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駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

『メディア/イアソン』

2024年03月25日 | 観劇記/タイトルま行
 世田谷パブリックシアター、2024年3月21日18時半。

 月光の中に子供がふたり(三浦宏規、水野貴以)、月光から外れた暗がりに子供がひとり(加茂智里)いる。彼らはメディア(南沢奈央)とイアソン(井上芳雄)の子供たちだった。月光の中のふたりが話し始める。それは両親の愛憎に富む波乱の人生の物語だった…
 原作/アポロニオス『アルゴナウティカ』、エウリピデス『メディア』、脚本/フジノサツコ、演出/森新太郎。全1幕。

 子供たちは黒い服で、3人で年齢も性別も超えて18の役に扮し、白い服のイアソンとメディアの周りの人々を演じて、壮大な叙事詩を紡いでいきます。舞台奥のホリゾントが印象的で、ほとんどシルエットだけの船やメディアの寝室、寝台などの装置も多少は出てきますが、基本的にものすごくシンプルな構造です。歴史ものの中華ドラマのお祭り場面によく出てくるような、あるいはタイあたりでもやっていそうな、紙人形と語りのお芝居、劇がありますが、ちょうどあんな感じでした。抽象的で、幻想的で、それがギリシア神話の世界にぴったりでした。
 でも、もともとふたつの作品をくっつけたから、かもしれませんが、あるいはそれが狙いだったのかもしれませんが、イアソンとメディアの物語は、全然別に独立しているもののようでした。イアソンはわりと流されるだけの、やや頼りない若者で、でも結果的にいろいろと活躍することになるアルゴー船の冒険の物語はまさしく神話で、対してそんな若者にうっかり恋をしてしまうメディアは、彼にとっては外つ国の女でありまた特殊な力を持つ魔女でもあったので、ふたりはうっかり恋に落ちますがスタート地点からしてすでに暗雲が漂っていて、メディアはそれに自覚的で、ハナから重く濃いドロドロしたシェイクスピアばりの長台詞を吐く、暑苦しいリアル心情劇なのでした。南沢奈央がまた強烈に上手いんですよ…なので芳雄さんは霞んだ気がしました。そういう意図だったのかもしれない、とは思いつつも…なのでイアソンはもっと若い男優でもよかったし、いっそ三浦くんにやらせればいいのに、とあとからお友達と話していて気づかされました。演出家は「常々、心底ひどい男をやってもらいたいと思っていました」とプログラムで語っているので、そういう意図ありきのキャスティングだったのでしょうし、芳雄くんもこれが初ギリシア悲劇だそうでチャレンジしてみたかったんでしょうが、なんというか…フツーだったというか、彼である必然性があまり感じられなかった気がしたんですよね…うぅーむ。
 そしてふたつの物語をつなげても、結局間で時間が飛んで、次の場面ではメディアはもう捨てられていて恨み節全開なので、やっぱりトートツだし、その経緯を知りたかったんだけど…?と私は思ってしまいました。浮気されて怒り狂うだけの『王女メディア』でなく、その前日端からしっかり描きたかったんだとしても、肝心のところが話が飛んでるのでは意味がないのでは…?
 まあ神話なので、整合性とか、意味とか、現代の視点で解釈して納得したり共感したりできるかというとなかなかに難しい問題ではあるのですけれど、でも愛は激しければそれだけ容易に憎悪に転じるとか、母親は子供を自分のものと見做しがちなので、子供の父親への復讐のためなら子供を殺してしまうこともありうるだろう、それくらい男の裏切りは女にとって残酷なことであるのだ…というようなことは、ちゃんと伝わってきていたかな、と思いました。
 諸説ありますが、イアソンとメディアの子供は息子ふたりでどちらも殺されてしまう、というのが定番な気がします。でも他にも、男女1ダースくらいいる説もあるし、ひとりが難を逃れる説もあるんだそうですね。それは希望とか救いとばかりも安易には言えないのだけれど、でも命あっての物種です。恐ろしさと悲しさと滑稽さと、そしてかすかな希望の光が残る、静かな、良きオチかと思いました。

 ところで休憩なし2時間なら平日夜は19時開演にしてくれてもいいのでは…いや今のご時勢、平日夜公演を設けてくれるだけでありがたがるべきなんでしょうけれどね。でモヤるからには遅めに設定しないと、来られない人もでちゃうんだから無駄でしょう。21時終演なら十分だと思うんですけれど…ご考慮いただきたいです。

 ところで私はトロイア戦争オタクなんですけれど、そういえばアキレウスの父ペレウスはアルゴナウタイなんだった、と名前しか出てきませんでしたがちょっとテンション上がりました。ともあれおもしろかったです、集中して観られました。










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