とっちーの「終わりなき旅」

出歩くことが好きで、趣味のマラソン、登山、スキーなどの話を中心にきままな呟きを載せられたらいいな。

「山女日記」湊かなえ/著

2014-07-18 20:32:59 | 読書
山女日記
クリエーター情報なし
幻冬舎


山岳小説というと、まず浮かんでくるのが新田次郎だ。「孤高の人」「銀嶺の人」「劒岳 点の記」等の一般の人ではとても付いていけないような体力の限界に挑んでいく人たちの話が多い。それぞれ、手に汗握る内容で凄い人がいたんだなあと思うし感動する内容ではある。だが、とてもそんな人たちの真似はできない。また、井上靖の「氷壁」といった山岳ミステリー物もあるが、こちらも上級登山家という人たちが主人公で、ごく一般の登山者視線に立った小説は数少なかった。

最近読んだ本では、笹本稜平の「春を背負って」が、我々の一般登山愛好家が読んでも共感できる内容で映画化もされ読みやすかった本だ。こんな山岳小説がもっとあればいいと思っていたら、なんと”湊かなえ”が山岳小説を書いたというので、どんな内容かと興味をひいた。いつもだったら図書館で借りられるまで待っているのだが、どうしてもすぐ読みたくて、本屋で買ってしまった。まだ、出たばっかりのホカホカの最新刊である。

”湊かなえ”というと、「告白」「往復書簡」(北のカナリアたちで映画化)「白ゆき姫殺人事件」「夜行観覧車」等の作品があり、映画化やドラマにもなって今では超売れっ子の作家だ。ただ、その作風は、ショッキングな題材を扱いおどろおどろしいイメージの内容が多い。何冊か読んではいるが、新しい作品を読み始めるには勇気がいりそうな気がして、なかなか手が出なかった。しかし、この「山女日記」は、作者自身が自分で登った山を題材にしたもので、今までの作風とは全く違う内容だった。

作者が、過去に登った妙高山、火打山、槍ヶ岳、利尻岳、白馬岳、金時山、そしてニュージーランドのトンガリロが舞台となる7つの短編の連作集だ。トンガリロ以外は、私も登った山ばかりであり、それらの山をどんなふうに味付けして描いたのかすごく興味があった。湊かなえも山好きだったのかと、嬉しい気持ちもあった。それぞれの章で、いろんな女性がいろんな悩みを抱えながら山に登って、人生の次の一歩を歩みだそうとしている様子が女性視線で描かれている。ある意味、山はそれぞれの思いの背景の一つでしかないが、苦しくても素晴らしい景色を眺めながら一歩一歩高い山を登っていく間に、いろんなことを思い決断することが出来るのも山ならではの事である。山好きとしては、人気作家が山を題材にした小説を書いてくれたのは非常に嬉しい。この作品を読めば、山初心者でも、きっと山に登ってもみたくなるはずだ。

因みに、同様の山岳小説が他にも出ていたのも知った。直木賞作家の北村薫の「八月の六日間」という作品である。北村薫は男性であるが、こちらもごく普通の女性登山者が槍ヶ岳、裏磐梯、常念山脈縦走、天狗岳などの山を登った話のようである。こちらも、私が登ったことのある山が題材となっており、図書館の予約をさっそく入れた。早く順番が来てほしいものだ。