駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

宝塚歌劇星組『ベアタ・ベアトリクス』

2022年09月19日 | 観劇記/タイトルは行
 宝塚バウホール、2022年9月9日14時半、10日11時半、17日15時。

 19世紀なかば、イギリス、ロンドン。ロイヤル・アカデミーの画学生ロセッティ(極美慎)はそれまでの因習にとらわれた美術観を打ち破るべく、アカデミー内で神童と名高いエヴァレット(天飛華音)、親友のウィル(碧海さりお)をはじめ、志を同じくする者らと共に「プレ・ラファエライト・ブラザーフッド(前ラファエル兄弟団)」を名乗り、創作活動を始める。そして帽子屋で働く娘リジー(小桜ほのか)と偶然の出会いから恋に落ち、彼女の姿を描くようになる。詩人ダンテを崇拝し、その著書『新生』に登場する理想の女性・ベアトリーチェを求めていたロセッティにとって、リジーはまさに「ベアトリーチェ」だったが…画家であり詩人でもあるロセッティの人間味あふれる波乱の人生に迫り、彼の代表作「ベアタ・ベアトリクス」が生み出されるまでの愛憎渦巻く人間模様を描き上げたミュージカル。
 作・演出/熊倉飛鳥、作曲・編曲/太田健、多田里紗。星組若手ホープの初主演作、演出家のデビュー作。全2幕。

 初日雑感はこちら
 ありがたくも無事に3回観劇できて、まったく飽きませんでしたしあと5回くらいは観てもいいと思えた(笑)、私はとても好きな作品です。ほのちゃんもおださんもスターとしての華や実力はともかくそのバウ初主演作は作品としては残念ながらいろいろアレレなものだったと私は思っているのですが(何かを上げるために何かを下げて語るのは良くないことではありますが…ホントすんません)、比べると華はともかく、じ、実力はどうかなドキドキ…みたいに私が思っているかりんさんは(ホントにホントにすんません)どうやら作品に恵まれたようで、よかったです。まあ『月雲の皇子』とか最近だと『夢千鳥』ほどの「傑作キター!」感はなかったかもしれませんが、熊倉先生もまずまずのデビューを果たしたと言えるのではないでしょうか。毎度上からな言い方で失礼極まりなく申し訳ありませんが、もっとアタマ抱えるデビュー作もたくさんたくさん観てきましたからね…
 あとは無事に千秋楽まで完走できることを切に願っています。台風の被害が大きくなりませんように…!

 初日雑感でもすでにけっこうねちねち語っていますが、改めてアタマから。
 まず、アバンが圧倒的にイイ! 佇むジェイン(水乃ゆり)の後ろ姿、鐘が鳴っている。それだけで、これが主人公が亡くなったあとの弔いの鐘で、彼女が故人を偲んでいるのだとわかる。というかそれくらいの想像力がある観客が観る舞台でしょう、作家もそれを信頼してこう作っているんじゃないかな。
 そこへ、彼女の夫モリス(大希颯)が現れる。その会話から、ここが主人公のアトリエで、彼が彼女をモデルにここで絵を描いていて、この場所はふたりの仲を承知した上で彼女の夫が用意したものだということがわかる。でも今、彼女は主人公の葬儀に行こうとしていない。夫が勧めるような口ぶりで言うと、かえってキレる。その屈託、ドラマの予感…
 ここで年号を語り出すジェインの口調が、もうちょっとその前の台詞と変えられるといいんですけれどねー、ここからいわゆるナレーションになるので。ここが劇的に変化できると、ぐっと演劇感が増すんだけどなー。水乃ちゃんが声音を変えようとしているのはわかるんですけれど、ちょっとテクニックが足りていない感じがしました。残念。でもすごくいいお役で、全体にとてもいい演技だったと思います。大希くんも、このあと明らかになっていくわけですがモリスってまた本当にいいヤツで、それを下級生らしくまっすぐおおらかにやっているのがとてもよかったです。前回新公で急にかりんさんのところをやってくるくらいなので、劇団期待の星なんでしょうが、あの時はちょっとあっぷあっぷして見えた感があったし、お化粧なんかもあまり良くなかった記憶です。今回はとても素朴で素の美しさを利用できていめお化粧で、大柄さもスマートさに変えて見せていました。ちょっと前ならそれこそかりんさんがこういう役どころを振られていただろう、というお役とポジションで、なんか感慨深かったです。
 そこからのプロローグは、お洒落だしとてもいいんだけれどやや長いし、改善してもいい点がいくつかあると思いました。
