写真①:田川市石炭・歴史博物館が発行した『炭鉱の語り部 山本作兵衛の世界』の裏表紙
〈田川・町歩きスポット〉 2
:山本作兵衛66歳からの偉業
福岡県飯塚市出身の絵師山本作兵衛は、明治25年(1892年)生まれ。昭和59年(1984年)に92歳で死去。日本で初めて国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)の「世界記憶遺産」に登録されることになった彼の描いた筑豊炭田の記録画など697点は、主として66歳から71歳までの6年間に精力的な作業で残されました。
田川市伊田の「田川市石炭・歴史博物館」が、開館25周年記念の特別企画で平成20年に発行した『炭鉱(ヤマ)の語り部 山本作兵衛の世界』(144㌻)=写真①=には、作兵衛の卓越した記憶と絵心が凝集・結晶された筑豊炭田の記録画が収録されています。
作兵衛は、14歳から筑豊各地の炭鉱で働き、明治末から戦後にかけての炭鉱労働者の生活の様子を千点以上の水彩画に描写。炭鉱労働に従事した本人が描いた感動を与える絵画は例がない、と高い評価を受け、「世界記憶遺産」への登録が決まりました。「田川市石炭・歴史博物館」=写真②=には、作兵衛の記録画をひと目見ようという観覧者が増えています。
写真②:「田川市石炭・歴史博物館」1階の展示室入り口
=田川市伊田で、2011年7月29日撮影
作兵衛の記録画には、「ガス爆発」や「ヤマの水害」など死と隣り合わせの災害に遭いかねない坑内で、はいつくばって石炭を掘る「寝掘り」などの様子が、精細に描かれています。炭鉱夫(婦)らの過酷な労働と多くの犠牲の上で、産業エネルギーとしての石炭が大量に発掘されて日本の近代化が支えられ、伊藤伝右衛門ら〝筑豊の炭鉱王〟ら炭鉱主の富も蓄えられたことがうかがえました。それにしても、坑内の作業を終えて男女混浴の共同風呂で、炭塵と汗まみれの体を洗う労働者たちの環境の劣悪なこと。労働者の搾取により、資本家の富が蓄積されていく過程が、膝の上に重い砂袋を載せてのリンチや日本刀を抜き合ってのヤマの男のけんかの場面などリアルな絵と添え書きの文で理解できます。
「田川市石炭・歴史博物館」の裏手の敷地にある「産業ふれあい館」(復元炭鉱住宅)=写真③=では、明治・大正・昭和期の炭住の間取りを再現してあります=写真④=。
写真③:「産業ふれあい館」(復元炭鉱住宅)
=「田川市石炭・歴史博物館」裏手の敷地で撮影
私が小学生だった昭和20年代には、夏になると筑豊の炭鉱会社員たちが大型の貸切バスを何十台も連ねて津屋崎の海水浴場に来ていました。津屋崎海岸や渡半島には、筑豊の炭鉱会社の海の家や炭鉱主の別荘があり、伊藤伝右衛門が曽根の鼻の海辺に築いた『活洲場跡』や伝右衛門のお抱え運転手の家もあったことから、筑豊の炭鉱と作兵衛の筑豊炭田の記録画には親近感を覚えました。
写真④:明治・大正・昭和期の間取りを再現した炭住の部屋
=「産業ふれあい館」(復元炭鉱住宅)で撮影
明治・大正・昭和の筑豊炭田に約50年間、坑夫として生きた作兵衛が、66歳にして初めて絵筆を握り、筑豊炭田の記録画を残そうとしたのは、子や孫に「ヤマの生活やヤマの作業や人情を書き残しておこうと思い立った」からでした。私が61歳で吉村青春第一詩集・『鵲声――津屋崎センゲン――』(A6判、175㌻。新風社文庫)を出版、66歳で津屋崎の郷土史と自然のガイド本・『津屋崎学』(B5判カラー、314㌻。イースト株式会社および欧文印刷株式会社)を発行したのも、行政合併で津屋崎町の名がなくなり、古き良き時代の古里・津屋崎町の風物や人情を書物に書き残し、子や孫に津屋崎の素晴らしさを知って誇りにしてほしいとの想いがあったからです。
遺族の方の話によると、作兵衛は絵を描く時は人を寄せ付けないほどの気迫で、声を掛けるのもはばかれたといい、1枚も書き損じた作品を見たことがないという。本当に想いが実現するかどうかは、その感じ方が十分かどうかにかかっていると思います。辺境の地で、世界に通じる偉業を成し遂げた作兵衛の作品の所蔵地・田川を、今後も訪れたくなりそうです。
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「田川市石炭・歴史博物館」位置図