新国立劇場中劇場、2025年4月1日18時。
1989年、ニューヨーク。ウォール街の投資会社のエリート、パトリック・ベイトマン(高木雄也)はトム・クルーズと同じマンションに住み、有名レストランでランチを取り、ジムやエステで美貌を磨く華麗な日々を送っている。投資会社の同僚たちの関心は、レストランや女、名刺のデザインや誰が優良顧客を獲得するか、だけだ。パトリックの婚約者エヴリン(石田ニコル)やその女友達コートニー(玉置成実)も洋服や美容にしか興味がなく、望みは理想の結婚相手を見つけることだけ。しかしパトリックには裏の顔があった。夜は冷酷なシリアルキラー、猟奇的殺人鬼に変身していたのだ。同僚のポール(大貫勇輔)が何かにつけ自分より勝っているように思えてならないパトリックは、彼に激しいジェラシーを抱き、ついに…
脚本/ロベルト・アギーレ=サカサ、作詞・作曲/ダンカン・シーク、原作/ブレット・イーストン・エリス、翻訳・訳詞/福田響志、演出/河原雅彦、音楽監督・演奏/竹内聡。1991年に出版された小説を原作に、2000年には映画化もされた、13年ロンドン初演のミュージカル。16年ブロードウェイ進出、本邦初上演。全2幕。
原作未読、映画も未見、主演の旧ジャニーズ俳優さんももちろん名前も知りませんでしたが(でも舞台出演はたくさんしている方のようでしたね、失礼いたしました)、演出家は知っているし、共演者が他に中垣内雅貴や原田優一、ダンドイ舞莉花と豪華で、何よりキムこと音月桂がいたので、だいぶ遅れてチケットを手配しました。
中劇場は横に長い、ややだだっ広い印象があるハコで、その最上手の席になってしまい、映像など見切れるところが多々あったのは残念でしたが(なのでS席扱いをやめていただきたい)、音などは問題なかったかなと思いました。
ゲネプロ取材のネタが主演のパンイチ写真祭りで、作品の中身がよく把握できないままに行ったのですが、ミュージカル・ファンには悪評ふんぷんでしたが私はわりと楽しく観ました。パトリックの母親ミセス・ベイトマン役の秋本奈緒美が63年生まれでパトリックと同じ歳だとプログラムで語っていましたが、私もその少し下の世代ながらこの時代の空気感を知っている人間なので、それを盛大な皮肉で描いているこの作品の世界観にニヤリとできたのが大きいと思います。
台詞の半分が英語で…みたいなことも聞いていたので、もちろん平均的な日本人程度の読解力しか持たない身としてはこれもヒヤヒヤしながら席に着きましたが、なんてことはないルー語で、いかにも日本人が考える英語っぽいわざとらしい巻き舌が多用されるギャグでしかなく、スノッブな受け答えやブランド名を並べているだけにすぎないので、むしろそのブランドのイメージがつかめるかどうかの問題だと思いますし、私は大爆笑で観られました。逆に言えば、主演のファンで可愛い格好して劇場に詰めかけているたくさんのお嬢さんたちの大半は、ポカーンなのではあるまいか…生まれる前の話、親世代の話だもんね。そこは心配だし残念です。伝わるものがあればいいのだけれど…でもなあ、この世代の狂気とパトリックの狂気ってもうフェーズがだいぶ違うだろうからなあ、どうなのかなあぁ?