 まず、現れたロセッティが何故追われているのか、もうちょっと情報を出した方がいいと思います。私は初見は女たらしの役と聞いていたので、人妻にでもちょっかい出してその夫に決闘せんと追いかけ回されているのかな、とか考えてしまいました。でも警官まで引っ張り出されるような犯罪かなあ、とも思ったり。「そんなにたいしたことじゃないのに追われている」というのと「追われるべき理由がある、実は悪人である」というのとでは観客の主人公に対する心構えが違うでしょ? だから早めに、巻き込まれたウィルたちとの会話とかで「ちょっと悪戯書きをしただけだよ、教授が大袈裟なんだよ!」と言わせるとかなんとかして、もうちょっと説明した方がいいと思うのです。
 あと、このプロローグにエヴァレットを出しておいた方がいいと思う。暗い顔で出てきて、ドタバタ逃げるロセッティたちを迷惑そうに眺めて、去る、とかだけでもいい。それは仮にも2番手スターさんの顔見せとして、という意味もありますし、のちに酒場で出会う伏線にもなると思います。
 唐突に労働者、というか失業者たちが出てきて仕事がないとか貧困や苦労を訴え出すターンは、必要ですかね? その後、この視点からのエピソードは作中にまったくないので、ならカットしてもいいかもしれません。そのあとの娼婦のターンもしかり。爛熟した猥雑な時代なのである、ということが表現したかったのかもしれないけれど、これだけだと特に伝わらないし意味がないと思いました。あるいは庶民は芸術どころではない、という時代の物語なのだが…ということ? でもやはり本編に特にそういうくだりが出てこないので、単に尺を詰めるためだけにもカットしていいと思いました。あと、この労働者たちが帽子を届けに行くリジーを襲う形になるのはのは、それをヒーローたる主人公が救うためだとしても、ちょっと差別っぽくないですかねー、という気がしました。イヤ彼らは十分に飢えているのでひったくりくらいして仕方ないのかもしれないけれど、どっちかというと若い女の子を冷やかしていじめて喜ぶ不良みたいでもあったので、こういう人たちはそういう悪さをするものなんですよ、と見えるのはどうかな、と思ったのでした。
 でも最初にロセッティとリジーがすれ違うところに音楽のハイライトがあり、一瞬止まって、でも何もなく行きすぎていくんだけど…というのがラストに効いてくるところは実にいい。そのあと再度、というか何度も出会って、リジーが帽子箱で教授を殴ってロセッティを助けてくれて、そして帽子を落として去っていき、その帽子を拾って被ったロセッティが再びご陽気に踊り出す…というのもとてもお洒落でした。プログラムの最初の見開きの写真が、その帽子を被ったロセッティのカットなのもいい。こういうのが上手いことって、演出家としてとても大事なことだと思います。
 続く酒場の場面、アカデミーの場面と、流れるようで過不足なく、秀逸だと思いました。エヴァレットが仲間になっていく様子に無理がないこと、この三者三様の在り方がきちんと立っていること、なかなか書けないものです。すぐに相手の力量を認めて弟子入りできるロセッティの素直さが愛しいし(尻馬に乗るウィルも)、握手のあとぐっと相手を引き寄せて訴えるワザがもう天然の人たらしって感じです。演技なの素なの!?
 そこからの帽子屋の場面も、やや長いと言えば長いのですが、ロセッティとリジーの再会の場面でもあるしザッツ・ミュージカルな場面でもあるので、まあいいかな。ただリジーは確かにあまりいい店員ではなかったのだろうから、店主(奏碧タケル)はもっとねちねちうるさく小言を言うかペタペタ触ってくるようなセクハラ親父か、とにかくもっと悪い人間にしないと、最後にビンタを食らうのはちょっと可愛そうな気がしましたし、リジーがちょっとあんまりな女性に見えちゃうかな、と思いました。ここのお客役に水乃ちゃんやルリハナがいるんですよね、そちらも観たくて目が足りませんでした。
 続くアトリエの場面もやや長いっちゃ長いんだけれど、ここがキラキラ楽しげな方がのちの悲劇が効くから…というのもあるので、まあヨシとしましょう。ただこの場面から出てくるコロス、「オフィーリアの幻想」という名前なのだけれど、この時点ではまだオフィーリアの話は出てこないので、何かもっと別の、エリューヌスでもセイレーンでもいいんだけど(バッカイとか?)、いい名前をつけてあげるとよかったのかもしれません。そういうオタク臭は熊倉先生にはあまりないのかなあ?
