第二次大戦のさなか、ドイツ占領下のポーランドに「ザ・ハントレス」と呼ばれた殺人者がいた。森で人を狩り、子供や兵士を殺した冷酷な親衛隊将校の愛人。その女に弟の命を奪われた元従軍記者の英国人イアンはナチハンターとして行方を捜し、1950年春、手がかりを追って大西洋を渡る。一方、米国ボストンでは、17歳の娘ジョーダンが父親の再婚相手に不審を抱き始めていた…本の雑誌が選ぶ2019年度文庫ベストテン第1位の歴史ミステリー。
『戦場のアリス』もおもしろく読みましたが、これもおもしろかったです。モデルがいいのはもちろんあるかもしれないけれど、キャラクターがみんな魅力的で愛嬌があって、お話がおもしろいというのもあるけれど彼らの日々を追うのがとにかく楽しかったです。イアン、トニー、ニーナ、ジョーダン、ルース…みんなものすごく奥行きがある、素敵な人間でした。
お話としては、ローレライの正体に何かギミックがひとつあるのかな、だからセブのことが語られないのかな、そのどんでん返しがクライマックスなのかな、読者もそこである種の裏切りを作品から受けることになるのかな…とやや身構えて読んだのですが、そこは素直な作りでよかったです。そしてこれはこの「狩り」を通して、みんながトラウマを乗り越え何かを手に入れるお話になっているんですね。そこがいい。
個人的には、ニーナがローレライを殺して終わり、みたいにならなくて本当によかったと思いました。彼女もまた傷を乗り越え、成長し変化したわけです。こういう作品は、女だって人間だ、と言いたいがあまり女にだって酷いこともできる、という方向に走ることがままあると思うのですが、そうでなくてよかった、と本当に安心しました。
逆に言うと男も女もなく怪物は怪物でローレライはそれだ、というのが結論なんでしょうけれど、そこはあまり深く掘られていませんでしたし、私はローレライもまたわりと普通の人間だったんだろうな、と思いました。命令されたからやっただけ、むしろ有能で責任感が強くちゃんとしていて、戦後に人からそれは悪いことだったんだと言われてもでも当時はそれが正解だったんだし自分のせいじゃないし、と考えて自分を守り、追われたから逃げただけで特に悪びれていない、ごく普通の人間なんじゃないかと思うんですよね。自分もその立場だったらそうなりかねない、と私は思います。でもだから許されるというものではないし、だからこそこの作品はそこを掘らなかったんだと思います。そこがテーマの物語ではないので。
そして、逃げて、過去から目を背けて、逆に言うと心理的には留まり続けていたローレライは変われず、成長できず、トラウマも乗り越えられず、だから捕まったわけです。これはそれを描く物語なんだと思いました。万物は流転するのです(ちょっと違うか)。
エピローグは1年後、さらにその8年後に判決が出たことを報道するイアンの記事で締められていて、そのとき彼の妻がまだ傍らにいるかは描かれていないのだけれど、それはまた別のお話、という感じなのもいいなと思いました。そうであれ!(笑)
あとは、ダンはもちろん気の毒だったしルースにもまだまだこの先乗り越えなければならないことがあるのかもしれないけれど、ジョーダンがアンネリーゼから得られた「世界」のことはやはり印象深く、禍福はあざなえる縄のごとしとかいうとこれまたちょっと違うのかもしれませんが、やはりよかったねとか、根っからの悪人というものはいないのだろうか、とか考えてしまいます。ジョーダンを追い出すためもあったかもしれないけれど、やはり女性の先輩として、親切として人生の指針として、「あなたは何が欲しいの?」とアンネリーゼがきちんと尋ねてくれたからこそ、ジョーダンは「あたしは世界が欲しい」ということに気づけたのだし、それはそれこそ性別問わずこの世に生まれた人間が当然持っていい希望であるはずなんですよ。人は幸せになるために生まれてくる、というのと同じくらい自明のはずなのです。でも女子は、誰からも尋ねてもらえない。尋ねてもらえればそれが望みだったと自分で気づけるのに。「女がしたいのは何がしたいのか尋ねてもらうこと」、勝手に決めつけられ仕向けられるのではなく、ただ人として尊重されること。歪んでいるしゆるやかすぎたけれどこの女性同士の一瞬の連帯が、彼女の人生を変えました。それはルースに、ニーナに、友情や親愛の情として広がっていくことでしょう。そこに確かに希望を見る、そんな物語だったと思いました。
次作も楽しみです!
