りのように漂い、空中を舞います。


★低音の forteフォルテ、 pizzicato ピチカートは、

床を揺すぶり、エネルギーをもった音が、

体にぶつかってくるかのようです。


★一本のチェロが、オーケストラにも匹敵します。

聴きながら、静かな感動に浸っている自分に気付きます。

「記念碑的な音質のCD」として、残ることでしょう。


この≪SACD≫は、通常のCDプレーヤーでも、

聴くことができます。

その感動は、SACDプレーヤーで聴いた時と、

遜色ありません。

 

 


★この録音を、≪SACD≫という製品にするための作業である

「masteringマスタリング」を、してくださったのは、
 
 JVCの「Kazuie Sugimoto 杉本一家 」さんです。

無伴奏チェロ組曲の recording 録音も、

杉本さんの “ work 作品 ” ですので、

録音から商品化まで、すべてを杉本さんが、

手塩にかけて、作ってくださいました。


★特に、「masteringマスタリング」は、

音質を左右する「要」で、高度な技術力と経験が試されます。

杉本さんは、これまで、欧米の往年の maestro

マエストロたちの名演奏を、テープから remastering

リマスタリングして、CDに作り直す作業を、続けてきました。

その素晴らしい音質は、世界的に高い評価を受けています。


Arturo Toscanini アルトゥーロ・トスカニーニ

1867 - 1957)の、オーケストラ作品の復刻版は、

特に、名高いそうです。

また、NYなどにわざわざ招かれ、現地で mastering

マスタリングをされたこともあります。

日本が、世界に誇る Recording Engineer

レコーディング・エンジニアです。

 

 


その杉本さんが、今回は、技術を最大限に発揮し、

通常では、あり得ないほどの手間、時間をかけて、

mastering マスタリングを、して下さいました。

例えば、電気の質は、時間帯によって異なるそうです。

昼間、工場などが稼働している時間帯に mastering しますと、

「汚れ」、「ノイズ」が入ってしまうそうです。

深夜、世の中が寝静まったころを見計らって、

少しづつ、少しづつ、精神を集中して作業を進めました。

“作曲”という営みと、同じかもしれませんね。


★そうした努力の積み重ねの結果、

“静寂の極み”が、生まれるのです。

“静寂の極み”とは、「いい音」のことです。

 

 


★このCDジャケットには、たくさんの写真が載せられています。

Boettcher ベッチャー先生が演奏している迫真の姿、

名器 Matteo Goffriller ゴッフリラーの銘文、先生の弓と手、

先生と杉本さん、私の写真などです。

このようなメンバーで、このSACDを作った・・・

ということが、分かっていただけると思います。


★また、録音風景の写真もたくさんあります。

これは、「録音」に興味がある方には、

垂涎の写真かもしれません。

“杉本 magic ”の秘密が、暴露されているのです。

マイクの位置、高さなどは、本来は秘密です。

しかし、杉本さんは「何も隠すものはない」と、

その写真掲載を、了解されました。


★杉本さんの録音中、私が経験したことですが、

マイクの高さを、ほんの30センチほど上下させただけで、

「音質が、一変してしまった!!!」と、唖然として見ていたことを

覚えています。

つくづく、経験の世界であると、実感しました。

 

           Boettcher           Sugimoto


★また、ジャケットには、録音機材、マスタリング機材など、

プロフェッショナルな製品の名前を、明記しています。

これも、マニアの方には、大変参考になることでしょう


杉本さんが「何も隠すものはない」と、おっしゃるのは、

それらを公開しても、彼にしか出来ない「何か」があるからでしょう。

同じ機材、同じセッティングでも、

同質のものを録ることが出来るかどうかは、不明でしょう。

すべてを公開されたのは、

それだけ、自信がおありになるからでしょうね。

特に、masterig マスタリングの技術には・・・。


この≪SACD≫1枚で、

「私の作品」、

「Wolfgang Boettcher の名演奏」、

録音の芸術作品「杉本さんの音」を、

同時に、体験できます。

http://blog-shinjuku-classic.diskunion.net/Entry/2208/

 


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■「2度の motif」の「倚音 & 先取音」が Debussy 、Ravelの源 ■

2014-12-13 22:59:02 | ■ 感動のCD、論文、追憶等■

■「2度の motif」の「倚音 & 先取音」が Debussy 、Ravelの源 ■
~平均律 第2巻・アナリーゼ講座 第21番  Fuga  B-Dur ~
       2014.12.13          中村洋子

 

 

★冬至まであとわずか、今年は 22日 月曜日です。

お日さまが短く、暗い日は、

暖かい国の音楽を、聴きたくなります。


★Alicia De Larrocha アリシア・デ・ラローチャが演奏する、

Enrique Granados グラナドス(1867-1916)の、

Doce Danzas Espanolas を、聴いています。

晩年のラローチャさんの Schubert の Sonata を、

聴き行ったことがありますが、知性と暖かさに溢れ、

心に沁みる演奏会でした。


18日 木曜日は、 KAWAI 表参道「平均律第2巻・アナリーゼ講座」

≪第21番 B-Dur ≫です。

Prelude は、天から降り注ぐような B-Dur の下行音階で、始まります。

全体は、87小節と長大で、

 “countepoint  対位法の極致”のような曲です。

 

