電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

田辺秀樹『モーツァルト』を読む

2006年01月08日 19時59分07秒 | クラシック音楽
新潮文庫の「カラー版作曲家の生涯」シリーズから、田辺秀樹著『モーツァルト』を読んだ。父親であるレオポルト・モーツァルトは、ザルツブルグ大学で哲学と法律を学ぶ学生であったのに、次第に学業から遠ざかり、好きな音楽の道に進むようになる。これは、ローベルト・シューマンも同じだ。父レオポルトは、その意味ではかなりの知識人だったことになる。ようやく安定を得た生活は、宮廷音楽家の道だった。そして、独自のヴァイオリン教程を完成、娘ナンネルや息子ヴォルフガングに音楽を仕込む。自分の歩んだ宮廷音楽家の道を望む父と、そこから離れようとする息子。いつの時代にもある光景だ。
この後の経過は周知のとおり。しかし、随所に挿入された美しいカラー写真と、年譜や年代順の作品一覧はたいへん役に立つ。小ト短調シンフォニーが17歳で書かれたことや、五曲のヴァイオリン協奏曲が19歳の年にまとまって書かれたことなど、眺めているだけでも興味深いものだ。
今年はモーツァルト生誕250年ということで、モーツァルトにかかわる事柄を1度本書で確認することが増えることだろう。
コメント (4)

すこし前のベストセラーを読み返すとき

2006年01月08日 10時41分37秒 | 読書
すこし前にベストセラーになった本を後から読み返すとき、様々な感想を持つ。ある本については、なぜこれがベストセラーになったのだろうと思い、また現在こそもっと読まれてしかるべきだと思うものもある。
たとえば、『iモード事件』。iモード機ユーザーでない私には、同書の興奮が理解できない。だが、ベルンハルト・シュリンクの『朗読者』には泣かされた。何度か読み返しているが、読み返すごとに、胸に迫るものがある。
また、お堅い本も、すこし前にベストセラーになったものなら自分の力で理解できるレベルかどうかわかり、安心して読める。『銃・病原菌・鉄』などは、高校時代に抱いた世界史の疑問に明快に答えてくれる内容がたくさんあり、目からウロコが落ちる面白さだった。
いわゆるビジネス書の類も、流行の解説本は本当に寿命が短い。大げさに言えば、昨年までの勝者が今年は売りに出される時代だからだ。今興味深く読んでいるルイス・ガースナー著『巨象も踊る』も、長い目で見れば一時代の断面に過ぎないのかもしれない。しかし、官僚主義に陥った巨大組織IBMを復活させた著者らしい、率直で面白い表現が頻出する。たとえば「手続きによってでなく、原則によって管理する」などはその最たるものだろう。クリフォード・ストールの『カッコウはコンピュータに卵を産む』において、ネクタイとワイシャツとスーツの画一的な一団として描かれたような、そんな組織のその後の話としても、面白く読める。
コメント