くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「サラの旅路」マイヤーズ

2010-12-11 05:38:03 | エッセイ・ルポルタージュ
これは、むー、なんともひっかかりのない、つるっとした本でした……。
装丁はいいし、なんか非常にロマンチックなたたずまいなのですが、どうにもさらさらと流し読みをしてしまう。図書館で見つけたときはおもしろそうだったんですが。
ウォルター・ディーン・マイヤーズ「サラの旅路」(小峰書店)。副題は「ヴィクトリア時代を生きたアフリカの王女」。
ある日筆者は古本屋で手紙の束を発見します。そこに記されていたのは、ヴィクトリア女王の庇護をうけた黒人の王女サラのこと。その手紙の内容が、自分の家にあった書籍「ダホメー王国とダホメー人」に関わりがあり、実はその本の中にサラについての記載があることも運命的です。
でも、いきさつを紹介した「はじめに」と訳者のあとがきが興味深くて、本文はイマイチ……。
こんな調子です。
「サラはシエラレオネの波止場にいた。先生方と生徒が数名、サラを見送りにきていた。サス校長は、女王からサラへ贈られたものがひとつのこらず荷物のなかにあるかどうか、船に積まれているかどうかを、くりかえしたしかめている」
「サラは、デイヴィスとの生活が自分にとってどんな意味をもつのか、以前よりも考えるようになった。また、女王の援助を受けずにイギリスでくらしたらどうなるかも考えた。アフリカ人の女性として、自分ひとりでなにができるだろう」
翻訳に忠実になるあまり、全体がこなれていない。「サラは」「サラが」「サラの」と、いちいち主語が入るのは、日本語としてうざったいのです。
いちばんの見せ場は結婚問題かと思うのですが、全く盛り上がらない。どういうことでしょう。自由恋愛に憧れ、彼のことは好きになれないと拒否するサラ。でも、女王をはじめ、たくさんの人が彼の人柄を認めている。そんな葛藤やら何やらを書けばいいのにー。
わたしは「文章」のよしあしで評価を決めるところがあるので、この本はちょっと残念でした。
「旅路」という部分からもわかるように、国をダホメー人によって滅ぼされ、イギリスにいてもアフリカにいても、そして結婚してからも、サラには孤独の陰がついてまわります。でも、それがテーマとして文に取り込まれていないのです。
それから、サラがいたシエラレオネの学校についての記述も気になります。アフリカの少女たちは、全身をくまなく覆う民族衣装をつけたものもあれば、または上半身は裸同然という人もあったとのこと。彼女たちに、その学校ではイギリスの淑女教育を施そうとするのです。
「アフリカの子どもたちにとって、キリスト教系の学校に通うということは、自分たち独自の文化をすててしまうということだった」
とありますが、サラ自身がその通りの立場なのではないでしょうか。だって、この学校を嫌がってイギリスに戻っちゃうし。黒人ではあっても自分は違うと感じているいう印象をもちます。
八歳のときにいけにえとして殺されそうになったところを救われたサラ。それまでの記憶はないということなのですが、幼少期のことはその後の人生に影響しないものでしょうか。
手紙からの掘り起こしなので、どうにも骨格のみという気がしました。ドラマチックなはずなのに、ドラマになりきれない。ノンフィクションとはいえ、不満が残ります。