 


★ 続く Fuga は、小節数こそ 93小節ありますが、

一見しますと、明るく軽やか、こじんまりとした感じにもみえます。

しかし、じっくりと勉強いたしますと、その軽やかさは、

精妙巧緻な非和声音に、裏打ちされ、

和声という  “華”  が、爛漫と咲き誇っているのです。


冒頭4小節の「Subject 主題」の、3、4小節目

「2度の motif」に、 Bach はslur スラー を付けています。

 

 

 Bach が slur を付けているのは、ここのみです。

この slur によって出現する「2度の motif の和声」は、

一筋縄では、解けません。


その場面、場面で意味と非和声音の種類が、異なるのです。

Edwin Fischer エドウィン・フィッシャーの言葉をもじって言うならば、

≪すべてのmotifに、その各々の生命がある≫


★例えば、37小節目、

 

 

これを、和声音に要約しますと、

 


となり、

Es-Dur の Ⅴ1  Ⅳ1  Ⅴ7  の和音となります。

そうしますと、二拍目の内声 「 b   as 」  (変ロ音と変イ音)の

「 as 」 が、和声音となります。

 

 

「 as 」 の前に置かれた 「 b 」 は、非和声音となります。


★この場合、 「 b 」 は、

《 changing note 、 Wechselnote、倚音 (いおん )》という、

非和声音です。

この「倚音」につきましては、講座で

詳しく、ご説明いたします。


★次の3拍目の内声 「 as 変イ  g ト音 」 の 「 as 」 が、

《和声音》です。

 

 

では、その後の 「 g 」 は、一体何なのでしょうか?

答えは、「38小節内声1拍目の   g  ト音 」 を、先取りした音、

《 anticipation、Nachschlag  先取音  》と、考えることができます。

 

 


このように、37小節目の2拍目と3拍目は、

一見同じ「2度のmotif」に、見えますが、

拍目は「倚音 + 和声音」、3拍目は「和声音+先取音」であり、

その意味は、全く異なります。

演奏では、その違いを表現しなければいけません。


★この「倚音と先取音」が続いている 39、40小節は、

息を呑むような、美しさです。


★そして、そこにこそ、

Claude  Debussy  クロード・ドビュッシー (1862~1918)、

 Maurice Ravel モーリス・ラヴェル(1875~1937) の、

源泉を、見るのです。

 

 

----------------------------------------------------

平均律   第 2巻 アナリーゼ講座
    
第18回  第 21番 B-Dur BWV890 Prelude & Fuga

 ■ 日  時 :  2014年 12月18日(火) 午前 10時 ~ 12時 30分

 ■ 会  場 :  カワイ表参道  2F コンサートサロン・パウゼ

 ■ 予 約 :    Tel.03-3409-1958

 ---------------------------------------------------------------

 ■ 講師 :   作曲家  中村 洋子  Yoko Nakamura

 東京芸術大学作曲科卒。作曲を故池内友次郎氏などに師事。
日本作曲家協議会・会員。ピアノ、チェロ、室内楽など作品多数。

     2003 ~ 05年:アリオン音楽財団 ≪東京の夏音楽祭≫で新作を発表。

     07年:自作品 「 Suite Nr.1 für Violoncello
         無伴奏チェロ組曲 第 1番 」 などをチェロの巨匠
         Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー氏が演奏した
    CD 『 W.Boettcher Plays JAPAN
                         ヴォルフガング・ベッチャー日本を弾く 』 を発表。

     08年: CD 『 龍笛 & ピアノのためのデュオ 』
        CD 『 星の林に月の船 』 ( ソプラノとギター ) を発表。

     08~09年: 「 Open seminar on Bach Inventionen und Sinfonien
                  Analysis  インヴェンション・アナリーゼ講座 」
                    全 15回を、 KAWAI 表参道で開催。

     09年: 「 Suite Nr.1 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 1番 」 を、
    ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。
         

     10~12年: 「 Open seminar on Bach Wohltemperirte Clavier Ⅰ
                  Analysis 平均律クラヴィーア曲集 第 1巻 アナリーゼ講座 」
                全 24回を、 KAWAI 表参道で開催。

     10年: CD 『 Suite Nr.3 & 2 für Violoncello
                  無伴奏チェロ組曲 第 3番、2番 』
                        Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。
       「 Regenbogen-Cellotrios  虹のチェロ三重奏曲集 」 を、
             ドイツ・ドルトムントのハウケハック社
      Musikverlag Hauke Hack Dortmund から出版。

     11年: 「 10 Duette für 2 Violoncelli
                         チェロ二重奏のための 10の曲集 」 を、
    ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。

