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電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

ベートーヴェン「ピアノ三重奏曲第6番」を聴く

2010年05月27日 06時03分19秒 | -室内楽
第1番Op.1-1から順に聴いているベートーヴェンの「ピアノ三重奏曲」シリーズも、第6番Op.70-2まで来ました。前の第5番Op.70-1と対になる曲で、ちょうど交響曲第5番と第6番のような関係とも言えそうな、おだやかで魅力的な音楽です。

第1楽章:ポコ・ソステヌート~アレグロ・マ・ノン・トロッポ、変ホ長調、ソナタ形式。チェロがドルチェでそっと呟くように始まります。すぐにヴァイオリンが加わり、弦の響きにコロコロとピアノが入ってくると、気分が変わってアレグロに。繰り返されて最後はテンポが変わり、ゆっくりと曲を閉じます。
第2楽章:アレグレット、4分の2拍子、ハ長調、ロンド形式。なんだか可愛らしく始まりますが、すぐに対比的な壮年の響きに。大人と子供の対話のように曲は展開します。
第3楽章:アレグレット・マ・ノン・トロッポ、4分の3拍子、変イ長調。いかにも中期のベートーヴェンらしい、単純で歌うような旋律が展開されます。ヴァイオリンは飾らず低音をそのまま奏しますし、チェロもピアノも、素朴な味わいがあります。
第4楽章:快活で活発なアレグロのフィナーレ。4分の2拍子、変ホ長調、ソナタ形式です。

演奏は、スーク・トリオ。1984年の4月に、プラハの芸術家の家でPCM/デジタル録音されています。DENON のクレスト1000シリーズ中の1枚で、型番は COCO-70919 です。

ベートーヴェンのピアノ三重奏曲第6番について、ネット上で記事を探してみましたが、当方が参考になるような記事は残念ながら見つけられませんでした。ただし、ブログ「やくぺん先生うわの空」中に、1974年の夏(8/25)に東京コンツェルトハウス山形支部例会として、ホテル蔵王ガーデンにて、巌本眞理(Vn)、黒沼俊夫(Vc)、坪田昭三(Pf)というトリオがこの曲を演奏した、という記録(*)を見つけました。山形と室内楽の関わりの記録でもあり、ちょいと驚いています。

(*):マリカル5人目のメンバーのこと~「やくぺん先生うわの空」2005年10月

■スーク・トリオ
I=10'03" II=5'08" III=7'04" IV=7'53" total=30'08"
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ベートーヴェン「ピアノ三重奏曲第5番」を聴く

2010年05月17日 06時09分04秒 | -室内楽
記念すべき作品1-1である第1番から、ベートーヴェンのピアノ三重奏曲を順に聴いてきました(*1~4)が、こんどは第5番ニ長調Op.70-1です。作曲されたのは1808年といいますから、ちょうど交響曲第5番や第6番「田園」などが作曲された、まさにその頃。なるほど、第1番~第3番などと比べて若々しくフレッシュな魅力は後退しますが、中期のベートーヴェンらしい、ぐっと充実した音楽です。

第1楽章:アレグロ・ヴィヴァーチェ・エ・コン・ブリオ、4分の3拍子、ニ長調、ソナタ形式。出発まぎわの通勤電車にあわてて駆け込むような始まりでこの曲の基本主題が提示されます。これが様々に変形され、再提示、再現・変奏されていきます。「運命」交響曲に通じる、たいへん緊密に構成された音楽と感じます。

第2楽章:ラルゴ・アッサイ・エ・エスプレッシーヴォ、4分の2拍子、ニ短調。なにやら不思議な響きが、「幽霊」などというあまり有難くない愛称を頂戴した所以なのでしょう。でも、エスプレッシーヴォの指示に現れているとおり、ご婦人に優しいベートーヴェンの感情の所在はたいへんよく伝わってきます。

第3楽章:プレスト、2分の2拍子、ニ長調、ソナタ形式。基本となる主題をてっていてきに利用するやり方は、まさに第五交響曲の作者のしつこさそのものです(^o^)/
でも、ピアノ三重奏という編成のせいか、あれほど粘着的ではなく、もう少しカラリとしています。

青木やよひさんの『ベートーヴェンの生涯』によれば、アンデアウィーン劇場の劇場付き音楽家の立場を願い、請願書を出したら却下されたばかりか、彼の演奏会の開催も拒否されて、どうもこの頃のベートーヴェンの生活は、ひどく不如意だったらしい。引越し魔のベートーヴェンが転がり込んだのは、当時夫と別居状態にあった名門貴族エルディーディ伯爵夫人の邸宅でした。まあ、今でもとかく噂になりやすい状況ですが、どうもここでの生活はけっこう充実した楽しいものだったようで、「運命」「田園」などの交響曲もここで仕上げているそうな。

ラズモフスキー四重奏団がやってきて内輪で演奏会を開いたり、仕事が一段落したベートーヴェンが夫人とピアノを連弾したり、時には伯爵がやってきてヴァイオリンパートを受け持つような雰囲気の中で、このピアノ三重奏曲第5番と次の第6番は作られ、夫人に献呈されたようです。その意味では、勝気でお転婆な(と思われる)エルディーディ伯爵夫人に感謝しなければ!

演奏はヨゼフ・スーク(Vn)、ヨゼフ・フッフロ(Vc)、ヨゼフ・ハーラ(Pf)の3人の「ヨゼフ」からなるスーク・トリオで、1983年6月に、プラハの芸術家の家でPCM/デジタル録音されています。DENON のクレスト1000シリーズ中の1枚で、型番は COCO-70919 です。




(*1):ベートーヴェン「ピアノ三重奏曲第1番」を聴く~「電網郊外散歩道」
(*2):ベートーヴェン「ピアノ三重奏曲第2番」を聴く~「電網郊外散歩道」
(*3):ベートーヴェン「ピアノ三重奏曲第3番」を聴く~「電網郊外散歩道」
(*4):ベートーヴェン「ピアノ三重奏曲第4番《街の歌》」を聴く~「電網郊外散歩道」
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テレマン「Fl,Ob,Vnと通奏低音のための四重奏曲ト長調」を聴く

2010年05月08日 05時53分24秒 | -室内楽
テレマンの「フルート、オーボエ、ヴァイオリンと通奏低音のための四重奏曲ト長調」は、合計で7分少々の短い曲ですが、USBオーディオでパッと気分を変えたいときによく流します。パソコンのハードディスクに取込み済ですから、棚からCDを探し出したりプレイヤーにセットしたりする手間が不要なのがありがたい。この編成ならば、小型の自作スピーカでもさほど不満はありません。演奏する「パリ・バロック・アンサンブル」は、前にも一度ヴィヴァルディのソナタ等(*1,*2)で取り上げておりますが、なかなか魅力的な演奏、選曲になっています。