というわけで主演の身体作りの話題ばかりが先行しているようにも見えますが、そもそもアイドルなんだしある程度身体なんてできているのでは?とか私なんかは思っちゃいますが、まあ役になろうとして奮闘するのはいいことだし、やたら脱いで身体を見せる演出にもちゃんと意味があるので、別にそれでいいかと思いました。同様にポールがやたら踊ることにも意味があるわけで、脱ぐ気で身体を作ったのにその機会がなくて残念と語る大貫勇輔がバリバリ踊ってみせるのは圧巻で、素晴らしかったです。というか脇の役者があたりまえですがみんな上手くてストレスがない。なのでなおさら主演のお歌の音程の怪しさなんかが目立って見えてしまうのかもしれませんが、まあそこも含めてパトリックの危うさと思えなくもないので、私はこれも悪くなかったと感じました。アイドルがこの作品選択でいいのか、というのはありますが…ファンが求めるものってこーいうんじゃないんじゃないの? 知らんけど、とは思えたので、ね…でも当人はやりたがったりするんだよね、どこに向けて仕事しているのか? あとは、喫煙に関するトリガーアラートは出ていましたが、むしろ麻薬とか暴力表現に関して出せよ、とも思いましたね。私はホラーはホント怖くてダメですが、スプラッターは大丈夫なので平気でしたが…最近だと銃声アラートなんかもよく見ますが、ともあれダメな人はダメでしょう。きちんと告知するようにしていくべきだと思います。
そういうことは気になりつつも、でも楽しくおもしろく観て、でもじゃあコレ、オチはどうすんの?と思いながら観ていたんですよね…で、夢オチでも狂気オチでももちろん逮捕、裁判みたいな結末でもなく、単なる放置エンドだったので、それはちょっと残念に感じました。それは結論ではないのでは、みたいな…
以下ネタバレしますが、殺したはずのポールはロンドンで変わらず元気にやっているようだし、殺人に使いその後の遺体の隠し場所にしていたはずのポールのマンションも何事もなく綺麗だというし、そもそも自分もポールにずっと名前を間違われていて自分はパトリックなのか、ポールもポールなのか、要するにみんな中身もないしいくらでも取り替え可能な存在でむしろ殺されたのは自分なのではないのか、自分はもう死んでいるのではないのか、でも舞台ではエヴリンが花嫁衣装を着ていて友達は盛装して参列していて、どうやらパトリックとの結婚式らしいがそこに自分はいない。参列者が客席下りして、客席の照明が明るくなって観客も参列者のようになって…で、終わり。役者陣がお辞儀して、舞台に戻ってラインナップ、おしまい、という流れでした。
インパクトのあるいい演出だけど…オチは?と思ってしまったんですよね私は。原作のまま、映画のまま、元のミュージカルのままなんだとしても、ではこれを今の日本で上演する意味とは…?
こんな時代もあったね、ということは私含めてある程度以上の年齢の人なら身をもって知っているわけですが、だから?でしかなくないですかね?? 狂気の時代をそれなりに生き延びて今も生きている者だけが、今、この舞台を観られているわけですから…そこにただ「こんな時代もあったね」とだけ言われても…「だから?」ですよね???
制作陣が同世代だとか当時原作に衝撃を受けて好きだったとかがあるのかもしれませんが、それを今ただやるのは単なる懐古趣味でしょう。何故、今、日本で? その理由が、私には見えなかったので、納得できませんでした。そういう観劇でした。
でもキムは素晴らしかったです! もっとミュージカルやってーー!!
パトリックの秘書で、いわゆる地味で控えめな女性、というタイプにあたるジーンというお役。でもパトリックのことを慕っていて、言われるがままにパンツからスカートに替えて、その丈もどんどん短くなっていく。そういう意味ではやっぱり愚かな女です。彼が自分に値する男ではない、と見抜けない愚かさ…でも最終的には彼の毒牙から逃れられたんだと思うので、もっといい出会いを、あるいは男なんかいなくても生きていける仕事を祈っていますよ…歌も演技もホントよかったし、その気になればエヴリン役もできるんだと思うんだけどこのセレクトがよかったです。一方で石田ニコルと玉置成実のイケイケっぷりも素晴らしかったです。お衣装バンバン着替えてくれて、楽しかったなー!
