「もしもし~ 牛坂さんですか~」
孫たちを連れてお盆休みで混み合う辻堂海浜公園に向かう途中で携帯が鳴った。
牛坂というのは、30代から50代にかけてイラストやイラストルポなどを描いていた頃の私のもうひとつのペンネームだが、最近ではあまりこの名前で仕事をすることも無くなった。
「ご無沙汰をしていま~す、文○堂のTです~」
「明日の午後に入る予定の原稿のカットを20枚ほど描いてもらえないでしょうか」
「で、〆切は?」
「明後日の午後ですから、24時間はありますが・・・」
「エ~ッ! 24時間で20枚の絵を描くということは、寝ないで描けということ?」
「お忙しい中をすみませんが、そこをなんとか・・・」
「うちはコンビにじゃあないんだから・・・」
夏休み後半の工作教室に備えいろいろ準備もあるが、せめてお盆の間だけでも休養をしようと思っていたのが急用とはシャレにもならない・・・とは言うものの、この夏の間にもう一仕事をしてパソコンの周辺機器を買いたいとも思っていたので、結局タイトなスケジュールの仕事も請けることにした。
あくる日の11日の午後の孫たちとの予定をキャンセルしてFAXで原稿の届くのを待つことにしたが、午後には届くはずの原稿は遅れに遅れてFAXが届いたときは夜の8時半になっていた。
孫たちはおじいちゃんの仕事の道具である付けペンをはじめて見るらしく、これは何?と訊ねてきた。
台風の余波で曇り勝ちの空も明るくなってきた早朝5時になって、一通りのカットを描きあげると、一旦仮眠。
今回依頼されたカットの一枚で、「お茶をひく」という言葉の語源の説明のカットで、
お客がつかず暇をもてあます遊女は客をもてなす抹茶を挽く役をしていた・・・。
孫たちの見るテレビの音で目を覚ますと、もう午前8時を回っていて下書きの鉛筆の線を消し、スクリーントーンを貼るなどの仕上げをしてどうやら〆切の時間に間に合わせることが出来たが、歳をとってからの徹夜は身体にこたえる。
イラストを受け渡した後は、もうせみの抜け殻のように何の役にもたたない半ボケの老人になっていた。
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