 ここで「きーつ…しぇいくすぴあ…」みたいな言い方するかのんちゃんエヴァレットがホントいい。かのんちゃんってホント上手いですよね…!
 『新生』の場面も構成、脚本、演出が上手いんですよね。男が昔話とかしちゃって女に同情と愛情が湧く、なんてベタベタなんだけれど、ロセッティの屈託や妙に自己評価が低いことが父親を原因にしていることが語られて、主人公のキャラクターに奥行きを与えていると思います。父ガブリエーレ(朝水りょう)は朝水パイセン、さすがの圧です。少年ロセッティ役は『めぐ会いng』新公でうたちのところだった藍羽ひよりちゃん、顔が好き! アカデミー展の淑女とかもうガン見でした。幻影のダンテ(奏碧タケル)とベアトリーチェ(星咲希)も、まあベタな使われ方だけどやはり上手いと思いました。衣装はちょっと重かったかなー…当時のものということなんでしょうけれど、ファンタジックに寄せてもよかったかもしれません。
 ここでのロセッティとリジーのデュエットソングはキラキラと明るく、甘い。てかその前のノートのくだりの「ちょっと、いつの間に」って台詞とその言い方、声音、天才では!? ここを慌てる芝居にさせないのって、なかなかない気がします。そしてヘンにはにかみすぎることのないこのロセッティの女ったらしぶりったらもうかりんさんてば…!と震えましたよね…小桜ちゃんがまた本当に上手くで、もうありがたくて仕方ありませんでした。「わあっ」って感じの笑顔の輝きが、ホントたまらんのです! お化粧も進化していますよね、ちゃんと欠点を隠せていると思う。そして、父親がつけた、父親が尊敬する、偉大な詩人と同じ名前のファーストネーム、やがて詩人になれる才能がないことに絶望し、嫌いになって名乗らなくなったその名前を、「ダンテって呼んでいい?」と言われて、頓着なくにっこり笑って「ああ」と応えて交わすキス…キャー! かりんさんはキスシーンがちゃんとしてるんですよーたどたどしかったりしてないのがモロバレとかがないんですよー満足です!!
 アカデミー展の顛末もホント上手い。そしてラスキン(ひろ香祐)が本当にさあ…! イヤ、悪意があるわけではないんだと思うんだ、評論家として若き才能を広く褒めて励まし伸ばそうとし、一方で冷徹な判断で真の才能はエヴァレットのみが持つと見抜き、さらなる高みを目指す提案をしているだけなんですよね。別に掻き回そうとしているわけではない、けれどそれが彼らの関係に亀裂をもたらす…芸術至上主義の恐ろしさ、非人間感とでも言いましょうか。そしてエヴァレットがリジーをモデルにオフィーリアを描くと言い、ロセッティは断れない…
 この制作場面のナンバーも本当を言うとやや長い。そしてロセッティは三重唱のあと引っ込んでしまうけれど、上手の階段奥に後ろ姿で立たせておくだけでいいから、いさせた方がいいのではないかしらん…確かにここはエヴァレットとリジー、ないしあくまでエヴァレットのターンではあるのだけれど、ロセッティは主人公だし、彼はリジーの恋人なので、事態を完スルーだったはずはないと思うし、ロセッティがあまりに無責任な人間に見えちゃうのはどうかな、と感じたので…
 『オフィーリア』が発表され、評価され、エヴァレットの名声が高まり…兄弟団は解散し、ロセッティはアカデミーを去ってオックスフォードで仕事をするようになる。青春の終わり、わかります…カーテン前芝居の場面が、いいですよね。リジーは体調を崩していく。ロセッティの弟子になったモリスが、気晴らしに劇場へ誘う…
 この『プロセルピナ』場面もホント言うと長い。そしてここ、このショーが終わる少し前には下手にロセッティたちを出しておいて、ショーが終わるとロセッティたちがジェインたちに拍手し、それで客席も拍手する、とした方がいいです。それがないと、言い方アレですが拍手するほどのメンツじゃないので(プルートウ役がもっとわかりやすい男役新進スターならまだしも)、拍手したものかどうか客席がとまどうんですよ。あと、枠組みとしておかしいでしょ? 観客はロセッティの物語を観ているのであって、このショー劇場の客ではないのだから。あとここの歌手はプログラムに出すべきです。あとからソロが決まったのかなあ? てかランパスの女にルリハナがいることにマイ楽で気づいて、夢中で見ちゃいましたよーホントにダンスがいいなー! イヤしかしここの水乃ちゃんの使い方はホント大正解だと思ったのでした。あのダルマは『BADDY』のですよね?
