駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

宝塚歌劇宙組『銀ちゃんの恋』

2010年10月01日 | 観劇記/タイトルか行
 全国ツアー公演、梅田芸術劇場、2010年9月4日マチネ(初日)、ソワレ。
 中京大学文化市民会館、9月11日ソワレ、12日マチネ。
 グリーンホール相模大野、9月26日マチネ(前楽)、ソワレ(千秋楽)。


 京都撮影所、「新撰組」の撮影中。土方歳三に扮する倉丘銀四郎(大空祐飛)は自分が主役じゃないとダメな性格で、役者としての華も人情もあるが感情の落差が激しいのが玉にキズ。恋人の小夏(野々すみ花)や銀四郎を慕うヤス(北翔海莉)は気の休まる暇がない。そんなとき小夏が妊娠し、スキャンダルを恐れた銀四郎はヤスと小夏を無理矢理結婚させようとする…
 1982年直木賞受賞、1983年には映画版が日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞したつかこうへい『蒲田行進曲』を原作に、1996年月組で初演、2008年花組で再演したものの全国ツアー版三演。潤色・演出/石田昌也、作曲・編/高橋城、甲斐正人。

 三演とも出演しているのはヤスの母親役の邦なつきと大空氏だけ、と聞いて仰天した私は初演も観ているのですが、当時の大空氏の記憶はさすがにまったくなく…橘(春風弥里)の子分その1だったようですね。そしてパンフを見ると最下級生のタニにすでに役名がついている…(ToT)

 ま、それはともかく。

 全国ツアーは再演ものが定番、というのはわかっていましたが、どうせなら『仮面のロマネスク』とか『うたかたの恋』とか、要するにユウヒがやったことのない演目を観てみたかった…という思いは、正直、発表時にありました。
 だってもう大空銀ちゃんは見たことあるんだもん。そりゃ周りは変わってくるにしてもね。代表作のひとつだと思うけれど、もういいじゃない、という思いはあった。
 それに全国ツアーですからね、初めて宝塚歌劇を観るお客様だって多いはずですからね、やっぱり王子様とお姫様が出てくるようなラブロマンスがいいんじゃないの? しかも一本立て作品を持っていくなんて、ショーのない全ツなんて…ロケットとデュエットダンスのない宝塚なんて…
 と、ホント、クサしたものです、発表当時。
 ショーということで言えば、フィナーレがつくと聞いて、まあそれなら…と気分を和らげたのは事実ですが、しかしとにかくお話がややフツーじゃないので、どうなのよ…と思っていました。
 ちょうどテレビで放送があった映画版を見直しても、花組版DVDを見直しても、そんなフクザツな思いは変わらなかったのですが…

 が…

 が……

 なんかねー。

 恋は盲目、と言われればそれまでなんですけれどねー。

 なんかすごく楽しくてですねー。

 全ツ恒例の客席下りが大充実でしたし、何しろ芸達者な三代目ヤスのみっちゃんに引っ張られて、芝居は泣かせて笑わせるし…
 そして銀ちゃんがやっぱりイキイキしている(^^;)。楽しんで演じているのがわかる。
 そして…メインストーリーがどんなにしんどくてせつなくてデッドエンドのお話でも、それは劇中劇で、だからやっぱりこれはコメディで、喜劇で、最後は笑って幕が下ろせる、楽しい娯楽作なんですね。
 その、笑える感じが、とてもよかったと思いました。笑っている人は怒れないですからね。

 ラストのメタ構造が、どういう意味を持つものなんだろう…とかずっと考えていたんですけれど、なんか今回の舞台を観て初めて、「そんなヘンな映画」を撮っていた映画バカたちの物語、ということでいいんだな、と初めて納得できてしまいました。
 甘くてすみません…


 ユウヒは初日マチネはやや早口で、トチリもあり、ヒヤヒヤさせられましたが、ソワレにはきちんと修正してきたからたいしたものです(ただしやはりトチリはあった)。
 その後は、前楽が一番台詞が良かった気がしました。
 大きな演出変更もカットもなく、尺を詰めるためにカットされるかしらんと思っていた(というかいらねんじゃね?と正直思っていた)任侠回想シーンで、着流しの裾を払うときに見える白く長い臑はおろか、走ってハケるときに内腿まで見えて眼福でした(^^)。

