駒子の備忘録

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宝塚歌劇月組『長い春の果てに/With a Song in my Heart』

2009年12月02日 | 観劇記/タイトルな行
 東京宝塚劇場、2002年11月19日マチネ。
 脳外科医ステファン(紫吹淳)はパリ医学界のホープだったが、手術中に患者を死なせてしまい、解剖医に転身。精神科医ナタリー(汐風幸)との婚約も解消し、親友ブリス(大和悠河)と毎日午前様の荒れた暮らしを送っていた。ガールフレンドのフローレンス(大空祐飛)のモーションにものらりくらり。そんなある夜、アパルトマンの玄関に片方のスニーカーと、ひとりの少女エヴァ(映美くらら)をみつける…原作/アレクサンドル・アルカディ、脚本・演出/石田昌也、作曲/西村耕次。フランス映画『世界で一番好きな人』を舞台化。
 幸せな今年の舞台納めとなりました。さすがはフランス映画! しかしあのマッチョで単純なことで有名な石田先生が、よもやこんな繊細でロマンティックでいい話を手がけようとは…わからないものです。でもかなり手を加えているらしいので…ますますうれしい驚きです。
 大劇場公演を観た知人が「退屈した」と言っていたのであまり期待していなかっただけに、すごく楽しく、うれしかったです。ショーもたっぷりみっちりしていてよかったし、ものすごく堪能しました。濃く深く感じる三時間でした。今年のマイ・ベスト・ステージと言っていいでしょう。
 私にとっては月組は、こういう現代を舞台にした群像劇が意外と上手い組、というイメージがあります。ゴージャスなコスチューム・ロマンもいいけれど、こういうシックでお洒落でおちついた物語もいいものです。
 実は、一番よかったのはキャラクター設定とストーリーでしょうか。各人がほんとうに魅力的で、リアリティがあって、どこか傷つき悩みながらも懸命に生きている、心優しき人々、という感じでした。
 だから、役者としての演技が一番よかったのは、ステファンのライバル医師クロードを演じたワタルさん(湖月わたる)だったかな。貧しい生まれで苦学をして医者になり、愛を知らず、人を信じず、大病院の院長の御曹司であるステファンを憎み、金の亡者で…そして、非業の死を遂げる。白衣姿のスマートなこと、脚の長いこと! 銀橋のソロの力強かったこと! 台詞うろ覚えですが、病室で
「おまえのことを友達だと思っていいか?」
「おまえにじゃない、エヴァにだよ」
 と言ったときの優しい口調! 宝塚歌劇でたくさんの人間が死ぬところを見てきましたが、あんなにすすり泣きを誘っていた男の死は初めてでした。ブラボー!!
 次に、元麻酔医で、画期的な脳外科手術法を発表したもののその奇抜さ故に学会を追放され、今は美容整形外科医のアルノーを演じたキリヤン(霧矢大夢)。第5場のレストランのシーンが、別に何気ないんだけど、すごく誠実にナタリーのことを想っていて、でもステファンとも友達でもあるし…っていう感じのいい人ぶりがすごーく出ていて、出番は少ないんだけれど、第13場では本当によかったねええとこれまた泣きそうになりました。私、最初ナタリーは、ステファンのためにアルノーのところへ復帰を頼みに来たのかと思ってしまったんですよね。それで折れちゃうアルノーって悲しいなあ、つらいなあと思っていたら…ううう、よかったです。やっぱり感涙。
 そのナタリーは、すごくきれいだったし良かったんだけれど、最初の見せ場である第2場Bでのステファンとのやり取りがちょっときりきりしていて、そこだけがもったいなかったです。微妙に裏声が出ない歌も妙にセクシーでせつなくてよかったです。
 フローレンスは、本当はもうちょっとアメリカ女らしい、柔らかい女臭いフェロモンが出ているタイプに演じられるとよかったんでしょうねえ。ユーヒくんでは美人すぎたか。でもまあ過不足なかったと思います。アルノーに比べたらブリスはずっとバカっぽかったから(笑)、こちらはフラれてしまうのかと思っていたけれど、こちらのカップルも上手くいってよかったです。第16場のブリスは確かにちょっとよかった(笑)。
 エミクラちゃんは、実は6年後のエヴァになってからのほうが良かったと思います。幼い演技、というのは意外と難しいものなんだなあ、と痛感しました。精進!
 ショーアップがまたすばらしかったです。ナイトクラブのオープニング、長すぎず、かっこよく、物語の世界へ導いてくれました。手術着のダンスシーン、素敵すぎます。こういう衣装で踊って様になるのって、宝塚歌劇以外ありえません。ポロ競技場の乗馬ダンスシーン、若干長く感じたのは馬乗りとしての気恥ずかしさ故でしたでしょうか、でもこれまた衣装がいいし、やっぱり良かったです。ウサギの夢のシーンなんかもおそらく宝塚オリジナルでしょう、良かったです。エヴァの手術を巡るセリのシーンも良かった(歌詞の「栄光」という言葉にはちょっとぴんとこなかったのだけれど)。そして最終16場。うっとり…
 主題歌も良かったです。これくらい繰り返して歌われると覚えられるし。…はっ、ほめすぎ? でも本当にいい舞台でした。仕事が忙しいからってすっぽかさないで本当によかった!

 ミュージカル・レビューと名打たれたショーは、リチャード・ロジャース生誕100周年記念の華やかなもの。作・演出/岡田敬二。これがまた良かったです。
 オープニングの、どんどん増えてきらびやかになっていく鍵盤のセットが素敵。
 ワタルさんのピルエットが素敵。
 ウィンクしちゃう肖像画が素敵。
 30年近く昔のショーの一場面をリメイクしたとはとても思えないおしゃれな「少年時代」の場が素敵。
 キリヤンの歌声が素敵。
 タイのプリンセスとヨーロッパの兵隊さんとの場が素敵(私はトップコンビにはいつでも組んでいてもらいたい派なので、プログラムを見たときには、第2章でリカさんにルイちゃん、第4章でエミクラちゃんにタニちゃんを当てるのはどうかと思いましたが、前者はダンスの切れが良く後者は映りが良く、これはこれで良かったです)。
 そしてチャイナ・ドールの場では、第16場の短くも鮮やかなのがとにかく秀逸。太股の肉付きの良さがちょうど良くて、あれこそ脚線美です。鳥のようなお人形のような棒のようなじゃダメなんです。
 続く17場では花組時代から定評だったリカさんのダルマの美しさが炸裂! 上着の丈がまた絶妙(あの裏地の色はもっと濃い緑の方がいいのでは、とだけは言いたいですが)で、あのハイレグ、あのバックシーム…たまりまへん。
 第6章ではチズさんの色艶ある歌声が本領発揮、ロケットの衣装はカワイイし(被りものより鬘派なんです、私)、パレードの羽には団体さんからどよめきが起きる豪華さで、最後は会場と合唱、圧巻です!
 当日はリカさんのお誕生日で、お芝居のほうではいくつかアドリブがありました。おめでとうございます。こちらも幸せでした。
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