僕のほそ道   ~ のん日記 ~

  
これと言ったテーマはなく、話はバラバラです。 つい昔の思い出話が多くなるのは年のせい? 

四国自転車旅行 ② 悲しき龍馬伝

2010年08月29日 | ウォーク・自転車

 

 

 

僕はこの時まで四国には一度も行ったことがなかった。
北陸、東北、北海道、関東、東海の各地は自転車で走ったし、九州は高校の修学旅行や、仕事の出張で行ったことがある。
しかし、目と鼻の先にある四国には、行ったことがないのだった。

しかし、四国…特に高知県は、妻の父母の出身地である。
父親は佐川というところで生まれ、母親は須崎というところで生まれた。
妻の兄は、高知県の中村高校の野球部だったし、中村には、今も妻のほうの親戚の人が住んでいる。現在は中村市の名は無くなり、合併して四万十市になっている。

ちなみに、次男のお嫁さんも高知の学校を出て、大阪へ来た。
高知から時々来られるお嫁さんのご両親は、バリバリの高知弁を話される。
また以前のコメント蘭でおなじみだったyukariさんも、高知とは縁が深いとお聞きしている。
そんなことで、高知には何となく親近感がある。

さて、恐ろしくきつい坂道を上がりきったところにある「国民宿舎むろと」で1泊して、第2日目は高知の市街地まで走る予定だ。

早朝、あわただしく妻に手紙を書く。
今回の旅行は毎日、その日の出来事を妻に手紙で書いて送ることにしている。だから旅の日記はつけない。大阪に帰ってから、その手紙をもとに旅行記をノートにでも綴っておくつもりだ。

宿舎の玄関で、職員さんに写真を撮ってもらって8時20分に出発した。


  
   2日目の出発前。「国民宿舎むろと」の玄関で。


今日の室戸スカイラインは心地よい。
昨日は疲れきっていたので周囲の景色にまで気が回らなかったが、今こうして見ると、土佐湾から太平洋へと、眼下に広がる海の風景はまるで絵画のようである。車の影もほとんど見えないので、ゆったりとペダルをこぐ。ひんやりとした空気がとても心地よい。

起伏に富んだ道路を、朝の引き締まった冷気を浴びて、登ったりったり下ったりしながら爽快な走りを続けることができた。まことに「昨日は地獄、今日は極楽」の室戸スカイラインであった。

しかし、それにしても尻が痛い。腕、手のひら、足のつま先も痛むが、特に尻の痛さは尋常ではない。下り坂ではさっそうと風を切って疾走するのだけれど、サドルに座っていると痛むので、尻のやり場に困るのである。難儀やなぁ。

やがて室戸スカイラインがなくなり、海岸近くの室戸市街に入る。
郵便局のポストに妻への手紙を投函する。
その郵便局の前に、室戸市役所があった。
そういえば、2年ほど前に室戸市議会議員が数名、僕の勤める松原市の議会へ視察に来たことがあったなぁ。あのとき接待してあげたんだから、これから室戸市役所の議会へ行って冷たいお茶でも呼ばれるか…と思ったというのは嘘である。そんなあつかましいこと、ようしまへんわ。

再び国道55号に出て、高知市まで80キロの表示が上がっていた。
土佐湾シーサイドコースを走る。
同じ海の景色でも、昨日の室戸阿南海岸国定公園は、ゴツゴツした岩が多く、男性的な景色を呈していたが、こちらの西海岸はほとんど砂浜で優しげな風景が広がっており、道路も平坦で走りやすい。

途中に湧き水が出ているところでは必ず止まり、頭や顔がびしょびしょになるまで冷たい水をかぶるのが気持ちいい~。

11時に安芸市に到着した。
しかし、国鉄線が未通なので駅がない。
いつも駅で休憩し、時には食事をしたりするが、駅がなければ話にならぬ。
落ち着かない気分で、安芸市を後に出発した。

11時45分。道路わきに小さな中華店があったので、そこに入った。
カウンター席しかない、小さくて薄汚れた店だった。

「いらっしゃい!」と店の主人は僕の姿を見るなり、「おっ」と何事かを納得したような表情でキンキンに冷えた水をプラスチック容器いっぱいに入れてきて、
「これ、まず水筒に入れておきなさいよ」と僕に差し出した。
自転車ごと店に入ってきたわけじゃないのに、僕がサイクリングをしていることがひと目でわかったのだろう。僕の顔を見るといきなり冷たい水を、とにかくまず水筒に入れなさいと、さっと差し出してくれたのである。

「この道路はね、毎年夏になるとサイクリングの人が沢山走るんだよ。この店にもよく入ってくれるけど、必ず水筒に入れる冷水がほしいって言うもんだから、言われる前にこっちが先に出すわけ」と解説してくれた。そして主人は、
「そうか。またそういう季節がやって来たのかぁ」とつぶやいた。
僕は今シーズンのサイクリングの「ハシリ」だったのだろう。
たしかに、この7月上旬は、道でサイクリストとすれ違うことも少ない。
「8月になったら、うじゃうじゃ走っているよ」と主人。