 みっちゃんの演技が素晴らしくて、お話が『ヤスさんの恋』に見えてきた一幕ラスト、銀ちゃん渾身の告白がやっぱり良くて、主役の座を引き戻しました(^^;)。
 それにあの赤い恐ろしいお衣装であるはずのスラックスが、足が長くてスタイルが良くて素敵に見えるんだから怖いです(^^;)。
 これは二幕の紫チェックパンツもね(^^;)。

 ひとつだけ苦言を呈すれば…階段落ちのシーンでヤスに、
「上がってこいヤス、ここまで!」
 と叫ぶ声は、本当に本当に響かなくちゃいけないと思うのですよ。強く、太く、カッコよく響くべき台詞なのです。それがヤスの
「銀ちゃん、カッコイイ…!」
 というセリフにつながるんだからね。
 初日は単純に声量が足りなかったし、ここはもっと腹から声出してほしいんだよなあ…とずっと思っていましたが、名古屋では良くなっていた!
 さ・す・が。

 フィナーレはいい感じ。
 デュエダンのボサノバ調「蒲田行進曲」の歌はどうやら不評だったようだけれど、私はユウヒの歌はこういう雰囲気歌だと思っているので(芝居なら芝居歌)、私ははっきり言って嫌いじゃないです。
 でももちろんみっちゃんないしみーちゃんのカゲソロでもいいと思う(^^;)。むしろここの振りがあまりがっちり組んでいない、雰囲気デュエダンになっちゃってることの方が気にかかるかなー。
 …と思っていましたが、これまた慣れてよくよく見てみると、キスの振りとかもけっこうあってちゃんと組んでいる。
 やっぱりいいデュエットダンスでした。
 パレードは電飾スーツにひとり大羽! ナイアガラがないとはいえインパクト大で、客席どよめき。
 加えてカーテンコール、暗い中に電飾だけが光って笑いを取ってから明るくなるというオチつき(^^)。
 ラストにはチエちゃんばりに羽しょったまま素早くくるっとターンして見せて、またまた客席どよめき。いや笑わせていただきました。

 そしてスミカはホントに女優です。
 泣かせます。

 絶妙な絶叫は今回も健在で、ヤスに叫ぶ
「あんたあぁ~っ!」
 は本当に絶品。
「やっぱり無理だったのかな…」
 の悲痛さもすばらしく、静かに暗転する場面ですが、その演技に拍手を送りたい。てか名古屋では入りました。千秋楽でも入れましたワタシ!

 小夏は主役三人の中では一番きちんとした恋愛をしているワケで、女だったら共感しないではいられないですよね…
 ちなみにパンフの紹介文は「売れない女優」となっていますが、「売れなくなった女優」「元スター女優」という言い方の方が正しいのではなかろうか…

 そしてそして、上手いだろうと思ってはいましたが、やっぱりものっすごく上手かったみっちゃん。
 歌もセリフも完璧。結婚式シーンで白タキシードで踊るダンスはまさしく王子様で、どうしようかと思っちゃいましたよ(ちなみにこの場面の白タキシードの銀ちゃんは胡散臭かった…それは役として正しいということでヨシとする(^^;))。
 歌が上手すぎる、という意見も多いようだったけれど、私はヤスが大部屋役者だからってこういう歌も役として下手に歌う、というのはちがうと思うので、全然いいと思いました。
 歌はヤスの心情を表現したものだから、美しくてあたりまえ、というか、ね。
 スミカとのガチンコ芝居は本当に泣かせたし、私が大好きな初夜シーン(なんと場面名は「ちぎり」ということを今回知った…)もすごく良かった!
 ザッツ・ヤス、ベスト・オブ・ヤスだったと思います。