セットもよかったです(美術/石原敬)。悪趣味だけどスタイリッシュなブラックコメディ・ミュージカル、悪くなかったので、ホント結論というかオチだけかなー…無意味なところがいいんだよ、みたいなのはもう流行らない時代だと思うので。
なんか再映画化される話があるそうですが、みんなどんだけこの時代が好きなの…さすがに多分観ない気がしますが、観た方はいつか感想を教えてくださいませ。
1989年、ニューヨーク。ウォール街の投資会社のエリート、パトリック・ベイトマン(高木雄也)はトム・クルーズと同じマンションに住み、有名レストランでランチを取り、ジムやエステで美貌を磨く華麗な日々を送っている。投資会社の同僚たちの関心は、レストランや女、名刺のデザインや誰が優良顧客を獲得するか、だけだ。パトリックの婚約者エヴリン(石田ニコル)やその女友達コートニー(玉置成実)も洋服や美容にしか興味がなく、望みは理想の結婚相手を見つけることだけ。しかしパトリックには裏の顔があった。夜は冷酷なシリアルキラー、猟奇的殺人鬼に変身していたのだ。同僚のポール(大貫勇輔)が何かにつけ自分より勝っているように思えてならないパトリックは、彼に激しいジェラシーを抱き、ついに…
脚本/ロベルト・アギーレ=サカサ、作詞・作曲/ダンカン・シーク、原作/ブレット・イーストン・エリス、翻訳・訳詞/福田響志、演出/河原雅彦、音楽監督・演奏/竹内聡。1991年に出版された小説を原作に、2000年には映画化もされた、13年ロンドン初演のミュージカル。16年ブロードウェイ進出、本邦初上演。全2幕。
原作未読、映画も未見、主演の旧ジャニーズ俳優さんももちろん名前も知りませんでしたが(でも舞台出演はたくさんしている方のようでしたね、失礼いたしました)、演出家は知っているし、共演者が他に中垣内雅貴や原田優一、ダンドイ舞莉花と豪華で、何よりキムこと音月桂がいたので、だいぶ遅れてチケットを手配しました。
中劇場は横に長い、ややだだっ広い印象があるハコで、その最上手の席になってしまい、映像など見切れるところが多々あったのは残念でしたが(なのでS席扱いをやめていただきたい)、音などは問題なかったかなと思いました。
ゲネプロ取材のネタが主演のパンイチ写真祭りで、作品の中身がよく把握できないままに行ったのですが、ミュージカル・ファンには悪評ふんぷんでしたが私はわりと楽しく観ました。パトリックの母親ミセス・ベイトマン役の秋本奈緒美が63年生まれでパトリックと同じ歳だとプログラムで語っていましたが、私もその少し下の世代ながらこの時代の空気感を知っている人間なので、それを盛大な皮肉で描いているこの作品の世界観にニヤリとできたのが大きいと思います。
台詞の半分が英語で…みたいなことも聞いていたので、もちろん平均的な日本人程度の読解力しか持たない身としてはこれもヒヤヒヤしながら席に着きましたが、なんてことはないルー語で、いかにも日本人が考える英語っぽいわざとらしい巻き舌が多用されるギャグでしかなく、スノッブな受け答えやブランド名を並べているだけにすぎないので、むしろそのブランドのイメージがつかめるかどうかの問題だと思いますし、私は大爆笑で観られました。逆に言えば、主演のファンで可愛い格好して劇場に詰めかけているたくさんのお嬢さんたちの大半は、ポカーンなのではあるまいか…生まれる前の話、親世代の話だもんね。そこは心配だし残念です。伝わるものがあればいいのだけれど…でもなあ、この世代の狂気とパトリックの狂気ってもうフェーズがだいぶ違うだろうからなあ、どうなのかなあぁ?