そんなことを話しながら400円の焼飯を注文して食べたら、ずいぶん辛かった。
せっかく水をもらっても、これじゃぁすぐに喉が渇いてしまうではないか。

南国市を走っていると道端にスーパーがあったので休憩に入った。
あぁ、暑い。クーラーの効いたスーパーの中は絶好の避難場所だ。
自動販売機のサイダーとジュースを立て続けに飲み、ベンチに腰掛ける。
もうずっと、ず~っと永遠にここに座っていたいという気持ちになる。

しかしまあ、あと30分ほどで、今日の目的地の高知市街に着くのだから、ここは重い腰を上げて、自転車にまたがらなければならない。は~い、出発ぅ~。

国道55号が高知市内に入ったとたん、それまで量の少なかった車が、どこから現れたのか、急に増えてきた。中心地に入ると、まるで大阪に帰ってきたような賑わいぶりである。市電と市バスがやたらと目につく。

高知駅で休憩するが、トイレの鏡を見て、またびっくり。赤茶色にギラギラ光る鏡の中の顔。鏡を見る度にだんだん自分の顔でなくなっていくような気がする。

売店で缶ビールを買って飲むが、スーパーで飲んだサイダーやジュースのほうがはるかにおいしい。…この瞬間、「疲れ果てた体にはビールより清涼飲料水の方がおいしいのだ」という人生の真実に目覚めた僕なのであったが、その後は、また今日に至るまで「何はさておきビールがうまい」の凡俗に戻ってしまったのは残念なことである。



   
    高知駅で。


時計を見ると、午後2時半だ。
この日はまだ大事なことが残っているのだ。
この旅行ではおよそ観光など眼中になかったが、ただ一箇所だけはどうしても見ておきたい場所があった。桂浜に立つ坂本龍馬像である。

北海道への自転車旅行のとき、東京の新宿から自転車で日本一周している男性がいた。年上で豪快な人物だったので、僕はその男性を「新宿の大将」と呼んだ。

僕は「大将」と帯広駅で出会い、そこから襟裳岬、苫小牧、函館、青森県の下北半島から八戸で別れるまで、ず~っと一緒に走った。「大将」は勤め人だったが、どうしても坂本龍馬の像を見たくて、仕事を休職までして自転車で走り出したと言った。自分の最も尊敬する人物である坂本龍馬の像に会いに行くための自転車旅行だったが、どうせなら日本一周をしよう、と相成ったそうだ。

僕も高知駅まで来て、その龍馬像を見ずに帰るのも芸のない話だ。
今回は、ここだけ特別に観光しよう、と決めていた。
龍馬像の前で写真を撮って、長い間会っていない「大将」に送ってみよう。

「桂浜方面」と書かれてある、駅からまっすぐ南に伸びる道路を走る。ここから桂浜までは、約10キロとのことである。

走り始めて7、8分で宇津野トンネルに入る。トンネルを出ると急に道が狭くなり、車も家族連れらしい乗用車が圧倒的に多くなった。長浜というところを左にカーブすると右手に太平洋が見えてきた。海にぴったりと沿ってペダルをこいでいると、前方にひときわ華やかな「桂浜観光ホテル」が見えてきた。

ホテルからクネクネした下り坂を降りていくと、土産物やなどが並び、大きな駐車場がある。ここへ自転車を置き、歩いて桂浜に行く。浜辺はこじんまりしていたが、何だかまとまりが良すぎて映画のセットみたいにも思えそうだが、前方に待望の坂本竜馬像が立っているのが見えるとゾクゾクとしてきた。

「う~む、これが、かの有名な坂本龍馬像か…」
像の前に立って、龍馬の顔を見上げる。感慨もひとしおである。

さて、写真だ。像をバックに写真を撮ってもらわなければならない。

ひとり旅で自分を撮ろうと思えば、当たり前のことだが、人に頼まなければならない。かつて、太宰治の実家である津軽の「斜陽館」がまだ旅館をしていた頃に、僕はそこを訪れ、玄関先で通りがかりの人に写真を撮ってもらうようお願いした。しかし、それはまことに不幸なめぐりあわせだった。僕に写真を頼まれた女性は、生まれて一度も写真を撮ったことがない…つまり、カメラを持ったことがない、という人であった。
「じゃぁ、いいです」と言おうにも、ほかに人影はなく、またその女性も「どこを押すか教えてくれたら撮れますよ」とわりに気安く言うので、つい「お願いします」とカメラを手渡した。でも、教えてあげてもやっぱりシャッターの位置がわからないようで、関係ないところを押したりする。どうにか撮ってもらって、後でその写真を現像して見たら、僕の顔がカメラに向かって「あ、そこを押すんじゃありませんよ、シャッターはそっちです、そっち…」と指差して叫んでいる表情がそのまま写っていた。

ああいうことのないようにと、僕は写真の上手そうな人を探した。
しかし周囲は団体さんばかりだったので、仕方なく、その中の一人の中年男性に写真を撮ってくれるようにお願いし、龍馬像の前に立った。

写真を撮り終えた中年男性は、僕にカメラを渡しながら、
「思ったよりシャッターが硬かったんで少しブレたかも知れないです。まぁ、大丈夫と思うけど」と、心細い言葉を残して離れて行った。

