地方自治体にいると、様々な講演会が催されていて結構良いお話が聞けるものです。
先日は、釧路らいらっく会という団体が主催する講演会が開かれて、日本総合研究所理事長で多摩大学学長、三井物産戦略研究所会長を務める寺島実郎さんのお話が聞けました。
寺島さんともなるとテレビやマスコミにもしばしば登場して思いもよらない切り口で世相を語ってくれますが、今日は「世界潮流と日本~北海道の活性化に向けて」という演題で、いま世界で、日本で起きていることから北海道がどうすべきかを語っていただきました。

【講演会の様子】
※ ※ ※ ※ ※
実は寺島さんは北海道の石狩沼田町生まれ。北海道の片隅で生まれていながらこうした優れた能力を持った方と言うのはたいていお父さんは炭鉱のエリートだった方で、寺島さんもまさにお父さんは炭鉱の仕事をされていたようです。
しかもなんと釧路市の隣町である白糠町にも在住していたことがあるのだそう。なんとつかみがお上手です。
※ ※ ※ ※
さて、寺島さんが徴収に配布したのは「寺島実朗の時代認識」と書かれた資料集。様々な資料が掲載されていて、それだけでも優れた資料ですがそれを使って縦横に世界の諸相を切り出します。

【これは優れたもので、時点修正が頻繁に行われています】
日本の貿易総額による貿易相手国のシェアが書かれています。
日本の対米貿易のシェアは、1990年に27.4%だったものが2010年には12.9%と半減しました。一方対中貿易シェアは1990年に3.5%から2010年には20.7%と、なんと六倍。
さらに大中華圏という連結の中国として考えると、90年の13.7%から10年には31.7%に伸びています。
昨年八月に中台貿易協定を結んで貿易がかなり一体化してきた。台湾は馬英九が総統になって以来、イデオロギーを越えて貿易で大陸とネットワークを張りめぐらせています。
大学では「なんとか安売り航空券でシンガポールを見に行け」と言っている。シンガポールは実験国家。淡路島程度の都市国家で人口も資源もないのに、1人あたりGDPが日本を越える4万ドル。
なぜか?かつての固定観念からは世界中の植民地を資源として押さえたことが成功したけれど、つぎは工業生産が大きな国が成功したという記憶がある。
ではシンガポールには何があるのか?実はシンガポールは大中華圏の南端に位置して、東南アジアの成長力を中国に取り込む入り口となっているのだと。
そして日本も35%はユーラシア大陸を相手にして飯を食う国家になったと言うこと。この時代認識がまずは必要です。
※ ※ ※ ※
世界のコンテナ取扱量で見る09年度世界港湾ランキングで見ると、日本の港で世界のトップ20に入っているところはありません。再興が東京で26位というのが現実。
米中貿易は日米貿易の2.5倍になりました。その米中貿易の船は実は津軽海峡を抜けて日本海を航行して物を運んでいます。
釧路沖を米中貿易の船が走っているということ。苫小牧だって本当は豊かな立地で、戦略的ポジションのはず。(もし北海道に産業構造があったら、だが)
今は物流が日本海側にどんどんシフトしているのだ。埼玉、栃木などの北関東の企業ですら、最近は荷を関越道で新潟に出して、釜山経由でトランシップする動きがある。
米中物流を北海道に寄せて考えて欲しい。津軽海峡はラッシュということを戦略としてどう受け止めるか。
※ ※ ※ ※
国土計画の立て直しに当たって、北海道を見ていたら、北海道の人口は2050年にはこれから230万人減って319万人になると言う見通しでした。しかも高齢化が進んで、65歳以上高齢者は40年後に50%というわけ。
2100年に日本は4770万人の国になるといいますが、残念ながら経済予測と違って人口予測だけはかなりの確度で当たります。
中国の人口浸透圧はますます高まるでしょう。世界人口も2010年に70億人となりますます増えている。
人口構造は変化してもだからといって必ず衰亡するわけではない。ただし相当の知恵が必要になるでしょう。
経済を活性化するにはアジアのダイナミズムをどう取り込むのかが鍵。しかし西欧へ行くと、「中国の観光客を招き入れて経済を活性化させようと言うが、日本人に本当にその覚悟はあるのか、と訊かれてドキッとしました。ハードだけではなくソフトの準備ができているか、また文化摩擦が起きることまで想定してどれくらいの腹を決めて受け入れると言っているのか?と訊かれたのです。
日本で定住人口が増えているところが多くない現実を見ると、観光立国論は基本的には間違いではない。ならば交流人口なのかというと、それを本気でやるには覚悟と装置がいる。
フランスのパリやスイスのジュネーブはどうして人を引き付けているか。二泊三日で三万円のスキーツアーでは絶対成功しないのです。
お金を持ってやって来る人をリピーターのように引き付ける装置が必要で行かねばならない用事をどれくらい作れるでしょうか。。
私自身しょっちゅうフランスに行くが観光ではありません。様々な専門家と会うような用事ができるから行くことになる。
秋葉原の電気街と地方の温泉でリピーターになってもらえるといつまで思っているのか。情報の磁場が必要で、それこそが人を引き付ける力なのです。
パリにアラブ世界研究所があるが、フランスは20年掛けてアラブに関する専門機関を作った。だから私なども行かなくてはならなくなっている。
ジュネーブには国際機関の本部がここにあるためにみなが行かなくてはならなくなっている。
北海道は、たとえばこれからロシアに関する情報研究期間はどうか。本当に北海道にそういう北東アジアに関する情報の磁場があるか。
※ ※ ※ ※ ※
もう一つは食と農の島としての北海道の可能性。
農業というのは食料を提供するだけの産業ではない。環境との関係、食糧自給率を6割とする中で、TPPに参加出来るような知恵はないのか、と言うことが問われているはずなのだ。
日ハム等という会社は、農業生産法人でもあり、流通でもある。
日ハムは後継者の以内畜産業者を抱え込みながらバリューチェーンを繋ぎ始めている。
生産法人、流通法人としてどこまでプラットフォームにできるかがカギ。
北海道産品と出くわす機会が増えたと感じている。そうした食材を支えているのは流通法人だ。
日本は6兆円の食糧輸入国だが、4500億円の輸出国にもなった。次第に戦う力がついてきたと思っている。ただし、品目別にかんがえるべきで飼料も国内で作れれば食糧自給率は劇的に変化するだろう。
地方で農業が衰退するのは、堂々と飯を食える産業構造になっていないから。
寝たきり老人のために7兆円、生活保護のために2兆円かけているが、日本人を寝たきりにしないで最後まで社会に貢献してもらうことが大事になってくる。
高齢者=敗残兵ではない。80歳以上の年寄りでさえ、9割以上は元気なのであって、そう言う人たちをどう活用するかが高齢化社会を衰亡化させないための知恵だろう。
生活保護に金を突っ込むよりもそうした人が生産的な活動ができるプラットフォームを作ることの方が大切だ。農業生産法人、段階で定年退職した人たち、農業生産法人を手伝うと言うことくらいはあるのではないか。
参加させることで日本の農業をささえる。そうしたソーシャルエンジニアリングの概念が必要で、ぜひ北海道でそれを実現してほしい。
※ ※ ※ ※ ※
…と、まあこんな調子でしたが、穏やかな語り口の中で脅かしたり褒めたりと実に聞きやすい講演でありました。
さて、北海道は自らの力をどう認識して、活性化に向けて頑張るしかありません。まずは自分から何かを始めましょう。
先日は、釧路らいらっく会という団体が主催する講演会が開かれて、日本総合研究所理事長で多摩大学学長、三井物産戦略研究所会長を務める寺島実郎さんのお話が聞けました。
寺島さんともなるとテレビやマスコミにもしばしば登場して思いもよらない切り口で世相を語ってくれますが、今日は「世界潮流と日本~北海道の活性化に向けて」という演題で、いま世界で、日本で起きていることから北海道がどうすべきかを語っていただきました。

【講演会の様子】
※ ※ ※ ※ ※
実は寺島さんは北海道の石狩沼田町生まれ。北海道の片隅で生まれていながらこうした優れた能力を持った方と言うのはたいていお父さんは炭鉱のエリートだった方で、寺島さんもまさにお父さんは炭鉱の仕事をされていたようです。
しかもなんと釧路市の隣町である白糠町にも在住していたことがあるのだそう。なんとつかみがお上手です。
※ ※ ※ ※
さて、寺島さんが徴収に配布したのは「寺島実朗の時代認識」と書かれた資料集。様々な資料が掲載されていて、それだけでも優れた資料ですがそれを使って縦横に世界の諸相を切り出します。

【これは優れたもので、時点修正が頻繁に行われています】
日本の貿易総額による貿易相手国のシェアが書かれています。
日本の対米貿易のシェアは、1990年に27.4%だったものが2010年には12.9%と半減しました。一方対中貿易シェアは1990年に3.5%から2010年には20.7%と、なんと六倍。
さらに大中華圏という連結の中国として考えると、90年の13.7%から10年には31.7%に伸びています。
昨年八月に中台貿易協定を結んで貿易がかなり一体化してきた。台湾は馬英九が総統になって以来、イデオロギーを越えて貿易で大陸とネットワークを張りめぐらせています。
大学では「なんとか安売り航空券でシンガポールを見に行け」と言っている。シンガポールは実験国家。淡路島程度の都市国家で人口も資源もないのに、1人あたりGDPが日本を越える4万ドル。
なぜか?かつての固定観念からは世界中の植民地を資源として押さえたことが成功したけれど、つぎは工業生産が大きな国が成功したという記憶がある。
ではシンガポールには何があるのか?実はシンガポールは大中華圏の南端に位置して、東南アジアの成長力を中国に取り込む入り口となっているのだと。
そして日本も35%はユーラシア大陸を相手にして飯を食う国家になったと言うこと。この時代認識がまずは必要です。
