くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「星を守る犬」村上たかし

2010-12-28 05:26:32 | コミック
大掃除をしていたら、夏ごろに書いたメモを見つけました。
どうでしょう、村上たかしの「星を守る犬」(双葉社)は、名作なんでしょうかね。
当時まんがコーナーの中でも別陳列になっていたし、「泣ける本」とかなんとかいろいろな媒体で好評だったでしょ。
「泣ける」というキャッチコピーは基本的に嫌いなのですが、わたしの周囲では結構評価が分かれたこともあって、借りてみました。
買った人(四十代男性)「全然おもしろくない。読み終わってごみ箱に捨てようかと思った」。立ち読みした人(三十代女性)「本屋で泣いてしまった。家にあっていい本」
で、わたしは、というと。すみません、悪いけど心に残りません。筆者は泣かせようとか感動させようとしてこの話を書いたのではないだろう、ということは感じました。
読み終わって、猛烈に腹が立つのは、「お父さん」の財布を盗んで姿を消す少年です。その中板橋に入っているのは全財産。少年は放浪しているところを助けられ、親切にされている。シャワーをし、食事をし、適切な窓口を紹介しようと言われる。それに対して「よく考え」た結果が、盗み。
巻末には北海道の祖父のもとに向かう姿が描かれているが、おまえ、ふざけるなよ。
祖父は行方知れずだった孫が戻ったその旅費を、人様から盗んだと知ったら、どうするのか。しかも、親切にしてくれた人の。それは恥知らずというものでしょう。
さらに、巻末に描かれる「お母さん」。支える自信がないから離婚、そして介護の資格をとろうとしているのですが、これは、痛烈な皮肉ですよね。介護対象はもちろん「お父さん」ではないわけです。
パートに出ることをはじめ、なんやかんやの「相談」を「フォローする」と言われたことを根に持っているような感じですよね。離婚については、「もう相談の時期は過ぎた」と言ってるし。
でも、これまでの相談も、「相談」だったのでしょうか。例えば、パートに出るのを反対してほしかったの? こういう人は相談という形をとりながら、実は自分の決断を語るのですよね。
要するに、家庭から飛び出したかったのでしょう。リストラされて犬の散歩しかしない夫、ぐれた娘、自分だけなら自由に生きられますものね。
家族を失った「お父さん」は、犬と旅をします。一文なしになって、結局は行き倒れて。そんなに彼が悪いのかというと、不幸な巡り合わせだったのでは、としか言いようがないのですが。
「お父さん」が命を失っても、なお側にいようとする犬。
確か帯には、娘が読後涙声で「お父さん……」と呟いたと重松清が書いていたと思うのですが、これを読んで「お父さん……」と呟くのは普通ですかね。
彼には、名前がないのです。途中で偽名が使われますが。でも、わたしは申し訳ないけど彼の人生に思いをはせることはありませんでした。
泣かせるのは、犬でしょう。ハッピーと名付けられたこの犬、一途に飼い主を信じるこのいじらしさ。これが物語を支えていると思います。
「星を守る犬」というのは、「手に入らないものを求める人のこと」なんだそうです。
コミックスには二作収録されていますが、この話は夜の物語だと思いました。そして、続編にあたるのがケースワーカーの物語です。こちらは昼。
行き倒れという不幸な死を迎えた男を悼む物語。
あの少年に行き先を相談できる窓口を紹介できると言いながら、「お父さん」は自分ではそれを選択しないのです。
わたしには、この本を好きにはなれません。でも複雑な気持ちです。
現代のお伽話とでもいえばいいのでしょうか。
ざらざらした感触が、まだ胸に残ります。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