     12年: 「 Zehn Phantasien für Celloquartett (Band 1,Nr.1-5)
    チェロ四重奏のための 10のファンタジー (第 1巻、1~5番)」を、
      Musikverlag Hauke Hack  Dortmund 社から出版。

     13年: CD 『 Suite Nr.4 & 5 & 6 für Violoncello
                  無伴奏チェロ組曲 第 4、5、6番 』
                        Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。
           「 Suite Nr.3 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 3番 」 を、
    ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。

           スイス、ドイツ、トルコ、フランス、チリ、イタリアの音楽祭で、
    自作品が演奏される。

   ★上記の 楽譜 & CDは、
カワイ・表参道http://shop.kawai.co.jp/omotesando/ 
アカデミア・ミュージックhttps://www.academia-music.com/販売中

   ★私の作品の CD 「 無伴奏チェロ組曲 第 1 ~ 6番 」
   Wolfgang  Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー演奏は、
  disk Union クラシック館で、購入できます。

 

 

※copyright © Yoko Nakamura    
             All Rights Reserved
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■ 第 20番:前奏曲の半音階、フーガの跳躍音程と全音階、その究極の対比 ■

2014-10-11 02:16:07 | ■ 感動のCD、論文、追憶等■

第 20番:前奏曲の半音階、フーガの跳躍音程と全音階、その究極の対比 ■
 ~ 平均律 第 2巻アナリーゼ講座
第 20番  a-Moll Prelude & Fuga ~

                2014.10.11 中村洋子 

 

             

 

★20番 Prelude は、全32小節が「 二声 」で作曲されているように

見えますが、そうではありません。

冒頭1小節目を見てみましょう。

左手で弾く下声は、8分音符の下行半音階です。


★この半音階は、あたかも岩に時を一つ一つ刻みつけていくような、

峻厳さと同時に、地の深みに引き込まれていくかのような、

凄味ある底知れなさをも感じさせます。


右手で弾く上声は、一見しますと「 一声 」ですが、

実は、「 二声 」が一体化して「 一声 」となったものです

その一体化した「 二声 」の下声は

(左手の本来の下声と合わせて見ますと、内声となります)、

本来の下声の下行半音階に呼応して、下声に引きずり込まれるように、

半音階進行していきます。

 

★つまり、この1小節目は「 三声 」とみるべきで、

この1小節の中にある要素が、

Preludeの全32小節で、徹底的に展開されるのです。

 

 

 

★「 Messe in h - Moll ロ短調ミサ 」をはじめとして、

この下行半音階が、 Bach を Bach たらしめているのです。

いわば、Bach の “ 手兵 ”なのです。

この下行半音階が、Bach の和声とどのように結びついているか、

それを分かりやすく解説いたします。


Prelude の半音階に対して、

Fuga の Thema 主題( Subject と Answer )は跳躍音程進行、

対主題( Counter-subject )は、全音階進行を基として

成り立っています。



この対比は、Bach が平均律クラヴィーア曲集で追求してきた

「 調性の中で音階が果たす役割 」の最終結論である

ともいえます。


20番の調性が、1番 C-Dur の平行調 a-Moll であることも

無縁ではありません。

調性の中で音階の果たす役割を考えるうえで、最も重要なのは、

Harmony 和声です。

Bach の Counterpoint 対位法 と、Harmonyとの関係も、

実際にピアノで音を出しながら、ご説明いたします。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
  平均律 第 2巻 アナリーゼ講座

第 17回 : 第 20番 a-Moll BWV889 Prelude & Fuga

■日  時 :  2014年 11月25日(火) 午前 10時 ~ 12時 30分

■会  場 :  カワイ表参道  2F コンサートサロン・パウゼ

■予 約 :    Tel.03-3409-1958

---------------------------------------------------------------

■ 講師 :   作曲家  中村 洋子  Yoko Nakamura

東京芸術大学作曲科卒。作曲を故池内友次郎氏などに師事。
日本作曲家協議会・会員。ピアノ、チェロ、室内楽など作品多数。

    2003 ~ 05年:アリオン音楽財団 ≪東京の夏音楽祭≫で新作を発表。

    07年:自作品 「 Suite Nr.1 für Violoncello
         無伴奏チェロ組曲 第 1番 」 などをチェロの巨匠
         Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー氏が演奏した
    CD 『 W.Boettcher Plays JAPAN
                         ヴォルフガング・ベッチャー日本を弾く 』 を発表。

    08年: CD 『 龍笛 & ピアノのためのデュオ 』
        CD 『 星の林に月の船 』 ( ソプラノとギター ) を発表。

    08~09年: 「 Open seminar on Bach Inventionen und Sinfonien
                  Analysis  インヴェンション・アナリーゼ講座 」
                    全 15回を、 KAWAI 表参道で開催。

    09年: 「 Suite Nr.1 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 1番 」 を、
    ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。
         

    10~12年: 「 Open seminar on Bach Wohltemperirte Clavier Ⅰ
                  Analysis 平均律クラヴィーア曲集 第 1巻 アナリーゼ講座 」
                全 24回を、 KAWAI 表参道で開催。

    10年: CD 『 Suite Nr.3 & 2 für Violoncello
                  無伴奏チェロ組曲 第 3番、2番 』
                        Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。
       「 Regenbogen-Cellotrios  虹のチェロ三重奏曲集 」 を、
             ドイツ・ドルトムントのハウケハック社
      Musikverlag Hauke Hack Dortmund から出版。

    11年: 「 10 Duette für 2 Violoncelli
                         チェロ二重奏のための 10の曲集 」 を、
    ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。

    12年: 「 Zehn Phantasien für Celloquartett (Band 1,Nr.1-5)
    チェロ四重奏のための 10のファンタジー (第 1巻、1~5番)」を、
      Musikverlag Hauke Hack  Dortmund 社から出版。

    13年: CD 『 Suite Nr.4 & 5 & 6 für Violoncello
                  無伴奏チェロ組曲 第 4、5、6番 』
                        Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。
           「 Suite Nr.3 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 3番 」 を、
    ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。

          スイス、ドイツ、トルコ、フランス、チリ、イタリアの音楽祭で、
    自作品が演奏される。

  ★上記の 楽譜 & CDは、
カワイ・表参道http://shop.kawai.co.jp/omotesando/ 
アカデミア・ミュージックhttps://www.academia-music.com/販売中

  ★私の作品の CD 「 無伴奏チェロ組曲 第 1 ~ 6番 」
   Wolfgang  Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー演奏は、
  disk Union クラシック館で、購入できます。

 

 

 

 

 ※copyright © Yoko Nakamura                                                All Rights Reserved
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■ブラームス第 4交響曲冒頭、幻の4小節があった、しかし、あえてそれを削除■

2014-07-28 20:03:40 | ■ 感動のCD、論文、追憶等■

■Brahms第 4交響曲に、幻の出だしがあった、しかし、あえてそれを削除した■

               2014.7.28    中村洋子

 

 

                                                                     ( 合歓 )

 


★梅雨が明けると、焼けるような真夏の日差し。

日本の四季は、律儀ですね。


★秋以降の「KAWAI・名古屋アナリーゼ講座」スケジュールです。

 ■第 15回 インヴェンション&シンフォニア 第15番 h-Moll
  ~15番は、Inventionen & Sinfonien 全 30曲の Coda ~
      2014年 10月 29 日(水) 10:00 ~ 12:30
         カワイ名古屋2F コンサートサロン「ブーレ」

 ■「 Concerto nach Italienischen Gusto イタリア協奏曲 」 
  ~ 第1楽章
        2015年 2月25日(水)10:00~12:30
  ~ 第2、3楽章
        2015年 3月25日(水)10:00~12:30
         カワイ名古屋2F コンサートサロン「ブーレ」

 

 


★前回のブログで、 Johannes Brahms ブラームス(1833~1897)の、

「 Symphony No.4 交響曲第 4番 」 について、

Celibidache チェリビダッケ の Brahms観と合わせて、書きました。


★Brahmsの 「 Symphony No.4 Manuscript Autograph 自筆譜 」 は、

1885年10月25日の Meiningen マイニンゲンでの初演に、使われ、

1886年 Simrock ジムロック出版が Berlinで出版する際にも、

それを基に、Engraver 彫り師が版を作ったようです。


★第 1楽章は、 51 pages あり、Brahms 自身が黒いペンで、

page 番号を、記入しています。


★51 page の真ん中で、 第 1楽章は終わっているのですが、

その右を見ますと、とても興味深いことに、

さらに 「 4小節 」 が書かれているのです。

青い鉛筆で、その 「 4小節 」 を、

第 1楽章の冒頭に持ってくるようにと、

指示する記号も、書かれていました。


★しかし、その 「 4小節 」 には、たくさんのバツ印が引かれ、

結果的に、削除してありました。


★この 「 4小節 」 は、「 Symphony No.4 」 の、

「 幻の出だし 」 だったのです。

 

 

 

 


★詳しく、「 4小節 」 を見てみますと・・・、

「 1小節 」 は、ティンパニーを除いた、 「 f 」 の tutti 総奏 による、

重厚な和音です。


★div.分割された violin ヴァイオリンの、一番高い音は、

「 3点 ホ音 e3 」。

聴く人には、この高い 「 ミ 」 の音が、耳に焼き付きます。

この時の和音は、 e-Moll  の Ⅳ 下属和音です。

この和音による衝撃的な “ 一撃 ” の後、

弦楽器は 1小節後半から 2小節まで、沈黙します。


★flute、oboe、clarinet、fagotto、horn が、

dim.ディミヌエンドしながら、 「 c2 - h1 - g1 」 、

「 c1 - h - g 」 の旋律を、聴かせます。

「 h1 - g1 」 は、現行の曲頭の 「 h2 - g2 」 の、先取りでしょう。


★この 4小節では、弦楽器はすべて pizzicato ですので、

管楽器を聴かせるオーケストレーション、といえます。


★和声については、 1、 2小節は 「 下属和音 Ⅳ 」 、

3、 4小節は 「 主和音 Ⅰ 」 です。

そして、この 「 幻 」 の 4小節の最後の拍が、

現行版 arco の Violin 1、2で奏される

Auftakt  「 h2 」 と 「 h1 」 との、ユニゾンになるのです。

 

 

 

 


この 「 幻の 4小節 」 も、見事な音楽です。

Brahmsは、一旦、現行版を完成させ、

そして、この 「 幻の 4小節 」 を加えた版を作ろうとしました。

しかし、推敲に推敲を重ね、

最後に、 「 幻の 4小節 」 を捨てました。


私は、この 「 捨てる 」 という “ 創作の営み ” を、

Brahms が、あえて断行できたことで、

この曲が、さらなる永遠の価値を得たと、

思います。


★ 「 幻の 4小節 」 がない現行の曲頭は、聴く人に対し、

音楽が、「 唐突 」 に始まったような印象を、与えます。

この “ 唐突感 ” は、どこかで経験されたことがございませんか?


★そうです、 Wolfgang Amadeus Mozart 

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756~1791)の

Symphony No.40  K.550  「 g-Moll 」 です。

よく似ています。


★ Mozart も、曲頭に和音の tutti 総奏 を置いてから、

おもむろに、現行版の出だしにつなげることも可能でした。

彼の作風から、十分にそうした可能性も考えられます。

 

 

 

 


しかし、 Mozart も Brahmsも、あえてそれを捨てました。

それが、この二つの大傑作に見られる、

≪ 究極の技法 ≫なのです。

大上段に振りかぶる 「 出だし 」 をすべて消し去り、

いきなり、 「 本質 」 を提示したのです。


この両曲を聴く人の耳には、冒頭を聴いた瞬間、

その前から、音楽がすでに鳴り響いている・・・、

ずっと、鳴り響いていた・・・、

その音楽の美しい渦に、出だしを聴いた瞬間から、

呑み込まれ、巻き込まれる、ひたる・・・、

そのような錯覚を、呼び起こすでしょう。


初めて聴いた人でも、その冒頭の

美しさは、決して、忘れえない記憶として、

残ることでしょう。


これこそ、両天才が、晩年に行きついた、

究極の手法です。


★しかし、この ≪ 究極の手法 ≫ が、突然閃いたのでしょうか?

そうではありません。

その根源は、実は、Bach の

「 Wohltemperirte Clavier Ⅱ 平均律クラヴィーア曲集 第 2巻 」

第18番  fis-Moll に、あるのです。

Mozart 、Brahms がいかに、Bach を深く勉強していたか、

ということの証明なのです。

 

 

 

 

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■ Celibidache チェリビダッケ は、 Brahms ブラームスをどう見ていたか■

2014-07-22 19:04:25 | ■ 感動のCD、論文、追憶等■

■ Celibidache チェリビダッケ は、 Brahms ブラームス をどう見ていたか■
               2014.7.22   中村洋子


 

 


★梅雨空も終わり、蝉の音も、聞こえ始めました。

間もなく、盛暑ですね。


Sergiu Celibidache セルジウ・チェリビダッケ(1912~1996)が、

若かりし頃、

Berliner Philharmoniker ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団を、

指揮した演奏の CD集を、聴いています。


★特に、ブラームス Johannes Brahms (1833~1897)の、

「 No.4 Symphony 第 4交響曲 」 は、

私の大好きな曲で、この曲を、これ以上の演奏で、

聴いたことがないといえます。


★幸い、「No.4 Symphony 第4交響曲」 の 、

「 Autograph 自筆譜 」 の facsimile がありましたので、

それも見ながら、聴いております

横長の 「 Autograph 自筆譜 」  facsimile は、

ページをめくる所が、手垢で、黒ずんでいます。

実に、美しい手書き譜です。


Celibidache チェリビダッケ の演奏も、Brahmsの作品も、

両者とも、全く無駄がなく、骨格がはっきり浮き出て、

それでいて、馥郁たる香りが漂うような、

豊かな肉付けも、されています。






★この演奏は、1945年 11月 2日。

Wilhelm Furtwängler ヴィルヘルム・フルトヴェングラー(1886 - 1954)が、

指揮をできなかった頃です。


★ Celibidache チェリビダッケが、そのまま Berlin に留まって、

もし、指揮を続けていましたら、現在のクラシック音楽は、

少しは変わっていたと、思わざるをえません。


★この Celibidache チェリビダッケ の語った言葉を集めた本が、

出版されています。

日本語訳は、
「 私が独裁者? モーツァルトこそ! チェリビダッケ音楽語録 」
             シュテファン・ピーンドル&トーマス・オットー編 
                       音楽之友社


★この本に、ブラームス Johannes Brahms (1833~1897)