第1楽章:アレグロ。ヴァイオリンとクラヴサンが軽やかに開始し、その中にフルートとオーボエが入ってきます。このフルートとオーボエの音色の魅力的なこと。通奏低音はクラヴサンとともにバスーンも加わっており、実質的には五人の奏者で演奏される四重奏曲になっています。
第2楽章:グラーヴェ。バスーンの通奏低音とクラヴサンのアルペジオにオーボエがゆったりと入り、フルート、ヴァイオリンも加わり、格調の高い緩徐楽章です。
第3楽章:アレグロ。オーボエとヴァイオリンに導かれて、いかにもバロックらしい活気のある音楽が始まります。タンギングも軽やかに、フルートが楽しげに奏され、速いテンポのまま活発に終わります。



パリ・バロック・アンサンブルの演奏者は、マクサンス・ラリュー(Fl)、ピエール・ピエルロ(Ob)、ロベール・ジャンドル(Vn)、ポール・オンニュ(Bn)、ロベール・ヴェイロン=ラクロワ(cem)といういずれもフランスの名手たちで、1974年に武蔵野音楽大学のベートーヴェン・ホールで収録された、DENONの初期PCMデジタル録音です。幸いにこの再生レベルでは、初期デジタル録音に特有の不自然さは感じられません。

(*1):ヴィヴァルディ「ソナタ イ短調 RV86,F.X No.1」を聴く~「電網郊外散歩道」2010年2月
(*2):モーツァルト「アダージョとロンド K.617」を聴く~「電網郊外散歩道」2010年2月
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山形弦楽四重奏団第35回定期演奏会を聴く

2010年04月21日 06時18分06秒 | -室内楽
山形市内の桜もようやく咲き始めた火曜日は、朝の晴天はどこへやら、午後は曇り空となりました。幸い雨にはならず、山形弦楽四重奏団第35回定期演奏会が、文翔館議場ホールで開催されました。本日のプログラムは、

(1) ハイドン 弦楽四重奏曲ヘ長調Op.74-2 「アポニー四重奏曲」
(2) 尾崎宗吉 小弦楽四重奏曲Op.1
(3) ベートーヴェン 弦楽四重奏曲第12番変ホ長調Op.127

の三曲です。

最初のハイドンは、彼の弦楽四重奏曲全曲演奏を目指す演奏団体らしく毎回必ず取り上げているものですし、尾崎宗吉の曲は、近年の山Qがすすめている一連の日本人作曲家の作品シリーズの流れでしょう。最後のベートーヴェンは、晩年の弦楽四重奏曲群のスタートとなる作品です。

職場を出て軽く食事を済ませ、文翔館議場ホールに向かいます。春の夕風はだいぶ暖かくなり、一時の肌寒さはありません。それでも、ホール内は暖房が入り、快適に開演を待つことができました。恒例のプレ・コンサートは、アンサンブル・Tomo'sのお二人で、曲はミヒャエル・ハイドンの二重奏曲ニ長調。

今回のプレ・コンサート・トークは、1st.Vnの中島光之さん。ハイドンのOp.74-2 は、作曲家61歳の作品で、すでに貴族社会の終わりに近く、弦楽四重奏曲も貴族の邸宅の一室から出て、演奏会用ホールへ移行しつつありました。ハイドンも、英国での経験などから、動機をユニゾンで重ねるなど、コンサートホール向けに工夫するなど、演奏効果を狙って少し派手めにしているそうです。
次の尾崎宗吉作品は、遺族が保管していた楽譜を1980年代に発掘し、演奏されるようになったのだそうで、戦前の新人を見出すコンクールのオーディションで絶賛を博したのだそうです。戦争がなければ、たぶん日本を代表する作曲家になっただろうと思わせるOp.1。わずか三年の期間に書かれた、ヒンデミットやプロコフィエフを思わせるヴァイオリンソナタも素晴らしい作品だとか。
ベートーヴェンは、第九の後に弦楽四重奏曲しか作っていないのですが、これは自身の作曲活動のまとめとして、自分自身のために書いたものと思われます。内容が深くて、初演時にはあまり評判にならなかったとか。彼自身、どこまで行けるかを試みたものなのでしょう。40分近い大曲で、先へ先へと進んで行こうとする意欲を感じます。我々山Qも、初期なのか中期なのか後期なのかわかりませんが、先へ進みたいと考えています、とのこと。
うーん、いつもながら簡潔明快・中島調の解説で、お見事です。

さて、楽器配置は前回と同じく正面に向かって左から第1&第2ヴァイオリン(中島、駒込)、ヴィオラ(倉田)、チェロ(茂木)の順です。駒込綾さんは、オレンジの上に薄い黄緑色を重ねたようなドレスで、化学屋ならフルオレセインのような色、と言えばいいのかな、それとも溶かす前のバスクリンと溶かした後の蛍光色を重ね合わせたような色、とでも言いましょうか(^o^)/

ここからは、朝の続きです。

ハイドンの演奏が始まります。第1楽章:軽やかな始まりです。アレグロ・スピリトーソ。第2楽章:アンダンテ・グラツィオーソ。1stと2ndの同じ動きに、ヴィオラやチェロが細かく絡んだりする、優美で気持ちの良い、すてきな音楽です。第3楽章:メヌエット。赤いネクタイの茂木さんのチェロが存在感を示します。第4楽章:フィナーレ、プレスト。速く細かな動きの軽やかな音楽です。ハイドンらしい、音楽の楽しさが感じられます。

続いて尾崎宗吉の小弦楽四重奏曲です。第1楽章:アレグロ。集中力に富む演奏で、訴えかける力の強い音楽になっています。第2楽章:アンダンテ。日本音階風の要素を持つ、しっとりした音楽です。第3楽章:ロンド・スケルツァンド・ヴィヴァーチェ。スケルツォ風のロンドという想定か。作曲家の悲劇的な生涯を考えると、少々不謹慎な連想ですが、スタジオ・ジブリのアニメの、劇的な緊迫感を持ったシーンに合いそうな、すごくかっこいい音楽だと感じます。演奏する山形弦楽四重奏団の皆さんも、共感して曲に取り組んでいるのがよく分かりました。

