電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

映画「武士の一分」を見る

2006年12月15日 22時43分11秒 | -藤沢周平
話題の映画「武士の一分」を見てきました。良かった。私は芸能スポーツ流行にとんとうとい生活なので、キムタクという言葉があることは知っていましたが、どんな人なのか顔を知らなかった。主演の木村拓哉は、なかなかナイスな演技でした。妻役の新人女優さんは、ほんとにきれいで立派な演技です。

ところで、映画のストーリーとは別のところで、気づいたところをいくつか。
(1) 孤児の加世さんは、いったい誰に育てられたのか。
--映画の中で「みなし児だった私は」というセリフがあります。また、敵役の島田藤弥が道端で加世に言う「寺子屋に通う貴女を見て」という台詞もあります。この点については、藤沢周平『隠し剣秋風抄』所収の原作「盲目剣谺返し」の中に、「新之丞の母は以寧をことわって、自分の遠縁でみなし児の境遇にいた加世を選んだ」とあります。新之丞の母方の家で躾けられた加世は、文武に優れ、気持ちの優しい新之丞に憧れたのでしょう。おしゃべり叔母さんの以寧は、原作では新之丞の二つ上の従姉という設定で、新之丞のもとへ嫁入ることを望んでいたことになっています。たぶん、映画では「加世はそげだ淫らなことをするおなごではありましね」という台詞を、言わせたかったのでしょう。
(2) 忠実だがとても気が利くとはいえない老僕を雇い続けた理由は。
--徳平は、料理は下手だし薪割も上手とは思えず、目の見えない新之丞を厠まで手を引く際にも物干し竿を避けていくことさえ気づかないほど、気が利かない男です。朴訥と言うよりも、どちらかといえば愚鈍に近いほどの、しかし忠実で誠実な年寄りです。先代から勤め始めたようですから、この老僕を雇い続けた理由があったのでしょう。たぶん、新之丞の父母は、徳平の無類の忠実さ、誠実さの価値を高く買ったのだろうと思われます。
(3) 離縁された加世は、どこにいたのか。
--まさか島田藤弥の屋敷には行けませんし、親族会議の状況を見てもわかるとおり、みなし児の境遇には受け入れてくれる実家もありません。では、加世はどこに行ったのか。たぶん、徳平の家だったのではないかと思われます。
(4) 映画中の音楽の中で、笙の響きが使われているところがあった。
--解説を見ると、宮田まゆみさんとある。以前、N響のヨーロッパ公演で、武満徹さんの「セレモニアル」を演奏した人とは違うのかな?

いや、ひさびさにいい映画を見ました。だいぶ泣かされました。涙は埃っぽい心を洗い流してくれます。
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