 エヴァレットの『オフィーリア』の幻がチラついて、リジーをモデルに絵を描くことがつらくなっていたロセッティは、ジェインをモデルにしようとする。当時のモデルの在り方とか(「娼婦の仕事よ」という台詞がありましたが、ややいかがわしい職業だとみなされていたということは知識として知っていますが)、それがあくまで画家とモデルというビジネスライクな関係なのか、専属契約があるものなのか、それは愛人/恋愛関係がつきまといがちだからこそなのか、がよくわかりませんが、ロセッティとリジーは画家とモデルでもあり恋人同士でもあったので、そら自分の恋人を他の男に自分より上手く描かれてショックじゃないわけはないし、描けなくなるのも関係がギクシャクするのもわかります。イヤ男の側の勝手な理屈だろ、という指摘もわかりますが、そういうものじゃないですか人間って。主人公を単なる清廉潔白なヒーローではなく、こういう人間臭さを持った、端的に言うとダメ男に描く点に私は好感を持ちましたが、潔癖な後輩はキレていましたね(^^;)。まあ人間観の違いかなあ、それか彼女より私の方が男に甘いのかもしれないな…すまんな後輩。かりんさんに甘いことは確かです(^^;)。
 ここの小桜ちゃんのソロが絶品! 尻切れトンボっぽい楽曲だし演出の都合上拍手が入れにくいのが残念ですが(なくて正解だとは思います)、もうちょっと尺があるしっかりした曲になっていたら、後の世の娘役がこぞってチャレンジしたがる1曲になったのではないかしらん。イヤ難しい曲ですけどね。でも娘役の名ソロ曲ってそんなになくて、いつも選択が偏るじゃん。みんなエミクラの「私のヴァンパイア」とハナちゃんの『ネバセイ』キャサリンの曲ばっかになりません…?(じゃなきゃ「私だけに」)
 さて、実業家の父を持つモリスは大きな夜会を催し、そこでロセッティとそのモデル・ジェインを紹介する。でもジェインは女優といっても場末の、キャバレーの踊り子同然の貧しい身の上で(「キャバレー」という単語を二度出すのは間抜けです、言い換えましょう熊倉くん)、ブルジョワの気取った夜会でズルズルしたドレス着て愛想笑いなんてやってらくないよ、という性格(この、初出が確かハナちゃんの、何度もリメイクされて出てくるドレスよ…!)。ロセッティはそんな彼女をおもしろがり、ふたりはますます接近していく…目撃したリジーはショックを受けて去る。
 そのあとの、会場外の場面もホント脚本がいい。「愛しているけど、一緒にはなれない」なんていかにも不倫男が言いそうなサイテーな台詞ですよ、それを主人公に言わせるんだからイイよね!(笑)イギリスだし別に離婚はそう難しいことではなかったんでしょう、でもスキャンダルは画家としての名声に響くから困る、と言っちゃうロセッティがホントーにクズでときめきます(笑)。でもジェインにモリスからプロポーズされたと聞かされると、意外そうな顔をしつつ素直におめでとうというのがまた実にイイのです。そこで妬くようなこともないし、助かったというような顔もしない。そして身を引く、というのとは違うんだけど、ちゃんと線が引ける男ではあるのです。そこにウィルからエヴァレットの不倫ネタが持ち込まれる展開も、実に上手い…!
 そして、ロセッティはますます絵が描けなくなり、彼を支えられなくなったリジーは自殺同然の死を遂げて、幕…
 お、重い。長い。でもこの起伏がいい気もするし、三度目に観たときは1幕の長さと2幕の短さがすっかり気にならなくなってしまいました。ファンって盲目なものなのネ…

 2幕。リジーの葬式から(喪服姿のかりんさんロセッティがまた壮絶に美しいのよ…!)少し時間を遡ってラスキンの別荘へ。この「一方そのころでは」がこの作品は実に上手く、そこも演劇的で私はとても好きです。そしてここのくだりも脚本が過不足なく本当に素晴らしい。ただしエフィー(瑠璃花夏)の「若かったから」は「幼かったから」でもいいかな、とは思いました。これが12歳のときと19歳のときのどちらを指しているのかはわかりませんが、今だってまだそこそこ若いんじゃないの?というのもあるしね(まあ当時の年齢の感覚は今とはまた全然別でしょうが)。あと「妻という体裁」も「夫婦という体裁」の方がベターかな? そして「抜け殻」より「空っぽ」がいいと思います。エフィーはまあまあお嬢様で、花嫁修業はしていたでしょうけれど仕事も家事も娘時代はしていなかったはずなので、それが結婚しても与えられなかった、ということで何かが失われているわけではないので。ともあれ、ここがよくあるよろめき&誘惑場面みたいになっていないのがイイんですよー! 「ごめんなさい、あなたには尊敬する先生だったわね」みたいな台詞はなかなか書けない、と思いました。エヴァレットはずっとちゃんと真面目だし、エフィーも別に誘ったり甘えたりしているわけではないのです。でも、生まれてしまうものがあるのよ、それが愛ってものなのよ人間ってものなのよー!と私は思うのでした。脚本も芝居もホントいい。そして本当はここにも掘り下げ甲斐があるドラマチックな史実があるわけですが、今回はロセッティの話だからこういう取捨選択と省略で…というのが実にちょうどいいと思いました。
 しかしタブロイドの記者・ケアリー(羽玲有華)はなんかちょっと不発だった気がしました。ここで下級生がいい仕事をしたりすると、跳ねて人気が出たりすると思うんだけれど…ところで単なるカーテン前芝居なのにサロン設定なんですねここ、いいな。
 リジーを失い、絵が描けず、荒れて落ちぶれていくロセッティ。かりんさんはグレグレのほの暗さも出せるスターさんですよね、そして怖ろしいほどの色気がダダ漏れる。ウィルもエヴァレットも2幕は髭をつけて出てくるようになるのにかりんさんはそのままで、まあ主人公だからでもあるかもしれないけれど、こことか無精髭姿だと色気がヤバすぎたのかもしれません(笑)。そら再会しちゃったジェインじゃなくてもオチますよ! てかここのダンスのセクシーさはほとんどギリギリものなのではあるまいか…顔がやらしいんですよホントーに!!(褒めてます) そしてモリスに見つかる。酔っぱらって労働者たちに絡んで殴られるロセッティもいいけど、モリスに殴られるロセッティもたまらん…! 
 自暴自棄になったロセッティはリジーの墓に納めた自分のノートを回収し、詩人になろうとし、さらには自殺未遂を…ってことなんですよね、この錯乱場面のくだりは? 
 幻想で現れるリジーは神々しいばかりに美しく、慈しみ深い。ロセッティは希望を取り戻し、そして…ここの2回の暗転が長くて観客はトラブルかと不安になるレベルなので、ブリッジ音楽かけるか手前で照明か何かを動かすかして保たせてください熊倉先生!
 続く病室の場面は、お見舞いに来ているかのんちゃんがボロボロ泣くんで『翼ある人びと』のシューマン先生の病室場面をちょっと思い出しちゃいましたよ。くーみんは退団してしまったけれど著作権は劇団にあるんだろうし、いつかかりんさんヨハネスで再演どーですか!? あかちゃんのシューマンとかいいと思うの…!
