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駿河土産 36 頼朝を評する事、人質を取る心得の事、年相応がよき事

(庭のオニユリ)

台風8号はまだ九州の西の海上にあって、のろのろと東へ進んでいる。この後、速度を増して、一気に列島を縦断するという。もっとも、勢力は970ヘクトパスカルと、かなり弱まってきた。九州へ上陸すると、また一段と弱まるであろう。午後、掛川の古文書講座へ出席した。

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(53)家康、頼朝を評する事
一 権現様駿府の城にて、ある時、御夜詰の節、御近習衆へ御咄遊ばされ候は、時に頼朝、日和を能く見候者を浮島ヶ原へ召し具され、日和を見よと申され候えば、その者申すは、常に見馴れたる所にては見能く候。見付ざる所にては、雲のたゝずまい、気の立ち様、違い候へば、見難しと申したる由。これはもっともなる事なりと上意遊ばされ候。

また頼朝、朽木の中に忍ばれ居る時、梶原が申す様は、天下を御取り候わば、私を執権に成され候らえと申し候えば、成程申し付くべく候。さりながら、私を致したらば、良き時に首を切り申すべきぞと申されたる由。これは大いなる器量なりとの上意なり。

また仰せ聞けらるは、頼朝近習に仕わるゝ士に申され候は、天下を取りたらば、その方取り立て申すべきと申されたる時、その者皺面を作り、笑い申し候となり。その後頼朝天下を掌握せらるゝのうえ、右の者、御恩に預からざる由、恨みければ、頼朝申さるは、日来笑いたる事を忘れたるやと申され候えば、左候わば、弥(いよいよ)私を御取立て成さるべく候。その時は天下を御取り候事なるまじきと存じ候て笑い申しつるに、それ程に頼もしくも存じ奉らざる主君を、只今まであがめ奉り、奉公勤め候私にて候程にと申し候えば、頼朝、理に詰り申され、取立てられたる由。これはかの者申し分、もっともなりとの上意なり。
※ 日来(にちらい)-日ごろ。ふだん。平生。


(54)人質を取る心得の事
一 権現様駿府に御座遊ばされ候時、御近習へ仰せ聞けられ候は、人質は時により、取り置くものなり。余り久しく取り置き候えば、親子とても、親しみ薄くなり、結句詮なく候。義理を強く存ずる者は、主人の為には親子とても思わざるものなり。能々親子の中親しませ、時に望みて人質を取り候えば、親しみを忘れず、愛に溺れて人質を捨てざるものなり。さして人質を頼むにあらず。義を以って不義を討つ時は、石を掻(か)い、子に投げ付くる如くなりとの上意なり。
※ 結句(けっく)- あげくのはて。結局。


(55)年相応がよき事
一 権現様、駿府の御城にて御夜詰の節、御物語遊ばされ候は、いみじき人の子は三年になれば三つに成ると世話にいう。もっとも成る事なり。人は老少により、相応の体たらくが、先ずは能きぞと上意にて、御笑い遊ばされ候となり。
※ いみじき - はなはだしい。並々でない。
※ 世話(せわ)- うわさ。たとえ話。ことわざ。
※ 老少(ろうしょう)- 老いていることと若いこと。また、老人と若者。老若。
※ 体たらく(ていたらく)- ようす。ありさま。(昔は否定的な意味はなかった)
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