15分の休憩の後、いよいよベートーヴェンです。
第1楽章:マエストーソ~アレグロ。ジャーッという力強い斉奏からチェロ、ヴィオラ、そしてヴァイオリンへ。四つの楽器が自由に絡み合うところと、力強く協調するところとが繰り返されます。この作品は、優美な美しさやハーモニーの快適さなどとは異なるものを追求した音楽のように感じられます。
第2楽章:アダージョ、マ・ノン・トロッポ・エ・カンタービレ。やっぱりチェロ、ヴィオラ、ヴァイオリンと順に入っていきます。互いに自由なようでいてしかも響きあう音楽です。自由な遊びもあり、軽みのある、中年のユーモアみたいなものを感じます。どれかの楽器に魅力的な役割を順に割り当てるのではなくて、それぞれがそれぞれの役割を自由に果たし、しかも全体が緊密に統合されていることを目指す音楽、といえばよいのでしょうか。
第3楽章:スケルツァンド・ヴィヴァーチェ。やはりチェロから。低弦に1stと2ndのヴァイオリンが高音で答えます。ユニゾンはダイナミックに、きれぎれの回想を経て終結へ。全曲を通して密度の濃い音楽、集中力を維持するために猛烈にスタミナを要する音楽だと感じます。
第4楽章:フィナーレ。頭の中で鳴っている音と現実の音のもどかしさ、そんな感じをベートーヴェン自身も感じつつ作曲していたのかも。異常な緊張感と集中力とを要する音楽で、音程などの技術的にも、気力とスタミナの配分の面でも、演奏者にはハードな曲なのだろうと感じます。

総じてこの曲は、作曲者晩年の曲だから老人が演奏するのがふさわしいとは言えないように思いました。体力、気力の面から、演奏可能な年代というのがあるように思います。たぶん、70代では難しいのでは。60代ではどうでしょう。精神的にも身体的にも、充実した時期だから挑戦できる、そういう音楽なのかもしれません。素人音楽愛好家の、ちょいとエラそうな物言いをお許しいただければ、課題は残しつつもよくここまで来たなと感じさせる、意欲的な演奏でした。

アンコールは、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.74-3「騎士」から、第3楽章:メヌエット。いや~、強烈な集中力を要求されるベートーヴェンの後に聴くと、実際ハイドンは窓から風が入ってくるようなさわやかな音楽でした。
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シューベルトの八重奏曲

2010年04月04日 06時23分54秒 | -室内楽
シューベルトの八重奏曲を実演で聴きたい、というのは、音楽ファンとしての念願の一つでした。第1、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスに、クラリネットとファゴット、ホルンが加わる編成の、室内楽としては規模の大きな音楽ですので、そうそう頻繁に接することができる曲目ではありません。もしかしたら、もう……いやいや、後ろ向きな想像は止めましょう(^o^;)>poripori
とにかく、念願のシューベルトの八重奏曲を実演で聴く(*1)ことができて、もう嬉しくて!しばらく余韻にひたっております。若い頃にLPレコードで聴いていた演奏(*2)も良かったけれど、文翔館議場ホールでの生演奏はまた格別でした。



(*1):パストラーレ室内合奏団演奏会でベートーヴェンとシューベルトを聴く~「電網郊外散歩道」より
(*2):ジャック・ランスロ(Cl)、ポール・オンニュ(Fg)、ジルベール・クールシェ(Hrn)、ガストン・ロジュロ(Cb)、パスカル弦楽四重奏団によるコンサートホール盤で、SMS-2219 という型番のもの。このページによれば、1961年の録音とのこと。
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パストラーレ室内合奏団演奏会でベートーヴェンとシューベルトを聴く

2010年04月02日 06時09分30秒 | -室内楽
あいにくの雨降り、しかも年度初めも初っ端の4月1日に室内楽の演奏会なんて、もしかしてエイプリルフール?と思ってしまいましたが、お客が入るんだろうかという心配も吹き飛ばし、さすがは山響・山Qのお膝元ですね~。開演前の18時45分には、ぎっしり満席とまではいかないものの、ほぼ埋まっている状況です。
当方、新しい勤務先で仕事を終え、少々後片付けをしてゆっくりと出かけ、軽く腹ごしらえをしてもゆうゆうと間に合いました。その点では、ありがたい限りです。



パンフレットを見てびっくりしました。今回の演奏会は、なんと山響のヴァイオリン奏者の城香菜子さんが退団することになり、卒業を祝うために仲間が集まって開催することになったというのです。しかも、城さんのお父さん、仙台フィルハーモニーの首席コントラバス奏者である村上満志さんも出演というのです。うーん、アンサンブル・ピノでも何度か演奏に接してきただけに、喜ぶべきか悲しむべきか、複雑な心境ですが、ここはやっぱりご本人の門出を祝うべきでしょう。

さて、いつものステージには、4基のスタンド型照明が奏者を囲み、中央に4つの譜面台が並びます。両サイドには、大きな反射板が目を引きます。正面手前の中央に、三脚にセットされているのは、録音機のマイクロホンでしょうか。

左から第1ヴァイオリン:城香菜子さん、第2ヴァイオリン:中島光之さん、ヴィオラ:井戸健治さん、チェロ:渡邊研多郎さんというメンバーが並び、プログラム前半はベートーヴェンの弦楽四重奏曲第3番Op.18-3から。第1楽章:アレグロ、ニ長調。出だしはちょいとぎこちない感もありましたが、しだいに乗ってきます。第2楽章:アンダンテ・コン・モート、変ロ長調。若いベートーヴェンの緩徐楽章です。美しく魅力的な音楽です。第3楽章:アレグロ、ニ長調。やわらかいスケツルォ、とでも言ったら良いのでしょうか。第4楽章:プレスト、ニ長調。明るく活発な音楽です。

ここで、15分の休憩です。会場には、アンサンブル・ピノの黒瀬さんや山形弦楽四重奏団の茂木さん夫妻などのお顔も見えました。プログラム後半は、シューベルトの八重奏曲です。

ステージには、左から第1ヴァイオリン:城香菜子さん、第2ヴァイオリン:中島光之さん、ヴィオラ:井戸健治さん、チェロ:渡邊研多郎さん、コントラバス:村上満志さん、ファゴット:高橋あけみさん、ホルン:岡本和也さん、そして右端にクラリネットの郷津隆幸さんが並びます。男性はいつもの燕尾服に白い蝶ネクタイですが、城さんはパール色?のドレスに短上着を合わせ、高橋さんは深くあざやかな青色のドレスです。