※ ※ ※ ※
世界のコンテナ取扱量で見る09年度世界港湾ランキングで見ると、日本の港で世界のトップ20に入っているところはありません。再興が東京で26位というのが現実。
米中貿易は日米貿易の2.5倍になりました。その米中貿易の船は実は津軽海峡を抜けて日本海を航行して物を運んでいます。
釧路沖を米中貿易の船が走っているということ。苫小牧だって本当は豊かな立地で、戦略的ポジションのはず。(もし北海道に産業構造があったら、だが)
今は物流が日本海側にどんどんシフトしているのだ。埼玉、栃木などの北関東の企業ですら、最近は荷を関越道で新潟に出して、釜山経由でトランシップする動きがある。
米中物流を北海道に寄せて考えて欲しい。津軽海峡はラッシュということを戦略としてどう受け止めるか。
※ ※ ※ ※
国土計画の立て直しに当たって、北海道を見ていたら、北海道の人口は2050年にはこれから230万人減って319万人になると言う見通しでした。しかも高齢化が進んで、65歳以上高齢者は40年後に50%というわけ。
2100年に日本は4770万人の国になるといいますが、残念ながら経済予測と違って人口予測だけはかなりの確度で当たります。
中国の人口浸透圧はますます高まるでしょう。世界人口も2010年に70億人となりますます増えている。
人口構造は変化してもだからといって必ず衰亡するわけではない。ただし相当の知恵が必要になるでしょう。
経済を活性化するにはアジアのダイナミズムをどう取り込むのかが鍵。しかし西欧へ行くと、「中国の観光客を招き入れて経済を活性化させようと言うが、日本人に本当にその覚悟はあるのか、と訊かれてドキッとしました。ハードだけではなくソフトの準備ができているか、また文化摩擦が起きることまで想定してどれくらいの腹を決めて受け入れると言っているのか?と訊かれたのです。
日本で定住人口が増えているところが多くない現実を見ると、観光立国論は基本的には間違いではない。ならば交流人口なのかというと、それを本気でやるには覚悟と装置がいる。
フランスのパリやスイスのジュネーブはどうして人を引き付けているか。二泊三日で三万円のスキーツアーでは絶対成功しないのです。
お金を持ってやって来る人をリピーターのように引き付ける装置が必要で行かねばならない用事をどれくらい作れるでしょうか。。
私自身しょっちゅうフランスに行くが観光ではありません。様々な専門家と会うような用事ができるから行くことになる。
秋葉原の電気街と地方の温泉でリピーターになってもらえるといつまで思っているのか。情報の磁場が必要で、それこそが人を引き付ける力なのです。
パリにアラブ世界研究所があるが、フランスは20年掛けてアラブに関する専門機関を作った。だから私なども行かなくてはならなくなっている。
ジュネーブには国際機関の本部がここにあるためにみなが行かなくてはならなくなっている。
北海道は、たとえばこれからロシアに関する情報研究期間はどうか。本当に北海道にそういう北東アジアに関する情報の磁場があるか。
※ ※ ※ ※ ※
もう一つは食と農の島としての北海道の可能性。
農業というのは食料を提供するだけの産業ではない。環境との関係、食糧自給率を6割とする中で、TPPに参加出来るような知恵はないのか、と言うことが問われているはずなのだ。
日ハム等という会社は、農業生産法人でもあり、流通でもある。
日ハムは後継者の以内畜産業者を抱え込みながらバリューチェーンを繋ぎ始めている。
生産法人、流通法人としてどこまでプラットフォームにできるかがカギ。
北海道産品と出くわす機会が増えたと感じている。そうした食材を支えているのは流通法人だ。
日本は6兆円の食糧輸入国だが、4500億円の輸出国にもなった。次第に戦う力がついてきたと思っている。ただし、品目別にかんがえるべきで飼料も国内で作れれば食糧自給率は劇的に変化するだろう。
地方で農業が衰退するのは、堂々と飯を食える産業構造になっていないから。
寝たきり老人のために7兆円、生活保護のために2兆円かけているが、日本人を寝たきりにしないで最後まで社会に貢献してもらうことが大事になってくる。
高齢者=敗残兵ではない。80歳以上の年寄りでさえ、9割以上は元気なのであって、そう言う人たちをどう活用するかが高齢化社会を衰亡化させないための知恵だろう。
生活保護に金を突っ込むよりもそうした人が生産的な活動ができるプラットフォームを作ることの方が大切だ。農業生産法人、段階で定年退職した人たち、農業生産法人を手伝うと言うことくらいはあるのではないか。
参加させることで日本の農業をささえる。そうしたソーシャルエンジニアリングの概念が必要で、ぜひ北海道でそれを実現してほしい。
※ ※ ※ ※ ※
…と、まあこんな調子でしたが、穏やかな語り口の中で脅かしたり褒めたりと実に聞きやすい講演でありました。
さて、北海道は自らの力をどう認識して、活性化に向けて頑張るしかありません。まずは自分から何かを始めましょう。