というわけで主演の身体作りの話題ばかりが先行しているようにも見えますが、そもそもアイドルなんだしある程度身体なんてできているのでは?とか私なんかは思っちゃいますが、まあ役になろうとして奮闘するのはいいことだし、やたら脱いで身体を見せる演出にもちゃんと意味があるので、別にそれでいいかと思いました。同様にポールがやたら踊ることにも意味があるわけで、脱ぐ気で身体を作ったのにその機会がなくて残念と語る大貫勇輔がバリバリ踊ってみせるのは圧巻で、素晴らしかったです。というか脇の役者があたりまえですがみんな上手くてストレスがない。なのでなおさら主演のお歌の音程の怪しさなんかが目立って見えてしまうのかもしれませんが、まあそこも含めてパトリックの危うさと思えなくもないので、私はこれも悪くなかったと感じました。アイドルがこの作品選択でいいのか、というのはありますが…ファンが求めるものってこーいうんじゃないんじゃないの? 知らんけど、とは思えたので、ね…でも当人はやりたがったりするんだよね、どこに向けて仕事しているのか? あとは、喫煙に関するトリガーアラートは出ていましたが、むしろ麻薬とか暴力表現に関して出せよ、とも思いましたね。私はホラーはホント怖くてダメですが、スプラッターは大丈夫なので平気でしたが…最近だと銃声アラートなんかもよく見ますが、ともあれダメな人はダメでしょう。きちんと告知するようにしていくべきだと思います。
そういうことは気になりつつも、でも楽しくおもしろく観て、でもじゃあコレ、オチはどうすんの?と思いながら観ていたんですよね…で、夢オチでも狂気オチでももちろん逮捕、裁判みたいな結末でもなく、単なる放置エンドだったので、それはちょっと残念に感じました。それは結論ではないのでは、みたいな…
以下ネタバレしますが、殺したはずのポールはロンドンで変わらず元気にやっているようだし、殺人に使いその後の遺体の隠し場所にしていたはずのポールのマンションも何事もなく綺麗だというし、そもそも自分もポールにずっと名前を間違われていて自分はパトリックなのか、ポールもポールなのか、要するにみんな中身もないしいくらでも取り替え可能な存在でむしろ殺されたのは自分なのではないのか、自分はもう死んでいるのではないのか、でも舞台ではエヴリンが花嫁衣装を着ていて友達は盛装して参列していて、どうやらパトリックとの結婚式らしいがそこに自分はいない。参列者が客席下りして、客席の照明が明るくなって観客も参列者のようになって…で、終わり。役者陣がお辞儀して、舞台に戻ってラインナップ、おしまい、という流れでした。
インパクトのあるいい演出だけど…オチは?と思ってしまったんですよね私は。原作のまま、映画のまま、元のミュージカルのままなんだとしても、ではこれを今の日本で上演する意味とは…?
こんな時代もあったね、ということは私含めてある程度以上の年齢の人なら身をもって知っているわけですが、だから?でしかなくないですかね?? 狂気の時代をそれなりに生き延びて今も生きている者だけが、今、この舞台を観られているわけですから…そこにただ「こんな時代もあったね」とだけ言われても…「だから?」ですよね???
制作陣が同世代だとか当時原作に衝撃を受けて好きだったとかがあるのかもしれませんが、それを今ただやるのは単なる懐古趣味でしょう。何故、今、日本で? その理由が、私には見えなかったので、納得できませんでした。そういう観劇でした。
でもキムは素晴らしかったです! もっとミュージカルやってーー!!
パトリックの秘書で、いわゆる地味で控えめな女性、というタイプにあたるジーンというお役。でもパトリックのことを慕っていて、言われるがままにパンツからスカートに替えて、その丈もどんどん短くなっていく。そういう意味ではやっぱり愚かな女です。彼が自分に値する男ではない、と見抜けない愚かさ…でも最終的には彼の毒牙から逃れられたんだと思うので、もっといい出会いを、あるいは男なんかいなくても生きていける仕事を祈っていますよ…歌も演技もホントよかったし、その気になればエヴリン役もできるんだと思うんだけどこのセレクトがよかったです。一方で石田ニコルと玉置成実のイケイケっぷりも素晴らしかったです。お衣装バンバン着替えてくれて、楽しかったなー!
セットもよかったです(美術/石原敬)。悪趣味だけどスタイリッシュなブラックコメディ・ミュージカル、悪くなかったので、ホント結論というかオチだけかなー…無意味なところがいいんだよ、みたいなのはもう流行らない時代だと思うので。
なんか再映画化される話があるそうですが、みんなどんだけこの時代が好きなの…さすがに多分観ない気がしますが、観た方はいつか感想を教えてくださいませ。
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