第1楽章:アダージョ~アレグロ、ヘ長調、4分の4拍子。室内楽におけるコントラバスの存在感!クラリネットが実にいい音です!ファゴットとヴィオラが交わす旋律がチェロへ受け継がれるあたり、シューベルトらしい、すてきな響きの音楽です。
第2楽章:クラリネットと弦楽で始まるアダージョ。変ロ長調、8分の6拍子。管と弦のハーモニーです。弦のカルテットのあとに、強烈に入るコントラバスのピツィカート。このときのお父さん(村上さん)の表情が印象的。
第3楽章:アレグロ・ヴィヴァーチェ、ヘ長調、4分の3拍子。軽快なリズムで、しかし重量感のあるサウンドのスケルツォです。トリオ部は穏やかに、再び軽快なリズムに戻ります。
第4楽章:アンダンテ、ハ長調、4分の2拍子。いかにもシューベルトらしい、歌謡性のある音楽です。シューベルティアーデって、きっとこんな雰囲気だったのでは、と思わせる親密感があります。渡邊さんのチェロがとってもよく歌い、クラリネットが応えます。
第5楽章:メヌエット:アレグレット、ヘ長調、4分の3拍子。弦と管が交互に。響きの色合いがやわらかく充実しているメヌエットです。そういえば、このメンバーは、クラリネットとコントラバスを除けば、みな若いなあ。いや、中島さんも含めて、「ように見えます」。多少の傷や困難も乗り越える、いい仲間なのでしょう。アンサンブルから、そんな感じが伝わってきます。
第6楽章:アンダンテ・モルト~アレグロ、ヘ長調。ロマン派のシンフォニーの始まりのような、激しいトレモロで開始。一転して主部は明るく喜びに満ちた旋律・リズムで奏されます。

事前に配布されたチラシでは、メンバーの数は七人でした。これでどうやって八重奏を?と不思議でしたが、お父さんの出演という奥の手があったのですね。なるほど、納得です。
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ベートーヴェン「ピアノ三重奏曲第4番《街の歌》」を聴く

2010年03月29日 06時14分01秒 | -室内楽
引越もようやく終わり、ホッとひといきの週末に、自宅のPCオーディオで、ずっとシリーズで聴いている(*1,*2,*3)ベートーヴェンの「ピアノ三重奏曲」から、「第4番Op.11《街の歌》」を聴きました。

この曲にはじめて接したのは、学生時代の NHK-FM 放送だったでしょうか。その後、ずいぶんブランクがあり、最近スーク・トリオの演奏で親しむようになりました。Op.1の三曲とはまた気分が異なり、本来はクラリネットとチェロ、ピアノの三重奏だそうな。クラリネットの代わりにヨゼフ・スークがヴァイオリンを奏しますが、なんとも豪華な「代わり」であるだけでなく、音楽としても若いベートーヴェンの姿が想像できる佳曲だと思います。当方、とくにこの、チェロがゆったりと歌い始まる第2楽章が好きで、よく聴いております。

第1楽章:アレグロ・コン・ブリオ、4分の4拍子、変ロ長調、ソナタ形式。半音が印象的なユニゾンによる始まりから、ヴァイオリンが主題をメロディックに展開していきます。晴朗な気分の中でピアノが活躍し、やがて第2主題がチェロで奏されます。何度か繰り返しを行いながら、力強くコーダへ。
第2楽章:アダージョ、4分の3拍子、変ホ長調。ソナタ形式。いいですねえ、このゆったりしたチェロの出だし。チェリストも気分良く演奏できるのでは。できればナマで聴いてみたいものです。続いてヴァイオリンが旋律を奏し、チェロがそっと寄り添うと、こんどはピアノが同じ旋律を。ちょいとマイナーな気分に転じますが、すぐにもとのゆったりした気分にもどります。ワタシ的には実に幸福な五分間です(^o^)/
第3楽章:アレグレット、4分の4拍子、変ロ長調。《街の歌》というのはこの楽章の主題だそうです。CDに添付の解説によれば、作曲当時ウィーンで流行していたJ.ワイグル作曲のオペラ「船乗り仲間の恋人」の旋律を用いて、「九つの変奏と結尾」を構成した、とのこと。そう言われれば、なんとなくオペラのアリア風です。

1797年に作曲され、翌年に出版されたもので、ベートーヴェンが27歳のときの作品だそうです。ベートーヴェンの若い時代にかなりの紙幅を割いている青木やよひさんの『ベートーヴェンの生涯』によれば、ボンからウィーンへ出てきて五年、社交界に颯爽とデビューしながら他方では対位法などを地道に学習するなどの努力を重ね、前年の1796年にはベルリン旅行でプロイセン王フリードリヒ・ヴィルヘルムII世に認められ、二曲のチェロソナタを献呈するなどしており、

波乱にみちたベートーヴェンの人生にとって、これは短い凪の時期であった。

とのことです。

そんな時期の、颯爽とした若い実力ある音楽家の自信に満ちた作品。とりわけ、モーツァルトの同ジャンルの作品と比較しても、チェロ・パートの充実が感じられるように思います。



1983年12月に、プラハの芸術家の家で収録されています。DENON のPCM/デジタル録音、CDの型番は COCO-70918 です。

■スーク・トリオ:ヨゼフ・スーク(Vn)、ヨゼフ・フッフロ(Vc)、ヨゼフ・ハーラ(Pf)
I=9'04" II=5'11" III=7'31" total=21'46"

(*1):ベートーヴェン「ピアノ三重奏曲第1番」を聴く~「電網郊外散歩道」
(*2):ベートーヴェン「ピアノ三重奏曲第2番」を聴く~「電網郊外散歩道」
(*3):ベートーヴェン「ピアノ三重奏曲第3番」を聴く~「電網郊外散歩道」
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ベートーヴェン「ピアノ三重奏曲第3番」を聴く

2010年03月22日 06時12分09秒 | -室内楽
若いベートーヴェンがボンからウィーンに出て、ハイドンらに師事し対位法などを習っていた頃に、記念すべき作品1として発表した3曲のうちの最後の曲目が、「ピアノ三重奏曲第3番ハ短調Op.1の3」です。伝記によれば、ハイドンはベートーヴェンの三曲の作品について、Op.1-1とOp.1-2については出来栄えを称賛し、ただしこのOp.1-3については、出版を見合わせたほうが良いのではないか、と評したのだとか。

もしそれが事実なら、後年のベートーヴェンびいきの立場からはハイドンの限界だとか見る目がないなどと批判されるわけですが、いっぽうでハイドン擁護の立場からは、作品の斬新な価値はわかっていたが、家庭用音楽の用途にはいささか時代に先んじすぎるのではと心配した、ということになります。まあ、そのあたりの真相は薮の中で、ほんとのところはわかりませんが、結果的にはずいぶん人気を博した曲のようです。

