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「江戸繁昌記 三編」を読む 54

(散歩道のソライロサルビア)

今日で73歳になった。退職後、30年生きて、年金だけでは、2000万円の貯えがないと生活できないとの審議会の答申が出ることについて、揉めている。実際に年金だけで暮らしている人も多いと思うから、何が議論されているのか、さっぱり分からない。

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「江戸繁昌記 三編」の解読を続ける。「書舗」の続き。

客また一本を取りて、数紙を読過し問いて曰う。亭主、この本の作者、汝(なんじ)識るや。主、頸(くび)を引き、表題を目して曰う。「語学語書」、聞く、その先生、去年上方より来たると。未だその人の何如(いかん)を詳しからず。客曰う、(うべ)なるかな。その音韻(つぶさ)なること、上方役者は率(おおむ)ねこれなり。(主)曰う、役者には非ざるなり。(俗に俳優を呼び、謂役者と謂う)儒者のみ。(客)曰う、今の儒と称するは、また役者と甚だ異ならず。何ぞ咎めん。(主)曰う、且(しばら)く去れ。
※ 読過(どっか)- 終わりまで読んでしまうこと。読み通すこと。読了。
※ 宜なるかな(うべなるかな)- もっともなことだなあ。いかにもそのとおりだなあ。
※ 音韻(おんいん)- 音韻とは、もともと日本語・中国語などで漢字の音を構成する声、音などの総称。
※ 審なる(つぶさなる)- 欠けるところがない。完全だ。


客、纔(わずか)に行かんと欲す。却って顧(かえりみ)て曰う、那の(かの)「大学」、値(あたい)、幾何(いくばく)ぞ。(主)曰う、七十二銭。(客)曰う、この春本は。(主)曰う、八銖銀。(客)曰う、亭主、呵々。こはこれ修身治国千刼磨せず萬世不刊の書。那はこれ風を(ろう)、月を弄し、淫󠄀を牽(ひ)き、乱るの具。然るに、那の値、甚だ低く、こは則ち甚だ貴(たか、=高)き。
※ 修身治国(しゅうしんちこく)- 自分の行いを正しくし、国家を治める。(礼記「大学」より、「修身斉家治国平天下」の部分)
※ 千劫(せんごう)- きわめて長い時間。
※ 磨せず(ませず)- すり減らない。
※ 萬世不刊(ばんせいふかん)- 長く伝わって、いつまでも滅びないこと。永遠に残ること。
※ 弄す(ろうす)- もてあそぶ。
※ 倫(りん)- 人の守り修めるべき道。倫理。


(主)曰う、理は則ち然り。しかもまた、寒房に春を醸(かも)し、愁帳に笑いを潮す。これを把(と)りてこれに展ず。孰(いずれ)か眉伸び、眼明ならざらん。男女は人の大欲、これまた世間、欠くべからざる物、且つ、下の上に献じる、常に、物無きを苦しむ。金帛は他の有する所、珍奇は他の有する所、因りて或はこれを用いて人事と為す。
※ 寒房(かんぼう)- 寒い部屋。
※ 愁帳(しゅうちょう)- 愁いのとばり。
※ 金帛(きんぱく)- 金と絹。金銭と布帛(ふはく)。
※ 人事(じんじ)- 人としてなしうる事柄。人としてすべき事柄。
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