電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

デュマ『モンテクリスト伯』を読む(11)~カドルッスは何をしたのか?

2006年12月30日 09時30分38秒 | -外国文学
モンテ・クリスト伯爵には、四人の敵がいます。ダングラール。エドモン・ダンテスを無実の罪で14年間も土牢に幽閉したきっかけとなった、虚偽の密告の張本人。フェルナン。メルセデスへの横恋慕から、ダングラールに唆されて密告書を書いた。検事ヴィルフォール。皇帝の復帰を画策する父親あての手紙が、王党派の娘と婚約した自分の地位を危うくするため、無実を知りながらエドモン・ダンテスを土牢に入れた張本人。

ここまでは、わかります。だが、カドルッスは何をしたのか。密告を唆す場に同席していたが飲んだくれていて「何もしなかった」~真実を知っていたのにダンテス父子を守るために何もしなかった~始まりは不作為の罪、というわけでしょうか。ところがこの男、欲に目がくらみ、登場するたびにだんだん悪党になっていくようです。

松下訳・集英社世界文学全集版『モンテ・クリスト伯』第三巻、始まりは「エデ」の章から。これまで背景にグズラの音を響かせるだけだったエデが正式に登場し、アルベールに父アリ・パシャの壮絶な死の真相を語ります。アルベールは、ジャニナの悲劇が裏切りによって起こったことを知りますが、裏切者が父モルセール伯爵であることはまだ知りません。ジャニナからの便りを手にしたダングラールは、モルセール家からの娘への求嫁を拒絶し、金目当てでアンドレア・カヴァルカンティに接近します。一方、ヴィルフォール家では、ノワルティエ老人の忠実な従僕バロワが急死し、ダヴリニー医師は検事総長に毒殺者の存在を告発しますが、ヴィルフォールは外聞をはばかり握りつぶします。アンドレア・カヴァルカンティが徒刑囚仲間のベネデットであることを察知したカドルッスは、アンドレアを通じてモンテ・クリスト伯の屋敷に忍び込み、盗みを計画しますが、カドルッスを厄介払いしたいアンドレアはこれを密告します。モンテ・クリスト伯の屋敷で、カドルッスはブゾーニ神父に発見され、逃亡しようと図りますが、口封じを狙うアンドレアに刺されてしまいます。カドルッスはアンドレアが徒刑囚ベネデットであることを証言しますが、最後にブゾーニ神父ことウィルモア卿と実は同一人であるモンテ・クリスト伯の正体を知り、驚愕のうちに息絶えます。「これで一人。」復讐の第一幕です。

カドルッスとアンドレアとの会話には、実に胸糞が悪くなるようなリアルさがあります。こんな会話を文豪デュマは知っていたどころか、自由に駆使することができたのですね。ディケンズが底辺の人々の生活をよく知っていたのは、彼の生い立ちを見れば納得できます(*)が、デュマの前半生の中にも、こうした類のいかがわしい仲間との交流の時代があったのでしょうか。

(*):チャールズ・ディケンズについて


【追記】
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