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駿河土産 38 家康、秀吉の振廻をうける事

(川らしい流れの戻った大代川)

台風は御前崎沖を通ったけれども、雨風ともに大事に成らず、適度な雨に大代川には川らしい流れが戻った。

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(61)家康、秀吉の振廻をうける事
一 太閤秀吉、権現様を御振廻い申され候時、掛盤にて御膳を差上られ、もっとも右掛盤、並び諸器ともに、の御を付け申され、御馳走大形ならず、御帰り遊ばされ、本多佐渡守を召し出され、上意遊ばされ候は、今日、太閤の馳走、結構の体、如何致したる事に候や。かようの義、その方などは如何存じ候や、と上意遊ばされ候えば、佐渡守御請け申し上げられ候は、御前には先年小笠原与八郎を思し召され候ごとくの御心得、然るべきやと存じ奉り候旨、御請け申し上げられ候えば、権現様御うなづき遊ばされ、もっともなる了簡なりとの上意にてこれ有り候となり。秀吉と御和談後の御振廻いにて候となり。
※ 掛盤(かけばん)- お膳の高級品の型。
※ 羹(あつもの)- 魚・鳥の肉や野菜を入れた熱い吸い物。
※ 級(しな)- 物品。しろもの。
※ 小笠原与八郎 - 小笠原信興(のぶおき)。戦国から安土桃山にかけての武将。遠江高天神城主。


右与八郎は武勇の者なる故、その頃、旗下へ参り候らえと申され方有るといえども、権現様へ二万石にて出で申され候。下心はこれ以後、信長、朝倉一戦がこれ有り候。その時、定めて権現様には援兵として御越し有るべく候。その跡にて家康公の御領内は我が物と思惟しけるゆえ、一途に存じ入りたるごとくこれ有り候となり。
※ 旗下(きか)- 大将の旗印のもと。また、大将の支配下。
※ 思惟(しい)- 考えること。思考。


然る所に、案のごとく姉川合戦の時、信長より権現様へ加勢下され候らえと御申し越し候に付、則ち御加勢これ有り候となり。権現様、小笠原与八郎を今度の御先手仰せ付けられ候処、与八郎下心に思う処有りといえども、辞退に及ばずして、姉川にて御先を仕り、武名を顕わし、御勝利これ有り候となり。この時、与八郎家来、渡邊金太夫、伊達与兵衛、中山是非之助など申す者ども働き、殊に勝れ、権現様より三人の者どもへ御感状成し下され、金太夫には吉光の御腰物を拝領仰せ付けられ候となり。

権現様へ与八郎無二の心体のごとく相見え申すといへども、御乗り成られながら、御心に乗らせられぬ処これ有る故、先手仰せ付けられ候。人の乗らすより、所を乗らしとするも一物これ有る如くに候へば、乗らする所は乗りながら、乗らぬ心これ有るをよしとす。太閤の振廻い、御乗り成らる処も、右御心は同じ事にて、御あいしらい成らる事、御もっともなりとの心にて、佐渡守御請け申し上げられ候となり。
※ 心体(しんてい)- 心の持ち方。心ざま。心だて。
※ 一物(いちもつ)- 心中に秘めたたくらみや、わだかまり。
※ あいしらう -(「あしらう」のもとの形)応対する。適当に取り扱う。
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