第1楽章:アレグロ・コン・ブリオ。今でも少々ぎょっとするような、弦の不可思議な始まりです。たしかに、ハイドンならずとも「をいをい、どうしちゃったの?」と聞きたくなりますが、でもその後の展開は、さすがにベートーヴェン。家庭用の演奏目的から離れ、しっかり弦とピアノとが対比される形で展開される、充実した楽章です。
第2楽章:アンダンテ・カンタービレ・コン・ヴァリアツィオーニ。魅力的なアンダンテ・カンタービレなのですが、それも単に歌う緩徐楽章であるだけではなくて、みっちり変奏曲になっているところに、若いベートーヴェンの覇気と自負が感じられるようです。
第3楽章:メヌエット、クワジ・アレグロ。短いメヌエット楽章ですが、優雅な舞曲というよりは、メヌエットという舞曲のスタイルを借りただけなのでしょう。
第4楽章:フィナーレ、プレスティッシモ。速いテンポで急くように、短調で始まりますが、最後は長調で静かに終わります。なかなか魅力的な楽章です。

後年のベートーヴェンを知る者には、いかにも彼らしい曲だと納得できるのですが、当時の古典的な様式感や、このジャンルが家庭用音楽という目的で作られる曲が多かったことなどを考えると、あまりにも明らさまに感情を表明するのは慎みのないことだと思われていたのかもしれません。それに対して、市民階級の成長により、家庭用音楽の担い手である娘さんたちの技量もかなり向上していたのでしょうし、感情の表明なにが悪い!というのが、当時の急進的な青年たちの姿だったのかもしれません。ヨーロッパの革命前夜の気分は、おそらくそんなところなのかも。そのあたりに、この曲が受け入れられる余地があったということでしょう。

演奏はスーク・トリオ、メンバーは、ヨゼフ・スーク(Vn)、ヨゼフ・フッフロ(Vc)、ヨゼフ・ハーラ(Pf)の三人です。型番は DENON の COCO-70917 というもので、1984年の春にプラハの芸術家の家で収録されています。制作は Dr. Eduard Herzog、DENON のデジタル録音です。

■スーク・トリオ
I=10'10" II=7'10" III=3'46" IV=8'01" total=29'07"



若いベートーヴェンの春にあたる、出世作である作品1の3曲を一通り聴きました(*1,2)。スーク・トリオの演奏もまた三曲ともフレッシュで、後年の巨大な世界の重々しさはまだないけれど、なかなか魅力的な音楽です。

(*1):ベートーヴェン「ピアノ三重奏曲第1番」を聴く~「電網郊外散歩道」
(*2):ベートーヴェン「ピアノ三重奏曲第2番」を聴く~「電網郊外散歩道」
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ベートーヴェン「ピアノ三重奏曲第2番」を聴く

2010年03月01日 06時16分49秒 | -室内楽
車に積み込んだ音楽CDの入れ替えをしていないので、通勤の音楽は相変わらずベートーヴェンの「ピアノ三重奏曲」です。ただし、先の第1番に続き、第2番ト長調Op.1-2 のほうを繰り返し聴いております。ボンからウィーンへ出てきた24歳の青年が、ハイドンやシェンクやアルブレヒツベルガーなどに師事し、課題に応えた習作の中から生み出した作品の一つです。ブログ記事を探してみても、この曲の記事は意外にないものですね~。

第1楽章:アダージョ~アレグロ・ヴィヴァーチェ、4分の3~4分の2拍子、ト長調。けっこう長いアダージョの導入部を持ち、アレグロ・ヴィヴァーチェのソナタ形式のところが始まると、軽快な音楽になります。第1主題は、テンポはぐっと速くなりますが、導入部とそっくり。
第2楽章:ラルゴ・コン・エスプレッシオーネ、8分の6拍子、ホ長調、ソナタ形式。なんとも魅力的な、若いベートーヴェンの緩徐楽章です好きですねぇ、こういう幸福な音楽!
第3楽章、スケルツォ:アレグロ、4分の3拍子、ト長調。スケルツォ主題~展開~トリオ~コーダという構成なのでしょうか。前楽章では、ピアノが高音から低音までなめらかに駆け上がり下降することで、ロマンティックな気分を表していましたが、この楽章では音を切って、ころがるような軽快な感じを出しています。
第4楽章、フィナーレ:プレスト、4分の2拍子、ト長調。ヴァイオリンの「タカタカタカタカタカラッタッタッ」という出だしがとてもおもしろい。ピアノも同じリズムを受け継ぎ、プレストで三者がやりとりする気分は上々です。この楽章も、実はお気に入りの音楽(*)です。曲は a tempo で ff で終わります。

ところで、24歳で対位法というふうにテーマを絞って専門家に師事するというのは、たぶん非常に有益な経験なのでは。現代風に言えば、大学院の修士課程や博士課程で研究をしながら専門的な指導を受けるとか、職場で一通り仕事の経験を積んだ若手が、国際的な視野を身につけるべく、海外勤務を経験するようなものでしょうか。
若いベートーヴェンは、演奏家として活躍することもできたはずなのですが、きっと自らの音楽を作り出す方に、より情熱を燃やしていたのでしょう。自己の天分の自覚というのか、あるいは宮廷音楽家の身分の限界を身近な家庭の実例として知ってしまっていたためなのでしょうか。

演奏はスーク・トリオ、ヨゼフ・スーク(Vn)、ヨゼフ・フッフロ(Vc)、ヨゼフ・ハーラ(Pf)の三人です。1984年の春に、プラハの芸術家の家で収録されています。制作は Dr. Eduard Herzog、DENON のデジタル録音です。型番は COCO-70917 で、クレスト1000シリーズ中の一枚です。

■スーク・トリオ
I=11'04" II=9'28" III=3'39" IV=7'52" total=32'03"

(*):IMSLPのスコアを見ると、rallentando とか calando rallentando などの指示があるようです。ネットを駆使して調べてみると、ラレンタンドとはそこから急に速度をゆっくりにするときに使い、カランドのほうは次第にゆっくりそして弱く、という意味だとか。なるほど、それでこういう表情になるわけですね。イタリア語由来の音楽用語も、多彩です(^o^)/

【追記】
ベートーヴェンのピアノ三重奏曲Op.1の記事リンクです。
(*1):ベートーヴェン「ピアノ三重奏曲第1番」を聴く~「電網郊外散歩道」
(*2):ベートーヴェン「ピアノ三重奏曲第3番」を聴く~「電網郊外散歩道」
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ベートーヴェン「ピアノ三重奏曲第1番」を聴く

2010年02月22日 06時20分52秒 | -室内楽
このところ、通勤の音楽として、また入手したばかりのウォークマンによるウォーキングの音楽として、ベートーヴェンの「ピアノ三重奏曲第1番変ホ長調」を聴いております。作品1の1という、文字通り若い作曲家の出版デビューです。スタートがピアノソナタとかピアノの小品とかいうものでなくて、ヴァイオリンとチェロ、ピアノという編成の室内楽作品であることに意外性を感じますが、その作品は、予想通りにピアノが活躍する若々しくフレッシュな佳品です。演奏は、ヨゼフ・スーク(Vn)、ヨゼフ・フッフロ(Vc)、ヨゼフ・ハーラ(Pf)のスーク・トリオ。1983年、DENON による、プラハの「芸術家の家」におけるデジタル録音です。

