そこそこの放送作家・堀田延が、そこそこ真面目に、そこそこ冗談を交えつつ、そこそこの頻度で記す、そこそこのブログ。
人生そこそこでいいじゃない



命売ります (ちくま文庫)
三島 由紀夫
筑摩書房


昭和43年。
僕が生まれた年。
雑誌「プレイボーイ」に掲載された三島の作品だ。

変幻自在な三島の天才性がここでも発揮されている。
今度はハードボイルドであり、ライトコメディだ。
ほ~ら、こんなのも書けるのだ。

若い男性読者を意識した平易な文章。
文字通り主人公はプレイボーイ的な行動で行きずりの女を次々と抱き、読者を満足させる。
軽いタッチなので一気に読める。
もちろん、面白い。

それでいて、主題は現代にも通ずる普遍的なものだ。

世の中には2通りの人間がいる。
なぜ生きるのか、その意味を考える人。
疑問を持たず、ただ生きていく人。
むろん僕は前者になりたい。
だが、その思索の旅はときとして人を絶望へ追いやる。
その点、何も考えない後者はある意味、幸福だ。

だが、この小説の主人公は第3の考えを持って出発する。
はなから生きていることは無意味。
全てがどうでもいい、いつ死んでもいい、そんな無意味の悟りに至った主人公は、途端に「自由」になる。
人間社会のあらゆる束縛から逃れて「自由」を手に入れる。
意気揚々とし、足取りも軽い、その精神状態。
だがそのためには切迫した死の香りが欠かせない。
いつ死んでもいいからこそ手に入れた精神の自由。
だが、その自由をいつまでも手放したくない。
だから死にたくない。
いつ死んでもいいのに、死にたくない。
そんな矛盾。

ある女の子はこの本に影響され、しばらく鬱になったらしい。
気持ちは分かる。
人生は無意味だといえば無意味だ。
だから意味を探すのだ。

人生の意味。
人生の無意味。
答えは死ぬときに分かるはずだ。

誰かが言った。
死ぬための準備。
それが生きるということだ、と。

あと40年、長くて50年。
僕の準備は終わるのかな?

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音楽 (新潮文庫 (み-3-17))
三島 由紀夫
新潮社


すごいなぁ、三島由紀夫。
変幻自在だ。
さまざまな題材を、あらゆるスタイルで、すべて比類なき完成度で書いていた作家だということを、お恥ずかしい話だが僕は39歳の今になって初めて知った。
まぁ、そもそも僕は文学少年ではない。
だからそれほど多くの本を読んでない。
その上、読んだ本はだいぶ偏っている。
だから三島由紀夫の作品はさほど知らなかったのだが、この歳になって衝撃を受けた。
彼が自決本懐を遂げた年齢は45歳。
僕はあとたった6年でその年齢に達する。
はぁ~あ~っと。
ため息ばかりだ。

1つのスタイルを生涯貫く大半の作家が劣るとは言わない。
それは作家個々の選択だ。
しかし、変幻自在な三島由紀夫には底知れぬ天才性を感じる。

この「音楽」という小説。
ものすごく読みやすい。
そもそも婦人誌に発表した小説らしく、女性読者向けに平易な文章を心がけているのだ。
端麗で美しい言葉と千変万化の比喩に彩られた三島由紀夫の難解な文体は、ここにはない。
そして、面白い。
抜群に、面白い。
簡単に書けば「性的不感症の女を精神科医が治す」話だ。
タイトルの「音楽」とはオーガズムのことを指す。
女がその「音楽」を失った原因が精神分析学的アプローチで次第に曝かれていくミステリーといってもいい。

「真夏の死」の前に寄り道をしてしまった。

で、次は「命売ります」を読もうと思っている。

ま、本を読む順番なんて自由なのだ。

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きのうのぶぶと、塗装とか消滅しなかったよ。*このエントリは、ブログペットの「そこそこ」が書きました。

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潮騒
三島 由紀夫
新潮社


この本、僕は読んだことがあるのだろうか?
読んだのかな?
観たのかな?
どっちなのか分からない。
過去に何度も映画化された「潮騒」
その原作小説。
焚き火を挟み、裸の少女が裸の少年に告げる「その火を飛び越して来い」
少年は躊躇せずジャンプ!
ひしと抱き合う男と女。
邦画史上屈指の名シーンだ。
ここだけは少なくとも映画で観た気がする。

本を読んだのか読んでないのか、映画を観たのか観てないのかさえよく覚えていないのだが、今回この本を(初めてor久々に)読んで、僕は痛く感激した。
三島由紀夫、すさまじい。
これが書けるってことはまっとうな人なのだ。
代表作「金閣寺」や、市ヶ谷駐屯地での割腹自殺のイメージから、なんだか癖のある難しい作家だという先入観があった。
美輪明宏の「黒蜥蜴」の脚本家だし、「仮面の告白」は男色の話だし、もう、なんだかなぁ~と思っていた。
すみません。
間違ってました。
三島由紀夫は、極めてノーマルなのだ。
でなければ、ここまでさわやかな青春の初恋を描写できないと思う。
至極ノーマルだったからこそ、アブノーマルを描けるのだ。
そうだ、考えてみれば、そりゃそうなのだ。

すごいぞ「潮騒」
「ここまでさわやかな小説があったのか」というぐらいプラトニックな純愛だ。
39歳になって読むからこそ価値がある小説かも知れない。
薄汚れてしまった大人が読むべき本。
三島由紀夫、すさまじい。
すさまじい、その筆力。
まぁ、こんな僕が今さら褒め称えるまでもない大作家なのだが、それでも「潮騒」は意外性で僕を魅了した。
ああ、なんていい本なんだ。
そして三島由紀夫はどこまで天才なんだ。

すごいのはラストの3行だ。
僕はそこを読んだとき鳥肌が立った。
そこに三島由紀夫の迫力を感じた。
純愛の話をここまで美しく仕上げておきながら、最後のたった3行で、ただのロマンチシズムに終わらせないのだ。
ただの甘ったるい話に終わらせないのだ。
ああ、なんていい本なんだ。
そして三島由紀夫はどこまで天才なんだ。

次は短編集「真夏の死」を読んでみる。

実はこの順番。
文豪ナビとかいう本に書いてあった三島由紀夫オススメコースなのだ。
ちなみにそのコースとは……
「潮騒」→「真夏の死」→「金閣寺」→「仮面の告白」→「豊饒の海(4部作)」
まずはこのコースを辿り、その後、知り合いの女の子が勧めてくれた「音楽」「命売ります」を読んでみようと思う。

寝不足が続きそうだ。

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