電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

ディケンズ『オリバー・ツイスト』下巻を読む

2006年01月05日 19時35分09秒 | -外国文学
負傷したオリバーは、手当てを受けたメイリー夫人の家で、再び幸福な生活を始める。親切なローズ嬢の病気と奇跡的な回復、ハリー・メイリーの求愛などの出来事の陰で、悪党フェイギンが再び策動する。しかも、どうやら新たな悪党モンクスも登場したようだ。モンクスは、救貧院のバンブル夫妻から、オリバーの出生に係る秘密を聞きだす。オリバーを産み亡くなった不幸な母の名はアグネスというのだ。オリバーの出生の秘密を知ったモンクスは、悪党フェイギンと組む。先にオリバーがとらえられた時、味方になってくれたナンシーは、冷酷なビル・サイクスから離れることができない。しかし、ローズの優しさにうたれ、モンクスの秘密を伝える。フェイギンからナンシーの裏切りを知らされたサイクスは、ナンシーを撲殺し逃亡する。このあたりの生々しさは、現代のサスペンス小説も顔負けだ。
あとは、いっきに結末に向かって進む。オリバーの出生の秘密は明らかにされ、悪漢たちは捕らえられ、悲惨な末路だ。ローズとハリーは結婚し、オリバーは本屋のエピソードの紳士ブラウンロー氏とともに、幸福な生活を送る。

下層階級の描き方は精緻でリアルだが、中産階級以上の生活の描き方は抽象的だ。たとえば、ブラウンロー氏やメイリー夫人の家の調度や生活習慣の描き方など、ひどくそっけない。たぶん、作者26歳の作品だけあり、当時の生活がまだ豊かなものとはいえず、観察できる機会を持たなかったからと思われる。しかし、幼い少年の善意と対比させる形で、ビクトリア朝時代の英国の貧困と偽善と犯罪を描ききったこの恐るべき作品は、ディケンズ初期の代表的名作と言ってよいだろう。
コメント (7)