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「江戸繁昌記 三編」を読む 53

(近所の側溝沿いのアジサイ10)

「江戸繁昌記 三編」の解読を続ける。「書舗」の続き。

一箇の酔客、佇立、肆を塞ぎ、また翻(ひるがえ、=裏返す)し、また翻す。面を仰(あお)ぎ、一本を指して曰う。亭主呵(わら)う。かれを穿(うが)ち、これを鑿(うが)ち、考えを極わめ、證(あかし)を極わめ、公を畏れず、自ら量らず言う。鄭注、穏やかならず。朱注、刪(けず)るべしと。道義論じず。字句徒らに鑿(うが)つ。大言壮語、奇を吐き、愚を驚かす。これらの書、これなり。亭主、呵々、何ぞ這(これ)等の書を陳する。何ぞ這(この)様の冊を鬻(ひさ)ぐ。
※ 佇立(ちょりつ)- たたずむこと。
※ 鄭注(ていちゅう)- 後漢の鄭玄(じょうげん)による経書の注釈。
※ 朱注(しゅちゅう)- 朱子学の祖・朱熹(しゅき)が四書に付けた注釈。
※ 呵々(かか)- 大声で笑うさま。あっはっは。


舗主(店主)、哂(わら)いて曰う、商買(あきない)(いずくん)ぞ擇(え)らばん。の無理は即ち理なり。請う、(しばら)く去れ。客曰う、亭主、呵々。亭主、呵々。この墨本はこれ今人の筆迹(跡)ならずや。何以ってこれ墨にし、何以ってこれ帖にする。唐、宋名家の墨迹(跡)、多からずと為さず。何ぞ更に、この様に、を模し、に擬する俗筆を把(と)って、これを墨し、これを帖する。
※ 卿(きょう)-(人に対する尊称)「おまえ」とルビあり。
※ 且(しばら)く去れ - もう、帰ってくれ。
※ 墨本(ぼくほん)- 墨帖。書の手本とすべき古人の筆跡を、石・木に刻して拓本にとり、折り本に仕立てたもの。
※ 筆迹(ひっせき)- 筆跡。
※ 米(べい)- 米芾(べいふつ)。北宋を代表する書家の一人。蔡襄、蘇軾、黄庭堅とあわせて、宋の四大家と称された。
※ 董(とう)- 董其昌(とうきしょう)。明末期に活躍した文人、特に書画に優れ、清朝において正統の書とされた。また独自の画論は、文人画の隆盛の契機をつくった。


亭主、呵々。これを為すは何の厚顔、これを売る(は)何の愚、これを買う(は)何の愚。(これを訕(そし)るは何の愚)主人々々、今よりこれを蔵して、辱(はじ)を曝すこと勿(な)かれ。愚を曝すことを休(や)めよ。主、色少しく変ず。なお哂(わら)いて曰う、理なり/\、我が商買(あきない)。君、且(しばら)く去れ。


読書:「いびき女房 大江戸落語百景」 風野真知雄 著
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