『戦場のアリス』もおもしろく読みましたが、これもおもしろかったです。モデルがいいのはもちろんあるかもしれないけれど、キャラクターがみんな魅力的で愛嬌があって、お話がおもしろいというのもあるけれど彼らの日々を追うのがとにかく楽しかったです。イアン、トニー、ニーナ、ジョーダン、ルース…みんなものすごく奥行きがある、素敵な人間でした。
お話としては、ローレライの正体に何かギミックがひとつあるのかな、だからセブのことが語られないのかな、そのどんでん返しがクライマックスなのかな、読者もそこである種の裏切りを作品から受けることになるのかな…とやや身構えて読んだのですが、そこは素直な作りでよかったです。そしてこれはこの「狩り」を通して、みんながトラウマを乗り越え何かを手に入れるお話になっているんですね。そこがいい。
個人的には、ニーナがローレライを殺して終わり、みたいにならなくて本当によかったと思いました。彼女もまた傷を乗り越え、成長し変化したわけです。こういう作品は、女だって人間だ、と言いたいがあまり女にだって酷いこともできる、という方向に走ることがままあると思うのですが、そうでなくてよかった、と本当に安心しました。
逆に言うと男も女もなく怪物は怪物でローレライはそれだ、というのが結論なんでしょうけれど、そこはあまり深く掘られていませんでしたし、私はローレライもまたわりと普通の人間だったんだろうな、と思いました。命令されたからやっただけ、むしろ有能で責任感が強くちゃんとしていて、戦後に人からそれは悪いことだったんだと言われてもでも当時はそれが正解だったんだし自分のせいじゃないし、と考えて自分を守り、追われたから逃げただけで特に悪びれていない、ごく普通の人間なんじゃないかと思うんですよね。自分もその立場だったらそうなりかねない、と私は思います。でもだから許されるというものではないし、だからこそこの作品はそこを掘らなかったんだと思います。そこがテーマの物語ではないので。
そして、逃げて、過去から目を背けて、逆に言うと心理的には留まり続けていたローレライは変われず、成長できず、トラウマも乗り越えられず、だから捕まったわけです。これはそれを描く物語なんだと思いました。万物は流転するのです(ちょっと違うか)。
エピローグは1年後、さらにその8年後に判決が出たことを報道するイアンの記事で締められていて、そのとき彼の妻がまだ傍らにいるかは描かれていないのだけれど、それはまた別のお話、という感じなのもいいなと思いました。そうであれ!(笑)
あとは、ダンはもちろん気の毒だったしルースにもまだまだこの先乗り越えなければならないことがあるのかもしれないけれど、ジョーダンがアンネリーゼから得られた「世界」のことはやはり印象深く、禍福はあざなえる縄のごとしとかいうとこれまたちょっと違うのかもしれませんが、やはりよかったねとか、根っからの悪人というものはいないのだろうか、とか考えてしまいます。ジョーダンを追い出すためもあったかもしれないけれど、やはり女性の先輩として、親切として人生の指針として、「あなたは何が欲しいの?」とアンネリーゼがきちんと尋ねてくれたからこそ、ジョーダンは「あたしは世界が欲しい」ということに気づけたのだし、それはそれこそ性別問わずこの世に生まれた人間が当然持っていい希望であるはずなんですよ。人は幸せになるために生まれてくる、というのと同じくらい自明のはずなのです。でも女子は、誰からも尋ねてもらえない。尋ねてもらえればそれが望みだったと自分で気づけるのに。「女がしたいのは何がしたいのか尋ねてもらうこと」、勝手に決めつけられ仕向けられるのではなく、ただ人として尊重されること。歪んでいるしゆるやかすぎたけれどこの女性同士の一瞬の連帯が、彼女の人生を変えました。それはルースに、ニーナに、友情や親愛の情として広がっていくことでしょう。そこに確かに希望を見る、そんな物語だったと思いました。
次作も楽しみです!
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