 ひいきのもっさんも大事に使ってもらっていて、専務役は比重が上がっています。なんと客席出のソロ歌が書き下ろし。
 変な訛なのは京都出身者って芝居なのかなあ? でもあれ関西弁じゃないよなあ? その設定と演技はやや謎。
 あと、銀ちゃんと橘と専務では同期って設定なの? なのに専務は俳優辞めて経営側に回っているということなの? なんかその設定すごく萌えるんですけど…それとも「同期の桜」というのはやはり銀ちゃんと橘にしかかからないのかな…
 橘の肩抱いてハケるシーンが色っぽかったわ!
 経営のことばかり考えてスポンサーにもゴマすっていたのが、最後にスポンサーを殴っちゃうところ、「やっぱり彼もまた映画バカでした」っての、すごくよかったです。
 二幕冒頭の結婚式シーンで、長ーい手足で中央を横切るのが、目立ったなあ…
 フィナーレのダンスも素敵でしたよ!
 冒頭の女秘書(愛花ちさき)との「君の瞳に乾杯」もよかった! 時事ネタギャグの中には「変更したら?」ってのもあったけど、これは良い変更でした。

 橘は…えーと、初日は私は冴えないなーと思ってしまい…めおの方がハジけてたなーと思ってしまったのですが…
 でもさすがみーちゃんデキる子、名古屋では良かった。何か吹っ切ったのか、大物感をすごく出してきていました。
 前楽が一番良かったかなー。
 銀ちゃんへの
「おまえ、泣いてんのか?」
 とか、
「でも、涙が…」
 の言い方とかが…千秋楽は力みすぎていた(^^;)。
 でも黒燕尾のダンスは本当に切れがよくて、プライドと自信持って踊っているんだろうなーと思いました。
 私は上手いダンスが好きです。それでも贔屓を見つめる自分をなんてピュアなの、とも発見しましたが(^^;)。

 ジミー(愛月ひかる)は可愛かった。
 マコトはホントに
「おまえらに何がわかる!」
 の怒号が素晴らしかった。
 すっしーさんは監督より自治会長がよかった(^^)。
 アモタマさんはなんでも達者。
 ちやこのスチール写真は尋常じゃなさすぎる。
 れーれの朋子はもう一押しスパークしてもいいかもね。
 保険屋(春瀬央季)ががんばっていて印象的でした。


 さて…物語としては、演出家がちゃんとパンフに語っているとおり、これは「依存」がひとつのテーマで、要するに銀ちゃんとヤスの友達以上恋人未満の師弟関係というかなんというか…が問題になる、小夏との三角関係、ですよね。
 銀ちゃんが朋子に惚れたのはただの浮気、気の迷い。
 小夏は銀ちゃんを愛していたけれど、捨てられて、ヤスに引き取られて、そこからだんだん愛情がわいていって、だからきちんと銀ちゃんのプロポーズも断って、新しい家庭を彼女なりに真面目に大事にした。愛は移り変わるものだし、一番まっとうな恋愛です。
 ヤスは、大学出て舞台なんかやっていて、でも映画スターの銀ちゃんに師事して。その出会いと、スター女優だった小夏に憧れ始めたのとはどっちが前後だったのかな。銀ちゃんとつきあっていることを知ったのはいつ、どんなふうにだったのかな。それなりにショックだったろうけれどね。
 銀ちゃんに妊娠中の小夏と結婚しろと言われたときには、またちがったショックを受けただろうけれどね。
 だって、小夏は銀ちゃんに結婚を迫ったわけではなくて、田舎に帰ってひとりで産んで育てると言っているのに、銀ちゃんがそんな彼女をヤスに預けようとしたたのは、
「ヤスだと俺が安心だからだよ」
 なんて理由のせいなんでもん。
 単なる銀ちゃんのわがままですよ、自己満足ですよ。
 でも自分では結婚できない。会社を背負うから、スターは身綺麗じゃなきゃいけないから。
 でも小夏をひとりでほっておくのも怖いし、誰かに取られそうでイヤなわけです。
 だけどヤスならいいってことなんですよ。その扱いのヒドさの意味をおそらく銀ちゃんは考えたことなんかない。その甘え。

