電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

宮城谷昌光『奇貨居くべし』第3巻(黄河篇)を読む

2006年06月04日 18時29分17秒 | -宮城谷昌光
どうも風邪を引いたらしく、昨日からくしゃみと鼻水が止まりません。今日は一日寝て、うつらうつらしながらおとなしく本を読んでいました。秦の統一の基礎を築いた宰相・呂不韋(りょふい)の物語『奇貨居くべし』、第3巻は数々の辛酸をなめ、賈人(商人)として立つ決意を固めるまでを描きます。

斉王の伯父・伯紲が運営する、貧窮者と孤児のための施設である慈光苑は、孟嘗君の死とともに斉の攻撃が必至となり、危機に陥ります。魏を頼み、慈光苑を守り抜くと息巻く者、早々に見切りをつけて退去する者、去就は様々ですが、恵まれない人々はどうなるのか、呂不韋は悩み迷います。斉と魏に囲まれ両者の攻撃を受けるのであれば、秦の陶侯の配下である佗方に救援を依頼するしかありません。
伯父を殺したという汚名を嫌う斉王は魏と密約を結び、慈光苑は救援の軍を装う魏によって破壊されます。呂不韋は有能な農業技術者である黄外ら数百人を伴い、佗方の配下に助けられて殺戮の寸前に辛くも脱出し、陶にたどりつきます。先に逃していた維らに看護され、ようやく健康を回復します。
佗方は、和氏の璧を守り抜き主君である魏冉を出し抜いた呂不韋を覚えており、その才能に興味を持ちます。呂不韋は黄外を補佐し秦の農業生産力を飛躍的に増大させることができる者として田焦を推挙し、はるばる迎えに行きますが、田焦は秦の捕虜として行方がわかりません。白起将軍の進路をたどり田焦をたずねる旅の途中で、盗賊の手から異母姉弟を救います。姉の袿は楚の王女でしたが本人はそのことを知らず、慈光苑の悲劇を例に呂不韋に戒められ、盗賊に凌辱された絶望から次第に回復していきます。捕虜の名簿の中で、栗の名を見出し、解放を依頼しますが、田焦は見付かりません。ようやく発見した田焦はまさに処刑の寸前で、救出してくれた呂不韋に感謝するとともに、その人間性に惹かれます。呂不韋は、賈人として立つことを決意します。人相見の名人・唐挙を通じ呂不韋の消息を知った鮮乙は、ようやく安心します。
陶に着いた田焦は、佗方にも黄外にも高く評価されます。袿は弟と共に佗方に預けられ、呂不韋のもとに鮮乙が到着、賈人として立つ決意を聞きます。鮮乙は、商いの拠点として小国・衛の首都濮陽を挙げ、川の水上交通を利用した計画などが描かれます。
陶邑で黄外が提出した灌漑工事の計画が許可されますが、それには条件がありました。水路を軍事用にも設計する必要があるというのです。天才的水利技術者の鄭国を迎えて、計画はスタートします。一方、袿は西という姓を与えられ、陶侯魏冉とともに秦に旅立ちます。大柄で健康な維は呂不韋の実質的な妻として愛されます。

第3巻は、おおむねこんな粗筋です。最後のところで、当時の中国の美人の基準が細腰のかよわくはかなげな女性にあったことが述べられ、呂不韋が美人の基準の点でも独自の価値観を持っていたとされています。このあたりも、作者である宮城谷昌光氏の人物造型が面白く感じられる点の一つです。

写真は寒河江川の流域で、偶然にも上部にトンビが飛んでいるのが写っています。
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