僕のほそ道   ~ のん日記 ~

  
これと言ったテーマはなく、話はバラバラです。 つい昔の思い出話が多くなるのは年のせい? 

 オルセー美術館

2008年05月10日 | 旅行

    
  
     パリのメトロのカルネ(回数券)


昨日、パリの地下鉄のことを書いたとき、ひとつ書き忘れたことがあった。
9年前、妻と長男と3人でパリの地下鉄に乗ったときのことだ。
そこで僕は、大恥をかいてしまったのである。

地下鉄のドアを入ったところの左右に、折りたたみ式の小椅子がある。
つまり、補助椅子である。
使用していないときは壁面にへばりついた形になっている。
ラッシュアワーのような混雑時には使用は禁止だが、それ以外のときは誰でも使うことができる。椅子はバネ仕掛けになっており、使うときに椅子を起こして座るようになっている。立ち上がると、自動的にバタンと元の壁面に戻る。そんな小椅子である。

その、9年前の地下鉄の中でのことだ。
僕がその小椅子に座り、妻と長男は僕の目の前、つまりドアの前に立っていた。
3人で無駄話をしていたのだが、僕は妻から何かを受け取ろうとして立ち上がった。その瞬間に椅子はバネの力で元の壁面へ戻った。それに気がつかなかった僕は、またそのまま後ろにしゃがんで椅子に座ろうとしたわけだ。何もないところへ勢いよく下半身を落とした形になった。
「あわわわ~っ」
と叫びながら、ド~~~ン! と床にひっくり返ってしまったのである。
いやぁ、恥ずかしかったの何のって…。

妻と長男は、「あっ!」と声を上げたが、なすすべもない。
周囲を見回すと、かなりの乗客がそれを目撃していたはずだが、
「見ていないよ、見ていないもんね~」
という感じで、どの人も、僕と視線が合ったとたん、目を伏せた。
僕に対する、せめてもの配慮だったのだろうか。やさしいパリっ子たち~!
しかし、あの光景を思い出す度に、たまらなく恥ずかしくなってくる。


このバネ式の小椅子のことを、strapontin(ストラポンタン)という。

そして僕みたいにひっくり返って大恥をかいた人間のことを…
アンポンタン…というそうである。

             
   ………………………………………………………………………

            
閑話休題。
オルセー美術館へ行く話に戻します。

ソルフェリーノという地下鉄駅から地上に出て、セーヌ川の方向へ歩いた。
地図と磁石だけを頼りに、テクテク歩いて行く。妻と姉が後からついて来る。

順調にオルセー美術館にたどり着いたが、切符を買う場所がわからない。
黒人の警備員が立っていたので、どこで切符を買うのかと英語で尋ねたら、
ジロリと顔を見て「IN!」とだけ言って、建物の中を指さした。
「サンキュー」と笑顔を作ったら、相手が「ジャパニーズ?」と訊くので、
「そうですがな」とうなずくと、「コンニチハ」と愛想良く白い歯を見せた。

切符を買った時間は午後8時過ぎ。割引タイムが始まっている。料金を見ると、5・5ユーロとあった。8時までなら通常料金の7・5ユーロである。
1ユーロが約160円だから、ひとり当たり2ユーロ→320円の値引きか…。

しかし320円の値引きはともかく、閉館までの残り時間が少なくなっていた。
それはまあ、それは最初からわかっていたことだけど…。



   
  
オルセー美術館のチケット(実物大)。 割引で5.5ユーロだったが…。
   ちなみに、こちらの日付は日本と逆で、日・月・年の順で表記される。
 


オルセーにはこれまで学校で教わった有名な絵画が沢山展示されている。
しかし館内地図を見ても、なかなか目当ての作品に行き着かない。
そのうち(すでに書いたことだが)ドキドキドキ~ンと不整脈が出始めた。
飛行機で飲んだワインの影響や、24時間も続けて起きていることが原因だろう。
いきなり迎えた体調のピンチ。
薬を飲み、深呼吸をしたり、軽く身体をゆすったり、息を大きく吸って止めたりと、尽くせる限りの応急措置をとり、なんとか10分ほどで収まったのは幸いだった。

また、駆け足で館内を見てまわる。時間がないので、そのせわしいこと。

オルセー美術館に所蔵されているもので、日本でもよく知られている有名な作品は、主に次のようなものである。

ミレー「晩鐘」

ミレー「落穂拾い」

マネ「草上の昼食」

ルノワール「ピアノに寄る少女たち」

ゴーギャン「タヒチの女」

ゴッホ「自画像」

などなど…。
いずれも、学校の美術の教科書などに出てきた有名な絵画ばかりである。
時間がなく、じっくり見られなかったが、それでも本物に接すると感慨深い。

しかし、ルノワール「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」や、
アングル「泉」…などは、どうしても見つけることが出来なかった。

おまけに僕らはお腹が減っていた。
19世紀の印象派の作品群も素晴らしいが、空腹を満たすことも必要である。

美術館の5階にあるカフェに入った。
店の黒人男性は、腕時計を見ながら、
「飲み物か? 食べ物か?」みたいなことを聞く。
「食べ物ですがな」と身振りで示すと、
「もう閉店間近や。食べ物なんか作っている時間はないで」と拒否された。
そこへ女性の店員が来て、黒人男性を押しのけるように、
「いいから、いいから。早くここに座って」
親切に席へ案内してくれたおかげで、カフェ・クライム(ミルク入りのカフェ)とともに、キッシュ
やラザーニャを注文して、とてもおいしい「夜食」を味わうことが出来たのだった。(日本での朝食から数えて、これが「今日の」何食目になるのだろうか…)。

しかし…。食べ終わるか終わらないうちに、カフェの照明の半分が消えた。
「間もなく閉館です…」という放送も、スピーカーから流れてきた。
よく言葉がわかったね…と言われそうだけど、それは日本語だったのだよ~ん。

館内全体が薄暗くなり、これはもう完全に「蛍の光」ムードになっていた。
「まだ9時半になっていないのになぁ。9時45分まで開館と書いてあるのに…」
ちょっと不満だったけど、仕方ない。

僕らはカフェを出て、美術館からも追い立てられるようにして外に出た。

あぁ~。無理して来たから、やはり駆け足に終わってしまった。
しかしまぁ、日程上、これが精一杯だった。やっぱり来てよかったな~。

美術館の前の、セーヌ川を中心にした夜景が美しかった。
ナイト・クルージングの遊覧船のあかりが、ひときわ川面に映えている。
左手のはるか遠くに、エッフェル塔らしきものが、キラキラと光彩を放っている。
寒くもなく暑くもなく、心地よいセーヌ川からの風が、頬をなでた。

今日は日本の24日の朝4時半に起きた。
今、パリでは24日の午後9時半。日本時間では25日の朝の4時半である。
ちょうど24時間、飛行機やら地下鉄やら美術館やらで過ごしてきたことになる。

長い長い一日だった。

「さ。ほんなら、また地下鉄に乗って、ホテルへ帰りましょか」

僕らは、再び地下鉄のソルフェリーノ駅に向かって歩き出した。

 

 

 
        
オルセー美術館付近地図

 

 
  セーヌ川側から見たオルセー美術館。 この3日後、観光バスから撮影したものです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コメント (4)
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