についての、記述がありますので、写してみます。


★≪ヨハネス・ブラームス≫
「脂肪分がなく、骨と筋肉しかない男」

「彼は作曲法と表現法をみごとなまでに意のままにし得た。
彼にとって他の作曲家の技法などまったくどうでもよいことだった。
そしてなおひどいことには、彼はまったくそれを知らなかったということだ」
(アントン・ブルックナーとくらべて)

                     
★この日本語を、普通に読まれる方は、

Celibidache チェリビダッケ が、随分と、

Brahms  を馬鹿にし、軽蔑しているように、

受け取られると思います。






私は、 Celibidache チェリビダッケ の Brahms 演奏を聴く限り、

彼は、最大限の愛と尊敬を、 Brahms に捧げていると、

思います。

「 本当に、そのようなことを彼が言っているのかしら? 」 と、

腹立たしい思いで、原本のドイツ語の本に当たりました。


★原本は、≪ Stenographische Umarmung  速記者の抱擁 
Sergiu Celibidache
beim Wort genommen  Stefan Piendl und Thomas Otto  ConBrio ≫

(「速記者の抱擁」の意は、多分、早口で語られた話を、
速記(者)のように素早く、愛情込めて書き留めた、
というようなニュアンスであると、思われます)


Johannes Brahms

" Das ist einer,der kein Fett Kennt, nur Knochen und Muskeln!"

"Er hat sein Komponieren, seine Ausdrucksweise wunderbar beherrscht. Diejenige des anderen war ihm völling unbekannt"
                             ( Über das Verhältnis zu Anton Bruckner )

                            と、書かれています。


★直訳いたしますと、
≪ 彼はそういう人です。脂がなくただ骨格と筋肉だけである。
彼は作曲しました、素晴らしくマスターした彼の表現法で。
彼にとって、他の人の作曲法は、全くどうでもよかった。
そしてさらに、気の毒であるが(or 痛ましいことに)、
彼は、他の人の作曲法を、全く知らなかった。≫
       (アントン・ブルックナーとの関係について)


★普通のこなれた日本語にいたしますと、次のようになると、思います。

≪Brahmsは、ぜい肉のない、引き締まった骨格と筋肉だけの人。

手の内に入った素晴らしい表現で、作曲したのです。
自分の方法で、作曲することに専念していたので、
同時代の作曲家は、彼にとってどうでもよかった。
そして、気の毒なことに、Brahmsは、それらを知らなかった。≫







★晩年のBrahmsは、とても肥満し、その肖像画は有名です。

骨格と筋肉だけの人 」 と言ったのは、

“ 彼の作品は、体形とは正反対である “ と、

ユーモアを込めて、語ったのでしょう。


★また、 Celibidache チェリビダッケ は、

≪ 気の毒なことに、他の作曲家を知らなかった ≫ と、

語っていますが、実は、そうではないのです。

Brahmsは、 Richard Wagner リヒャルト・ワーグナー(1813~1883)

について、よく勉強し、お互いに友好的で、

尊敬し合っていました。


★Brahmsの、他の著作を読みますと、

彼は、次のように、話しています。

≪ 他の作曲家については、“知らない”と言いなさい ≫ と。
 
“ 知らない ” としておくのが、煩わされず、最も雑音が入らず、

最良の処世知なのでしょう


★Celibidache チェリビダッケ は、Brahmsの韜晦を、

十分に、承知していたが故、

≪ 気の毒なことに、(ワグナーやブルックナーのような素晴らしい)

他の作曲家を知らなかった ≫ と、わざわざ語って、

煙に巻き、からかっていたのでしょう。


★このように見てきますと、この Celibidache チェリビダッケ の言葉は、

≪ Brahms への homage 賛歌 ≫ なのです。

自筆譜を見ながら、Brahms No.4 Symphony を聴きますと、

つくづく、それを実感いたします。

本当に、素晴らしい演奏です。






★この言葉は、( Über das Verhältnis zu Anton Bruckner )の中で、

出てきた言葉のようです。

日本語訳では、「 アントン・ブルックナーとくらべて 」 とありますが、

「 アントン・ブルックナーとの関係について 」 が、妥当でしょう。

天才同士を比較するようなことは、する必要もなく、

そんなことは、しないからです。


★再度、日本語訳を見てみます。

★≪ヨハネス・ブラームス≫
「 脂肪分がなく、骨と筋肉しかない男 」

「 彼は作曲法と表現法をみごとなまでに意のままにし得た。
彼にとって他の作曲家の技法などまったくどうでもよいことだった。
そしてなおひどいことには、彼はまったくそれを知らなかったということだ 」
(アントン・ブルックナーとくらべて)


★この文章からは、

Celibidache チェリビダッケは、Brahmsを

≪ 大変な変人で、全く勉強もしていない ≫ と見ていた・・・、

そのように受け取らざるを得ないと、思います。

悪意に満ちた、中傷のような文章です。









★多分、これは、訳者が “ Celibidache チェリビダッケ は変人である ”

