goo blog サービス終了のお知らせ 

電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

葉室麟『蜩ノ記』を読む

2012年03月17日 06時01分16秒 | 読書
祥伝社から刊行された単行本で、葉室麟『蜩ノ記』を読みました。蜩という字を何と読むのかわからず、表紙の題字の下に小さく「ひぐらしのき」とあったのを見て、「ひぐらし」と読むことを知ったというのは、実は内緒です(^o^;)>poripori

内容は、豊後・羽根藩の奥祐筆・檀野庄三郎は、城内で友人と刃傷沙汰に及び、切腹は免れたものの、家老の命で向山村に幽閉中の元郡奉行・戸田秋谷の監視役として左遷されます。七年前に、前藩主の側室と不義密通を犯した罪で戸田は死罪となるべきところを、主君の命により、十年間で家譜編纂を完成させ、切腹をすることになっているのでした。

ところが、戸田の家族と一緒に生活をするうちに、戸田秋谷の清廉さと人格の立派さ、家族の信頼に触れるとともに、山間の向山村の百姓や猟師たちの暮らしを見聞きして、庄三郎は武士のあり方や自らの生き方を問い直すようになります。
まだ元服前の息子が、父に切腹を命じた家老に迫る気迫、戸田秋谷と家老との若き日の縁など、たいへん印象的な場面も多く、第146回直木賞受賞にふさわしい完成度を持つ時代小説であると感じました。



ところで、作品の構造から、思わず藤沢周平の『蝉しぐれ』等との対比をしたくなります。例えば、家老が悪役でヒロインは主君の側室ですし、彼女は家中の対立により命を狙われますが、若き日に心を寄せた忠義の武士とともに深夜の逃避行を敢行し、救われます。彼は、農村の生活を理解し、百姓たちから絶大な信頼を得ていますが、義のために切腹する運命にあり、息子は父親を信じて疑いません。牧助左衛門や文四郎の影をあちこちに見てしまうのは、たぶん『蝉しぐれ』の読みすぎかも(^o^)/

やがて死を迎えるのは誰でも同じ。明確に期限を切られていないだけでしょう。切腹という戸田秋谷の死を美化しすぎていないか、気にかかる面はありますが、たいへんおもしろく感銘を受けた作品でした。
コメント (8)