くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「カツラーの秘密」小林信也

2010-12-12 21:12:00 | 自然科学
この文章のテンポのよさ! 読んでいて心地よいです。つくづくわたしは文章に引かれるタイプなんですね。
小林信也「カツラーの秘密」(草思社)。評判を聞いてから気になって気になって。確か新潮文庫に入ってましたよね? でもずいぶんと時がたってしまったので、手に入らないかと思っていました。そしたら灯台下暗し。よく行く図書館にて発見。借りてみました。
二十七歳。恐れていたことが彼を襲います。
「これ、電話してみようかなあ」
AD社の広告を見て奥さんに相談してみますが、なんとも煮え切らない返事。小林さん本人もちょっとためらいがあったのですが、電話するや否やアドバイザーがとんできて、あっという間にAD社のかつらを三つセットで百万円で買うことになってしまったのです。
その日から彼は「カツラー」(かつらをつけている人を意味する愛称)となり、十二年もの長きにわたって恐れと苦難の道を歩むことになったのでした。
というのも、彼にはAD社のかつらが合わなかったのです。金具で固定することが辛い。見るからにかつらとわかるのが辛い。だんだんと出無精になって、スポーツライターとしても限界を感じます。
そんなときにSV社のかつらを知り、これまでとはまるで違う装着に感激。アフターケアにお金がかかったとしてもこちらの方がいい、と思うようになります。
カツラーとしての苦悩や不満を描き、やっと安息(自分に合うかつら)の日々が訪れた筆者。あんなに苦しい思いをしたのに、言わなきゃ誰も気づかないのに、本書でカツラーのカミングアウトをしたのでした。
というのも、かつらをかえてから「実はかつらなんだよね」と人に言うことが苦痛ではなくなってきたのだそうです。
なんかわかるような気がします。つねに気になって仕方がなかったものが、「悩み」ではなくなったのですね。
髪が「不自由」であることは障碍に等しいと小林さんは考えます。でも、それを受け入れる社会にはなっていない。テレビでも彼らが笑い者にされる場面をよく見かける。そんな社会に警鐘を鳴らすわけです。
そういえば、「サザエさん」のまんがで波平がかつらを被って帰宅し、ふざけてお客さんのふりをしたところ家族は気づかず、「わしだ」といったら憤慨されたというエピソードがありました。
どうかなー。結構髪型で印象かわりますものね。
わたしはものすごく髪が厚いのです。だからそういう思いとは無縁かというとそうでもない。円形脱毛症になったことがあるのですよ。右耳のちょっと上あたり。生え際なので目立ちませんでしたが……。
ですから、お気持ちはわかるような気がします。