第1楽章:アレグロ、4分の4拍子、変ホ長調、ソナタ形式。冒頭、力の入った音で始まります。第1主題の提示に続き第2主題が提示され、提示部の反復を経て展開部へ。そして第1主題と第2主題が再現されるという典型的で見事な構成です。第1主題の活発な魅力、第2主題のややメランコリックな性格など、たいへん魅力的な音楽です。
第2楽章:アダージョ・カンタービレ、4分の3拍子、変イ長調、ロンド形式。若いベートーヴェンらしい、よく歌う、すっと心に入ってくるような音楽です。冒頭のピアノ独奏に始まり、ゆったりとしたテンポでヴァイオリンが歌うと、チェロが朗々と答えます。全体に、ピアノが効果的に支えながらヴァイオリンとチェロが交互に歌い交わすようなところなどに、室内楽の魅力を存分に味わうことができます。好きですねぇ、こういう音楽。若いベートーヴェンの魅力です。
第3楽章、スケルツォ:アレグロ・アッサイ。4分の3拍子、変ホ長調。すでにメヌエットではなくスケルツォです。前楽章から曲想は一転して跳ね回るような軽やかなものへ。
第4楽章:フィナーレ、プレスト。4分の2拍子、変ホ長調、ソナタ形式。オクターブ高くなる印象的な導入に始まる、いかにも晴れやかなフィナーレ。ピアノ、ヴァイオリン、チェロが交互にカノンふうに旋律を奏するところなど、充実した音楽です。

伝記によれば、ボンからウィーンに出て、ハイドンのもとで対位法を学びながら、1793年からはヨハン・シェンクに、ハイドンがロンドンに向けて出発した1794年からはアルブレヒツベルガーにも師事し、対位法を学んでいるそうな。1795年の春まで続いたレッスンの後期には、Op.1となる三曲のピアノ三重奏曲が誕生、この変ホ長調のOp.1-1は1794年の作だそうで、作曲者24歳頃でしょうか。まさに疾風怒濤の真っ只中、強情なところもある青年ベートーヴェンの、若いエネルギーと努力を傾注した、後の膨大な作品群の堂々たるスタートです。

■スーク・トリオ盤
I=10'14" II=7'41" III=4'57" IV=7'47" total=30'39"

【追記】
ベートーヴェンのピアノ三重奏曲Op.1の記事リンクです。
(*1):ベートーヴェン「ピアノ三重奏曲第2番」を聴く~「電網郊外散歩道」
(*2):ベートーヴェン「ピアノ三重奏曲第3番」を聴く~「電網郊外散歩道」
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モーツァルト「アダージョとロンド K.617」を聴く

2010年02月10日 06時34分31秒 | -室内楽
通勤の音楽は、あいかわらず「パリ・バロック・アンサンブルの精華」から、Disc2 のモーツァルト、クヴァンツ、J.C.バッハ、ハイドンなど、前古典派の音楽を集めたアンソロジーを聴いております。



収録されている、クヴァンツの「三重奏曲ハ短調」、あるいはJ.C.バッハの「五重奏曲ニ長調」などの美しさや、ハイドンの「ロンドン・トリオ第1番」などもたいそう魅力的な音楽ですが、大雪で飛行機は飛ばないわ、ようやく飛んだ飛行機は大揺れに揺れるわで、多難な出張の帰り道の運転時などには、やっぱりモーツァルトの「アダージョとロンド K.617」のような楽しい音楽に心惹かれます。

この曲は、モーツァルトが死の半年前に、盲目のグラスハルモニカの奏者のために作曲した曲なのだそうで、オリジナルの編成はフルート、オーボエ、ヴィオラ、チェロ、グラスハルモニカというものだそうな。それがこのCDでは、グラスハルモニカ、ヴィオラ、チェロのかわりに、それぞれチェレスタ、ヴァイオリン、バスーンが使われています。そのためか、全体に響きが遊園地の音楽ふうというか、ストリート・オルゴール風のものになっています。「魔笛」の一場面に出てきそうな、あるいは映画「ビッグ」の背景音楽に使えそうな、そんな雰囲気の楽しい音楽です。

演奏は、フルートがマクサンス・ラリュー、オーボエがピエール・ピエルロ、ヴァイオリンがロベール・ジャンドル、バスーンがポール・オンニュ、チェレスタがロベール・ヴェイロン=ラクロワの5人組。1977年10月に、石橋メモリアルホールで収録された、DENON の初期デジタル録音です。幸い、高音域に妙なデジタル歪みは感じられません。たいへん鮮明で、聞きやすい音だと思います。

■パリ・バロック・アンサンブル time=9'47"
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ヴィヴァルディ「ソナタ イ短調 RV86,F.X No.1」を聴く

2010年02月05日 06時13分40秒 | -室内楽
激しくスリップする危険な雪道は、慎重な運転が求められますが、不必要に恐怖心にかられると、通行の流れを阻害し、かえって危険運転を誘発したりします。そんな季節の通勤には、不思議に屈託のない音楽がよく似合ったりします。神経はピンと研ぎ澄ましているのですが、雪国の自動車通勤族である当方は、「パリ・バロック・アンサンブルの精華」などというCDで平常心を保っているのかもしれません。中でも、ヴィヴァルディの「ソナタ イ短調 RV86, F.X No.1~フルート、バスーン、通奏低音(クラヴサン)のための」が、いたく気に入ってしまいました。フルートの軽やかさ、通奏低音の名人芸はもちろんですが、いや~、このバスーンの音色と動き!タイヤスリップも思わず片手でコントロールしてしまうほどの楽しさ!