 一方でヤスは、困惑するし、コブつきの女を押しつけられて悔しいとも思うだろうけれど、憧れのスター女優を嫁にもらえてうれしいし、何より銀ちゃんの女を抱けて嬉しいんだよね。
 小夏を通して銀ちゃんにより近づいている、というか近づけている気がしている、銀ちゃんの役に立てている、もしかしたら恩を着せられると思う、その卑怯さ、卑屈さ。
 だってホントはヤス自身が銀ちゃんに抱かれたいんだよ。
 それくらい銀ちゃんのことが好きなんだよ。
 だけど自分はヘテロだと思いこんでいるから、そういう発想にならないだけで、潜在意識的にはそうなんだよ。そういう男性同士っていっぱいいるんだよ。
 それは間に入れられた女からしたら冗談じゃないよって話ですよ。でも事実なんだよね。
 これはそういう歪んだ人間界のお話ですよね。だから解決策なんかない。誰かが死なないと終わらないし、死んでも救いとかゴールとかがない。
 だから、劇中劇でした、ってことにして、わやくちゃにしちゃうしかないんです。
 だけど、そういう人間関係ってあると思うし、そのしんどさ、せつなさはドラマになると思う、だから書く。
 これは、そういう戯曲なのだと思うのです。

 小夏は本当にヤスを愛し始めていて、だから銀ちゃんのプロポーズも断った。
 それを聞いていてヤスが嬉しくなかったわけはない。
 でも一方で怖くなっちゃったんだよね。銀ちゃんを捨てて小夏とふたりで幸せになる、なんてヤスにはできないわけです。
 むしろそんな幸せは怖い、壊してしまいたい、虐げられても足蹴にされても銀ちゃんと関係を持っていたい、だから階段落ちに立候補する。

 銀ちゃんもまたヤスを愛しているし必要としているけれど、だからこそヤスを失うわけにはいかない、死なせるわけにはいかない。
 だってヤスがいなくちゃ誰を足蹴にしていいかわかんなくなっちゃうから。それは銀ちゃんのアイデンティティの崩壊だから。
 小夏に振られても、また朋子みたいな、あるいは誰か他の女を捜せばいいだけのこと。
 けれど子分はそうはいかない、ヤスの代わりはいないのです。

 そう銀ちゃんに思わせてやっと、ヤスは救われた気になる、銀ちゃんに勝った気になる。
 でもそんな、自分の死を賭してまで手に入れる愛って、プライドって、なんなの…?
 という、これはそんなしんどいお話なのでしょう。
 だからこそ、愛され続けてきた物語なのでしょう。


 いつのころからか、フィナーレ、
「俺はここにいるぜ!」「銀ちゃんカッコイイ!」
 のあと、銀ちゃんに扮していた誰か、と、ヤスに扮していた誰か、がクランクアップを祝しあう台詞が長くなっていました。
 それは蛇足だ、という意見も見ていたので、相模大野では身がまえていたのですが、私はそんなには違和感を感じませんでした。
 銀ちゃん役者とヤス役者の関係が銀ちゃんとヤスの関係とまったくちがう…と見えてしまうと、それはちがうかな、と思うのですが、まったく同じでもつらい。
「お疲れ、よかったよ」
 くらいのことは機嫌がいいときは銀ちゃんはヤスに言ったんじゃないのかな、と思えたので、私は自然に感じたのでした。


 千秋楽で感じたことは…以前書きましたが…
 そういえば今の腕時計はごつくて、拍手すると右手首に当たっていたいんですが、青アザできるくらい拍手しまくりました。
 スタオベしました。カーテンコール、みっちゃんが
「銀ちゃん!」
 と音頭取ってくれたので、なんの迷いもなく
「カッコイイ!」
 と叫べました。
 バスのお見送りもしました。出るのがホントに早くて仰天しました。
 ニコニコでご機嫌さんの様子が見られて泣けました。

 いつもいつも、これで生の舞台はなくなってしまう、二度とこの役に会えない…と感傷的になるのですが…
 もしかして本当にもう残り少ないのかと思うと、本当にたまらなかったです。
 それが舞台の良さのひとつだと、宝塚の良さのひとつだと、わかってはいても…


 それでも、今は、感謝しかありません。
 楽しい舞台を見せてくれてありがとう。
 素敵な物語を見せてくれてありがとう。
 愛をありがとう、と…


 わあああピュアですみません!
 おしまい!!
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