 それはともかく、再びエヴァレットと固く握手して、やる気を取り戻したロセッティは…まで描いて、冒頭のアバンに戻るのが実に上手い。モリスがロセッティとジェインに部屋を用意したのは、彼もまたかつての師匠としてロセッティを尊敬し、妻を寝取られても憎みきれないものがあったのでしょう。あとこういうワンクッションがあった方が上手くいく夫婦、って実はわりとあるんじゃないか説がありますよね。まあ私は結婚したことがないので本当のところはわかりませんが…
 モリスが用意した部屋をアトリエに、ジェインをモデルにして、ロセッティは世界で最も美しいベアトリーチェ、「ベアタ・ベアトリクス」を描いた。でもそこに描かれていたのはジェインではなくてむしろ…
 で、さらにプロローグに戻る。実に憎いくらい上手い。現れたロセッティはちょっと驚いたような顔を見せて、これが回想ではなくファンタジー、いわゆる天国場面なんだということが表現されます。そこですれ違ったリジーと、今度はすぐに反応し合って、周りの人々はすべてハケていき、ふたりきりであのキラキラのデュエット・ソングのリプライズを歌う…そしてぎゅううって感じで抱き合うふたり…
 本当は、「本当の」絵画、「本当の」ベアトリーチェ、みたいな「本当の」な考え方は危険なんですよね(この文頭もしかり。てか「本物の」でしたっけ? すみません…)。でも、それこそ宝塚歌劇なんだからその「本当」の存在が信じられるのです。そこは愛と夢と希望と理想の世界だから。ロセッティとリジーは本当に愛し合っていたのだ、ということがキラキラと描かれて、幕…
 確かに、くだんの後輩が言ってのけたようにクズ男と盲目女の悲劇を綺麗事に描いている作品なのかもしれません。女が不幸になって展開する物語は男が書く典型的なものだと言えるでしょう。でも、そもそも世の中が女の不幸の上に成り立っているんですよね今も昔も残念ながら…だからそれを是正していかないとね、ってのと、女がちゃんと幸せになる物語を増やしていかないとね、ってのとは地道に続けていかないとならないし、それはそれとしてこの作品はジェインの生き残っている姿を描いていることがひとつの美点で希望なのではないかと私は感じていて、それで好きだというのもあるのでした。
 再び幕が上がって、ごく短い総踊りからのラインナップ。かのんちゃんにバリバリ踊るターンが用意されていて良き。そしてみんなで「♪We will make it,きっとやり遂げる」と歌い上げるのが実に若々しくバウらしく、輝かしいです。かりんさんのカテコのご挨拶は、奇をてらわず、がんばりすぎず、たとえ小学生の作文レベルでも本心を素直に短く言い切って締める、とても良きものだと思いました。
 本編を上手く切り取ればフィナーレの尺が3分でも5分でも出た気はしますし、かりんかのんちゃりおと小桜水乃ルリハナの三組デュエダンとかがぜひ観たかった気もしています。白もいいけど赤の変わり燕尾とかも素敵だったかも、かりんさん…! でもそれはこの先のお楽しみとしておきましょう、きっと何度でも観られるはずだと私は信じていますからね…!!

 というわけで以下、簡単な生徒さん感想を。
 ひーろー、ラスキンをもっと色濃いおじさんに演じることもできただろうけど、この作品の解像度に合わせてこれくらいにしたのではないかな、と思わせられました。手堅い、頼もしい、ありがたい。この別箱公演の長ですね、お疲れ様でした。組でもこっちゃんの同期としてまたダンスリーダーとして、すごく頼れる存在なんだと思います。鷹揚でどこか愚かでもの悲しいラスキンさん、とてもよかったです。
 朝水パイセンはもっと歌って踊って芝居してもいいところを亡霊のような役まわりでしたが、短い出番でもその存在感が素晴らしく、これまた適材適所でありがたかったです。思えば全ツ『アルジェ』が抜擢のようなものでしたが、やっと時代が追いついてきましたかね…!
 酒場の女主人マーガレット役の澪乃桜季ちゃんは私の娘役センサーにはかからないタイプなので(すごく星娘っぽいけど)、こうした役どころをきちんと務めているかな、という印象。対して七星美妃ちゃんは美人に見えるのになかなか使われないなあとか思っていたところだったので、ソロもあるお役で嬉しかったです。そしてこの夫人役は、イーストレイク教授(朱紫令真)の役に愛嬌を足していてとてもよかったと思うのですよね…!