当時はむろんデジカメなどはない。
今のように、撮った画像がその場で見られる時代ではなかった。

旅行から帰って、フィルムを写真屋さんに出し、出来上がってきた写真を見て、僕は絶句した。この貴重な坂本龍馬像の前での写真が…

こともあろうに…
坂本龍馬の首から上が、写っていなかったのである。とほほ。

 


   
   この場所で撮ってもらったのはこれ1枚だけ。
  あぁ、せめてもう1枚、ほかの誰かに頼めばよかったぜよ。

  
追伸 
 さすがにこの写真は「新宿の大将」には送れなかった。
 「なんだこりゃぁ。顔が写ってねえじゃね~か」と言われますものね。

 

  

 

 

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6 コメント

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すごいオチですね。 (akira)
2010-08-30 00:12:30
龍馬の顔が切れてた。爆笑です。(~o~)
何かしら”オチ”がつくところは、根っからの大阪の方だと言う事でしょうか。笑

もう30年も前なんですよね。
最近、駅舎も高架化されましたが、このドアは、当時の”みどりの窓口”のドアですよね。

私は自転車で海岸線を走る根性はなかったので、せいぜい単車でツーリングでしたが、それでも室戸から奈半利、安田を抜けて安芸を通って、赤岡、南国を抜けて高知市まで。

のんさんの思い出と一緒に、記憶の中で走ってみました。とても懐かしい光景がよみがえります。

龍馬像の台座をよじ登って、龍馬の足元まで上がったところで巡回の警備員に見つかってしまい、叱られた子供の頃も思い出しました。笑!
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詳しいですね~ (akiraさんへ)
2010-08-31 05:28:43
上方落語のファンなものですから、オチがつかないと話を終えられない…みたいな気持ちがどこかにあるのでしょうね。

室戸スカイラインも車で走られたり、少年時代は龍馬像の台座に登って叱られたり、それに高知駅にもずいぶんお詳しかったりと、akiraさんはもしかして、この辺の方なのですか…? うちの妻の親戚だったりして(笑)。

4、5年前、次男が結婚前、お嫁さんになる人のご両親に会うため高知へ行き、駅舎の中で待ち合わせましたが、なんとも小さな駅で、自転車旅行の記憶をたどり、「こんな小さかったかなぁ」と思ったものでした。

去年、そのご両親が高知から大阪に遊びに来られたとき、「高知駅も大きくなりました」とおっしゃってました。なるほど。高架化されたのですか。
それにしても、お詳しい…。
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詳しいもなにも (akira)
2010-08-31 11:26:45
私は生まれも育ちも高知市なので、高知は地元です。大学で東京に出て、それから社会人になって異動の関係であっちこっちとしましたが、地元にはよく帰っていましたから。

実家はこの数十年、誰もいなかったので、数年前、取り壊して空き地にしましたが、それでも時折、帰ります。家内も高知ですので。なので知っているのです。

のんさんのお話は、光景が目に浮かんできます。とても懐かしく感じながら読ませていただいています。

ちなみに室戸スカイラインは、はるか昔、高知に帰った時に、悪友4人(男女混合)とドライブで行ったのです。あんなとこ、言っては何ですが、ドライブくらいしか行く用事がありませんよね。笑

対向車と1台もすれ違いませんでした。どうやって費用対効果の数字をいじって事業化したのか、不思議なくらいの道路です。笑!
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本当に首が落ちたと--。 (アナザービートル)
2010-09-01 11:13:07
写真のせいではなく、本当に首が落ちた龍馬の像かと思い、珍しいものもあるなと感心してましたのですが---。
返信する
道理で… (akiraさんへ)
2010-09-03 04:46:59
生まれも育ちも高知市…? でしたか。
な~んだ、道理で…。

室戸スカイラインは、そういえば、車など1台も見なかったような気がします。
ちなみに、次男のお嫁さんの実家は高知の鏡村というところで、最近、高知市に合併されたそうです。

それにしても、9月に入って、モミィの幼稚園が始まり、妻と2人でてんやわんの忙しさです。妻はとりあえずモミィの「生活指導係」に専念で、僕は「家事係」の担当。前日の食器を乾燥機から出して片付け、モミィの小さな弁当を作り(実際の弁当は来週からですが、すでに家で練習のため、食べさせています)、洗濯をし、モミィの朝食用のパンをつくり、水筒にお茶を入れ(麦茶もすぐ無くなるので、欠かさないように注意しながら…)、お風呂を流し、洗濯物を干し…と、朝にやることが増えて、ブログを書く時間が削られ、自転車旅行記がなかなかはかどりません(泣)。
返信する
首なし龍馬 (アナザービートルさんへ)
2010-09-03 04:53:56
この写真はよ~く見ないとわかりませんよね。
昔の写真ですから、周囲に白い枠があります。
その枠のところで、龍馬の首から上が切れています。
言われてみると、実際に首が落ちたように見えますね。

「首なし龍馬」ってなんだか、小泉八雲の「耳なし芳一」みたいな怪談話のようで…
返信する

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