という、世間に流布された先入観に、囚われていたため、

その偏見に沿うように、訳したのではないかと、思われます。

例えば、≪ 骨と筋肉しかない 「男」 ≫、≪ なお「ひどいこと」には ≫。

「 男 」 は、犯罪者に使うような言葉でしょう。


★「 あとがき 」 で、訳者は、

≪1986~7年にかけて一年間ミュンヘンに滞在していたので、
その間ミュンヘン・フィルハーモニーの毎回の定期演奏会に出席して、
彼の指揮スタイルにつぶさにふれることができた。
だが、ここはその体験や感想を披露する場ではなかろう。
しかし、別の思いではある。≫

として、 Celibidache チェリビダッケ が足腰が弱り、

よちよち歩きしかできなかったことや、

珍しく、女性トロンボーン奏者がいたことなどを結構、

長く書かれています。

せっかく、一年間、 Celibidache の演奏に接するという

貴重な体験をされた訳ですので、読者は、指揮のスタイルや、

どんな演奏であったのかについての、感想のほうを、

聴きたいでしょうね。


Celibidache チェリビダッケ の CD集は、

「 audite 21.423 」  Celibidache  The Berlin Recordings
                                                                             です。





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■ Furtwänglerの、記念碑的な Matthäus-Passionマタイ受難曲 の名演■

2014-05-21 02:02:11 | ■ 感動のCD、論文、追憶等■

■ Furtwänglerの、記念碑的な Matthäus-Passionマタイ受難曲 の名演■
~Bach の音楽的思考が、スケルトンのように明確に分かる演奏~
      ~27日の 平均律 第2巻 アナリーゼ講座は、15番 G-Dur~
            2014.5.21     中村洋子

 

 

 


★「 Musikverlag  Ries & Erler  Berlin  リース&エアラー社 」 から、

近く出版されます、私の 「 Suite für Violoncello solo Nr.2

無伴奏チェロ組曲 第 2番 」 の校訂作業が、ほぼ終わりましたが、

引き続き、「 Suite für Violoncello solo Nr.4

無伴奏チェロ組曲 第 4番 」 の校訂が始まり、忙しい毎日です。


★忙しい時にこそ、ついつい、違うことに手を伸ばしてしまいます。

このところ、ブログで書いております Wilhelm Furtwangler 

ヴィルヘルム・フルトヴェングラー(1886~1954)の、

作曲作品も、「  Ries & Erler  Berlin  リース&エアラー社 」から、

出版されています。

その Furtwängler が亡くなる直前、1954年に録音しました、

≪ Matthäus-Passionマタイ受難曲 ≫ を、聴き始めてしまいました。


★この演奏は、一部が割愛されていますが、

聴き出しますと、もう止められません。

3回も、繰り返して聴いてしまいました。

 

 


★ Furtwängler につきましては、≪  神秘的 で偉大な指揮者 ≫、

というイメージが、いまだにはびこり、

そのように思い込んでいらっしゃる方も多いと、思います。


★今回、≪ Matthäus-Passionマタイ受難曲 ≫ の直筆ファクシミリを、

見ながら、 Furtwängler の指揮を聴きますと、

5月 3日の当ブログ

 http://blog.goo.ne.jp/nybach-yoko/d/20140503 で、

書きました ≪ unbeirrbarorganischen 揺るぎない有機性≫

という意味が、疑念を差し挟む余地が全くないほど、

ヒシヒシと、伝わってきます。

その具体的な意味を、再度、貼り付けますと、

≪ 譬えて言いますと、一つの煉瓦から、巨大なピラミッドを、

どのように構築していくか、ということです。

最少の motif モティーフを、 countepoint 対位法 、harmony という

クラシック音楽の 「 根幹の設計図 」 に基づき、

少しづつ発展させ、組み合わせ、巨大な宇宙の構築にまで、

発展させる方法論のこと ≫ なのです。


★つまり、 Furtwängler の指揮で、≪ Matthäus-Passionマタイ受難曲 ≫

の構造が、これ以上ないほど明確に現れてくる、

 Bach の音楽的思考が、まるでスケルトンのように分かってくる、

のです。

ということは、聴いていて、とても分かりやすい、

という意味です

 

 