 その朱紫くん、ホントは二の線もいける人だと思うんですが今回はおじさん役に回ってくださってありがとう、という気持ち…かりんさんの同期ですよね、こういう言い方は良くないんですけど支えてあげていってくださいね、というキモチ…
 あとは、兄弟団三人はまだちょっとキャラ立ち、差別化ができてなかったかなーという感じで…ロセッティの妹クリスティーナはこれでご卒業の麻丘乃愛ちゃん。私は目が離れた娘役が好きなので(笑)ちょっと気になっていたかわい子ちゃんで、卒業は残念でしたが、ちょいちょい目立つお役を最後にもらえてよかったと思います。舞台だとお化粧でそこまで垂れ目じゃないのも、綺麗でよかったと思いました。
 あとは奏碧タケルにもっと役がつくことを祈っています! 大希くんには今後も期待。そして藍羽ひよりちゃんを推していきたいと思います!!
 ルリハナも、ヘンに老けたりあるいは聖女っぽすぎたりしない役作りがとてもよかったです。別箱ヒロインも回ってきますように! 水乃ちゃんはホントこのセンでいった方がいいと思うので、劇団よろしくお願いいたします。
 そしてちゃりおの優しさあたたかさ、ホント人柄そのままに役に生きていましたよね、ありがたい…そしてかのんもいずれバウ主演はやれると思うんだ、楽しみにしていますよ…!
 そしてこの若い座組で、新公含めヒロイン経験が豊富にある小桜ちゃんが配されたことはまさしく僥倖だったと思います。ホント娘役力がハンパなかったです。娘役芸は技術ですよねえホント、ただ可愛いだけの下級生娘役は足下にも及ばないと思います。みんなよく学べよー!
 そしてかりんさんは少しも早く滝汗を抑えるワザを覚えてほしい…! そんなものがあるのかは知りませんが。でも綺麗に出ることも仕事のうちだと思うので…鼻の下に汗かいてても可愛い、なんて思うのはファンの欲目でしかないと思うからさー…
 あとは、もういいです。わんぱくでもいい、たくましく育ってほしい(古)。イヤまっすぐすくすく育っていただくしかない、応援して見守るしかない、と思っています…ホント、なんせ華があって顔が良くてスタイル抜群のスターさんなのでわかりづらいところではあるかと思いますが、本当は歌もダンスも芝居もそこそこはできているし、当人比でも絶賛モリモリ成長中なんだと思うのです。少なくとも当人は生来の美貌やスペックに胡座をかくタイプではなく、与えられるポジションに対して自分が足りていないことがよくわかっていて、毎度あっぷあっぷしつつ努力を重ねている、わりと真面目で熱心で素直な性格の人なんですよ、イヤそんなには知らないんですけれどね会に入っているわけでもないし入り出で見ているわけでもないので過去にお茶会に参加したときなんかの印象でしかないのですが。抜擢されるならそれも当然と周りを納得させられるくらいにもっと出来ていてほしい、というご意見はあるかと思いますし、当人もそれはわかっていると思うのですが、現状まだまだその域にはなくとも牛歩で進歩はしていると思うのです…あたたかく見守っていただけると……何ポジで語ってるんだって話ですが(^^;)。
 でもありちゃんトップのかりんさん2番手の星組とか、元気でキラキラでイイと思うんですよー。私は夢見たいです。しっかり者で芝居ができるトップ娘役についてもらって…うたちとか働くと思うんですけれど!
 ともあれ、素敵な作品での初主演、本当におめでとうございました。
 そして熊倉先生も、デビューおめでとうございました。ダイスケが好きなら次はショーを作ってみるのもいいと思いますし、でも次のお芝居の脚本・演出も楽しみです。優秀なら女性でも男性でもいいんです、若手実力派大歓迎! 期待しています。
 明日の千秋楽、残念ながら私は予定があって配信が見られないのですが、波乱の全ツ組と違ってなんとか全日程を無事に乗り切れそうで、本当によかったです。みんながんばれー! スカステ放送と、その前に舞台写真発売を楽しみにしています。そういえばやっと初ポスかなんですよね、でもあっきーも『NW!』決まってから出たもんな、懐かしいな…
 出演者全員の良き糧となりますように。おもしろい一作だったと思います。私は好きです。ロセッティさんにも喜ばれているといいな、とお祈りしています。










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