第1楽章:ラルゴ。短調の曲の美しさはこう書くんだよ、と言わんばかりの、緩やかですが明暗のはっきりした音楽です。
第2楽章:アレグロ。澄んだ音色のフルートが駆けめぐると、リズム感抜群のお相撲さんが軽やかにステップを踏むような、ユーモラスなバスーンの動きが楽しい。
第3楽章:ラルゴ・カンタービレ。ゆったり、のびやかな旋律が広がります。フルートが、いいですねえ。
第4楽章:アレグロ・モルト。クラヴサンも積極的に出てきます。三者が緊密にアンサンブルを展開。これは楽しい。

これまで、ファゴットとバスーンは名前の呼び方が違うだけで、同じ楽器だと思っておりましたが、先ごろ映画「のだめカンタービレ最終楽章・前編」を観て、二つの楽器の違いを認識しました。ルー・マルレ・オーケストラのオーディションにやってきたバスーン奏者、ファゴットにしたら、という意見にも耳を貸しません。バスーンの音色に惚れ込んでいるようでした。このCDでバスーンを吹いているのは、往年の名手、ポール・オンニュ。見事なものです。もしかしたら、マルレ・オケのバスーン奏者の彼も、オンニュのファンだったのかな?
ちなみにフルートはマクサンス・ラリュー、通奏低音のクラヴサンはロベール・ヴェイロン=ラクロワ。3人ともパリ音楽院時代からの仲間だそうで、いずれも一世を風靡した名手たちの、50代前半の頃です。

1974年6月23~4日、武蔵野音楽大学ベートーヴェン・ホールでデジタル録音されたもの。DENON PCM 録音の最初期にあたります。クレスト1000シリーズ中の2枚組 COCO-70913~4 のうちの Disc-1 に収録されています。収録されているテレマン、クープラン、J.S.バッハなどの音楽も、たいへん魅力的なものばかりです。

■パリ・バロック・アンサンブル
I=3'30" II=2'43" III=2'25" IV=1'55 total=10'33"

しばらく県外出張です。今回はパソコンを持参できませんので、記事は日時予約投稿としますが、コメントの返事は少々遅れるかもしれません。
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山形弦楽四重奏団第34回定期演奏会を聴く(2)

2010年02月01日 19時11分15秒 | -室内楽
山形弦楽四重奏団第34回定期演奏会、休憩後に、プロコフィエフの弦楽四重奏曲第1番が始まります。これは、今朝の記事「山形弦楽四重奏団第34回定期演奏会を聴く(1)」の続きです。

第1楽章:アレグロ。モダニズム~新古典主義時代のプロコフィエフにしては、強烈なたたきつけるような音楽ではありません。でも、神秘的な感じはよく出ています。意表をつく跳躍、すぱっと鋭角的な変化は、やっぱりプロコフィエフです。
第2楽章:アンダンテ~ヴィヴァーチェ。始まりはヴィオラとチェロから。ヴァイオリンが入り、緊張感のあるゆっくりした音楽になります。やがてテンポが速くなり、動きのある音楽に。不安感や焦燥感を感じさせる中に、チェロのピツィカートが実にタイミング良く入ります。このリズム感も、プロコフィエフのもので、ヴィオラの旋律が魅力的です。
第3楽章:アンダンテ。懐かしさを感じさせるロシアの子守歌のような旋律から。プロコフィエフらしい抒情性です。硬質の抒情。この楽章は、後年のプロコフィエフを思わせるものがあります。

作曲されたのは、1931年、米国議会図書館からの委嘱によって、とありますので、1891年生まれのプロコフィエフはちょうど40歳、不惑とはいうものの、不安定な惑いの時期だったのでしょう。わがままいっぱいに育った10代を経て、20代半ばで祖国を出て、40代半ばまで米国やヨーロッパで暮らし、作曲では認められつつ、演奏家としては必ずしも成功していない。このまま自分は年老いていくのだろうかという焦りや漂泊感が、政治体制の変化で不安もあるが懐かしくもある故国ロシアへの帰還という願望とないまぜになり、帰るに帰れなかったマルティヌーにも通じる、悩み、悲嘆や切迫感を出しているのかもしれません。



アンコールは、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.76-1から、メヌエットを。あ~、やっぱりハイドンはいいなあ。カルテットの原点だなあ。当方、今回は事前予習なし。ぶっつけ本番でした。おかげで、音楽の外形だけ、上っ面をなでただけに終わってしまいましたが、それでもプロコフィエフの弦楽四重奏曲などに、あらためて興味を持ちました。これは、後でCDでじっくり聴いてみなければ!

また、今回のプログラムは、ハイドンを除けばきわめてマニアックな、近現代中心のものでした。プロコフィエフ好きの当方はともかくとして、この冬空の下、お客さんが入るのかなと心配しましたが、トップの写真のように、なんと約80名の来場者でした。これは、固定客数と見ていいでしょう。山形市の人口は20万人、周辺人口をあわせてもたかだか30万人程度の地方都市で、近現代中心の室内楽演奏会に80人の聴衆が毎回集まる。これは、演奏家と聴衆の両方の幸福な関係がなければ不可能なことです。室内楽専門の音楽ジャーナリスト、やくぺん先生(*)の言い方をちょいと真似るならば、「すごいぞ、山形!」なのかもしれません。

そして、次回の第35回定期演奏会は、なんと、チラシもカラー印刷です!
プログラムは、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲第12番、尾崎宗吉「小弦楽四重奏曲Op.1」、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.74-2、4月20日(火)、18:45~、文翔館議場ホール、です。これもまた、楽しみです。



(*):やくぺん先生うわの空~音楽ジャーナリスト渡辺和さんのブログ
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山形弦楽四重奏団第34回定期演奏会を聴く(1)

2010年02月01日 06時30分42秒 | -室内楽
1月最後の日曜日、31日の夜6時半から、山形市の文翔館議場ホールにて、山形弦楽四重奏団の第34回定期演奏会。午後、夕方に近づいてから親戚の親子が来訪し、大学入試センター試験の結果などを聞きました。まずまずの成績だったようで、第一志望の地元大学に出願する予定とのこと、励ましてやりました。

そんなこんなで、出発がやや出遅れて、会場に到着した時には、アンサンブルともズのプレ・コンサートが始まっておりました。本日は、ハイドンによる「ヴァイオリンとヴィオラのための6つのソナタ」の第5番。茂木智子さん(Vn)と田中知子さん(Va)のお二人です。

開演前のプレトーク、今回はヴィオラの倉田さんです。あれ?私が倉田さんの生の声を聞くのは、もしかしたら初めてかもしれません。テノールよりはむしろハイ・バリトンとでもいうのでしょうか、男声としてはやや高めの声域の、少しハスキーな、いい声です。
ハイドンの作品50という曲は、モーツァルトから献呈されたハイドン・セットに刺激を受けて、四人が対等の立場で演奏する緊密な音楽を志向して作られるようになった、出発点としての作品とのこと。もう一つのプロコフィエフは、アメリカの議会図書館から委嘱を受けて作曲されたものだそうで、ロシアに帰ろうかどうしようかと悩んでいた時期のものだそうです。この二曲の間に、林光「ラメント(悲の曲)」とヴォルフの「イタリアのセレナーデ」が入るとのこと。赤いネクタイの倉田さん、なかなか弁舌さわやかです。



いよいよ開演。第1Vnの中島さん、Vlaの倉田さん、Vcの茂木さんは黒のダークスーツにネクタイ姿ですが、中島さんと茂木さんのネクタイの色と柄までは確認できず。第2Vnの駒込さんは、春の青空のような目に鮮やかなドレスです。左から、第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、そして右端にチェロが位置します。

