僕のほそ道   ~ のん日記 ~

  
これと言ったテーマはなく、話はバラバラです。 つい昔の思い出話が多くなるのは年のせい? 

「貯金通帳」で思い出すこと

2014年02月02日 | 思い出すこと

数日前の新聞に、大阪・枚方市の75歳の男性が、22年間をかけて日本の全ての郵便局→2万4,681ヵ所を訪ね「全国制覇」を成し遂げたという記事が写真入りで大きく載っていた。一局で千円程度の貯金をして、通帳にスタンプを押してもらうという郵便局巡りは「旅行貯金」などと呼ばれ、幅広い愛好家がいるそうである。しかし日本の全郵便局を回ったのはおそらくこの男性が初めてだろうという。写真には、山ほどの貯金通帳が写っていた。


いろんな趣味があるものだけれど、日本全国にある2万以上の郵便局を全部回るというのはもう趣味の域を通り越して、その熱情というか執念というか、何とも凄まじいものを感じさせる。もっともご当人は案外気楽にやっておられたのかも知れませんけど。


ちなみに、「貯金」と「預金」という似たような言葉があるが、正式には「貯金」は郵便局にお金を預けることで、「預金」はそれ以外の金融機関にお金を預けることだそうである。


貯金通帳といえば、僕にもささやかな思い出がある。学生だった1969(昭和44)年、北海道往復自転車旅行をした時だった。旅行資金は当面必要な現金数万円と、5万円が入った貯金通帳を持って出発した(当時の物価は、煙草やコーヒーが100円くらいで、カレーライスが100円~150円だった)。貧乏旅行だったので、宿泊もテントなどの野宿かユースホステルだった。


そして旅先で、計9ヵ所の郵便局に寄り、通帳から少しずつお金を下ろした。しかし復路の千葉県あたりで金額が心細くなってきたので、親に電話して、千葉に住む知人宅に何万円か送金してもらった。そのお金で大阪まで帰れたので、通帳にはいくらかの金額が残ったままだった。


これが、その時の通帳です。↓

  

6月16日 大阪府・柏原郵便局
7月2日 北海道・函館駅前郵便局
7月7日 北海道・白老郵便局
7月14日 北海道・稚内郵便局
7月23日 北海道・弟子屈郵便局
7月28日 北海道・川西郵便局(帯広市)
7月31日 北海道・函館駅前郵便局
8月4日 青森県・横浜郵便局(下北半島)
8月7日 岩手県・盛岡郵便局
8月11日 福島県・相馬郵便局


6月16日。旅行出発の前日に、僕が住んでいた大阪府柏原市の郵便局に5万円を貯金した。そして北海道の函館で最初に5千円を下ろし、そこから福島県・相馬市の郵便局まで、計9回、お金を下ろしている。通帳の下に、左から順番に各郵便局長の公印が押されている。


…ということで、「全国制覇」とは比べようもない小さな話ですけど、新聞を見て、このことを思い出した次第です。


ところで自転車旅行の時、この通帳に関して忘れ得ない出来事があった。


北海道の稚内に向かって走っていた時だ。走れども走れども原野が広がるだけの風景にいささか閉口しながら、間もなく豊富町というところに着く予定だった。所持金が100円しかなかったので、豊富町の郵便局で5千円下ろそうと思っていた。ところが大変なことに気づいたのである。その日は土曜日だった。しかも時計を見ると12時半を回っていた。「えらいこっちゃ!」


当時の郵便局は土曜日の午後からと日曜日が休みだった。郵便局が開いていなければお金を引き下ろせない。月曜日が来るまで、今日と明日の2日間、100円で過ごせるわけがない。何とかしなければ…と、豊富町まで慌ててペダルを漕いだ。


そして豊富町に着いた。さっそく郵便局を探すと、あったあった。入り口は閉じられていたけれど、よ~く見ると少しだけ開いていた。戸を開けて入って行くと、中に局員らしきおじさんが一人いた。僕は通帳を差し出し、「5千円下ろしたいんですが」と言うと、おじさんは「だめだぁ、もう金は出せないべ」と首を横に振った。僕は「お金がなかったらこの町で飢え死にしますがな」と冗談半分…ではなく、真剣に言ったのだけれど、聞いてもらえず、「だめだぁ」と追い出されてしまったのである。「くそっ、豊富町を一生恨んでやるぞぉ」とぶつぶつ言いながら、豊富駅の売店へ行って、最後の100円でパンなどを買い、駅のベンチに座り込んで食べた。あぁ、これで一文無しである。月曜日までどうすればいいのだ…。パンを食べ終えても駅から出る気力はなく、「う~ん、困ったなぁ」と、ベンチに腰掛けたまま思い悩んでいた。


そこへ現れたのが2人のサイクリストだった。2人にはその前にも2度会っていた。最初は旭川へ行く途中の砂川という駅で、僕が休憩しているとその2人が自転車に乗ってやってきた。軽くあいさつを交わして僕が先に出たが、翌日、また美深という駅で休憩中にその2人がやってきたのである。そしてこれが3度目の出会いだった。


2人は札幌の人で、札幌から稚内まで自転車旅行しているということは聞いていたが、僕が駅のベンチでしょんぼり座っているのを見て「どうかしたの?」と声をかけてくれた。僕は郵便局で貯金が下ろせず、お金が1円もないので困っていると言うと、そのうちの1人が「じゃ貸してあげるよ。3千円でいいかい?」と、いとも簡単に僕に千円札3枚を差し出してくれたのだ。「えっ? 3千円も!」と僕が驚くと、「多いかい?」とその人が言ったので、僕は「いえいえ、お借りします」と、あわててそれを受け取った。


本当に嬉しかった。世の中には親切な人がいるものだ…と、その時、改めて思ったのだった。「お金は旅行から帰ってから送金してくれたらいいからね」と、電電公社(今のNTT)に勤めているというその人は、自宅の住所と名前を書いたメモを手渡してくれた。


その人とはその後30年ほど年賀状のやりとりが続いたけれど、いつの間にか途切れてしまった。加藤さんという人だった。僕より3歳ほど年上だったように記憶しているが、今も札幌で元気に暮らしておられることだろう。


今日もまた、昔ばなしになってしまいましたが…

 

 

コメント (2)
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