Furtwängler に対する “ 神秘的 ” という形容詞は、

この ≪ unbeirrbarorganischen 確固たる、有機的な ≫ という

キーワードを、「 格調 」 と訳した新潮社文庫のように、

勉強不足で、 Bach の音楽を読み取ることのできない人が、

その理解力不足を糊塗するための、形容詞なのでしょう。

決して、神秘的ではなく、 ≪ 明快 ≫ そのものの音楽なのです。


★私が、どうして Furtwängler の演奏を、

読み取ることができるようになったのかを、考えますと、

いろいろな要素が、挙げられます。


「 無伴奏チェロ組曲 」 を六曲書き、 Bach の世界に半歩でも、

近づきたいと、努力したことや、

「 Inventio & Sinfonia インヴェンション & シンフォニア 」 の、

「 アナリーゼ講座 」 を開催し、そこで、 Edwin Fischer

エドウィン・フィッシャー(1886~1960) の校訂版を、徹底的に学び、

 Bach の構築性を、教えられたこと


★残念ながら、Edwin Fischer の平均律校訂版はありませんので、

それに匹敵するであろう、Bartók Béla  バルトーク (1881~1945) や、

Julius Röntgen ユリウス・レントゲン (1855~1932)の、

平均律クラヴィーア曲集1、2巻校訂版を、学ぶことにより、

 Bach の音楽の構造をどう解析するか、その方法論を学んだこと。

 
★さらに、 Furtwängler の作曲した曲を、彼自身の指揮で、

聴いたことも、大変に勉強になりました。

そこに、彼の曲の構造を、演奏にどのように結びつけているかが、

実によく表れており、その手法が、読み取れました。

 

 


★ Edwin Fischer と Furtwängler は、

Beethoven Piano Concerto No.5 の歴史的名演など、

数多く共演し、真に理解し合う仲でした。

Edwin Fischer が録音した 「 平均律クラヴィーア曲集 」 は、

「 Bible 聖書である 」 と、Wolfgang  Boettcher 先生が、

常々、話されています。


Furtwängler の≪ Matthäus-Passionマタイ受難曲 ≫ が、

一点の曇りもなく、分かりやすい演奏であるのは、上記の理由からです。

日本で広まっている 「 神秘的でデモーニッシュな指揮者 」 という

Furtwängler 像は、彼の実体とは、大きくかけ離れていると、

私には、思えます。

 

 


★一例を挙げます・・・

≪ Matthäus-Passionマタイ受難曲 ≫ の冒頭の合唱と orchestra の

『 Kommt, ihr Töchter, helft mir klagen 』 で現れる、

「 バスのオクターブにわたる音階上行形 」 には、

≪ Matthäus-Passionマタイ受難曲 ≫ の構造を、解くカギがあるー

といっていいほど、重要な部分です。

 Furtwängler の指揮から、その重要性が、余すところなく、

伝わってくるのです。


★「 平均律第 1巻 」 が1722年 完成、

そのエッセンスを凝縮した 「 Inventionen und Sinfonien 

インヴェンションとシンフォニア 」  ( 初心者用の曲ではありません ) が、

1723年 完成、≪ Matthäus-Passionマタイ受難曲 ≫ の初演が、

1727年です。

この 3曲が 1720年代に完成していますが、それらを共通して、

読み解くカギが、平均律第 1巻の 「 序文 」 にあると、

言い切れます。


★それにつきましては、24回にわたった 「 平均律アナリーゼ講座 」 で、

既に、詳しくご説明いたしましたが、

≪ 調性をどう解釈するか ≫ という問いへの、解答が、

 「 序文 」 にあり、それの具体例がまさに、

「 バスのオクターブにわたる音階上行形 」 なのです。


★自著で書かれていますように、

Furtwängler にとっても、 Bach は至上の作曲家です。

そして、≪ Matthäus-Passionマタイ受難曲 ≫ の指揮で、

“ これが、私の Bach です ” と、言っています。

思わず、膝を叩きたくなるような、音階の演奏。

 

 


5月 29日の 「 平均律第 2巻 アナリーゼ講座 」 は、

15番 ト長調 G-Dur です。

平均律第 2巻は、≪ Matthäus-Passionマタイ受難曲 ≫ 初演から、

10年後の 1739年に、London Manuscript が、残っています。


★その10年間で、 Bach の調性への取り組みが、さらに、

深まり、「 平均律第 1巻 」 や、≪ Matthäus-Passionマタイ受難曲 ≫

とは違う世界を、形成しています。

15番 G-Dur は、独自配列の Bartók版 ( 全 2巻 ) では、

「 第 1巻の冒頭の曲 」 でもあるのです。


このことは、 Bartók が Bach を、どのように、分析していたか、

ということの答えに、なるでしょう

講座で、この点について、詳しくお話いたします。


★音楽の演奏は、年々進化していくように、思われる方が、

多いかもしれませんが、

昔の時代の演奏が、時代遅れでは全くありません。

 Bach をバロック音楽の中に位置付け、

≪ バロックというタガを嵌める ≫ のは、滑稽であると、

いうべきでしょう。

 

 

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         ● 中村洋子 平均律 第 2巻  アナリーゼ講座

■ 第 12回 第 15番 G-Dur BWV884 Prelude & Fuga

 ~ 平均律 2巻 前奏曲になぜ、Binary form(二部構成)が多いのか~

■ 日  時 :  2014年 5月 29日(木) 午前 10時 ~ 12時 30分

■ 会  場 :  カワイ表参道  2F コンサートサロン・パウゼ

■ 予  約  :     Tel. 03 - 3409 - 1958

 

 

 

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