第1曲、ハイドンの弦楽四重奏曲ヘ長調 Op.50-5「夢」。
第1楽章:アレグロ・モデラート。明るく快活な、いつものハイドンだけれど。そういえば、初期の曲は第1ヴァイオリン主導型のものが多かったかもしれない。第2楽章:ポコ・アダージョ。4人のハーモニーで始まります。第1ヴァイオリンを引き立てたり刻みを引き受けるだけではなく、4人で響きを作ります。チェロが深くていい音を奏でます。第3楽章:テンポ・ディ・メヌエット:アレグレット。第1ヴァイオリンの旋律に付けて、三つのパートが動きますが、単純ではありません。ここでもチェロがいい音を聴かせます。第4楽章:フィナーレ、ヴィヴァーチェ。第1ヴァイオリンが、スラーで面白い音を出します。ウィー、ホィー、ツィー、みたいな。ほどよく陰影も激しさもあり、活気あるフィナーレです。なかなか面白い曲です。

続いて第2曲、林光「ラメント(悲の曲)」。2000年の2月に、ニューヨークで初演された曲だそうです。出だし、いい響きです。伝統的なハーモニーではないけれど、引き裂かれたような現代で、調和を求めるとすればこんな響きになるのでしょうか。第1VnやVcが時おり印象的な強いフレーズを奏します。さらにVlaも。これにVcが絡むと、2つのVnが対抗するように。やがて四人の響きが探られます。第1Vnの長い持続音に第2VnとVaが金縛りにあったように加わり、Vcが入ると音楽は動きを再開します。第1Vnが長い持続音、第2Vnがピツィカート、その間VaとVcは沈黙します。4人の響きが再現され、Vcの持続音のうちに3人のピツィカート、そして2本のVnの持続する音が弱まる中で、VaとVcのピツィカートが静かに曲を閉じます。初めて聴きましたが、緊張感に満ちた、静かな、しかし強い印象を与える音楽です。

前半の休憩前にもう一曲、ヴォルフの「イタリアのセレナード」です。もっぱらレコードやCDで音楽に接してきたためか、小品に接する機会が少ない傾向が否めません。有名な作品であるにもかかわらず、当方、ほとんど初めて聴くようなものです。19世紀末のウィーンに現れた歌曲の作家でブラームス批判の急先鋒でもあった、フーゴー・ヴォルフの作品。全体に p や pp が多いようですが、時代がそうなのか、たいへんロマンティックな響きと感じます。未完の弦楽四重奏曲のある楽章を取り出したものというよりは、交響曲に対する交響詩のように、単一楽章で起承転結を持っている音楽のようです。



写真は、後方から見た休憩時の議場ホールの内部です。休憩のあとに、今回のメインプログラム、プロコフィエフの弦楽四重奏曲第1番があるのですが、時間切れです。続きはまた夜に。
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シューマン「アンダンテと変奏曲」を聴く

2009年12月30日 06時13分03秒 | -室内楽
ほっとするひととき、お菓子をつまみながらコーヒーを飲み、お気に入りの音楽を聴くのが何よりも嬉しいものです。たとえばこの曲、1843年に作曲された、シューマンの「アンダンテと変奏曲」。今日は二台のピアノではなくて、オリジナルの編成で、2台のピアノ、2つのチェロとホルン、というもの。しかも、演奏はマルタ・アルゲリッチ(Pf)、アレクサンドル・ラビノヴィチ(Pf)、ナターリャ・グートマン(Vc)、ミッシャ・マイスキー(Vc)、マリー・ルイーゼ・ノイネッカー(Hrn)という豪華な顔ぶれです。


この二枚組のCDでは、一枚目の第5トラックから第7トラックまで、便宜的に三つのトラックに分けて収録されています。添付のパンフレットの表記をもとに、Wikipedia 等の解説を加えると、どうやら次のような区分になるようです。

第5トラック:序奏(ソステヌート)~主題(アンダンテ・エスプレッシーヴォ)~第2変奏(ウン・ポコ・ピウ・アニマート)~第4変奏(ピウ・アニマート)~第5変奏(ピウ・レント)~間奏曲(ウン・ポコ・ピウ・レント)。短い序奏に続く、アンダンテ・エスプレッシーヴォの、夢見るようなシューマンの音楽の始まり。ピウ・レントの夢見るような音楽。そして、第2変奏から第4変奏に至る、活発な音楽。このあたりは、まったくピアノの独壇場で、ホルンやチェロは、たしかに音を添えるだけ、という感じもしますが、第5変奏、ピウ・レントでは、ぐっと雰囲気が変わります。それにしても、ピアノとチェロとホルンという組み合わせを考えたのは、どういうきっかけだったのかわかりませんが、結果的にクララに花を持たせたことになったのでしょう。(^_^)/
第6トラック:第6変奏(ピウ・レント)~第7変奏(アニマート)。中盤の飛び跳ねるようなピアノに続くホルンのソロが、酒席帰りの酔っ払いには「パパ、酔ってねーよ!」に聞こえてしまう、というのは内緒です(^o^)/
でも、このチェロの旋律はほんとに素敵です。
第7トラック:第10変奏(ダッピオ・ムーヴィメント)~終曲(テンポ・プリモ~ピウ・アダージョ)。ピアノの活発な動きに目を(耳を)奪われますが、実はホルンとチェロのバックがあっての響きであることに気づきます。試奏後に、周囲の意見を入れて二台のピアノのための曲に改訂してしまったとのことですが、曲の終わりのところで、リタルダンドしてそっと終わる、このオリジナル編成の魅力は、かけがえのないものだと思います。

CDは、EMI ベストクラシックス100 というシリーズ中の TOCE-14256 という二枚組で、1994年のライブ録音だそうです。実際、演奏の後の盛んな拍手から、演奏会の雰囲気も知ることができます。デュトワと共演したテレビ録画等からは、怖いオバサンにしか見えないアルゲリッチですが、じつはすごいプレッシャーの中でソリストとして活動してきたようで、こういうシューマンの室内楽などに、彼女の音楽の本当の喜びがあるような気もしてくる(*)、そんな録音です。

■2台のPf、2つのVcおよびHrnのためのアンダンテと変奏曲(アルゲリッチ他)
I=8'06" II=4'50" III=5'47" total=18'43"

(*):アルゲリッチの幼い頃のトラウマに触れて~青柳いずみこのMerde日記

トップの写真は、今朝のコーヒーと、いただきもののお菓子。代官山の小川軒のレーズンウィッチです。これ、おいしいんですよね~。コーヒーとレーズンウィッチとシューマン。早朝の至福であります。
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