ちょっとしたことで宗谷管内に関わる、村上春樹さんの短編小説「ドライブ・マイ・カー」を読みました。
この小説は「女のいない男たち」という本に収録された作品で、この本の中には全部で六つの小説が掲載されているなかで一番最初に登場する作品です。
村上春樹さんは巻頭で自らの言葉として、「この本は短編小説を書こうと思って書いた」と言っています。
ドライブ・マイ・カーのあらすじです。主人公は、少しは食えるようになった役者の家福。彼は専属の運転手を雇おうとして二十代半ばのある女性を紹介されます。
その女性の触れ込みは「とにかく運転が上手い。マニュアルシフトの車に乗っていてもシフトチェンジをいつしたかがわからないほどだ」という腕前。実際に会って話をして彼は彼女、渡利みさきを雇うことにします。
みさきの運転が上手いのは北海道の上十二滝町という田舎町出身で、そこは車がないと生活ができないところだったからでした。
家福は二十年連れ添った妻を子宮ガンで亡くしました。ちょっと癖のある顔立ちの家福に対して妻は正統派の美人女優でした。
家福はみさきが運転する車に乗りながら思い出話を始めます。思い出話の一つは妻が彼以外の男と寝たことを知っているというものでした。
そして家福は確信を持って妻と寝たということが分かる高槻という二枚目の男と友達になり、毎週のように飲む仲になりました。
妻と高月は、妻の子宮ガンが悪化して余命が分かったころに高槻とは別れたらしい。しかしそういうことが分かっていながら、家福はどうして敢えてそんな男と友達になったのか。高槻と妻との間に何があったのかを高槻は家福に言えるのか。
車を運転するみさきと家福の会話が進みます。
妻を亡くした家福が美しかった妻と寝た男に何をしたかったのか…、最後の家福の行動は…。
そしてそれを聞いたみさきは…。
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小説のあらすじはこんな感じ。
村上春樹さんは自分自身の書き方について「長編を書き下ろしで書くのが体質的に向いていると感じている」そうなのですが、それにもちょっと疲れた時に「まとめて短編を書いてみようかな」と思ったのだそう。
その短編も、ちょっとしたモチーフで自らに縛りをかけて一気に六、七編を書き上げるのが「水泳の息継ぎの感覚」なのだと。
そうして本の最初に載っている「ドライブ・マイ・カー」を書きながらなぜか、"女のいない男たち"というモチーフが頭から離れなくなり、この短編を書き上げた時から、それを柱に据えた一連の物語を書きたくなってしまった。いや、そのモチーフに「絡め捕られてしまった」ような気がするのだと。
そんな短編集の一番最初に登場する「ドライブ・マイ・カー」ですが、この小説が話題になったのは、その地名をめぐるやりとりからでした。
最初に文芸春秋誌に掲載されたときは運転手をしていたみさきの出身地が宗谷管内の中頓別町であったのが、その表現内容に地元から物言いがついて、この「女のいない男たち」の新刊本の中では架空の町である"上十二滝町"ということになっています。
以前紹介した「羊をめぐる冒険」の中では最後に物語が展開されたのが"十二滝町"という架空の町でしたが、こちらでは上十二滝町という町の名前。よほど滝がお好きなんですね。
小説の中では中頓別町の風景が描写されているというわけではありませんが、村上春樹の小説の中でやはり北海道の町が舞台になっているというので、一度は読んでおきたかったのです。
女のいない男ですか…、読後にいろいろと考えさせる余韻を持たせているところが良いのでしょうね。うーん、だんだんハルキストになってきたかなあ…(笑)