goo

秋葉山鳳莱寺一九之紀行(上) 6 藤川の宿(二)

(一九之紀行の挿絵)

(挿絵中の狂歌)
  楽しみは とかく呑み喰い なればとて
    上戸酒盛り 下戸は飯盛り     十返舎


一九之紀行の解読を続ける。

《清治》コリヤ喧しい。時に聞いたような声がする。

 ト、唐紙の隙間より、隣りを覗き見て、
※ 唐紙(からかみ)- 唐紙障子の略。ふすま。

《清治》モシお前さんの御近所で、見たような人がおります。《一九》ドレ/\。

 ト、同じく覗きて、

《一九》イヤァ、あの薬鑵頭は、おいらが河岸(かし)銅壺屋だわえ。それにアノ壁を塗るような手つきして、踊っておるは、へっつい河岸の土屋の親父、あっちらにぶる/\と振るっている男は、幽霊橋の蒟蒻屋、ハヽヽヽこれは珍らしい。
※ 銅壺(どうこ)- 銅または鉄で作った湯沸かし器。かまどの側壁に取り付けたり、長火鉢の灰の中に埋めたりして、火気によって湯が沸くようにしたもの。

 ト、その唐紙をずっと開けて、隣座敷へ入ると、そのうちに、日頃心安き者、四五人ばかりも居て、皆々肝を潰し、

《銅壺屋亭主》イヤ、一九さんじやァねえが、コリャどうだ。
《土屋》ハヽア、この間から旅行と聞いたが、こゝで逢おうとは思いがけもねぇ。先ずは御機嫌の良過ぎる体、珍重々々。早速ながら持ち合わせた、一つあげ田のからくりとしやしょう。
《一九》これは忝(かたじけ)ありません。
《蒟蒻屋》ところで、お酌半四郎か、コリャういて来たわえ。とてものことに、たぼを二、三枚、入れればどうだ。
※ お酌半四郎 - 岩井半四郎は女形を代表する大看板であった。ここではお酌に女っ気のないことを言った。
※ たぼ - 若い女性をさす俗な言い方。

《つちや》イヤ、妙案がある。なんでも壱人前、銭五拾づゝ出しなせえ、わしが風をひかぬようにして、しまっておいた知恵がある。
《銅壺屋》その五拾づゝはどうする。
《つちや》ハテ、銭の集まっただけ、女らを買って酌をさして楽しんだ胴殻は、大坂くじにする趣向だ。
※ 胴殻(どうがら)- 肉を取り去ったあとの骨。がら。あら。
《蒟蒻屋》コリャ奇妙/\、今日は土屋が何を喰ったやら、無性にいゝ知恵が出る。胴八二人で、五十づゝ集めよう。サア/\臍の下縁弘法大師の御作、飯盛りの杓子如来本堂建立、御壱人前五拾銅ずつ、御信心のお方は施主にお付きなせえ。一代飯盛りの杓子当りよく、おたまじゃくしのような、頭がちな奴をも、かの貝杓子のうちへ、ずる/\
と、掬(すく)い取らせ給わんとの御誓願でござります。お志しはござりませぬかな。

 ト、喋り散らして、銘々より五十文ずつ取り集めて見れば、銭壱メ三百文ありける故、五百文ずつにて飯盛り二人を呼びよせ、各々車座になりて、大騒ぎに呑みかけ、果てはかの鬮(くじ)取りにせんと、講頭(こうがしら)の親爺ども、人数ほどくじをひねりかけ、燭台に結び付けて、

《つちや》サア/\座鬮は面倒だ、これから何でも席順にお切りなせぇ。どなたも、信心してお取りなせぇ。
※ 座鬮(ざくじ)- 本鬮をひく順番を決めるためのくじ。

ト、懐中の鋏を取り出し宛がえば、まず一番に切るは、

(この項続く)

判らないこと
「一つあげ田のからくり」おそらく、江戸の地口と思われるが、判らない。江戸では「あげ田のからくり」は有名だったのだろうが?
「大坂鬮」くじの方法に色々有るのだろうが、どんな方法か判らない。先を読むと何となく想像はできるが。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )